ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

ただいま断水中

2019-11-04 22:36:00 | 日記
98歳のフミコは
毎朝建物内の廊下をウォーキングし
掃除と洗濯を済ませ
きちんと眉を描き
それから食堂にやってくる。

軽い認知症ではあるが
この生活リズムがまったく崩れないのだから
たいした98歳である。

しかしそう称賛していたのもこの間までの話。

風呂の湯の張り方や洗濯機の操作方法が
わからなくなっているらしいと
家族から相談の電話が入った。

この年齢にして介護サービスを使っていなかったので
私たち職員は
彼女の認知症がそこまで進んでいるとは気づかなかったのだ。
(服薬だけは怪しいので介助していたけれど)

そこで早速、掃除と入浴の援助が入ることになった。
しかし、多くの高齢者がそうであるように
彼女も自分が人の手を借りなくてはいけなくなったとは
まったく思っていない。
家族が説得しても
「私は一人で何でもできます」と言って譲らない。

ケアマネージャーと私たち職員は対策を練る。
決まった。
浴室の蛇口にチャイルドロックをかけ
洗濯機のコンセントを抜いてしまおう。
(もちろん家族の了承を得て)

この作戦を開始して以来毎日
フミコは事務所にやってくるようになった。
朝は「すみません、洗濯機が動かないんです」
夜は「すみません、お風呂のお湯が出ないんです」
そのたびに私たちは答える。
「ごめんなさい、今、断水しているんです」

そして週に2回、ヘルパーが彼女の部屋を訪ねる。
「断水していたんですが、今、水が出るようになりました。
さあ、この時間にお風呂に入りましょう。
ついでに洗濯もしてしまいましょう」
そして彼女が「それは助かりました」と風呂に入ったところで
すかさず、ヘルパーが掃除と洗濯に取り掛かるのである。

まさかそんなバカな話、と思うだろうが
フミコはこれできちんと風呂に入れるようになり
洗濯物もたまらなくなった。

めでたしめでたし。
認知症は良くなることはないから
おそらく彼女は死ぬまで「断水」を信じ続けるのだろう。