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室内音響かいつまみ⑧

2020-09-24 16:00:04 | オーディオ
そもそも拡散はすべきものなのか、初期反射は良いものという根拠はあるのかということについて調べてみる。

日本音響学会誌65巻11号(2009)より、名誉教授なので最新鋭のバリバリの人ではないだろうし、少し古いコラムだが非常に分かりやすく核心的で示唆に富んだ拡散とはどうあるべきか論を残されている。
出典:室内音響と拡散性について(<小特集>室内音響における拡散研究の最新動向)
安岡 正人氏
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/65/11/65_KJ00005821991/_pdf/-char/ja
一部を抜粋
「測定用の残響室で音楽を演奏して聞きたい人はまずいない。逆に、無響室で演奏させられるのは拷問に近い。
完全拡散壁に囲まれた室内で空間感もなく残響のエネルギーだけを聞くのは、ランダムノイズに電気的に指数減衰を掛けた音を聞くのに近い。
音源との相互相関の少ない残響音は拡声系にとってはうれしいことであり,(中略)敢えて蛮勇をふるって言えば,室内音場を聴感的にうれしくするには鏡像反射音を時空的にコントロールすることが第一義的に重要であって,拡散音は背景に過ぎない。フラッターなど音響障害を拡散で処理するだけでは好ましい室内音場は決して得られない。そうでなければ直接音とゆらぎのない確定的,離散的な付加反射音で行われて来た拡がり感などの時空的聴感評価研究はどうなるのか。」

完全な拡散音場というのは音響学的に理想で計算通りの挙動となる、周波数特性やインパルス応答もきれいなものになるので、理想の拡散状態を追い求める研究も多いのだが、
そもそも反射や吸音と同じで拡散も完璧にしてしまうことが音響心理学的に理想なものではない。文中にもあるとおり、無響室と同じ空間感がない音場にノイズが乗るだけという理想にはほど遠いものになる。
現時点で利用されている拡散体は拡散性として完璧なものではないが、音楽関連では、そもそも完璧を突き詰めるものではない。拡散性が完璧でなければ何らかの偏在が生じていることになる。その偏在を有効なものにするためにはどういう工夫をすればいいかを考えるべきなのだろう。
そして室内音響で大事なのは鏡像反射音の時空的なコントロールであり、拡散音は脇役だと述べている。拡散とひとまとめに言われているが、反射音の時空的なコントロールのために不完全な拡散性を利用するというのが必要なのではないだろうか。
また相互相関の低い反射音が有用と述べられているが、位相干渉を避ける意味ではそのとおりではる。相互相関を低くするのにはどうすればいいのかはよく分からない。ある程度細かく複雑な反射が必要なのだとは思うが。

続いて日本音響学会誌74巻3号の論文。2018年と最新で、NHKBS8Kの22.2chシステムを用いた実験をしている。
小空間における音楽の明瞭さに関する評価要因の調査
今村秀隆氏 芸大の先生のようだ
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/74/3/74_130/_pdf/-char/en
リスニングルームなどの小空間での様々な種類の初期反射の心理的評価を行っている。
位相干渉による周波数特性の変化による明瞭さの低下を無視するために
遅延は30msから80msまでの反射音に限定されている。
正直30ms以内が除外して小空間における初期反射の研究として妥当なのか不明だし
コントロールルームやリスニングルームの研究であるにも関わらず
容積が125m^3と512m^3の2つの部屋というかなり大きめの設定ではある。
条件がいろいろピンポイントから外れてはいるが研究内容自体はピンポイントではある。



512m^3の情報や無響室録音の評価は想定されるケースではないのでそのあたりを除外して125m^3の結果を抜粋。
プラス方向のものは比較的好ましいと感じられ、マイナスのものは比較的好ましくないものという評価である。
ラベルの最後にマイナス記号がついているものは小空間の反射音ながらも大空間と同じだけ減衰させているものである。
諸々の条件でリーグ戦をして貯金借金を示しているようなものである。
借金組が多いのは512m^3部屋勢にほとんど負け越しているからである。
それだけ大きい部屋というのは聴感上良く聞こえるということである。

傾向として言えるのは反射音を減衰させない(ラベルにマイナスがついていない)小さい部屋の反射音は明瞭感が軒並み悪い。
そして後ろからの反射音は部屋の大きさや減衰量に関わらず比較的明瞭さを失わせる作用が大きい。

大部屋相手にかなり健闘したのが小部屋の横方向の減衰反射音を付加したケースである。
他に小部屋で比較的マシだったのは正面方向の減衰反射音だ。

明瞭感を出すためには80msまでの場合後ろの反射はいらないということになり、側方はそのまま反射させるなら有害だが、反射率を落として若干小さく出来るならあった方がいい。
正面は反射率減らさないなら有害、減らせる場合はあった方がいいのかもしれないが微妙。

そんな知見が見て取れる。全般的にリスニングルームレベルの小空間では反射音が明瞭性に寄与するのはかなり限定的というのがこの研究の結果のようだ。