今回は英語論文に挑戦
David Griesinger氏は今もそうなのかは分からないがハーバード大学でルームアコースティックの研究をされている人のようだ。
割と分かりやすくピンポイントで多くのスライド式のペーパーがあるので読んでみた。
The Theory and Practice of Perceptual Modeling - How to use Electronic Reverberation to Add Depth and Envelopment Without Reducing Clarity
今まではインパルス応答の瞬間的な音でいろいろ読んできたが、瞬間的ではなく一定時間連続した音を聞いたときの構造が図示されている。
時系列的に最初は直接音しかなかったところに反射音が積み上がり、定常状態になる。直接音が終わった後間接音が残り、早い反射順に徐々に消えていく。
考えてみれば分かることではあったが、インパルス応答だけ見ているとなかなか想像がつかないものであった。
重要なのが「what we hear」の部分である。
直接音が出てから40~50msくらいの所から聞き始めており、直接音が消えてから20~30msくらいまでで聞き終えてしまっている。
最初の知覚が遅いのは第一波面の法則により区別できないというものを表現していることと思われる。
そういう意味では50ms以内の反射音はラウドネスは大きくなるが周波数特性が悪くなるのであまりメリットがないようにも見えるが、ここから読み取れる早期反射音の重要性はむしろ音の消える際にあるように思える。
直接音が消えてからも20~30msは声として聞いているのだが、そこに早期反射音があれば、音として残り、早期反射音を吸音してしまっていれば直接音が終わったらすぐさま余韻なく音が消える。その消え方で直接音の距離感を感じていると書かれている。
直接音が消えてから30ms以降はリバーブとして直接音とは別に知覚されている。
The Science of Surround
http://freeverb3vst.osdn.jp/doc/Lexicon/aes99.pdf
スピーチや大部分の楽曲は響きが3領域に分かれる:
– 早期反射音 (20-50ms) は距離感を感じさせる。
– 中期反射音 (50-150ms) は距離感と不明瞭さを与える。
– 後期反射音 (150ms + ) 残響感と包まれ感を与える
早期反射エネルギー(15〜50ms)
• 早期エネルギーは音源の同一音として近くされる。
• 早期の側方エネルギーはマイクが近くにある感じを取り除き、距離感を感じさせる効果がある。
• 早期の内側のエネルギーは音圧を付加し音色を変える
• 反射エネルギーの絶対量よりも直接音と早期反射エネルギーの比が重要である。
中期反射エネルギー(50 - 150ms)
• 中期のエネルギーはつながりのある音楽の距離感と音圧上昇に寄与することができる。
• アクセントを付けた歯切れのよい音楽やスピーチのは不明瞭となるデメリットがある。
• この時間帯に一次反射が反射が入ってきたり、密に集中した反射音が入ってくると特に煩わしく不快に感じてしまう。
• 内側に入ってくる反射音よりも外側から入ってくる反射音の方が煩わしく不快に感じる
後期反射エネルギー(150ms〜)
• 後期に到達するエネルギーは前方に展開される音像とは別に知覚される。
• 後期エネルギーはその絶対量が重要なのであって、直接音とリバーブの比の問題ではない。
→直接音を大きくすればリバーブを感じることが出来やすくなる!
音楽における後期反射音
• 空間的に拡散された後期反射(特に外側方)は包まれ感を生み出す。
– ステージハウスの残響はそれは内側のものであるため含まれない(真意不明)。
• 包まれ感はコンサートホールとオペラの音響として究極の目標である。
• 交響楽にとって300ms以上の残響は特に隣接音符によるマスキングを行うために特に重要である。
つまり「大半の」音楽にとっては
• 響きを知覚は反射の強弱で成り立っている。
早期反射音にとってはその強弱とは直接音と残響音の比であり、後期反射音にとっては音圧の絶対量である。
• 響きの知覚は反射音の遅延や方向性に強く依存している。
筆者は異なるがITDGに関する英文解説
室内設計についても論じられている。抄録するというよりも拙い直訳にはなってしまっているが、後で自分がじっくり読み返すために抜粋して機械的に訳した。
Acoustics and Psychoacoustics Applied – Part 1: Listening room design
https://www.eetimes.com/acoustics-and-psychoacoustics-applied-part-1-listening-room-design/
7.1.3 Energy”time considerations
音楽鑑賞におけるアコースティックデザインの大きな利点は、時間とともに変化する部屋に起因した音響エネルギー、つまりは残響時間の構築を任意に実現できることにある。その構造を細かく言うと早期反射の大きさはチャプター6で論じている。 サウンドにおける早期反射に関して、部屋は音響エネルギーの時系列的に詳細な展開を調節する機能として部屋が重要になってくる。
現在の音響測定機器は部屋の時間曲線を直接調べることができる。それにより音響デザイナーは自身の神がかり的な聴覚に頼らずとも、部屋の中で異なる周波数でどのようなことが起こっているかを見るということができる。1つの理想的な音響エネルギーの理想的な曲線を以下に示す。
ここには3つの特徴がある:
直接音と第一反射音の時間の空白が存在する(ITDG)。これは室内空間のの大きさの印象に関わったり、ほとんどの空間においては音の自然な印象を与えてくれる。その空白は長すぎてはいけない。30ms以内であることが前提となる。それより長いと第一反射音はエコーとして認識されてしまう。とはいえ多少の遅延は音の明瞭さの改善につながるのであることが望ましい。短いITDGは聴感上として開放的な空間の印象を与えず、プライベートな小空間のような印象の音場になってしまう。
主に側方から到来する早期反射音を細かく拡散するという手法は空間の大きさを大きく感じさせ、その手法を利用することで扇形のホールよりもシューズボックスタイプのホールの方が聴衆全体に聞かせるのは容易になる。早期反射音は理想的には直接音の20ms以内に到来すべきである。早期反射の周波数特性は理想的にはフラットであるべきで、同時に高い音圧の側方反射音の必要性とする。これは側方壁は最小限の吸音であるべきで、拡散反射が必要であることを意味する。
スムーズな減衰を伴う拡散された残響はは明らかな欠点はなく、形態的な挙動がなく、その減衰を伴う残響時間は音楽のスタイルを適正化することをに役立っている。それを達成するのはかなり難しいのでほとんどのケースで妥協が必要になってくる。アコースティックな音楽を作る際に、残響音場で緩やかな低音の立ち上がりを作ることは「音の温かみ」を与えるので望ましいことであるが、そのサウンドはスタジオにとってはあまり望ましいものではない。
7.1.4 Reflection-controlled rooms
自宅のリスナーやコントロールルームのサウンドエンジニアにとって理想的な音響システムとは録音された際のオリジナルの音響的の響き方を「完全に聞ける」ことである。不幸にも録音された音源は一般的には原音のオリジナルの空間に比べてずっと小さな空間で聴取されている。その影響は下図で表している。
このリスナーが聴取する第一反射音はリスニングルームの壁によるものであって、録音されている音ではない。この反射が支配する優先効果により、リスニングルームのサイズとしてはっきりと理解できるように知覚される。何が必要かというと近くの壁からの早期反射音を抑制することによってあたかも大きな空間が現れたようなスピーカーからの音作りをしていくことである。それを下図に示す。
そのアプローチの例として
「ライブエンド・デッドエンド(LEDE)」(Davies and Davies, 1980)
「Reflection free zone (RFZ)」 (D'Antonio and Konnert, 1984)
「controlled reflection rooms」 (Walker, 1993, 1998).
がある。
それらを達成するための一つの手段として吸音を用いるという方法がある。以下に示す。
壁を傾けたり特定の形をつけたりする方法もある。以下に示す。
これは「反射調整法 “controlled reflection technique” 」として知られており、部屋の特定のエリアで早期反射の抑制を行い、ITDGをより長くするために用いられている。この効果は(ふかし壁を多用するために)部屋の容積を縮小しないと実現できず、そうでなければ無響的に作るしかないが、それは受け入れられるものではない。
スピーカーから最も遠い壁を除外した全ての壁からの一次反射音を吸音もしくは逸らして反射させることによってITDGを最大化させるというアイディアは単純である。もし原音のITDGよりギャップが大きければ、リスナーは部屋の反射音を聞くのではなく原音の空間の音を聞けることになる。
しかしながら、これは残響の拡散の処理を十分に行いつつ達成されなければならない。そのためには後壁は拡散構造の形を作らなければならない。ITDGはできるだけ大きい方がいいが、音が後壁に行きリスナーの後ろに到達するまでの時間はっきりと制限されている。理想的にはこのギャップは20msであるべきで、それより大きければエコーとして認識される。ほとんどの実用的な部屋は自動的にこの要求は満たされており、ITDGは8~20msの範囲で到達している。
吸音よりもむしろ反射の音の方向を変えることに注目すると、それは部屋の中に通常よりも高いレベルの初期反射が入る「ホットエリア」が存在することになる(リスニングポジション以外の特性の改善にはつながらない)。一般的には反射を逸らすよりも吸音を使う方が建築的には簡単なので、吸音すると残響時間が短くなることにはなるのだが頻繁に使用される。
7.1.5 The absorption level required for reflection-free zones
RFZを達成するために早期反射の抑制が必要である。しかしどれだけ抑制すれば良いのだろう?下図はステレオの音場に邪魔になる早期反射音の平均レベルの基準である(このデータは個人的にかなりの有用資料と思われる)。
このデータから感覚的に反射音を聞こえなくするには少なくとも15dBの減衰をしなければならない。逆二乗の法則(距離による減衰)によりそれなりの削減ができれば、約10dbの削減ができればよく、つまり一次反射面に吸音率0.9の吸音を行えば良いことになる。
家庭内のセッティングでは反射面近くにカーペットやカーテン、本棚などを設置すると効果的な拡散体として機能しうる。だが家の同居者に説得してカーペットやカーテンを天井の表面にシックに設置するのは困難だろうけれども。スタジオでは究極的な処理が行われる。しかし大事なのは音響が全体的にみて良好で心地よいものであるべきだ、ということである。それは可聴帯域を無響にすることではない。小さなパッチで処理する手法はただ中高域にのみ顕著に変化するだけのものである。
7.1.6 The absorption position for reflection-free zones
下図では部屋の早期反射のコントロールのためにどこを吸音するかを計算したものである。
鏡像法でイメージした架空の部屋をつくりだすことで早期反射の方向を見ることが出来る。リスニングポジションの周りの反射回避スペースを決め、架空のスピーカーからの線を書くことで下図のように吸音する範囲を見ることが出来る。
これは長方形の部屋では非常に簡潔であるが、傾斜壁のある部屋では若干複雑になってくる。それにもかかわらずこの手法は未だに使用されている。ステレオでもサラウンドシステムでも利用できるもので、ソースの数が異なるというだけだからである。
後壁は通常拡散材を配置するところだが、上記の図ではそうしていない。後壁の反射が抑制されるならば、後壁により作られるもう一つの鏡像が作られないことになるので、吸音材を配置している。
この後壁全体を吸音する手法の利点はどこを吸音するかという工夫が不要になることである。実際にはドアや窓などが複雑などんな吸音効果があるかは難解であるので、利用しやすい。
吸う音量を最小化するために吸音部はできるだけ最小限にするには、反射しない部分できるだけ大きくし、大きな吸音パネルが必要になる。この手法は垂直水平方向どちらでも等しく利用できる。
7.1.7 Non-environment rooms
初期反射をコントロールするもう別のアプローチとして多くのコントロールルームで利用されているのが“non-environment” roomである。これらの部屋は早期反射と残響を同時にコントロールする。音響的にはかなりデッドになるが、無響室ではない。
実際は部屋でいくつかは堅い反射壁からの反射があり、部屋内ではいくつかの早期反射が存在し、無響室とは異なる状況を作り出す。とはいえスピーカーから放出された音は吸収され、残響空間に決してならない。なぜそうなるかは上図で示すような挙動で示されている。
これらの部屋では反射壁内にマウントされたスピーカーと反射性の床で構成されているが、後壁は高度に吸音されており、側壁や天井も吸音している。
この反射と吸音の組み合わせは、スピーカーからの音を反射せずに吸音する効果があるので、床からの反射を除けば直接音のみ聴取することができる。しかし2つの反射壁の存在が音源にない早期の反射音を生み出してしいる。これにより室内の音響環境がデッドではあるが完全な無響空間ではないということになる。
このスタイルの部屋の支持者は他の音がなくても、直接音があれば音源の細かい音が再現しやすく、優れたステレオ音像を作れると言及する。床の反射はステレオ音像にほとんど影響しないので、音像形成に障害となる大半の音を除去しているので、概ね正確な事柄である。
これらの部屋は下図で示すように広範囲の吸音材を必要とする。
これらの吸音材は上図のとおり、かなりのスペースを必要とする。部屋の50%以上の容積を占めてしまう。しかしチャプター6で取り上げたような広範囲帯域の吸音材を使うことができれば30cm程度の厚みで広い帯域を十分に吸音することができる。そのテクニックを使えば15m^2程度の小空間でも適応することができる。下図は典型的なnon-environmentの部屋を実装した、リバプールミュージックハウスの「The Lab」である。
non-environmentの部屋は残響のある空間ではないので、スピーカーの音圧を補強する残響が存在しない。直接音のみによって音圧が作られている。
通常の室内環境は残響がほとんどの音響パワーを担っており、直接音よりも10dB程度上積みされる。そのため、non-environmentの部屋はパワーアンプのレベルを10dB上げるか、必要な音量の再現のためプロ用途のスピーカーシステムは高能率のものを使わなければならなくなる(Newell, 2008).
7.1.8 The diffuse reflection room
吸音や反射方向の変化ではない、早期反射音をコントロールする新たなアプローチは早期反射音を拡散することである。これは反射音レベルを減少させるが吸音はしないという効果がある。
一般的に反射の際に音響エネルギーは殆どの壁で吸音され減弱される。(反射率1に近いものはほとんどない)。そのため反射音の大きさは反射面の吸音により減弱され、それは逆2乗の法則により予測できる。
吸音材が配置されたエリアを除いた音響エネルギーの総量はエリアを単位分けししたエネルギーの偏りに依存する。音圧強度は単位エリアあたりの音響エネルギーつまりは反射して吸音率分が減弱した音の強度の測定しているものである。それ故に早期反射の強度は下の式で表される:
I direct sound = [QW Source (1 – α)] / 4πr 2 (7.1)
上記の式(7.1)から、1.18の式の吸音面の効果の追加を行うと、鏡面的な早期反射音が距離の逆二乗の割合での強度的な減少が明らかになる。
拡散面で拡散した音は鏡面反射よりも他のいろいろな方向に向く。理想的なディフューザーの場合、そのエネルギーは半円状のパターンで拡散する。拡散されたエネルギーのモデルとなる効果の計算を単純にアプローチすると入射エネルギーにより与えられるソースの初期強度から計算される。
従って理想的な拡散体にとっての反射強度は、音源の強度とディフューザーにより放散された音圧強度を含めた方程式から与えられる:
I diffuse reflection = (W Source / 4πrs 2 ) × (2 / 4πrd 2 ) (7.2)
factor 2のsecond termで半円球状に放射された場合のみその式が成立し、2の「Q」がある。7.2式から拡散反射の強度は4の距離の逆比例とわかる。これはつまりそれぞれの拡散反射の強度は同じ音を鏡面反射するよりも ずっと小さいということである。
そのため拡散は結果的に早期反射音の振幅の減少という結果をもたらす。しかしながら拡散により、下図のようにリスニングポイントに入射される反射音が様々な場所からくることになる。
このことは拡散という手法の他の利点を打ち消す物ではないのか?さまざまな長さの遅延の反射がリスニングポイントを通過することが上図のより明らかになっているのだが。追加された反射音の経路は元々の鏡像反射よりも全て長い経路になっている。
それ故に、位相反転する拡散構造は反射に一時的な広がりを付与する。ITDGの結果として低い音圧の早期反射音が密になって集まって満たされている。対して拡散しない場合は大きな反射音が疎に入ってくる。特筆すべきは吸音を全く加えずとも拡散反射したレベルはステレオイメージに影響をまったく与えないくらい十分に小さいことである。下図のとおりである。
大きな早期反射音がもたらすコムフィルタ現象の効果は大きな減少をもたらす。拡散による遅延の多様性が、振幅の減少や拡散を起こすことによりコムフィルタ現象をなだらかにすることができる。コムフィルタ現象はステレオイメージの混乱をきたすと考えられている(Rodgers, 1981)ので、早期反射音が理想よりも大きい場合にパフォーマンスの改善を期待できる
リスニングポジションに最適な場所から外れたフォーカスのない散乱効果も引き起こす結果になるという事実は、リスニングポジション外での響きを徐々に減衰させるという結果をもたらす。下図は最大の拡散壁を側壁に設置したときに最大の鏡面反射壁を設置したときとの音圧強度の関係を示す。この図から大部分は直接音よりも15dB以上の減衰をしていることがわかる。
下図はそのような数少ない例である。
この部屋の体験は壁からの音の反射を認識できない。ほとんど無響室のようにも聞こえるが、残響はまだある。ステレオやマルチチャネルの音源をこの部屋で再生すると、セオリーどおりに広範囲に安定したリスニングエリアをイメージする。部屋は高いレベルの拡散反射音場としてレコーディングに適しており、音響ミキシングでも楽器によって放出された音を統合することに役立つ。
Summary
このsectionではステレオやマルチチャネルの音楽の聴取に良好な音響環境を達成するためにいくつかの手法を調べた。しかし実験的に批評的なリスニングルームのデザインは部屋の処理、音の分離、空調などに関して多くの詳細な考察を必要としている。それらはNewell (2008)でカバーされている.