モッチリ遅いコメの距離感

オーディオルーム、シアター、注文住宅などに関してのblog。

室内音響について人間本位に考えてみる。

2020-09-30 11:24:35 | オーディオ
細かな条件がいくつも異なる言説や研究を合わせて、時期ごとにどうこうするというのを考えてみて、それはそれで根拠があるので妥当性はあると思うのだが、なぜそうなるのかというのを生理的心理的側面を中心に再考察してみる。

人間の耳は2つあり、基本的には2つの情報が同じであることは少ない。(真正面と真後ろ以外は左右で情報が異なる。)
だからこそ2つの耳から微妙に異なる入力を受けたり、短時間内に複数の音の粒を受けたときに脳で一つに統合する作業を日常的に行っている。
オーディオリスニングでは左右のスピーカーで左右の耳に微妙に異なる入力が入るように鳴らしているが、法則時間内の初期反射が入ると、それも一つに統合する作業の中に組み込まれてしまう。
余分にも見える音を統合されること自体にも意味はあって、それにより音源の距離感を予測したり音源の大きさなどを把握するための能力が備わっている。
なのでその能力がまったく発揮しないような室内音響が人間として楽しいとは思えない。
だが、密閉された真四角の小さな部屋で耳を澄まして大きな音の響きを聞くというのは人類的にも昔の不自然な要素があり、あまり快と思える環境では無い気はする。
やはり近くて大きすぎる反射音を纏めて全部取り込むのは上手くやれば良くはなるものの、ステレオイメージが変わることには変わりない。自分もやっているなかで言うのもなんだが、王道とは思えない。まったく反射を無くすのも王道ではない気がする。
元来人間の生活空間はもっと不規則な反射をしていたはずである。長いトケトゲの高性能拡散体は逆に自然界にはあまりない不自然であるものの拡散体で時間軸として散らしすぎない程度に散らして、一瞬でまとめて大きい反射が来ないようにするのは自然の響きを作る意味で当然な気がする。

また室内の静かさを担保するためと騒音防止のためにリスニングルームは密閉にする必要があるが、たまにやるドアを開けたまま音を聴くと音抜けの良さがすっきりしていて気持ちよく感じることがある。
人間は閉所恐怖症を持っている人間がいるように密閉空間が本能的に好きではない要素が強い。(広場恐怖症もあるように、おそらく隠れる場所が一つもなく、音も聞こえづらい遮蔽物が一切無い空間も大好きではないと思う。)
コンサートホールレベルの大空間なら別の話にはなるが、小空間なら密閉ながらも半開放空間のような抜けの良い響きを作った方が心地良いような気がする。
拡散が若干ノイジーと言われるのは細かすぎたり拡散音のレベルが高すぎるのがあるのではないだろうか。
根源的に快と感じるものと考えると、自然物のようなほどほどの不規則さと閉塞性のなさ、そのあたりが重要と考えられる。
そのためには多少の拡散、響きの総量の適正化を行って作っていくのが良いように感じる。

また後ろから大きい音近い音が人間にとって心地良いはずはないと言うのもなんとなく分かる。
真後ろで大きな音が鳴ったり後ろの近いところでザワザワ音がすると不快なように、
後ろの近くて大きい音は自分への危機の可能性ありと脳内が警鐘信号送るのだろう。
後ろの音が遠く小さく柔らかな感じだと、何かの気配が背後近くにがいないという感じ、遠くにいそうだと感じることが安心感となり、快につながるのではないだろうか。
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室内音響かいつまみ⑩

2020-09-29 12:33:59 | オーディオ
今までもピックアップした人の論文なのである程度内容は前のとかぶっているかもしれないが

今村秀隆氏の博士論文
音楽の明瞭さの評価要因と音場の物理量の対応(要旨)

https://core.ac.uk/download/pdf/270226713.pdf


ところどころ抜粋

市販音源の聴取においては、音色および音像の明瞭さのどちらも直接音に対して約−23 dBほどの初期反射音レベルが最適とされた。
一方、調整された初期反射音レベルには個人によるばらつきが見られ、高い初期反射音レベルを明瞭とする被験者と、低い初期反射音レベルを明瞭とする被験者に分かれた。
それぞれによって調整された初期反射音レベルには、約10 dB〜20 dBの差が見られた。更に、高い初期反射音レベルを明瞭だと判断する被験者は、初期反射音の到来方向の偏りにも着目して評価を行った。
(中略)
市販音源の聴取における複数の明瞭さの評価要因について、調査した。
音場の室容積が60 m^3〜224 m^3という条件下で、
音楽の明瞭さは「音色の明瞭さ」、「音像の明瞭さ」、「音像の広さ」の3つに区別されることが明らかになった。
全ての明瞭さが、室容積が大きいほど、そして初期反射音の到来方向の偏りが低いほど明瞭と判断された。
音像の明瞭さはこの傾向に加え、初期反射音が直接音と同じ方向から到来する場合により明瞭とされた。音像の広さはIACC(両耳間相関度)が低いほど広いと判断された。(所々中略)
(中略)
結論で提案された最適値については明瞭さに対する価値親の多様性によって適用範囲が限られると考えられること、室内の反射音の明瞭さと実験素材である楽音の明瞭さの影響が交絡している可能性などが指摘された。

自分なりの考察
音色の明瞭さはカラレーションやレベルの高い初期反射音の量などで変化するものと解釈してもいいものか?
音像は直接音と同じ場所から反射音を入れると明瞭とのことだ。位相干渉との兼ね合いが難しいが、基本RFZにしつつ、スピーカー近くの壁に1カ所レベルを調整しつつ反射入れた方がいいのかもしれない。
音像の広さはASWと解釈すればいいのだろう。

クリアーな音はシンプルに言うと
反射音は到来方向に偏りなく-23dBで入れる(音色、音像の明瞭さ)。
スピーカー近くの壁からも初期反射を入れていく(音像の明瞭さ)。
横方向からも入れる(音像の広さ)。

ということらしい。簡潔な答えではある。
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拡散リブの大きさを検討

2020-09-28 13:30:00 | オーディオ
ここ数ヶ月でいくつかの有用な論文や解説をピックアップしたが、自分自身も情報としてまとめられておらず、
当面は忘れている事項を思い出しつつ情報を統合していこうと思っている。

リブによる不完全な拡散は、拡散性が上がりそうな工夫などは考えれば拡散性は上がるだろうが、複雑な形状や大きい拡散体はコストがその分かかる。
必要最小限の大きさを今までのペーパーを利用して検討してみる。

そもそも今まで拡散を必要と考えたのは、コムフィルタ効果を軽減するためと、、LEVを知覚しやすくするためという複数の目的で考えていた。
コムフィルタ効果は主に150〜800Hz程度の中低域の問題である。(聴覚に近似した1/3オクターブバンドで考えると中高域は大したディップにならない)
そしてLEVは500〜2000Hzと中高域が重要な役割を果たしてくる。
出典:https://jpn.pioneer/ja/manufacturing/crdl/rd/pdf/14-2-2.pdf

そのため、初期反射面に設置するコムフィルタ効果の軽減のために入れるリブはやや大きめである必要があるが、
LEVを得やすくするため、フラッターエコー防止のためのリブは小さめでかまわない。むしろ10cmくらいのリブは2000Hzの拡散率が逆に落ちるようなのでなおさらのこと少し小さめでいいはずである。

以前取り扱った論文中で
出典:http://www.env-acoust.t.u-tokyo.ac.jp/public/x/x004.pdf
コムフィルタ効果対策のリブとしては

150〜800Hz程度という帯域的に10cmの深さが一番適性が高い。


150〜800Hz程度の周波数帯域的には10cm幅が一番拡散性が高い

ということで一次反射面のコムフィルタ効果軽減のためには10cm×10cm程度のリブが一番適正が高いことになる。
それよりも高い周波数の一部で極端に拡散率が落ちるのだが、それはリブの深さ、幅、間隔が10cmで統一されているからであり、若干ずらしたり不規則にすることで緩和が期待できる。
10cm×10cmは材の用意が大変だと思っていたが、4×4材をコアに羽目板やウォールパネルで表面を取り繕うとちょうど良い感じのサイズになりそうなので、コスト的にそこまで大きなものにはならないかもしれない。

では一次反射面以降の残響を早く出現させ、より細かな残響とするためのリブはどんなサイズが良いか。
上で挙げたグラフの中で500〜2000Hzの帯域に一番効くサイズとなる。
500〜2000Hzでバランスが一番安定して拡散するのサイズ
:高さ6cm幅15cmのリブ、次点で高さ6cm幅10cmリブ
1000〜2000Hzに大きく偏っているが拡散率の総合的に一番大きいサイズ
:高さ4cm幅10cmのリブ
コスパ的に1600〜2000Hzとかなり偏っているがコストが低い割に拡散率が高い
:高さ4cm×幅5cmのリブ
次点で高さ2cm幅10cm、高さ2cm幅5cm、高さ6cm幅5cmもコストの割に拡散率は悪くない。

どれを使うというと、複数使うのが一番偏りなくて良いのではないだろうかと考えている。
幅も20cm周期に対しての幅であり、一番効率が良いのが周期に対するリブ幅が50%のようだが、率を守ればもう少し細くてもいいのかもしれない。細くする理由は視覚的効果と幅の広い材の入手性に難がある場合の対応という理由である。(根拠はないが)

また拡散体は背面に空気層があると効率が良いと言われている。
リブの場合は直交する柱で少し浮かせる感じになるのか?
リブを浮かせるためのスペーサー自体がリブであればいいのではないか?
やや周期性はあるが2cmと2cmの直交2層リブの場合
高さ0cm、高さ2cm、高さ4cm、高さ4cm(背面空気層2cm)、のパターンができあがり、簡易的な二次元拡散体になり得る上に、表層の拡散体が背面空気層により拡散性が向上する。
調べてみてもあまりこれに関する研究はないが良さそうな気もしている。

例(わかりづらいがebayより転載)


なので暫定案ではあるが、リブの使用のたたき台として
初期反射面を意識した部分
:周期20cm高さ10cm幅10cm
正面壁(ツィーターの指向性の問題から高域があまり入らない)
:周期10cm高さ6cm幅5cm
側壁と後壁と下半分の横リブ
:周期10cm高さ10cmと4cmのコンビ 幅5cm
側壁と後壁の上半分の直交2層リブ
:第一層 周期15cm高さ6cm 幅5cm
 第二層 周期20cm高さ4cm 幅10cm
天井のリブの直交2層リブ
:第一層 周期15cm高さ3cm 幅5cm
 第二層 周期20cm高さ2cm 幅10cm
こんな感じかなあと思案。
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リスニングルームの音響設計 さらに再考

2020-09-28 12:50:22 | オーディオ
新たに取り入れた知見を元にまたリスニングルームを考えてみる。

反射は少なくともinitial time delay gap(ITDG):15ms以内に関しては初期反射音を受け入れるべきではないのかもしれないという風に考え始めている。
第一波面の法則がしっかりと成立する15~40msの間にある程度細かくした反射音を複数入れようと思っている。15msまで稼げば当然ついてくるとは思うが直接音より15dB減衰はする必要がある。

一般的なリスニングルームであると二次元で表せる。高さ方向の関与のない反射音では特に側方で遅延が小さくなりがちでスピーカーからの軸に近いこともあり反射音は強烈である。
自分の考えている仮想の部屋では遅延は4msくらいしかない。現実に今ある部屋ではさらに短い。ここまで強くて早く到来する初期反射音を今までは積極的に取れ入れるよりは、抑制した方は益は多いように思えてくる。

そもそも側方や前方の高さの移動を伴わない最短の反射音を活かす必要性を以前感じたのは床の反射があまりに強いためその相殺のために使うしかなかったのであって、床を設計段階から手を入れられれば、自分としてもそこまで大きな反射音が必要であるという理由がなくなってくる。

それに吸音さえしなければ現実はおそらく理屈通りの反射をすることはないので、15ms以内は理屈から外れた一次反射音がそれなりに入ってくることが考えられる。コムフィルタ効果の起こりやすい低域ならなおさらシンプルな鏡面反射はしてくれない。だからRedirectionとDiffuseくらいなら逃がしたつもりでも多少は入ってくる。
その多少感が超早期の反射音の量としてはちょうどいいのではないだろうか。

先の調べ物などを見ても初期反射音を活かして設計するにしてもその質は十分に考慮しなければならず、初期反射音合計で直接音よりも15dB小さくし、均等な感覚で到来し、音の強さは規則的に漸減するように設計する必要がありそうだ。どうするかというと、高さの移動を伴わない低所の一次反射エリアの反射音は逸らしてしまい、高いところから反射してくる音はリスニングエリアに返ってくるように調整し、高さ分の往復でITDGを15ms近くまで稼ごうという算段である。
反射音の高さ分で音像がリフトアップされるが、そもそも普通に反射されると、当たり前だが音像がスピーカーのツィーターからミッドレンジに定位されるのだが、小高いステージから聞こえるはずのリアルさを考えると定位のリフトアップという副産物は歓迎すべきものであるはずだ。

簡単なイメージではあるが実際に図にして書き起こしてみる。
2次元の間取り図。


以前に一次反射をリブで受けるアイディアで考えたものがベースにはなっている。

ただ今回は一次反射に関してはRedirectionによりRFZになっている。


コンセプトとしては側方の一次反射面と正面の一次反射面に到来する音波にクサビを入れて受け流しているイメージ。
リスニングポジション近くの後壁はほとんどの時間帯においてあまり良い効果がないのでRedirectionではなくより強力なAbsorptionで対応している。定在波となる低域の吸音をどこかでしっかりやっておきたいという目的も兼ねている。
1mを超える厚い吸音層で透過性の高い低域の吸音を行いつつ、LEVの原料になる500〜2000Hzは戻して再利用したいので吸音スペースの表に吸音材保護の意味も兼ねて格子を若干まばらに立てる。中高域の一部は吸音されずに拡散されて返ってくるように若干シルヴァン的な拡散体として利用している。

三次元的に少し工夫を凝らしており、三次元的なモデルはこうなる。


耳の高さツィーターの高さ周辺とその下方には横リブが入っている。これにより三次元方向(高さ方向)には拡散されるが、二次元的にはほとんど拡散されない。
つまり二次元的な間取り図で一次反射のREZになっている状態は維持されたまま、高さ方向に拡散している。
耳の高さ周辺だけでなくその下方も同じ処理をしたのは、二次元では同じ軌道だが壁の下方に反射し、床でさらに反射してリスニングポジションに到達する二次反射音が存在し、一次反射と大差のない遅延の少ない反射音なのでそれも除外したかったのが理由である。

またRedirection用のクサビにも横のリブを入れている。このリブは三次元方向に拡散効果はあるが二次元方向のRedirectionにはほとんど影響を与えない。
方向をそらしつつ、高さ方向には分割しているので理屈どおりに行かずに多少リスニングポジションに入ってくるとしても、リスニングポジションに入ってくる音のレベルを小さくしておこうという二重の意味でのReflection freeを狙っている。


高さ180cmより上は縦にリブを入れている。これにより部屋の上の方では間取り図のRFZのシミュレーションは機能しなくなっている。
だが三次元方向には拡散していないので、低い位置にあるスピーカーから放射された音が壁の上の方で反射した場合、その後天井にぶつかってからでないとリスニングポジションのある下方に向かうことはできない。

もしくはスピーカーから放射された音が天井にぶつかってから壁の上の方にぶつかって下方に向かわないとリスニングポジションに到達しない。


これらの二次反射は、床を介した反射と違い遅延がそれなりに大きいため、積極的に取り込んでも副作用は少ないと思われる。
それらの反射音を細かく分割して取り入れたいので縦にリブを入れている。

この前書いた自分のスタンスは概ね取り入れたが、理想通りはいっていないのではないかという点もある。
まずは15-20msの初期反射が入っているかはラフな拡散による二次反射で取り入れているのでピンポイントの時間で入ってくるか、十分な量が入ってくるかはやや疑問に残っている。
一次反射音は早すぎるが二次反射音は遅すぎる。小空間だとそんな印象は拭えない。

あとは第一波面の法則から外れる頃〜中期は密な反射は煩わしく感じやすいが、疎にできているかというと怪しいと思ってはいる。
ただリスニングポジションに相対する正面は背面はDiffusion、Redirection、Absorptionと多めに処理されているので反射波は密になると行っても大部分はスピーカーより外側になる。外側の早期中期反射音はレベルが低ければ密でも聴感上はいいはずである。

ということでとりあえずの暫定ルームをまた設計してみた。
結局既知の理屈を纏めて、間違ったことをしないようにすると、
一般的な矩形室の部屋の響きを自然と肯定しつつ、矩形室で悪いと分かっている要素を不完全なRFZと不完全な拡散音場で欠点を克服しようとしているだけで、独自に考えたからと言って設計は平凡なスタンスにはなってしまっているが。
あとは実践でシミュレーション通りにいかないところを対応しつつセオリーを外した解決法を探っていくしかない。
実践の予定はまったく無いわけではあるが。
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とりあえず室内音響をどうするのか?を総合的に考えてみる。

2020-09-27 10:03:36 | オーディオ
様々なルームアコースティックのアプローチの仕方や考え方はそれなり読んだつもりだが、一つの正解というものがない事象が多くある。
自分はどういうスタイルを支持するのか、どういうアプローチで考えるのかそのあたりの整理のために、結論が決まっていない部分を抽出してみることにした。
結論が一つになっていないものをまとめて、それに対する自分のスタンスを整理していけば、最終的に自分のスタイルが見えてくるだろうというためである。

1.Non environmentを是とすべきか否か。
一般的なリスニングルームでもなければ、最新の室内音響学のトレンドでもないが、実績が多く現役のコントロールルームでの採用例も多そうである。
簡潔で成熟した設計であるだけにその手法が気に入れば問題は少ないように思える。
反射面が床と正面壁の2面しかなく、反射が何度も続かないうちに霧消してしまう。初期反射の問題もほとんどなければ残響があることによる問題もない。少しだけ響くので無響室ほど居住性の悪いわけでもない。
初期反射は不明瞭さや周波数特性の悪化を引き起こすので不要と考え、残響に関しても音源の残響のみを存在させることで音源の録音された空間の響きを再現することができれば、それがベストと考えるならそれで良いような気もしてくる。
欠点としては、ほとんどスピーカーの方向からしか音が出てこないため、他の方向からの音が不足することである。スピーカーよりも外側の初期反射は音の広がり感を生むと言われているし、ソースに残響が入っているとはいえ、残響を再生するスピーカーは正面の二カ所にしかステレオ再生では存在しない。正面からのみ表現される残響音では包まれ感は再現されない。また音源は一般的な居室で再生することを想定しているためNon environment環境で再生するとほとんどの場合で響き不足する。
逆に言えば、7.2.6chなり22.2chなり全面にスピーカーを取り囲むマルチチャネルのシステムを組んで、ピュア用途で使えるような高品質のDSPが開発され、Non environment環境下で音源が録音された室内の響きを再現することに特化したマルチチャンネル音源が多種多様に流通すれば、Non environmentに思いつくような欠点は見当たらない。
だがそんなマニアックな代物は商業ベースに絶対に乗らないので現実には起こりえない。前述の欠点は欠点として受け入れるか、Non environmentを否とするしかない。
とはいえ、条件が揃えばベストになり得るものなので、決して先入観だけで全否定するべきものではないのかなと思っている。

2. 1-40msの初期反射をどう扱うか。
早期反射の定義がまばらだったり、第一波面の法則の成立する時間帯が人によって定義が違うので困っていたが、過去に紹介していた論文にその研究がされている部分があった。ぴったりな研究なのに今までスルーしていたという(汗)。
出典:http://www.lib.kobe-u.ac.jp/repository/thesis/d1/D1001220.pdf
減衰のない反射波の場合、遅れと分離する確率を表したグラフ

20ms以降で分離確率が上昇を始め、30msで20%分離する。第一波面の法則が成立するのは1〜30msと言われることがあるのはこれが根拠だろう。

ただ減衰が一切されていない反射率1.0の法則であって、反射時の減衰がない研究結果である。そして直接音よりもエコーを意識させての実験のようで実用的ではない。減衰させつつ直接音を意識させた状態で第一波面の法則が成り立つ範囲はどうなるのかという研究結果が以下の通り。


初期反射音は15dB以上減衰させないと音場形成を阻害するという研究結果もあるので(下図)、ちゃんと15dB減少させたとすると、上のグラフから15dBの減衰の場合40msで20%の分離となる。

出典:https://www.eetimes.com/acoustics-and-psychoacoustics-applied-part-1-listening-room-design/

なので、自分の認識とすればそれなりに音響調整された室内空間の場合の第一波面の法則が成立する時間帯は1~40msと考えることにする。(40msは20%分離であり、それ以降も完全に分離はされていないことに留意。)
反射音であり、直接音と分離できない。初期反射はもっと広い範囲も論じられたりもするが、第一波面の法則が成立する範囲としっかり区切って考えてみることにする。

①反射音を受け入れない。
Anechoic、Non environment、RFZ、Redirection、初期反射面の高度な拡散、などが該当する。コムフィルタ効果による周波数特性の変化、音色の変化がほとんどなく、聴覚的な部屋の広さ感を増大させる。コントロールされていない初期反射が音の不明瞭化を引き起こすと言及されていたりしている。
30ms以内の反射音はシミュレーションがそれなりにできる分、選択的に排除することができる可能性が高い。そして30ms以内の反射音は音圧が大きいだけに影響も大きい。影響の大きいものを処理できれば大きな改善を望める。
欠点としては部屋が作る音の響きを十分に作れないこと、音像の広がり感、距離感を十分作れないこと、音源の良いか悪いかは解釈によるのかもしれないが厚みが作れず音像が遠くに位置してしまうことがあると考えられる。

②反射音を疎に受け入れる。
未処理の室内で入ってくるような初期反射の個数を受け入れる手法である。一般的な居室と類似したトランジェントのまま、そのデメリットを軽減させるアプローチになる。
本当に未処理な小空間だと明らかに反射音が早すぎ、かつ大きすぎて音色の変化や不明瞭感などの副作用が大きすぎるので、1-40msの中でも副作用の少ない15ms以降の初期反射音のみ受け入れ、それより早い反射音は排除するなどの工夫があってもいいし、反射音を受け入れるにしろ少し吸音する反射壁を用いて反射音レベルを低下させてもいい。初期反射音の中でもより遅く、より小さくなれば副作用も少なくなる。
そういった細工が良い響きになる根拠として、サイズの大きな部屋の初期反射の性質に近似させるための作業なのだから期待できると思われる。
コムフィルタ効果は比較的大きいというデメリットはあるが、15ms以内のものをなくし、反射率を減少させ、数も減らしているので、未処理よりもその効果はかなり軽減される。

③反射音を小さく密に受け入れる。
中等度の拡散を行うことがこれに該当する。時間軸として小さく分散されているので総量はさして変わらないにしても、それぞれ異なるコムフィルタ効果を持っているので、コムフィルタ効果が軽減できるメリットがある。
デメリットとしては理想的な拡散だと残響レベルになってしまい、荒すぎる拡散だと十分に分割されないので計算通りにいくのか分からない。また密な反射音というのは未処理の小さな部屋と同じ特徴であり、心理的に良好なものではないのかもしれない(自分が調べた限りではこの時間帯でそうなる根拠はない。)

3. 41~80msの早期反射をどうするか
41-80msという分類はあまりされていないが、1~40msの初期反射とそうでない反射との区別のために便宜上そう呼ぶことにする。early reflectionsと扱われるのとしても定義がかなりまばらで、結局のところ、扱う部屋の大きさがまばらなので仕方ないのかもしれないが、聴覚の性質が変わるわけではないのでなお難解である。
第一波面の法則は成立しなくなってくる時間帯ではあるが、同時に完全分離をするまでの過程の時間でもある。分離できない直接音と同一の音として利用するには信用できず、かといって直接音から完全に分離された存在としてカラレーションや広がり感などへの関与を無視していいとも思えない。そういう反射音を個別に考えてみる。

①反射音を受け入れない。
Anechoic、Non environmentが該当する。音色の変化がほとんどなく、聴覚的な部屋の広さ感を増大させる。逆に言えば距離感を感じづらくなる。

②反射音を疎に受け入れる。
未処理の大きめの室内で入ってくるような反射の数を受け入れる。受け入れることで距離感と音圧上昇を期待できる。カラレーションを無視できないが、それほど大きな影響のある時間帯でもないと思われる。
疎に受け入れると密に受け入れるよりも明瞭感が上昇するという研究結果がある(音圧も同時に小さくすることが前提)。

③反射音を小さく密に受け入れる。
中等度の拡散を行うことがこれに該当する。時間軸として分散されているのでカラレーションがなくなるが音圧は付加できる。デメリットとしては小さい部屋の不明瞭な音と近似してしまう。特に正面と背面でその効果がある。
そもそもなぜこの時間帯に密な反射音があると不明瞭と感じるのかというと、確証はないのだが上で使ったグラフをまた使うと

40msで-25dB、50msで残響レベルの-30dBも減衰をさせないとステレオイメージの邪魔になるという研究結果がある。密なのが悪いというより反射音の音圧がこの時期としては大きすぎて邪魔なのが悪いのではないだろうか?
あると邪魔なものであるなら密よりも疎であった方が邪魔が少ない分、相対的に良いのかもしれない。
その根拠に狭い部屋の側方以外の響きが心理的評価で軒並み悪かった実験のインパルス応答が下図で

-2dB減衰させた条件でも余裕で-25dB超えてしまっている。
他の時間帯の都合上密に受け入れるなら、時間軸に沿って-25~35dBまでしっかり減衰する、つまりこの時間帯に残響まで細分化すると聴感上良くなると思われる。

4.81~150msの中期反射音をどうするか。
早期と後期の間である。直接音とは完全に分離しているのでカラレーションは無視して良いだろうけれど音圧付加は期待できる。

①反射音を受け入れない。
この時期にヘタに音が入ってくると不明瞭感や煩わしさを感じる作用があるが、反射させなければそう感じることはない。デメリットとして音圧上昇や距離感を得られない。
早期で受け入れて中期は受け入れないという選択肢を現実に得られるかという、現実的な問題はあるが、荒い拡散を多用すると中期反射音が残響音まで分解されて反射音としては知覚されないことを期待はできる。

②反射音を疎に受け入れる。
カラレーションは無視して良い時間帯なのでそのデメリットは無視して良い。音圧を補強し、繋がりのある音楽では滑らかな好印象を与えるが、歯切れのいい音の歯切れが悪くなったり、音量が大きすぎると不快である。横方向で不快感を感じやすい。疎で小さければそれらの悪い印象も減るとは思われる。

③反射音を小さく密に受け入れる。
音圧補強し滑らかさを与えるが、歯切れが悪く、この時期の密な音は不快に感じやすい。

5. 残響音をどうするのか。
残響は再生音とは別に知覚される。そのため包まれ感という早期の音だけでは表現できない世界を表現できるがノイジーに感じてしまう可能性のある成分である。

①残響音を作り出さない。
ソースの残響だけを使う方法である。部屋から生まれる残響のノイズ感がなくなりS/Nは良くなる。当然ながら響きが足りない印象は出てしまう。

②残響音の量は確保するが長くしない
積極的に残響を確保して包まれ感は期待するが、長いと次の音にかぶってしまい明瞭さが減少してしまうのでほどよいところで消えてしまい長続きさせない方がいいという考え方。

③残響音を大きく長く取る。
包まれ感をしっかり得るために残響を大きく長くしっかり確保する考え方。
そもそも小空間で得られる残響の長さと大きさは限界がある。最大限得ようと努力しても大した量は得られないので積極的に作り出しても良いとも思える。
ただ豊富であればあるほど不明瞭な音になるので現実的に良いと知覚されるのか悪いと知覚されるか分からない。



論点をまとめてみたが自分の考えるアプローチは以下になる。
1.Non environmentは選択しない。ステレオ再生では現状残響に明らかな問題があるからである。
2.初期はかなり厳選しながらも受け入れる。15-40msのタイミングで15dB以上減衰させて受ける。側方や正面が一次反射を除外することになるだろうが二次反射以降を積極的に利用する。第一波面の法則が成立するので細かく密になってもデメリットがなくコムフィルタ効果の軽減が期待できるので中等度の拡散で反射は分割して受け入れる。
3.早期はなるべくある程度拡散して、この時間が始まる前にしっかり-25dBは減衰させる。不十分であれば、さらに細かい拡散や吸音も併用する。
4.中期は疎で小さく受けて音の滑らかさを得るのもいいが、歯切れの良さの方が自分は重視したい。この時期の反射音はメリットにもなるがデメリットとなる場合も多い。不十分な拡散処理でもこの時間帯には残響になることが期待できる。なので中期反射音は残響音に変えてしまい、反射音レベルの大きさでは受け入れないのが良いと思われる。
5.残響時間は無理に長く取らなくてもいいと思われる。S/Nの確保が最大の目的である。中期反射音の時間帯に既にLEVを感じるような残響状態にして、結果的に残響と感じる時間を確保する。
吸音を最小限にしたらあとは部屋の容積の問題になるのでその量を受け入れる

インパルス応答としてはこんな設計図を思い描いている。


積分するとこうなる(わかりにくい)


他の室環境と比較


部屋のイメージとして無駄が多いのでこうはしないのと思うが音の流れ方としてはこんな感じをイメージしている

目的は正面と背面、天井はなるべく側壁に当たりやすく、リスニングポジションには入りづらくする。
前後方向の音の動きは前→後の方向が動きやすい。
というのが目的である。
内側からの反射音よりも外側からの反射音の方が有用なことが多いため。背面からよりも正面からの反射音の方が有用なことが多いため。リスニングポジションに入る反射波の数を減らすため(クサビの頂点の正面は少ない)である。

一通り読んでみてこういうスタンスで行くのがいいのかなと自分のスタンスを作ってみた次第。
あとはどうすればこういう音が作れるのかというシミュレーションを行っていく。
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常識的な室容積で大きな部屋のような響きを得るにはどうすればいいか

2020-09-26 13:32:42 | オーディオ
ここ最近で様々な文献に当たったが、ここらで自分の考察をしてみようと思う。

まずはこの論文について

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/74/3/74_130/_pdf/-char/en


この論文でオーディオリスニングに関して、8mの立方体と思われる大きい部屋での間接音を付加したものと5mの立方体のそれとでは、
間接音の方向で多少の違いはあれども、全体的に8mの方が明らかに聴感上優れていると明らかになった研究があるということだ。
また5m部屋の環境でも反射音を8m部屋レベルまで減衰させると聴感上の成績は良くなるが、減らしただけでは8m部屋に及んでいない。
8m部屋と5m部屋でどう違うのか考察してみた。

2次元鏡像反射シミュレーションではあるがそれで30~80ms(茶色の下線)のインパルス応答を調べてみる。
8m正方形


5m正方形


反射音の大きさは調整しても優劣は残っていたので大きさ自体は今回の問題ではない。
どちらにしてもおおむねなだらかに減衰しているので減衰の有無に違いはない。
こうやって見ると残っている要素として反射波の個数の違いが聴感上の善し悪しに関わっているとしか思えない。
この論文では横方向の反射波は減衰させれば5m部屋でも聴感上の印象はかなり良好だったので、以上から考察するに、
「30~80msの反射音を付加した際に小部屋でも明瞭に聞こえるようにするためには、大部屋の反射と同じくらいの大きさに減衰させることに加えて、正面と背面から入射する反射波の密度を均等に減らしていく必要がある。特に背面の密度は積極的に減らして良いと思われる。」
ということが言えるのではないだろうか。拡散してしまうと、反射波の本数が逆に増えてしまう。30~80msの反射波は直接音への位相干渉効果はほとんど無いと本文でも論じられており、非相関にする必要性はあまりない。反射波の本数を少なくしようとすると、方向逸らすか吸音材を使うかということになるだろう。
目的を達成できるようなピンポイントの吸音はできるのかどうか一考の余地はありそうだ。

第一波面の法則が成り立つ立ち上がりよりも、聴覚として感じている違いは立ち下がりにあるようなので、小さい部屋で大きな部屋のような響きを取り入れるためには、減衰の仕方を密度を小さく遅く、響きは短くなりがちなので吸音率を低めにしていかなくてはいけない。

ITDGはいろいろ考えてみたのだが、小さい部屋の場合、一次反射音は捨てつつ、距離が程よく稼げる二次反射でしっかり入れて大部屋の一次反射音に近似させていくと良いのではないだろうか。
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室内音響かいつまみ⑨

2020-09-25 13:33:56 | オーディオ
今回は英語論文に挑戦

David Griesinger氏は今もそうなのかは分からないがハーバード大学でルームアコースティックの研究をされている人のようだ。
割と分かりやすくピンポイントで多くのスライド式のペーパーがあるので読んでみた。

The Theory and Practice of Perceptual Modeling - How to use Electronic Reverberation to Add Depth and Envelopment Without Reducing Clarity

今まではインパルス応答の瞬間的な音でいろいろ読んできたが、瞬間的ではなく一定時間連続した音を聞いたときの構造が図示されている。



時系列的に最初は直接音しかなかったところに反射音が積み上がり、定常状態になる。直接音が終わった後間接音が残り、早い反射順に徐々に消えていく。
考えてみれば分かることではあったが、インパルス応答だけ見ているとなかなか想像がつかないものであった。
重要なのが「what we hear」の部分である。
直接音が出てから40~50msくらいの所から聞き始めており、直接音が消えてから20~30msくらいまでで聞き終えてしまっている。
最初の知覚が遅いのは第一波面の法則により区別できないというものを表現していることと思われる。
そういう意味では50ms以内の反射音はラウドネスは大きくなるが周波数特性が悪くなるのであまりメリットがないようにも見えるが、ここから読み取れる早期反射音の重要性はむしろ音の消える際にあるように思える。
直接音が消えてからも20~30msは声として聞いているのだが、そこに早期反射音があれば、音として残り、早期反射音を吸音してしまっていれば直接音が終わったらすぐさま余韻なく音が消える。その消え方で直接音の距離感を感じていると書かれている。
直接音が消えてから30ms以降はリバーブとして直接音とは別に知覚されている。


The Science of Surround
http://freeverb3vst.osdn.jp/doc/Lexicon/aes99.pdf

スピーチや大部分の楽曲は響きが3領域に分かれる:
– 早期反射音 (20-50ms) は距離感を感じさせる。
– 中期反射音 (50-150ms) は距離感と不明瞭さを与える。
– 後期反射音 (150ms + ) 残響感と包まれ感を与える

早期反射エネルギー(15〜50ms)
• 早期エネルギーは音源の同一音として近くされる。
• 早期の側方エネルギーはマイクが近くにある感じを取り除き、距離感を感じさせる効果がある。
• 早期の内側のエネルギーは音圧を付加し音色を変える
• 反射エネルギーの絶対量よりも直接音と早期反射エネルギーの比が重要である。

中期反射エネルギー(50 - 150ms)
• 中期のエネルギーはつながりのある音楽の距離感と音圧上昇に寄与することができる。
• アクセントを付けた歯切れのよい音楽やスピーチのは不明瞭となるデメリットがある。
• この時間帯に一次反射が反射が入ってきたり、密に集中した反射音が入ってくると特に煩わしく不快に感じてしまう。
• 内側に入ってくる反射音よりも外側から入ってくる反射音の方が煩わしく不快に感じる

後期反射エネルギー(150ms〜)
• 後期に到達するエネルギーは前方に展開される音像とは別に知覚される。
• 後期エネルギーはその絶対量が重要なのであって、直接音とリバーブの比の問題ではない。
 →直接音を大きくすればリバーブを感じることが出来やすくなる!

音楽における後期反射音
• 空間的に拡散された後期反射(特に外側方)は包まれ感を生み出す。
– ステージハウスの残響はそれは内側のものであるため含まれない(真意不明)。
• 包まれ感はコンサートホールとオペラの音響として究極の目標である。
• 交響楽にとって300ms以上の残響は特に隣接音符によるマスキングを行うために特に重要である。

つまり「大半の」音楽にとっては
• 響きを知覚は反射の強弱で成り立っている。
早期反射音にとってはその強弱とは直接音と残響音の比であり、後期反射音にとっては音圧の絶対量である。
• 響きの知覚は反射音の遅延や方向性に強く依存している。


筆者は異なるがITDGに関する英文解説
室内設計についても論じられている。抄録するというよりも拙い直訳にはなってしまっているが、後で自分がじっくり読み返すために抜粋して機械的に訳した。

Acoustics and Psychoacoustics Applied – Part 1: Listening room design
https://www.eetimes.com/acoustics-and-psychoacoustics-applied-part-1-listening-room-design/


7.1.3 Energy”time considerations
音楽鑑賞におけるアコースティックデザインの大きな利点は、時間とともに変化する部屋に起因した音響エネルギー、つまりは残響時間の構築を任意に実現できることにある。その構造を細かく言うと早期反射の大きさはチャプター6で論じている。 サウンドにおける早期反射に関して、部屋は音響エネルギーの時系列的に詳細な展開を調節する機能として部屋が重要になってくる。

現在の音響測定機器は部屋の時間曲線を直接調べることができる。それにより音響デザイナーは自身の神がかり的な聴覚に頼らずとも、部屋の中で異なる周波数でどのようなことが起こっているかを見るということができる。1つの理想的な音響エネルギーの理想的な曲線を以下に示す。



ここには3つの特徴がある:

直接音と第一反射音の時間の空白が存在する(ITDG)。これは室内空間のの大きさの印象に関わったり、ほとんどの空間においては音の自然な印象を与えてくれる。その空白は長すぎてはいけない。30ms以内であることが前提となる。それより長いと第一反射音はエコーとして認識されてしまう。とはいえ多少の遅延は音の明瞭さの改善につながるのであることが望ましい。短いITDGは聴感上として開放的な空間の印象を与えず、プライベートな小空間のような印象の音場になってしまう。
主に側方から到来する早期反射音を細かく拡散するという手法は空間の大きさを大きく感じさせ、その手法を利用することで扇形のホールよりもシューズボックスタイプのホールの方が聴衆全体に聞かせるのは容易になる。早期反射音は理想的には直接音の20ms以内に到来すべきである。早期反射の周波数特性は理想的にはフラットであるべきで、同時に高い音圧の側方反射音の必要性とする。これは側方壁は最小限の吸音であるべきで、拡散反射が必要であることを意味する。
スムーズな減衰を伴う拡散された残響はは明らかな欠点はなく、形態的な挙動がなく、その減衰を伴う残響時間は音楽のスタイルを適正化することをに役立っている。それを達成するのはかなり難しいのでほとんどのケースで妥協が必要になってくる。アコースティックな音楽を作る際に、残響音場で緩やかな低音の立ち上がりを作ることは「音の温かみ」を与えるので望ましいことであるが、そのサウンドはスタジオにとってはあまり望ましいものではない。

7.1.4 Reflection-controlled rooms
自宅のリスナーやコントロールルームのサウンドエンジニアにとって理想的な音響システムとは録音された際のオリジナルの音響的の響き方を「完全に聞ける」ことである。不幸にも録音された音源は一般的には原音のオリジナルの空間に比べてずっと小さな空間で聴取されている。その影響は下図で表している。



このリスナーが聴取する第一反射音はリスニングルームの壁によるものであって、録音されている音ではない。この反射が支配する優先効果により、リスニングルームのサイズとしてはっきりと理解できるように知覚される。何が必要かというと近くの壁からの早期反射音を抑制することによってあたかも大きな空間が現れたようなスピーカーからの音作りをしていくことである。それを下図に示す。



そのアプローチの例として
「ライブエンド・デッドエンド(LEDE)」(Davies and Davies, 1980)
「Reflection free zone (RFZ)」 (D'Antonio and Konnert, 1984)
「controlled reflection rooms」 (Walker, 1993, 1998).
がある。
それらを達成するための一つの手段として吸音を用いるという方法がある。以下に示す。



壁を傾けたり特定の形をつけたりする方法もある。以下に示す。





これは「反射調整法 “controlled reflection technique” 」として知られており、部屋の特定のエリアで早期反射の抑制を行い、ITDGをより長くするために用いられている。この効果は(ふかし壁を多用するために)部屋の容積を縮小しないと実現できず、そうでなければ無響的に作るしかないが、それは受け入れられるものではない。

スピーカーから最も遠い壁を除外した全ての壁からの一次反射音を吸音もしくは逸らして反射させることによってITDGを最大化させるというアイディアは単純である。もし原音のITDGよりギャップが大きければ、リスナーは部屋の反射音を聞くのではなく原音の空間の音を聞けることになる。

しかしながら、これは残響の拡散の処理を十分に行いつつ達成されなければならない。そのためには後壁は拡散構造の形を作らなければならない。ITDGはできるだけ大きい方がいいが、音が後壁に行きリスナーの後ろに到達するまでの時間はっきりと制限されている。理想的にはこのギャップは20msであるべきで、それより大きければエコーとして認識される。ほとんどの実用的な部屋は自動的にこの要求は満たされており、ITDGは8~20msの範囲で到達している。

吸音よりもむしろ反射の音の方向を変えることに注目すると、それは部屋の中に通常よりも高いレベルの初期反射が入る「ホットエリア」が存在することになる(リスニングポジション以外の特性の改善にはつながらない)。一般的には反射を逸らすよりも吸音を使う方が建築的には簡単なので、吸音すると残響時間が短くなることにはなるのだが頻繁に使用される。

7.1.5 The absorption level required for reflection-free zones
RFZを達成するために早期反射の抑制が必要である。しかしどれだけ抑制すれば良いのだろう?下図はステレオの音場に邪魔になる早期反射音の平均レベルの基準である(このデータは個人的にかなりの有用資料と思われる)。



このデータから感覚的に反射音を聞こえなくするには少なくとも15dBの減衰をしなければならない。逆二乗の法則(距離による減衰)によりそれなりの削減ができれば、約10dbの削減ができればよく、つまり一次反射面に吸音率0.9の吸音を行えば良いことになる。

家庭内のセッティングでは反射面近くにカーペットやカーテン、本棚などを設置すると効果的な拡散体として機能しうる。だが家の同居者に説得してカーペットやカーテンを天井の表面にシックに設置するのは困難だろうけれども。スタジオでは究極的な処理が行われる。しかし大事なのは音響が全体的にみて良好で心地よいものであるべきだ、ということである。それは可聴帯域を無響にすることではない。小さなパッチで処理する手法はただ中高域にのみ顕著に変化するだけのものである。

7.1.6 The absorption position for reflection-free zones
下図では部屋の早期反射のコントロールのためにどこを吸音するかを計算したものである。


鏡像法でイメージした架空の部屋をつくりだすことで早期反射の方向を見ることが出来る。リスニングポジションの周りの反射回避スペースを決め、架空のスピーカーからの線を書くことで下図のように吸音する範囲を見ることが出来る。



これは長方形の部屋では非常に簡潔であるが、傾斜壁のある部屋では若干複雑になってくる。それにもかかわらずこの手法は未だに使用されている。ステレオでもサラウンドシステムでも利用できるもので、ソースの数が異なるというだけだからである。

後壁は通常拡散材を配置するところだが、上記の図ではそうしていない。後壁の反射が抑制されるならば、後壁により作られるもう一つの鏡像が作られないことになるので、吸音材を配置している。

この後壁全体を吸音する手法の利点はどこを吸音するかという工夫が不要になることである。実際にはドアや窓などが複雑などんな吸音効果があるかは難解であるので、利用しやすい。

吸う音量を最小化するために吸音部はできるだけ最小限にするには、反射しない部分できるだけ大きくし、大きな吸音パネルが必要になる。この手法は垂直水平方向どちらでも等しく利用できる。

7.1.7 Non-environment rooms
初期反射をコントロールするもう別のアプローチとして多くのコントロールルームで利用されているのが“non-environment” roomである。これらの部屋は早期反射と残響を同時にコントロールする。音響的にはかなりデッドになるが、無響室ではない。

実際は部屋でいくつかは堅い反射壁からの反射があり、部屋内ではいくつかの早期反射が存在し、無響室とは異なる状況を作り出す。とはいえスピーカーから放出された音は吸収され、残響空間に決してならない。なぜそうなるかは上図で示すような挙動で示されている。

これらの部屋では反射壁内にマウントされたスピーカーと反射性の床で構成されているが、後壁は高度に吸音されており、側壁や天井も吸音している。

この反射と吸音の組み合わせは、スピーカーからの音を反射せずに吸音する効果があるので、床からの反射を除けば直接音のみ聴取することができる。しかし2つの反射壁の存在が音源にない早期の反射音を生み出してしいる。これにより室内の音響環境がデッドではあるが完全な無響空間ではないということになる。

このスタイルの部屋の支持者は他の音がなくても、直接音があれば音源の細かい音が再現しやすく、優れたステレオ音像を作れると言及する。床の反射はステレオ音像にほとんど影響しないので、音像形成に障害となる大半の音を除去しているので、概ね正確な事柄である。

これらの部屋は下図で示すように広範囲の吸音材を必要とする。


これらの吸音材は上図のとおり、かなりのスペースを必要とする。部屋の50%以上の容積を占めてしまう。しかしチャプター6で取り上げたような広範囲帯域の吸音材を使うことができれば30cm程度の厚みで広い帯域を十分に吸音することができる。そのテクニックを使えば15m^2程度の小空間でも適応することができる。下図は典型的なnon-environmentの部屋を実装した、リバプールミュージックハウスの「The Lab」である。



non-environmentの部屋は残響のある空間ではないので、スピーカーの音圧を補強する残響が存在しない。直接音のみによって音圧が作られている。

通常の室内環境は残響がほとんどの音響パワーを担っており、直接音よりも10dB程度上積みされる。そのため、non-environmentの部屋はパワーアンプのレベルを10dB上げるか、必要な音量の再現のためプロ用途のスピーカーシステムは高能率のものを使わなければならなくなる(Newell, 2008).

7.1.8 The diffuse reflection room
吸音や反射方向の変化ではない、早期反射音をコントロールする新たなアプローチは早期反射音を拡散することである。これは反射音レベルを減少させるが吸音はしないという効果がある。

一般的に反射の際に音響エネルギーは殆どの壁で吸音され減弱される。(反射率1に近いものはほとんどない)。そのため反射音の大きさは反射面の吸音により減弱され、それは逆2乗の法則により予測できる。

吸音材が配置されたエリアを除いた音響エネルギーの総量はエリアを単位分けししたエネルギーの偏りに依存する。音圧強度は単位エリアあたりの音響エネルギーつまりは反射して吸音率分が減弱した音の強度の測定しているものである。それ故に早期反射の強度は下の式で表される:

I direct sound = [QW Source (1 – α)] / 4πr 2 (7.1)

上記の式(7.1)から、1.18の式の吸音面の効果の追加を行うと、鏡面的な早期反射音が距離の逆二乗の割合での強度的な減少が明らかになる。

拡散面で拡散した音は鏡面反射よりも他のいろいろな方向に向く。理想的なディフューザーの場合、そのエネルギーは半円状のパターンで拡散する。拡散されたエネルギーのモデルとなる効果の計算を単純にアプローチすると入射エネルギーにより与えられるソースの初期強度から計算される。

従って理想的な拡散体にとっての反射強度は、音源の強度とディフューザーにより放散された音圧強度を含めた方程式から与えられる:

I diffuse reflection = (W Source / 4πrs 2 ) × (2 / 4πrd 2 ) (7.2)



factor 2のsecond termで半円球状に放射された場合のみその式が成立し、2の「Q」がある。7.2式から拡散反射の強度は4の距離の逆比例とわかる。これはつまりそれぞれの拡散反射の強度は同じ音を鏡面反射するよりも ずっと小さいということである。

そのため拡散は結果的に早期反射音の振幅の減少という結果をもたらす。しかしながら拡散により、下図のようにリスニングポイントに入射される反射音が様々な場所からくることになる。



このことは拡散という手法の他の利点を打ち消す物ではないのか?さまざまな長さの遅延の反射がリスニングポイントを通過することが上図のより明らかになっているのだが。追加された反射音の経路は元々の鏡像反射よりも全て長い経路になっている。

それ故に、位相反転する拡散構造は反射に一時的な広がりを付与する。ITDGの結果として低い音圧の早期反射音が密になって集まって満たされている。対して拡散しない場合は大きな反射音が疎に入ってくる。特筆すべきは吸音を全く加えずとも拡散反射したレベルはステレオイメージに影響をまったく与えないくらい十分に小さいことである。下図のとおりである。



大きな早期反射音がもたらすコムフィルタ現象の効果は大きな減少をもたらす。拡散による遅延の多様性が、振幅の減少や拡散を起こすことによりコムフィルタ現象をなだらかにすることができる。コムフィルタ現象はステレオイメージの混乱をきたすと考えられている(Rodgers, 1981)ので、早期反射音が理想よりも大きい場合にパフォーマンスの改善を期待できる

リスニングポジションに最適な場所から外れたフォーカスのない散乱効果も引き起こす結果になるという事実は、リスニングポジション外での響きを徐々に減衰させるという結果をもたらす。下図は最大の拡散壁を側壁に設置したときに最大の鏡面反射壁を設置したときとの音圧強度の関係を示す。この図から大部分は直接音よりも15dB以上の減衰をしていることがわかる。



下図はそのような数少ない例である。


この部屋の体験は壁からの音の反射を認識できない。ほとんど無響室のようにも聞こえるが、残響はまだある。ステレオやマルチチャネルの音源をこの部屋で再生すると、セオリーどおりに広範囲に安定したリスニングエリアをイメージする。部屋は高いレベルの拡散反射音場としてレコーディングに適しており、音響ミキシングでも楽器によって放出された音を統合することに役立つ。

Summary
このsectionではステレオやマルチチャネルの音楽の聴取に良好な音響環境を達成するためにいくつかの手法を調べた。しかし実験的に批評的なリスニングルームのデザインは部屋の処理、音の分離、空調などに関して多くの詳細な考察を必要としている。それらはNewell (2008)でカバーされている.
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室内音響かいつまみ⑧

2020-09-24 16:00:04 | オーディオ
そもそも拡散はすべきものなのか、初期反射は良いものという根拠はあるのかということについて調べてみる。

日本音響学会誌65巻11号(2009)より、名誉教授なので最新鋭のバリバリの人ではないだろうし、少し古いコラムだが非常に分かりやすく核心的で示唆に富んだ拡散とはどうあるべきか論を残されている。
出典:室内音響と拡散性について(<小特集>室内音響における拡散研究の最新動向)
安岡 正人氏
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/65/11/65_KJ00005821991/_pdf/-char/ja
一部を抜粋
「測定用の残響室で音楽を演奏して聞きたい人はまずいない。逆に、無響室で演奏させられるのは拷問に近い。
完全拡散壁に囲まれた室内で空間感もなく残響のエネルギーだけを聞くのは、ランダムノイズに電気的に指数減衰を掛けた音を聞くのに近い。
音源との相互相関の少ない残響音は拡声系にとってはうれしいことであり,(中略)敢えて蛮勇をふるって言えば,室内音場を聴感的にうれしくするには鏡像反射音を時空的にコントロールすることが第一義的に重要であって,拡散音は背景に過ぎない。フラッターなど音響障害を拡散で処理するだけでは好ましい室内音場は決して得られない。そうでなければ直接音とゆらぎのない確定的,離散的な付加反射音で行われて来た拡がり感などの時空的聴感評価研究はどうなるのか。」

完全な拡散音場というのは音響学的に理想で計算通りの挙動となる、周波数特性やインパルス応答もきれいなものになるので、理想の拡散状態を追い求める研究も多いのだが、
そもそも反射や吸音と同じで拡散も完璧にしてしまうことが音響心理学的に理想なものではない。文中にもあるとおり、無響室と同じ空間感がない音場にノイズが乗るだけという理想にはほど遠いものになる。
現時点で利用されている拡散体は拡散性として完璧なものではないが、音楽関連では、そもそも完璧を突き詰めるものではない。拡散性が完璧でなければ何らかの偏在が生じていることになる。その偏在を有効なものにするためにはどういう工夫をすればいいかを考えるべきなのだろう。
そして室内音響で大事なのは鏡像反射音の時空的なコントロールであり、拡散音は脇役だと述べている。拡散とひとまとめに言われているが、反射音の時空的なコントロールのために不完全な拡散性を利用するというのが必要なのではないだろうか。
また相互相関の低い反射音が有用と述べられているが、位相干渉を避ける意味ではそのとおりではる。相互相関を低くするのにはどうすればいいのかはよく分からない。ある程度細かく複雑な反射が必要なのだとは思うが。

続いて日本音響学会誌74巻3号の論文。2018年と最新で、NHKBS8Kの22.2chシステムを用いた実験をしている。
小空間における音楽の明瞭さに関する評価要因の調査
今村秀隆氏 芸大の先生のようだ
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/74/3/74_130/_pdf/-char/en
リスニングルームなどの小空間での様々な種類の初期反射の心理的評価を行っている。
位相干渉による周波数特性の変化による明瞭さの低下を無視するために
遅延は30msから80msまでの反射音に限定されている。
正直30ms以内が除外して小空間における初期反射の研究として妥当なのか不明だし
コントロールルームやリスニングルームの研究であるにも関わらず
容積が125m^3と512m^3の2つの部屋というかなり大きめの設定ではある。
条件がいろいろピンポイントから外れてはいるが研究内容自体はピンポイントではある。



512m^3の情報や無響室録音の評価は想定されるケースではないのでそのあたりを除外して125m^3の結果を抜粋。
プラス方向のものは比較的好ましいと感じられ、マイナスのものは比較的好ましくないものという評価である。
ラベルの最後にマイナス記号がついているものは小空間の反射音ながらも大空間と同じだけ減衰させているものである。
諸々の条件でリーグ戦をして貯金借金を示しているようなものである。
借金組が多いのは512m^3部屋勢にほとんど負け越しているからである。
それだけ大きい部屋というのは聴感上良く聞こえるということである。

傾向として言えるのは反射音を減衰させない(ラベルにマイナスがついていない)小さい部屋の反射音は明瞭感が軒並み悪い。
そして後ろからの反射音は部屋の大きさや減衰量に関わらず比較的明瞭さを失わせる作用が大きい。

大部屋相手にかなり健闘したのが小部屋の横方向の減衰反射音を付加したケースである。
他に小部屋で比較的マシだったのは正面方向の減衰反射音だ。

明瞭感を出すためには80msまでの場合後ろの反射はいらないということになり、側方はそのまま反射させるなら有害だが、反射率を落として若干小さく出来るならあった方がいい。
正面は反射率減らさないなら有害、減らせる場合はあった方がいいのかもしれないが微妙。

そんな知見が見て取れる。全般的にリスニングルームレベルの小空間では反射音が明瞭性に寄与するのはかなり限定的というのがこの研究の結果のようだ。
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室内音響かいつまみ⑦

2020-09-23 20:47:46 | オーディオ
東大の環境音響学研究室の公開情報からかいつまみ

出典:小空間音場の拡散性に室仕様が及ぼす影響について(ポスター発表) 
http://www.env-acoust.t.u-tokyo.ac.jp/public/p/pb12-1.jpg
10cm深さの横リブを入れると拡散性はどうなるだろう、という自分が考えていたものをソフトでの解析を行ったもの。低域がメインで検討されている。
結果としては100Hz以下(63Hz)の低域でもリブにより影響を受けている。リブの間隔が大きいほどディップの緩和効果があり、残響時間を抑制している。



出典:室内インパルス応答における反射音構造の分析評価

http://www.env-acoust.t.u-tokyo.ac.jp/public/p/pa10-2.jpg

研究としていかにも途上の時点でのポスターのようだが、リブは縦と横を向かい合わせにするとより拡散性が上がりそうな感じということのようだ。

出典:壁面音響乱反射率の実験室測定と数値解析に関する研究

http://www.env-acoust.t.u-tokyo.ac.jp/public/x/x004.pdf


曲線の波面、ギザギザ、凹凸で拡散性を比較検討



リブの凹凸は他の形状よりも中低域の周波数では良好なのだが高域の拡散性がガクッと落ちるようだ。
理由は簡単でリブの大きさと波長が似た大きさだとリブに当たっても当たらなくても位相が変わらないことにあるのだろう。
著者はリブよりも他の拡散体の方が優れていると結論をつけているし、このデータだけ見ればそうだが、
間隔を微妙にずらしたり、大きさを微妙に別の使ったり幅を変えたりと小細工で対応できそうではある。施工の容易さや材の入手性を考えれば変則リブがいいのではないだろうか。


幅10cm、周期20cmのリブで高さを変えたときの周波数別拡散率
これを見て4cmがいいという見解があったが、特定の高域の周波数のみ拡散性が良好な事が良いことなのかは自分には理解できない。中低域もある程度拡散できる10cmの方が良いような気もするのだが



リブの幅を変えるとどう変わるかというものであるが、10cm幅が一番良好ではあるようだ。これもコスパとの兼ね合いであるとは思うが。
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室内音響かいつまみ⑥

2020-09-22 14:05:36 | オーディオ
拡散体を置きまくって拡散させると最終的には残響時間自体が短くなったり、吸音材と似たような要素が出てくるということが言われておりその認識だが、
どれくらい拡散させると吸音効果が出てくるのか、別途の吸音材がいらなくなるのか、疑問に思っていたがそれを調べてみた。また拡散させない反射板でもどれくらいの吸音率があるのか、というのも今まで見たことはあったが、stdwav2の設定の際により必要になったので調べてみた。

出典は日本音響学会誌65巻2号2009年、スタジオ設計会社sonaの中原雅考氏。このブログで部屋をあーだこーだ言っているのは、ぶっちゃけこの人の理論の拝借しかしていないのだが、今回もこの人の解説がわかりやすすぎるので今回も参考にさせてもらった。
最近の著書が少ないのでさらに調べてみたところオンフィーチャーという企業に在籍しつつ、芸大の非常勤講師もしているようだ。そのあたりで検索かけると新たな発見もあるのかもしれない。

スタジオ音響設計の現状
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/65/2/65_KJ00005185656/_pdf/-char/ja


全般的にとてもためになることではあるが、ピックアップするのは自分の備忘録として残しておきたい部分のみにしておく。
一次元QEDと二次元QRDの周波数別減衰量

扱っている周波数の横グラフの目盛りがかなり高域にフォーカスを当てているのがよく分かる。
ほとんどの音がこの周波数で収まっているであろう5000Hzが1目盛りで収まっていてなんと可聴帯域を超えて25000Hzまで表示されている。
拡散って高域の高域の話なのかと疑問を持ちつつも、拡散による反射音の減衰量は−10log(縦溝数×横溝数)とのことである。
それによりBlackbirdの拡散スタジオは壁面181×769の拡散体を設置しているので-51dBの効果があるのだという。
実際の測定で一次反射音も全て-30dB以下を達成できているということだ。
計算式と現実の反射音の大きさをどう符合させればいいのかよく分からないが、
拡散体の合計数の常用対数が反射波の減衰量と比例するということは覚えておいていいだろう。
細かな拡散体を敷き詰めた部屋の残響時間は0.3秒で吸音率は0.375になるとのことである。
究極レベルで拡散させると吸音材入れなくても吸音率はそこまで上がるということになる。

中原氏がセミナーに引用していた資料の孫引き
http://www.aes-japan.org/special/aes2009/tutorial/AESTC09_TS2_RoomAcoustics.pdf

出典:建築・環境音響学第2版

吸音率(おそらく透過損失も入っていると思われる。)
コンクリート下地にクロスやタイル、大理石などで仕上げたもの
125Hz以上の全周波数で1〜3% 

木製サッシのガラス窓
125Hzで35% 中域で20%前後 高域で10%以下

ひだなしカーテン
125Hzで5% 中域で10〜20% 高域で30%
ひだありカーテン
125Hzで15% 中域で25〜80% 高域は85%

人物
125Hzで25% 中域から高域はほぼ40%

モケット張りの劇場座椅子
125Hzで15% 中高域は30%

クロス仕上げの高密度グラスウール10cm(背面空気層なし)
125Hzで70% 中高域は70〜100%

厚さ2cmの木質ボード(背面吸気層45mm)
125Hzで27% 中高域は6〜8%

根太床
125Hzで16% 中高域で10%前後

スリット構造諸処の条件あるが吸音材噛ませず、空気層10cm未満の場合
125Hzは10%弱 中高域は20〜30%

これをどう使うかは考えどころではあるが、コンクリート壁や地下室などでも無い限り、
普通の壁は木質ボード厚み2cmや根太床などが参考になるのではないか。
つまるところ100Hz前半くらいの低域は16〜27%、つまり20%前後透過損失が起き、それ以下の周波数はさらに透過する。
それより上の周波数だと10%程度吸音する。
stdwav2で壁の吸音率はそれくらいを意識して設定するとうまくシミュレートできそうだ。
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