NHKのテレビ番組「小さな旅」は、私の好きな番組の一つだ。
先日は、10年前の新潟県中越地震で大きな被害をこうむった、新潟・山古志の今を尋ねる旅だった。
山古志は、美味しいお米が穫れ、錦鯉の飼育でも知られた、緑豊かな美しい村だった。
しかし、10年前(2004年10月23日)の大地震が、山古志の大地を無惨に傷つけ、人々の暮らしを根こそぎ奪った。
その10年後の山古志の現状を見つめるのが、今回の旅の目的だ。
今回の尋ね人は、NHKアナウンサーの、国井雅比古氏。
国井氏は、NHKアナウンサーの中で、私が好感を持っているお一人だ。
かなりの年配にはなられたが、気取りのない自然体で、庶民の暮らしに寄り添った取材をされる方、という印象をもっている。
力強くて味わいのあるそのお声も、ステキだ。
国井氏が訪れられたとき、山古志は、ちょうど田植えのシーズンだった。
ズタズタに切り裂かれた大地も、村人たちの努力で、かなり復旧してきた。
田植え花とも言われるタニウツギが田んぼの畔で咲き、農婦が田植えにいそしんでおられる。
丘の斜面には、熱心に花を植えられている、父娘の姿があった。
父・酒井省吾さん(86歳)と、娘の礼子さん(64歳)のお二人だ。
お二人は、2年間の避難生活のあと、地震で傷ついた自分たちの土地(元は棚田だった)を、花で埋め尽くそう!と思い立たれる。
もう田んぼとしては使えない土地‥。
そこに花を植え、それを眺めることで、自分たちもみんなも、きっと元気になれるはず!
そしてそれは、震災の後病に倒れられた妻(母)を勇気づけるためでもあり、彼女が亡くなられたあとは、天国の彼女に捧げるためのものでもあった。
お二人は、1500坪の土地に、全部で20種類ものお花を植えられた。
一方、一旦は全滅した鯉の飼育も、徐々に再開されつつあった。
震災後役場で復旧に尽力された小川さんは、仕事を辞められたあと、鯉の飼育にまた一から取り組まれ、今年初めてご自分が育てられた鯉が産卵す
るまでに生長したのだそうだ。
そして‥
震災後の山古志には、「新しい住人(?)」もやってきたのだ。
新しい住人の名‥それは「アルパカ」!
震災によって飼育していた牛などを失い、絶望の淵に立たされた農家の人々を少しでも勇気づけようと、アメリカの畜産農家から、3匹のアルパカが贈
られてきたのだそうだ。
そのアルパカは今では60頭以上にも増え、「アルパカ観光牧場」もできて、週末には家族連れで賑わっているそうだ。
農家の婦人たちは、アルパカの毛を使ってお土産のぬいぐるみを作っておられる。
そのぬいぐるみを作られる女性たちの、なんと楽しそうなこと!
アルパカの世話を中心になってされている、元畜産農家の樺沢さんは、アルパカの可愛さにメロメロの感あり。
そして、樺沢さんが今試みておられるのは、アルパカの糞を肥料とした「アルパカ米」の生産だ。
かつて、牛の糞を肥料にして作られた、山古志の甘いお米。
それに勝るとも劣らない「甘くておいしい、日本一のお米」の生産が、今樺沢さんの目標だ。
彼は、今そのための作業に、余念がない。
右下のアルパカを見ながら、田んぼの整地に精を出される樺沢さん(左上)
こうして、山古志の傷ついた大地は、着実に復興へと向かっている。
私はその姿を見て、心揺さぶられた。
大地震の被害に負けず、前を向いて歩まれた山古志の人々の逞しさ、郷土に対する深い愛、そして優しくて明るい笑顔‥。
私は、そんな山古志の人々の姿に、強い感動を受けると同時に、私の方が逆に励まされる思いだった。
そして、その後にあった東日本大震災が余りにもむごたらしくて、ともすれば、中越地震のことを忘れてしまいがちだった自分への強い自責の念が、私
の心を占めた。
最後に、山古志が取り戻した美しい風景の写真を何枚か、下に載せさせていただきます。