ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅          アシアナ(医療監房)・・・・・10

2013-01-13 | 2章 デリー中央第4刑務所アシアナ
 

暫らくすると鉄格子の出入り口に患者が集まり出した。同じベッドの上で横になっていたインド人が
「ジャパニーチョロ」
というように合図をした。出入り口に行くと鉄格子の外に机が置かれ薬務員が座って投薬の準備をしている、座って待っていると最初に名前が呼ばれインド人に背中を押され鉄格子の前に進んだ。立っていると薬務員が手を出せという仕草をした。鉄格子の間から右手を出すと薬が手の平に置かれ、それを全部口に含むと横から水の入ったコップを渡された。飲み終わると
「口を開けろ」
と薬務員は自分の口を大きく開けた。ぼくも口を大きく開け舌を巻き左右に動かし残らず薬を飲んだという仕草をした。
「ベッドに戻って寝ろ」
眩しい裸電球の下で眠る事など出来ないだろう、もう直ぐ十一月だというのに天井の扇風機は回り続けていた。毛布を引き上げ肩まで包み込んだ、眠りは全てを忘れさせてくれる。禁断に入って身体の痛みが一番激しい時なのだが全身を襲う痛みは感じない、薬が効いているのだろう。日中は施設の治療スケジュールがありティー、食事そして投薬と時間の区切りがあって何とか時間をしのぐ事が出来る。夜は何もない。重い身体で眠りに救いを求めようとすると拒否される。遅々として進まない長い夜の時間を耐え続ける苦痛。
睡眠導入剤が処方されていたのだろうか少しまどろんでいた。それを引き戻したのは冷たく震える物をぼくの身体が感じたからだ。
「タンダー、タンダー」
というインド人の声を聞いた。毛布に潜り込んだインド人は温かいぼくの身体に身を寄せた。気味が悪くなりぼくは寝返りを打った。暫く震えていたインド人も温まってきたのか身体の力が抜けて眠りに入ろうとしているようだった。
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ジャンキーの旅           アシアナ(医療監房)・・・・・9

2013-01-10 | 2章 デリー中央第4刑務所アシアナ
 夕方6時施錠された。患者は全員病棟にいる。病棟の真中を巾2ヤードぐらいの通路があり両サイドに10台のベッドがあった。患者数はベッドの数だと20名だが約半分のベッドにはぼくのように2名で共有している所がある。それとベッドの間を寝床としている患者も10名程いる。はっきりした数は分からないが大体40名ぐらいの中毒患者が入所しているのではないだろうか。ベッドの上で横になっても眠れる訳ではないうつ伏せになって周りを見ていた。ベッドの上に座ってぼんやりしている者、横になって動かない者、人が集って賑やかなベッドがある。どうして手に入れたのかバナナや菓子類を皆で食べていた。そんな人が集った別のベッドの方からインドの歌が聞えてきた。通路に毛布を敷きその真中に歌い手が座っていた。あぐらを組んだ膝元にアルミ製で直径40cmぐらいあろうかオイル缶の蓋のような食器が伏せて置いてあった。インドの打楽器タブラを代用しているのだろう歌に合わせ時に激しく打ちつけた。インドの民謡だろうか生で聞くのは初めてだが中々の歌い手だ。興に乗ったインド人達は手拍子をとり通路に出て踊り出した。足はリズムをとり両手は頭の上で指を鳴す。歌が終ると次の歌い手が指名されその彼がまた雰囲気を盛り上げた。病棟内でこんな大声を出し打楽器を鳴らして大丈夫だろうかと心配になったが事務所からは何の注意もない。そんな大らかなインドが好きだ。

(建築はイギリス統治時代ではないだろうか? ヤードだとぼくのイメージと寸法が合う)
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ジャンキーの旅           アシアナ(医療監房)・・・・・8

2013-01-09 | 2章 デリー中央第4刑務所アシアナ
 水浴が終った者から莚を敷き始めた、午後のティータイムだ。ティーはゆっくりとだが全部飲んだ。アシアナに入所して2日目、次は何をするのか全く分からない。見よう見まねで彼らの後について行くしかない。皆と一緒に玄関フロアーに座って待っていると午後の投薬が始まった。粉薬はない。薬は患者名が書かれたプラスチック・ケースに用意されていた。薬剤師から渡されたケースを薬務員はカルテの薬名と照合し一個ずつぼくの右手の平に置いていった。5~6種類のカプセル、錠剤は大きく飲み難かった。ぼくの後から投薬を受ける患者達の薬の量は段々少なくなった。回復に向かっているのだろう。投薬が終ると前庭にカーペットを広げたような形で莚を敷き適当な場所に皆座っていた。暫らくするとマダムが玄関に現れ見回すと一人の患者に何かひと言いった。彼は急いで玄関に入り椅子を持って出て来た。置かれた椅子にマダムはゆっくりと腰を掛け別の患者を指名した。彼は前に出て皆に向かって
「メロ・ナム(私の名前は)・・・」
と自己紹介し何かを喋り始めた。恐らくどうしてスタッフをやり始めたのか、その時の生活はどうだったのか、逮捕されアシアナで治療を受けスタッフをやめる事が出来た、二度と薬物はやらない。マダムを前にして更生した自分を嘘でも良いから表現しなければならないのだろう。したたかなインド人中毒者がその程度で悔悛し更生するとは思えないが。それが終ると患者の間から質問が出され質問がなくなると彼は次の患者を指名した。このミーティングは中毒治療の一環である。1日5回の水浴と投薬はアシアナの長い治療経験によるものだろう。
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ジャンキーの旅           アシアナ(医療監房)・・・・・7

2013-01-07 | 2章 デリー中央第4刑務所アシアナ
 

午後3時の開錠時間が分かるのだろうか、出入り口に収監者が集り監房の外を覗いている。鉄格子の扉が開けられ外に出てもこの病棟の周りを歩く事ぐらいしか出来ない。乾燥し赤茶けた外周、あるのは井戸と水浴槽だけ。彼らが監房の指示で作らされたのだろう小さな花壇。
 開錠されると鉄扉の前にいた者達は急ぐようにして外に出て行った。見ると彼等は水浴槽で楽しそうに水浴びをしていた。聖なる河ガンジスで沐浴する時、男性は腰巻を着用しなければならない。ここでは全員素っ裸である。黒い肌に二握りもありそうな黒いペニスをさらけ出していた。ヒンズー教の シバは創造と破壊の神である。シバ神の化身がリンガつまりペニスである。気候の厳しいインドでは強い生命力を持った者しか生き残る事は出来ない。寺院に祭られたリンガを前にして女性達は強い生命を授かりたいと祈る。創造の源、強く大きいペニスは誇らしげに見えた。
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ジャンキーの旅           アシアナ(医療監房)・・・・・6

2013-01-04 | 2章 デリー中央第4刑務所アシアナ
 前庭に莚を敷き始めた。朝と同じように中通路を挟んで壁側と向かい合うように各1列。やけに親切なインド人がいた。
「メロ・ナム・サンジ」
おれの名前はサンジだと自己紹介をした。ぼくのことを皆はジャパニーと呼ぶ。食器プレートとコップふたり分を持って来てジャパニーここに座れと自分の隣を手で叩く、莚を引っ張って行ってサンジの隣に座ると食器とコップをぼくの前に置いてくれた。食器プレートは横長方形40×30cm位、12時施錠前に食事を終らせなければならない。11時半頃には食事が運び込まれた。プレートを前に置いて待っていると模範囚がバケツをさげて素早くお玉一杯のサブジとダルを食器に入れていく、プレートにはそれぞれ入れる場所が決まっている。主食は好みによってライスかチャパティを選ぶがライスとチャパティのハーフ・アンド・ハーフもあるようだ。それは前もって模範囚に希望を伝えておかなければならない。全員に食事が行き渡るとヒンディ語で何を言っているのか分からないが日本風に言うと「いただきます」で食事が始まる。目の前の食事を見ただけでまったく食べられそうになかった。横で忙しそうに食べているサンジに食べられないから欲しいだけ取ってくれ
「アイ・キャント・イート。カナ・トラ・トラ」
と訳の分らない英語とヒンディ語で説明をした。ぼくの食事はほんの少しだけ残してサンジのプレートに移されたがそれでも少し残った。
「ノープロブレム」
サンジはこの言葉だけは知っているのか英語でぼくを慰めてくれた。ぼくはインド人が食べ物を残しそれを捨てるという場面を想像出来ない。ましてここ刑務所内においては皆、空腹なのだ。今朝ぼくがトーストを食べられないで隣の人にあげたのをサンジは見ていた。やけに親切なサンジは食べきれないぼくの昼食を狙っていた。別にぼくは構わない夕食も無理だろう。4日間何も食べていない身体は持ち堪えることが出来るのだろうか。鉄格子をガンガンと打ち鳴らす金属音がした。昼食後の散歩をしていた収監者達は病棟へ向う。入口で頭数のチェックが行われていた。各々自分のベッドや寝場所に戻った。暫らくの間ざわめいていたが昼食後の軽い眠りに囚われたのだろう静かになった。天井でゆっくり回る扇風機の羽根を見ていた。何かを考えようとしたが何も浮んで来ない。絶望の壁を通り過ぎ生きる可能性の糸口さえ見失ってしまうと思考は停止してしまうのかもしれない。
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2013 1月1日       ガス台が壊れました

2013-01-01 | インドの旅
油で汚れていたガス台をきれいにしました なのに今日 点火はしますが手を離すと消えた
ずっと押さえていると精神的に疲れる 明日 買いにいきます

蓮華 どこで撮ったのか クシナガラ ブッタガヤ だと思う・・・




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