ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅          No2 Ward・・・・・85

2014-09-30 | 3章 デリー中央第一刑務所No2Ward

「トミーだけじゃない、皆やっている」
「奴はレポートを書かないし、書けない」
と彼は言った。エマも戻ってきて同じ事を言った。
「今、話せばパケを返してやる。話さなければ明日だ」
と奴は言った。本当に刑務官に報告せず奴の注意だけで返してくれるのだろうか、まだ心配は残るが全てジャクソンに任せよう。だが、もし奴がレポートを書いてSPに報告しぼくが取調べを受けたらどうなる。ぼくは1人だけで罪を被る気はない。ドラッグをやっている奴を全て話す。アフリカン・ドラッグ、シンジケートの全てを明らかにする。調べは第2収監区全体に広がり全てのドラッグが禁止されるだろう。その反発はぼくに来るが当然奴にも来る。間違うとぼくは殺されるかもしれない。ここで10年生き延びる可能性がない以上、ぼくは殺されても同じようなものだ。ジャクソンもエマもそうなる可能性を知っているから奴の動きを止めるのだ。ぼくと奴だけの問題じゃない。組織を危険に晒す事は出来ないのだ。ドラッグ売買の収益しかアフリカンが金を手に入れる手段はないのだから。だとしたら少しのペナルティーだけでぼくは助かる。運を天に任せよう。何の神様でも良い、助けて下さい。雨が降り続いている。ビリを吸ったら少し効いてきた。朝まで眠れないだろう。

   1月15日(月曜日)
雨が降り続いていた。朝の点検は雨のため中止になった。白いインド服にブルーのベストを着て奴が出口へ向かって行った。刑務官の詰所へ行くのか、ぼくは心配になり外房へ行き鉄格子を握って奴を目で追った。詰所の裏にある大きな木の下にジャクソンとトビキが待っていた。3人で話し合っている。そこへ身体を洗う為だろう上半身裸で井戸水の入ったバケツを下げたエマが来た。話は簡単に終ったようだ。雨の中各々に散って行った。エマがぼくの所へ戻って来た。
「これで終りだ、心配するな」
と言ってくれた。ジャクソンも来て何度も「もう心配する事はない」
「俺とお前は友達じゃないか」
有難かった。涙が出そうだった。

   
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ジャンキーの旅          No2 Ward・・・・・84

2014-09-29 | 3章 デリー中央第一刑務所No2Ward

 エマが戻って来た。パケを没収された事やヘビ目との会話のすべてを彼に話した。
「ちょっと待て」
そう言って彼は出て行った。何か打つ手があるのだろうか。13日の金曜日が1日ずれただけだ。どうすれば良いのか、フィリップスが言った通りぼくはマークされていたのだ。何も今、効かないスタッフを入れる必要はなかったのに。チャーリー、アロエ、キシトー、フィリップス、名前は幾らでもあるけど。終わりか、刑務所内での再逮捕はたとえ小パケ1個でも最初の逮捕に匹敵する。運が尽きてしまったのか、この件で刑が加算されれば10年は免れないだろう。2度目の首吊りになるかもしれない。寝床で腹這いになってこのノートを書いているが周りが恐くて何処も見ることができない。やけに喉が渇く。
 やっとエマを見つけたらのんびりテレビを見てやがる、ふざけるな、どうにもならなかったのだろうか。ヘビ目が名前を知りたがっていたという事は、明日ぼくを何処かへ連れて行って厳しく追及するのか?まいったな~。エマが戻って来た。
「何とかしてくれエマ、頼む」
「そんなに心配するな、待っていろ」
エマの動きをぼくは目で追った。ジャクソンと話をしている。ジャクソンがぼくの所に来た。
「心配するな、俺が話をつけてやる」
「ノープロブレム」
そう言ってくれた。本当に大丈夫だろうか、ぼくは横になって最悪のシナリオを思い描いていた。ジャクソンがぼくを呼んだ。
「大丈夫だ、もう心配するな」
「友達じゃないか、俺が約束したんだから」これからスタッフをやる時はトイレ等でやれよと言った。エマもジャクソンもぼくの為に出来だけのことはやってくれた。明日もしぼくが捕まったらそれはそれでしょうがない。ディクソンではなくエマに話して良かった。ここ数日エマと親しくしていたので親切にしてくれた。ぼくとエマの前の通路を歩いていたヘビ目にエマは怒った顔で一言いった。助かるかもしれない。ジャクソンが約束を守ってくれたら、ぼくは助かる。


二日間 歯茎の炎症で発熱し何もできなかった 今朝 少し寝汗をかいていたが熱が下がった
右下奥歯は噛むとまだ痛みがある 歯科医へ行くことも考えたが数日様子をみる
炎症が治まれば歯と歯茎は安定するだろう そう願いたいものだ
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ジャンキーの旅          No2 Ward・・・・・83

2014-09-26 | 3章 デリー中央第一刑務所No2Ward

この粉には参ってしまった。1パケ入れたのにうんともすんとも効かない、馬鹿みたいだ。昼、ショッカンがちょっと良い粉があると言うので買って吸ったがたいした事はなかった。面白い事はない、ジョイントでも作ろうか、その時押し殺した声で
「誰から買ったトミー」
奴はいつ隣のベッドに来たのか
「話せトミー」
誰から買ったか言え、と命令してきた。奴の手はぼくから取り上げたパケを持っている。最も気を付けなくてはならないヘビ目だ。ぼくは見張られていたのだ。最悪の事態になった。周りが一瞬、静かになり皆の視線、神経がこちらに向いている。背中が痛いほど感じた。
「トミー話せ」
「話せないのか」
何度も命令してきた。小さな静かな声で、ぼくを見ている目はヘビのようだった。
「今、話せば全部お前に返してやる」
「もし話さないなら、明日戻してやる」
明日、戻すという事は刑務官に報告した後という事か、万事休す。恐れていた最悪の事態を招いてしまった。何か良い手はないのか、このまま時間が過ぎて明日になってしまえば終りだ。どうすれば良いのか、ディクソンに相談してみようか、奴に没収されたのは小パケのみだが残りのスタッフも早く処分した方が良いだろう。ディクソンが他のリーダーに相談して何か穏便に解決する方法を考えてくれるかもしれない。だがスリランカ人の彼はこの問題に関わりたくないだろう。彼を含めたスリランカ人・グループもマークされているのだから。誰から買ったのか、と追及されても誰の名前を言えば良いのか。ヘビ目は誰の名前を欲しがっているのか。


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ジャンキーの旅          No2 Ward・・・・・82

2014-09-25 | 3章 デリー中央第一刑務所No2Ward

それでも何とか1日が終ってしまう。毛布に包まっていると午後のティータイムだ。ティーグラスを持って外に出るとピーナッツくらいの大きさのチャナ豆をインド人のお爺さんが配っていた。煎ってあるがそれでも少し堅い。下痢のとき食べるとお腹に良いと聞いたことがある。チャナを食べてウオーキング、外周10回と決めている。終ると5時過ぎで夜のスタッフとビリの手配をしたり、飲料水を汲んだりすると6時のロック・タイムになる。考えて見れば記憶に残るような出来事は何もなかった。アミーゴが粉をやりたいと言ってきたが、質が悪いのでやめた方が良いと諦めさせた。ショッカンとセガがシックだから1パケ回してくれ、月曜日の面会でベストが入るからと何度も使い古した台詞で頼みにきたが、無視。フィリップスからチャラスの良いのが1g入った。ぼくは1パケ入れていたのでジョイントの効きが良かった。1時間くらい引っ張って気持ちが乗った。スタッフにチャラスを合わせるとキックしてスタッフの量を減らせるかもしれない。エマのラジオからブルースが流れていた。音があると最高だ。
 とうとうアミーゴの怒りが爆発してしまった。マーシャルに向かって大声で文句を言っている。彼の寝床の足元にバナナやピーナッツを食べた皮や殻が捨ててあった。通路のそこはマーシャルの寝床だ。文句を言われたマーシャルはそれを反対側のフランシスの所へ投げ捨てた。それを見たフランシスも頭に来てしまった。前にも2~3度そんな事があり注意をしていたらしい。今日は我慢ならなかったのだろう。アミーゴはそんなに大きな男ではないがラテン系でがっちりした体格だ。下からすくい上げるようにして出したアミーゴのパンチが座っていたマーシャルの顔面を直撃した。彼はそのまま後ろにひっくり返って暫らく動かない。打ち所が悪かったのか、ぼくも心配になったがやっと起き上がると出口の方へ歩いて行った。夜の施錠時間内だから外へは出られない。たぶん刑務官と話しが付いたのだろう、戻って来ると毛布や荷物を持って出て行った。Aバラックに替わったのだろう。狭いバラックに血の気が多い若い者がゴロゴロしている。ちょっとした事で直ぐ喧嘩が始まる、しょうがない事だ。



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