ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅・逃亡・・・23

2017-11-01 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

 クマルがやって来た。ケダルとクマルは同じカーストの出身者だ。カーストは中間より少し下のクラスだろうか。結婚も友達付き合いもカーストで決まる。スンダルは彼等と付き合うことはない。ぼくが食事に行く時、もしスンダルとケダルを一緒に誘ったらどちらかが断わる。同じ席に着くことを嫌がる、カーストが違うからだ。ケダルとクマルはぼくと一緒に飲みに行く。3人でよく祭りや遊びに行った思い出がある。彼等の家へ食事に誘われて一緒に食べたこともある。クマルの家は貧しい。お母さんは既に亡くなり無職のお父さんと婚期が近い妹、それに小学生くらいの弟と末妹がいる。どうして生活をしていくのか、心配してもぼくには何も出来ない。彼等は彼等なりに精一杯生きている。そんな彼等をみながらぼくは何をしていたのだろうか。
「いつまでカトマンズにいますか?」
「来週、1度日本へ帰ります。でもまた戻ってきます」
「そうですか・・・」
もし無事に帰国できたとしても二度とカトマンズへは戻ること不可能だろう
彼等はそのことを理解しているのかもしれない、しかしだれもそのことに触れない。

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ジャンキーの旅・逃亡・・・22

2017-10-11 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

 順調に進めば明後日、5年振りの帰国となる。ぼくはどんな顔をして日本へ帰るのだろうか。荷物の整理は終っている。明日イミグレーションでビザをとり飛行機の予約確認をすれば帰国の準備はすべて終る。今日の予定は何もない。広場へ行ってケダルとクマルに会っておきたい、彼等に会うのはこれが最後になるだろう。朝食が終ってケダルの店へ行くと既に土産物を並べる仕事は終っていた。ニューロードの方を向いて店番をしているケダルに「おはよう」と声を掛けて彼の隣にぼくは座った。ぼくを見たケダルは
「チャイ、飲みましょう」
「今、飲んできたからいいよ」
「もう一杯だけ、それだけ飲んで下さい」彼がぼくにチャイを進めるときに使ういつもの会話だ。チャイを飲みながら2人は並んで座っていた。特別な会話などなくてもお互いに気を使うことはない。
「赤ちゃん、元気?」その言葉を聞いた途端にケダルの顔は満面の笑みに変わった。赤ちゃんの動きを手振りで真似て
「元気よ、こうして歩くよ、もうすぐ2才になるよ・・・」
楽しそうな彼の顔を見ているとぼくも嬉しくなった。
 ケダルがお見合いをしたのは3年前だったのか。
「明日、お見合いをするよ」彼は照れくさそうにぼくに知らせた。興味津々のぼくは翌朝すぐ彼の店へ行って話しを催促した。ケダルはある建物の屋上に上がって通りを隔てた建物の屋上に現れるお見合いの相手を待っていた。頭からショールを被った女性が屋上に現れた、がすぐ建物の中へ戻って行ってしまった。
「どうだった?」
「何も見えないよ、こうして、頭からショールを被っていたから」
ぼくは吹きだしそうになった。若い2人はそうして親の決めに従って結婚をした。1年後、バンコクで安いペアウオッチを買いカトマンズへ戻った。新夫婦へのささやかなプレゼントだった。その時、女の子が生まれたと聞いていた。
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ジャンキーの旅・逃亡・・・21

2017-09-20 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

 午後、迎えにきてくれたスンダルのバイクで彼のアパートに行った。日本から荷物を送った時に使ったダンボール箱と2つのビニール袋にぼくの荷物は纏められていた。荷物の多くは衣類と本でそのまま彼に保管してもらうことにした。ぼくの安全が確かめられカトマンズに戻ってくるまでの間、とぼくは彼に言ったがもうここへ戻ってくることはないだろう。ぼくが日本へ持ち帰る物は別のビニール袋に入れた。友人からの手紙やノートそれに約150gの金と日本円だけだ。お金を調べてみると約1200ドルが不足していた。カトマンズの電話普及率は低い。一般市民には手が出せないほど高いと聞いた事がある。店に電話は必要だろうがアパートにも電話を引いていた。バスルームにはホットシャワー用の電気製品があり、何の目的で借りたのか別に広い事務所を用意していた。それらは全てぼくのお金から支払われたのだろう。ぼくの逮捕を知り保管したぼくの荷物の中を調べていたら、ネパール人の彼にとっては高額なお金が入っているのに気がついた。彼はデリー刑務所に収監されているぼくがカトマンズへ帰ってこられるだろうか、帰って来られないかもしれない。ぼくのお金を前にして彼は煩悶し、お金を使うことに迷い苦しんだに違いない。お金を使ったスンダルをぼくは責めることが出来ない、ぼくは何も言わなかった。ぼくがトリブバン国際空港から離陸するまで彼の助けがどうしても必要だ。ストーブと灯油用ポリタンクを持って彼のバイクの後部シートに乗ってぼくはホテルへ戻った。
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ジャンキーの旅・逃亡・・・20  露天商のケダル

2017-09-12 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

バサンタプールはニューロードに沿った縦長い広場だ。そこに多くの露天商が店を出している、が何処に店を開くかは決まりがある。ニューロード側の前1列目から順次3列まである。ぼくが立ち上がるとチビとキングも起き上がりぼくの後ろからついて来る。ケダルの店は1列目の右から4~5軒目にある。ツーリストの買物客はニューロードを歩きながら土産物を見定めていく、前の列には商売のチャンスが多いと言える。この時間、ケダルは木の台に商品を並べるのに忙しい。ぼくはケダルの店に毎日のようにきていたのでどこに何を並べるか大体知っている、手伝う事もあった。彼がぼくに気づいた。にっこり笑顔でおはようございます、と言ってぼくの手を握った。
「いつ帰って来ましたか?今回は長かったですね」
彼も日本語学校に通っていた事があり流暢な日本語を話す。ぼくが外国語学校でネパール語を勉強していた時は彼から教えてもらっていた。
「昨日、インドから帰って来ました」
そうですか、と言いながら彼の作業の手は止まらない。カトマンズの旅行シーズンは3月からだ、寒い1月に店を開いても売れない日が続く、それでも毎日店を開けて客を待つしかない。また来ます、そう言ってぼくは露店の間を歩いてホテルへ向かった。チビとキングはいつものチャイ屋のところまでぼくを送ってくれた。

何度かつくつくぼぅう~しの鳴き声を聞いた
秋はもうそこまで忍び寄っているのかもしれない
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ジャンキーの旅・逃亡・・・19  スタッフは甘くない

2017-09-05 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

スタッフを吸う量も回数も減らしている。これを減らし続けて数値を0にすればスタッフの禁断なしに中毒から抜け出せるとスタッフを知らない人は思うだろう。スタッフはそれほど甘い薬物ではない。一度体内に入れたスタッフはその量に見合う禁断という苦しみを代償として払わなければ抜け出せない。スタッフが足りなくなればカトマンズでも少量なら買うことが出来る、値段はデリーの倍だが。カトマンズはやはり寒い、布団に潜って寝るしか別にやることはない。明日、スンダルのアパートへ行って荷物の整理をする。ついでに保管してあるぼくのストーブを持ってこよう。
 朝、広場へ行った。広場の手前の角に露店のチャイ屋がある。ぼくは毎朝そこで朝食をしていた。さっそくチビとキングが駆けてきてぼくにじゃれてくる。よく見るとキングは皮膚病に罹っている。以前は綺麗な白い毛だったのに毛が抜けてピンクの皮膚が露わになり傷ついていた。あまり汚くてぼくはキングを蹴飛ばした。キャン、キャンと泣きながらもぼくにじゃれついてくるキングを見た。可哀相なことをした。チャイ屋の木の長椅子に座ると2匹はぼくの後ろでごろんと横になった。そこは人の通り道で邪魔になるのだがネパール人は犬を蹴飛ばしたりしないで避けて通る。犬だって突然、蹴飛ばされたら怒って人間に咬みついてくるかもしれない。狂犬病に罹っている可能性がある。揚げパンを買った。まずキングに食べさせる。その後チビに食べさせようとするのだがキングを恐がって食べようとしない。ウーとキングは唸ってチビを威嚇している。ぼくがキングの頭をげんこつでぼかっと殴ると奴はキャン、キャンと悲鳴をあげた。その隙にチビはパンをくわえて物陰へ逃げて食べていた。

ふっと気がつくと夏蝉の鳴き声がない いつからだろう 季節は変わりつつある
初秋の使者つくつくぼう~しの声が向こうの山から聞こえてくる
また ひと夏が終わったと安堵する その鳴き声はまだしない
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ジャンキーの旅・逃亡・・・・・18

2017-08-21 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

 ぶらぶらと歩いてホテルへ戻ると真っ暗だ。灯りは受付に置いてあるローソクだけ、昨日の夜は電気が点いていたのでぼくは忘れていた。カトマンズで生活していくにはローソクと懐中電灯は必需品なのだ。カトマンズの人口は増え続けている。以前はインドラ・チョークを中心とした旧市街だけだったが、新市街であるタメル地区の開発が急ピッチで進んでいる。電気の需要に供給が追いつかない、そのため新、旧市街を一日交代で電気の供給を止めるのだ。それも日常生活で最も必要な時間帯である18時から20時に停電する。無茶苦茶な話しだがしょうがない。ぼくはホテルを出て雑貨屋へローソクを買いに行った。広場の店でローソクと煙草を買っていると、さっそくチビが駆けて来てぼくのシューズにじゃれついて遊ぼうとする。可愛い奴だ。チビの頭を撫でながら「元気にしてたか、チビ?」とぼくが話しかけるがチビはしょぼくれた顔をしていた。ぼくがホテルへ歩いて行くとチビはじゃれながらついてくる。しかしホテルへ入る通路にくるとチビはぴたりと止まる。通路の中からぼくがいくら呼んでも絶対に入ってこない。チビは犬なりに人間の領域へ入ってはいけないという事を知っているのだろう。
 1月9日、夜デリーを出発して今日12日まで心が休まる時はなかった、疲れた。でも15日(月)までの2日間は少し休めそうだ。チェーシングをしても楽しくない。それは気持ちの奥にある逃亡の緊張感が弛緩しないからだ。
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ジャンキーの旅・逃亡・・・・・17   大使館

2017-08-13 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

 銀行での預金引き出しが終ると一旦ホテルへ戻りスンダルのバイクで大使館へ行った。まさか午前中に大使館まで行けるとは思っていなかった。受付で事情を説明すると大使館員のDさんが出てこられた。もう1度ぼくが説明しようとすると、事情は聞いて分かっています、という様子で盗難証明書と写真を用意していますか、とぼくに聞いた後
「パスポートを作ります?どうします?」
とDさんはぼくの意向を確認された。パスポートを再交付してもらう時間はない、トラベル・ドキュメントをお願いしますとぼくは答えた。デリーでパスポートを作ろうとして写した写真がある、それを提出した。夕方には用意できるので受け取りにくるようにと指示された。順調だ、すべて上手くいっている。
 スンダルにも店の仕事があるだろう、夕方はぼく1人で大使館へ行った。トラベル・ドキュメントを受け取って有効期限を確かめてみると今日12日(金)から21日(土)までとなっている。こんな事だったら15日(月)の交付にしてもらえば良かった。13日(土)14日(日)は何も出来ないのだから。15日(月)にビザが収得できれば16日(火)に出国する予定だから、まあ問題はないだろう が何かしら不安が微かに残った。
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ジャンキーの旅・逃亡・・・・・16

2017-07-26 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

パールガンジ警察署もそうだったが、ここも何となく薄暗く陰気で無機質だ。警察署というところはどうも好きになれない場所の一つだ。彼女がドアをノックしてぼく達は部屋の中へ入った。通信機器のような機材がある警察のコントロール・ルームのような部屋だった。中には2人の警察官がいたが、彼等は暇を持て余しちょうど良い話し相手が来たという様子で手招きをしてぼくを迎え入れてくれた。
「おはようございます、どうしましたか?」
町の通りを歩いているとよくこの手の挨拶をされて辟易していた。日本語の会話で知っているのはそれだけなのに、日本人だと分かると話しかけてくるのだ。だが、ここは愛想笑いでもして警察官の機嫌を害わないようにしなければならない。暫らく無駄話に付き合っていたがぼくには時間がない、用件を切り出した。(夜11時頃、2人組みに襲われた。1人がぼくに抱きつき、その間にもう1人がぼくのウエストバッグを盗んで逃げた。その中にはパスポートと1000ルピーが入っていた)その程度の話で盗難証明書を交付してくれた。それだけだ。現場検証とか犯人の特徴を聞くとか何もしない、捜査をする気は全くないのだから。ぼくもその方が助かる。
「また、会いましょう」
と警察官に言われ、はいと言ってぼくはにっこり笑顔で感謝の意を表したが、腹の中では2度とこんなところへ来るものかと思っていた。
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ジャンキーの旅・逃亡・・・・・15

2017-07-18 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

 3階のベランダから下を見ているとスンダルがバイクでやって来た。吐く息が白い、寒そうだ。持っていくものはパスポートのコピーと写真だ。部屋から出てドアを閉めていると階段を上がってくるスンダルと会った。朝の挨拶、おはようは日本語だ。彼はかなり難しい日本語の会話を理解することが出来る。2人の会話はすべて日本語だ。彼が乗ってきたバイクはホテルの前に置いていく。周りの店のネパール人達は顔見知りで悪戯される心配はない。旧王宮へ歩いていくとフリーク・ストリートの建物が切れたところからニューロードまでの間の左側が広場になっている。巾15mぐらい長さは旧王宮に平行して約50mはある、バサンタプールと呼ばれる広場だ。決められた場所に露天商が店を開き商いをしている。その中で商売しているネパール人のケダルとクマルはぼくの友人だ。ぼく達がバサンタプールに差し掛かると2匹の犬が駆けてきてぼくにじゃれついた。中型犬で白に黒のぶちがある雌のチビと大型犬で真っ白い雄のキングだ。ぼくがカトマンズに戻ってくるといつも元気に迎えてくれる。チビはサンダルやシューズの紐をくわえては引っ張る。キングは前足を上げて抱きついてくる。遊んでやりたいが今日は忙しい、スンダルと警察署へ急いだ。
 旧王宮に沿って左へ進むと右側にインドラ・チョークからきた通りと出合う。その通りに入った左がカトマンズ警察署である。ゲートを入ると右側に建物があり外からスンダルが声を掛けると女性警察官が出てきた。話は既に通してあるようだ、2階へ案内された。

九州北部豪雨 被災された皆様にお見舞い申し上げます
お亡くなりになられました おひとり おひとり様のご冥福をお祈りします 合掌

週末 夏祭りのフィナーレですが 少し静かなような気がします
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ジャンキーの旅・逃亡・・・・・14

2017-07-06 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

 明日はまずカトマンズ警察署へ行く。ぼくは忘れていたが外国語学校の入学手続きの時、条件の一つに3000ドルをネパール銀行へ預託する、という項目があった。ネパールにはこれといった産業はない。外貨収入は観光くらいでドルはどうしても欲しい、そういう事情が背景にあったのだろう。学校が始まると生活費はネパール・ルピーで引き出せるようになっていた。幾ら使ったか憶えていないが預金はまだ残っているはずだ。パスポートはないがそれのコピーと盗難証明書があれば引き出せるだろう。次にネパール銀行に行く事にした。その後、日本大使館へ行く。トラベル・ドキュメントの交付はどうせ来週の月曜日になるだろう、それを受け取ってから出入国管理事務所へ行く。もし即日ビザが収得できれば翌16日、火曜日のフライトで出国が可能だ。16日の深夜12時05分発のエアーチケットの予約はとっておく必要がある。これで帰国までの予定は整った。ぼくは大分、気が楽になりちょっと酔ってホテルへ戻った。
 デリーに比べてカトマンズでの生活は楽だ。何が楽かというとぼく達のような旅行者にとって必要な政府機関が徒歩で行ける範囲内にある。銀行や郵便局それにイミグレーションがそうだ。ぼくが必要な大使館は日本とインドやタイくらいだ、これにはオート力車で行くが度々行くわけではない。

九州北部 記録的豪雨 
午後になってやっとヘリコプターの映像が映し出された
陽が落ちた 孤立した闇 希望の朝がやって来る 皆さんの無事を祈る
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