ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅      マリー・・・終り

2012-02-26 | 2部1章 マリー

 
 テーブルに立てたローソクの灯を見ながら ぼくは小舟に乗って揺れている、遠くへ、遠くへ流される。身体が左右にゆっくりと心地よく揺れる、仄かなローソクの陽炎。夢遊、ドラッグの幽玄に意識が流れる、それは無に近づく意識の放棄。身体が円を描き始める、回りながら円は大きくなり闇の中へぼくは落ちた。
「どうしたの、トミー」
「キャー、ひどい血だわ、動かないでトミー、お願いだから」
「じっとしてるのよ、分かった」
ぼくは円を描いていた、テーブルを倒しながらベッドから間へ落ちた。上へ延ばした腕に頭を乗せ横たわっている。割れたガラスの破片がぼくの右手首の静脈を切ったのだろう、手首から流れる鮮血。それは妖しいケシの花弁。
彼女はぼくを抱き起こし、ベッドに凭れ掛けさせ血を拭くとその腕を頭の高さに持ち上げた。無言で片付けをするマリー。終るとぼくの手首に包帯を巻き
「明日は病院よトミー、ガラスが入っているかもしれないから」
「ごめん、マリー」
「トミー・・・」
「うぅん」
「何でもない、おやすみ」
トミー、もう駄目だわ、マリーが胸に飲み込んだ言葉をぼくは気付いていた。傷が治ったらぼくは街へ戻る。
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ジャンキーの旅         マリー・・・・・24

2012-02-20 | 2部1章 マリー

 
 食事が終るとその計画と可能性について話し合った。カトマンズへ逃亡し一週間以内に日本、又は第三国へ出国しなければならない、可能性が最も高いのはカトマンズだ。テーブルにメモ用紙を置き彼女の話しを記入する。
マンディー ユーマストゴーコート ・・・エンド・・・
月曜日 裁判所へ出頭する、この日の夜行列車で印・ネ国境へ向かう。チケットは用意できる。翌朝、ゴラクプール着。
火曜日 印・ネ国境の町スノウリを通過。夜行バスでカトマンズへ。
水曜日 朝、カトマンズ着。友人スンダルに会い、カトマンズ警察が発行するパスポートの盗難証明書を収得する為に必要な手続きをする。 
木曜日 カトマンズ警察署へ行き、証明書を入手、それを持って在ネパール日本大使館へ。パスポートの交付には数日必要だ、ここで足止めされる訳にはいかない。トラベル・ドキュメント、これだったら即日に発行してくれるはずだ。帰国まで一回使用可の通行許可書だ。
金曜日 トラベル・ドキュメントを持ってネパール出入国管理事務所へ行きビザを収得しなければならない。今までの計画が順調に進んだとしても、恐らくここが重要な問題点になるだろうとぼくは考えている。入国記録の照合確認だ。もしぼくが正規の手続きでカトマンズ空港から入国していればそこにはぼくの入国記録が残っている。スノウリから入国したにしても偽造パスポートや密入国をしていれば入国記録は残らない。ビザが取れなければ出国は出来ない。
土曜日 ネパールは土曜日が休日だ、政府機関は休み。
日曜日 大使館は休館。
月曜日 裁判所出頭日、この日ぼくは出頭をキャンセルする。裁判所はどういう動きをするのだろうか、全く予想がつかない。ネパールのビザが収得できればエアーチケットを購入し出国する。
 この計画には希望的要素が多く成功率は低い、危険過ぎる。その上もし計画を実行するとしても、それ以前に確実にクリアしておかなければならない問題がある。スタッフの禁断治療だ。薬物の後遺症が残ったとしても、初期の激しい禁断治療だけは終らせなければ帰国は出来ない。スタッフを持ってカトマンズへ行くのか、無事に出国する事が出来たとして後はどうするのか。最後にスタッフを身体に入れるスニッフのチャンスは機内だけだ。帰国すると直ぐに禁断が始まる。狂った擬似脳は肉体を攻撃し続ける。誰にも見られず、知られず薬物を抜いていく、どこでどのようにして。そんな帰国だったら、ぼくは日本へ帰りたくない、帰る事は出来ない。
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ジャンキーの旅         マリー・・・・・23

2012-02-16 | 2部1章 マリー
 フィリップスからスーツ、ネクタイ等を借りたがサイズが大きい、まぁしょうがない。
それを着てパスポート用の写真をとる、デリーで用意出来るのはそれだけだ。住民票と戸籍抄本は日本にある、どうするかは大使館に行って相談してみよう。日本の姉へはマリーの身元保証人の依頼とぼくの裁判は年内にも終り年明け早々にでも帰国する事が出来るでしょうと書いた手紙を出した。大使館のBさんから依頼されていた第一刑務所のレポートを書き終えていた。
 駄目だ、何もかも上手くいかない。
「ご存知でしょう、貴方のパスポートを再交付する事が出来ない理由を」
Cさんは優しく噛んで含めるようにぼくに説明をされた。パスポートが欲しい、それだけしかぼくの頭の中にはなかった。状況を正常に理解する能力を失っている。渡航中に有効期限に達した時、ページに余白がない、盗難で紛失、不可抗力によるパスポートの破損、パスポートの記載事項の変更、等が再交付の条件だ。判決が出るまで何年掛るのか分からない、有罪判決が確定すれば再びぼくは刑務所に収監される、保釈中のぼくに在インド日本大使館は新たにパスポートを交付する事は出来ない、当然の事だ。ぼくはBさんに提出するレポートをCさんに渡し大使館を出た。
 マリーとメトロポリスで夕食をする約束をしている。このレストランはメインバザールの中では一流だ、ぼくにとってはと限定すべきだろうが。冷房の設備がある、乾季の暑い日には良く冷えたビールが美味しかった。メトロポリスの一階は吹き抜けになっていてぼくが座っている中二階のテーブルから入口が良く見える。ブラックティーを飲みながら本を読んでいると店に入ってくるマリーに気付いた。テーブルを挟んでぼくの前に座ると
「どうだった?パスポートの件」
「駄目だ、どうにもならない、パスポートを作るのは無理だ」
「他の方法、可能性を考えてみましょう」
彼女は以前から考えていたのではないだろうか、ぼくに話すべきか少し迷った様子を見せたが
「一つの方法よ」 と、次のように話し出した。
「偽造パスポートを使ってネパールへ入国し、在ネパール日本大使館へ行く。そこで新しいパスポートを作り日本へ帰国する。偽造パスポートはフィリップスが何とか用意してくれるわ」
 
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ジャンキーの旅         マリー・・・・・22

2012-02-15 | 2部1章 マリー
 保釈されて一ヶ月が過ぎた。裁判はどうなっているのかぼくには分からないが、何も進んでいない事だけは確かだ。バクシ弁護士への依頼は保釈までの仕事であって、その後の弁護の依頼はしていない。裁判を進め終わらせるには新たに弁護士を選任しなければならない。保釈までは良く働いてくれたフィリップスとマリーだがその件について今は何も言わない。
 大使館から引き取った約二十万ルピーのお金は、いつの間にか九万ルピーしか残っていない。日本からの送金を受取る為にはどうしてもパスポートが必要だ。裁判所に保管されているパスポートが返還されたとしてもパンチの穴があっては使い物にはならない。とにかく至急新しいパスポートを作ろう、そうしなければぼくは身動きがとれない。
 マリーは日本大使館に寄ったのだろう、日本のビザを収得する為には何が必要か相談してきたとぼくに言った。彼女はぼくの裁判に関して正式の代理人として大使館に出入りしBさんとも面識がある。Bさんはわざ々彼女に面会して下さり、アフリカ人が日本のビザを収得するのは大変難しいと説明された。だが日本滞在中の経済面を含めた正式の身元保証人がいれば可能だとして、ビザと身元保証人の申請書類を渡してくれたそうだ。最後にマリーは
「トミーはドラッグをやっているではないか?」 とBさんから聞かれたとぼくに伝えた。大使館への出入りは極力避けなければならない、ぼくは不信感を持たれている。
 
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ジャンキーの旅         マリー・・・・・21

2012-02-14 | 2部1章 マリー


 朝だけは気持ちよくスタッフを吸え、朝食も美味しく食べられる。その後だ、昼食を食べる頃になると吐気がする。もう粉を止めたい、ここを出て早くカトマンズへ戻りたい、日本に帰りたい。しかし日本へ帰る前に粉を断たなければならない、どこで、どうしてスタッフを抜くのか、地獄のスタッフを。もう何もかも嫌だ、ここの生活もうんざりだ。
夜中、ベッドの横のテーブルを引っくり返してしまった。ぼくの部屋は広い、出入り口のドア右横に照明と扇風機のスイッチがある。十月下旬だがスタッフを入れるとき以外は天井の扇風機は回している。ライターやロウソクは使えない、暗い部屋の中を恐る々歩いてスイッチを入れトイレへ行く。終れば照明を消してベッドへ戻る、何度も危ないなと思っていたのだが。灰皿やティーカップ、受け皿などがフロアーに落ちた。ベッドとテーブルの間に倒れぼんやりとチョッパルのパタ々する音を聞いた。
「どうしたの、トミー?」ぼくの部屋へ入るとマリーが照明のスイッチを入れた。
ベッドに近づいてフロアーと横たわるぼくを見ている。
「驚かしてごめん、ちょっと転んだだけだよ、後は自分で片付けるから」
膝を強く打ったようだ、直ぐには立ち上る事が出来ない。割れて飛び散ったティーカップや吸殻、ノート、本、破れたパケから零れたスタッフ。手の付けようがない、ベッドに座ってぼくはじっと見ていた。
 ディワリ祭に入って裁判所への出頭日が二週連続で土曜日、翌週が木曜日と変更された。
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ジャンキーの旅         マリー・・・・・20

2012-02-13 | 2部1章 マリー

 
 裁判所へ出頭したついでにパスポートのコピーをとった、何に使えるのか分からないが。パスポートは二度と使えないようにパンチで小さな穴が明けられていた。一年振りに見たぼくのパスポートは増ページしたにも関わらず空きページは一枚もない。カトマンズに戻ったらパスポートの更新をしようと思っていたが、今ではもうその必要はない。しかしパスポートを持たない外国人なんてホームレスのようなものだ。飛行機、列車の予約切符は買えない、ホテルにも泊まる事が出来ない。インドという国は正式に何かをやって貰おうとすると書類の山を作る手伝いをやらされる。そして、その書類が回っていく要所々で公然とバクシシを要求される。えぇ~加減さらせ、ただパスポートのコピーを取るだけやないか、と言っても二人のインド人が付き纏い、一人50ルピーずつバクシシを取られてしまった。
 収監者のリリースはディワリ祭と関係があるのだろうか、大祭を前にして例えば恩赦を与えているという。メインバザールを歩いていると抱き合って何やら楽しそうに話をしているアフリカンがいる、刑務所内で見た顔である。アンクル・チャチャ、ランジャンと会う、グリーンG・Hにはムサカがいた。エマ、ジゥドー、アルファーがリリースされるとちょっと不味い、刑務所内の借金をまだ払っていない。カトマンズの外国語学校がディワリ祭で一ヶ月間の休みとなり、それを利用してデリーへスタッフの買出しに来ていたのだが、此処でディワリ祭を迎えようとは、一年が経ってしまった。保釈にはなったが身動きが取れない、早く新しいパスポートを作らなければならない。
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ジャンキーの旅         マリー・・・・・19

2012-02-02 | 2部1章 マリー
スリランカ どこだか忘れた 

 ぼくはマリーのアパートから出る事を考え始めた。ドラッグの売人達がリリースされ動いている、彼等から情報を得てもう安全だと判断したのだろう、フレッドと二ナは隠れ家を出てピクニックG・Hに戻っていた。フレッドからスタッフ10gを買った。キックは少し弱いが味が柔らかい、フィリップスの苦味のあるスタッフで胃を悪くしていたぼくにとってちょうど良いスタッフだった。
「トミー、パスポートがなくても良いのよ、ここに来ない、部屋も空いてるし、マダムには話をしておくから」
「良いね、二ナと一緒だったら楽しそうだ、ちょっとマリーとも相談してみないと」
「何故、マリーに話す必要があるの、あの女の目的はトミーのお金だよ、お金しか頭にない女なの」
マリーと二ナの仲は良くない、ぼくがピクニックG・Hに行くと言うとマリーは知らん顔、一緒に行く事はなかった。
 アパートに戻ってぼくは二ナの話しを考えてみた。このアパートを出てパスポートを持たないぼくを泊めてくれるホテルがあるだろうか?探せばあるかもしれない、少しバクシシをすれば可能性はある、インドの事だから。二ナのピクニックG・Hは考えてみれば非常に危険だ、いつポリの手入れがあるか分からない。
塀の外にいる今、スタッフを所持している事に対して刑務所内にいた時のような緊張感を持っていない、手入れを喰らったら一発でアウトだ。
「もう一度この様な事態になったら、大使館は一切援助をする事は出来ない」
心に滲みる大使館の有り難い言葉だ。
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ジャンキーの旅         マリー・・・・・18

2012-02-01 | 2部1章 マリー

 
 十月も中旬に入るとデリー裁判所、特に外国人審理を行うパテラハウス高裁は方針を変更した。理由は不明。今まで裁判審理の遅延により判決なく長期収監されていたプリズナーはケースに対する判決を受ける事なくリリースされた。メインバザールの揚げ物屋で夕食の買い物をしていたぼくに声を掛けてきたのはパラとチャーリーだった。パラはアフリカンの強靭な肉体で第一刑務所内で集団発生した肝炎から快復していた。パラそしてチャーリーと握り合ったお互いの手は力強かった。
 メインバザールはアフリカン・ドラック・シンジケートの売人達が見え隠れする。「フィリップスが捜してたぞトミー、良いブツが入った、いつでも声を掛けてくれ」
自由になった彼らは商売に余念がない。それしか生きる手段はないのだから。祖国ナイジェリアの内戦を逃れてきた彼等に行く先はない。
 ぼくはオーバードースに入ってしまった。つまりスタッフの摂取過多である。強いキックと深いトリップに内臓が耐え切れなくなった。毎日、何もする事はない、何もやる気持ちが起きない、ただ吸い続けた。胃の調子が悪く食欲はない、スタッフが抜けた朝だけはトースト、牛乳、ティー等を食べる事が出来た。夜は毎日、同じアフリカ料理と称する奴だ、飽きもせず良く食べられると尊敬するよ。味付けはトマト、トマトピューレに塩、胡椒だけ、それに肉を入れたスープでスパゲッティー、マカロニ、ライス、アタ等、何でもそれで食べる。マリーのアパートに来て、この料理が出ない日はなかった。ぼくは次第に食事を残すようになり、それの処分に困った。インドでも買物をするとビニール袋に入れてくれる。食べ残した物はそれに包んで外出する時、マリーに気づかれないようにしてゴミ捨て場に捨てた。
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ジャンキーの旅         マリー・・・・・17

2012-01-31 | 2部1章 マリー


 裁判所の手続きは簡単に終わり何時ものように郵便局に寄った。手紙を取ってくるからと一人で郵便局へ入って行くマリーを見ながら、ぼくは近くの屋台でミネラルウオーターを買った。何処でも一本、十ルピーが相場なのだが十二ルピーだと言う、交渉するのが面倒臭くて言い値で払った。ぼくが黙っていれば良かったのだが戻って来たマリーが
「トミー幾ら払ったの?」
「ちょっと高いと思ったけど、十二ルピー払った」 と、言ってしまった。
屋台のおやじと客らしいインド人が二名、そこへ彼女は怒鳴り込んだ。又、ひと悶着起こしてしまった。女性だと思って甘く見たのかインド人達はニャニャしている、お金を戻さないのならと、アイスボックスからミネラルウオーターを一本抜き取り彼女は戻って力車に乗り
「チョロ」 と、力車の運転手に言った、がスタートしない
「チョロ、チョロ」
運転手は両方の間に立たされ苦しい立場だ。思案しながら相互の顔を見比べていたが、しょうがないという顔をしてマリーが持っているミネラルウオーターを取り、屋台に行き二ルピーと引き換えにボトルを戻した。インドを旅すると良くある金銭のトラブルだ。やっとオート力車はパテラハウスへ向かって出発した。
 パテラハウスは高裁だと聞いているが正確な事は分からない。表通りから入り前庭を歩いて行くと左側にある二階建てがそうだ。オールドデリー裁判所と較べると随分と小さい。表玄関から入り廊下を真っ直ぐ突き当たりまで進むと左側が小法廷、廊下には長椅子が置かれ待合所になっている。法廷内にはピーター、チャーリー、セガの三名が入っていた。ぼくが中へ入る振りをすると入口で止められた。関係者以外の立ち入りは禁止されているのだろう。法廷内に傍聴席用だろうか椅子が並べられているが、日本のように裁判関係者席と傍聴席が完全に分けられている訳ではない。
「ここで待っていてくれる」 と言ってマリーは表へ出て行った。
ぼくは煙草でも一服しょうと玄関へ向かって歩いていると、刑務官に連れられて玄関から入って来る男に気付いた。逆光になって男の顔がはっきりとは見えない。二人の間合いが詰まった瞬間、立ち止まった男はぼくの手を強く握り締めた、ボブだった。
「ボブ」  ぼくは両手で彼の手を握った。
「大丈夫だったんだな、ボブ」
うん、うん、と二度頷きぼくの目を見詰めている。刑務官に再度、促がされぼくの手を放しながら法廷へ入っていくボブ。彼は尚もぼくの目を見続け又、一つ頷いた。彼が強く握り締めたぼくの手に彼の気持ちが残っている。
「生きていて良かった」 彼の目はそうぼくに語った。
「良かったな、ボブ」
だがボブは一言も話さなかった、話せなかったのか?鉄格子に吊るしたロープが彼の首に喰い込んだのか、ぼくはボブが生きている事を知った、それだけで十分だ。ぼくはボブに会った事をマリーには話さなかった、これ以上の事を知りたくなかった。
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ジャンキーの旅         マリー・・・・・16

2012-01-30 | 2部1章 マリー
  

 自分の事なのにぼくは裁判について何も知らない。
「トミー用意は出来たの?」
毎朝、スタッフを吸ってのんびりしていたぼくにとって裁判所出頭日は忙しい。
「ほら、髭を剃ってよ。服はどれを着ていくの?」
「これで大丈夫だよ」
「何が大丈夫なの、裁判官の印象が良くないわ」
「だったら帰りにメインバザールに寄ってジィーンズとTシャツを買おう」
「そうね」
毎週、月曜日の朝、いつも愚図々しているぼくに彼女の言葉はきつくなる。ぼくの娘ほどにも年齢差があるのにマリーはいつもぼくの保護者のように振る舞い、何も出来ないぼくはそれに従うという関係が出来上がっていた。アパートを出ると直ぐ四つ角がありそこで客待ちをしているオート力車と交渉するが料金が高い。大通りへ歩きながら次々と交渉しても金額が折り合わない、少しくらい高くても良いじゃないかとぼくは思うのだが彼女は妥協しない結局、交通量の多い大通りまで10分程歩かされてしまった。オート力車の運転手にとってみれば料金の事もあるがあまり行きたくない方面というのがあるのではないだろうか、やっとオールドデリー、ティスハザール裁判所へ行ってくれるオート力車に乗る事が出来た。
 
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