ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅        遠い道・逃亡・・・・・39

2015-03-30 | 4章 遠い道・逃亡

    国境・・・11

(何故だ、どういう理由からか、相次ぐ外国人の逃亡に国境警備を強化したのか)想像しなかった状況にぼくは狼えた。平日の通行量が多いこの時間帯は通常では遮断機は45度の角度で解放されていた。目の前の遮断機は完全ではないが閉められていた。通行が出来るのは少しだけ、遮断機が上げてある左端だけである、そこにネパール国境警備隊員が立っていた。力車の左側に座っているぼくは国境線を通るとき警備隊員の前、1m以内の至近距離を通過しなければならない。何も起こらなければ良いが、何か起こる可能性もある。遮断機まで10mはない、今からボスと席を替わるのは不自然だ。インド人もネパール人も往来は自由である、検問するとすれば外国人とトラックの荷物くらいだろう。(心配するな、上手くいくさ、何度も絶望的な状況を乗り越えてきた。自然の流れに乗っている、お前は生き続けるのだ)ハンドルを左へ切った力車は路側に沿ってゆっくりと進んだ。ネパール側から対向する2台の力車が国境線に近づいている。ぼくが乗っている力車も進みながら間合いを計った。目の前で1台がすれ違った。2台目は遮断機を越えると直ぐハンドルを左へ切って、ぼくの力車が進入する通路を空けた。前輪が国境を越えると、車夫は力車を前進させた。左前方に立つ国境警備隊員とぼくは接近した。そして横一列に並んだ。そのとき警備隊員のネパール語が聞え、次に右からボスがネパール語で返事をした。それだけだった。車夫は立ち上がり強くペダルを踏みだした。どんな会話だったのかぼくには分からない。知りたくもない。
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ジャンキーの旅        遠い道・逃亡・・・・・38

2015-03-24 | 4章 遠い道・逃亡

    国境・・・10

 何かあったのか?車夫はスピードを落とし始めた。インドのイミグレーションが近づいているのは分かっている。力車が殆ど停まるのではないかと思うほどスピードを落とすと、車夫は後ろを振り向いた。そして
「パスポート・チェック、パスポート・チェック」
と2度ぼくに言った。インド人は車夫や飯屋の下働きをしている者でも、ある程度は英語を理解する。ぼくとボスの会話を奴は聞いていた。ぼく達が今やっている事を奴は知っている、まずい。パスポートという単語だけが奴の頭に残っている。ぼくは何事もないように前を見ていた。ボスは落ち着いていた、それは隣に座っているぼくに伝わってくる。ボスは密輸入を繰り返し、何度もここを通り抜け対応の仕方を知っている、それは少しくらい危ない場面に遭遇しても自信を持った態度で臨む事だと。ボスは一言、車夫に返事をした。彼が何を言ったのかぼくには分からない、が車夫は立ち上がり力強くペダルを踏みだした。最も危険なポイントは無事に通過した。次はカスタムだ。その先がインドとネパールの国境線上にある遮断機でそこまでがインド国内だ。国境線上を越えるとぼくは逃亡者となる。
 車夫は少しだけスピードを落とし顔を横に向けると、「スタンプ、スタンプ」と、ぼく達にカスタムがある事を知らせた。チョロ、チョロと言うボスの声が聞えると車夫は力車を走らせた。国境は通過できる。そんな安堵感がぼくの内に芽生えようとした瞬間、前方を見たぼくは不安に囚われた。
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ジャンキーの旅        遠い道・逃亡・・・・・37

2015-03-19 | 4章 遠い道・逃亡

    国境・・・9

ぼくは何も考えなかった、これが流れなのかもしれない。どういう結果になるのか誰にも分からない。奴らとの出会いも流れだ、こうして奴と国境を抜けるようになったのも流れだ。自然の流れに流されていこう。ぼくは黙って力車に乗り奴の隣に座った。
「チョロ」
右手でハンドルを握り客台に左手をかけ車夫は力車をバックさせた。ハンドルを左へ切ると力車の向きが変った。ハンドルで方向をとりサドルにかけた手で力車を引っ張り少しずつ加速していく。頃合をみて車夫は力車に飛び乗った。暫らくの間、車夫は立った状態でペダルを踏み続け力車を加速した。走れ力車、5分で国境を抜けることが出来る。
 ボスは何も聞かない、ぼくも黙って進んで行く前方だけを見ていた。気持ちに余裕があるわけではないが、これから先の状況だけを考えていた。進行方向に向かって右側にボスそして左側にぼくが座っている。インドのイミグレーションもネパールのイミグレーションも右側にある。管理事務所の中から左側に座っているぼくを見ることは出来ない。カスタムは右側にあるが気にする事はないだろう。力車は通りの左寄りを走っている。昼にはもう少し時間がある、午前の仕事に追われたインド人やネパール人が忙しく行き交う。力車は順調に走っている、このまま何事もなく進んで欲しい、視線を上げるとネパールの山が視界に入った。国境を抜ける通りに入って既に30mは通過している、残りは70mだ、絶対に国境を突破する。そうしなければ11ヶ月の刑務所収監や約1ヶ月の精神病院での治療、逃亡計画と準備はマリーの手助けによる、それら今までやってきた全て無になる。否、無ではない再収監されたら生きて日本へ帰る可能性はない。

70年代 国境の町スノウリの朝 古い写真だ スキャンで調整した しかしこれが限度だった

90年代 通りには商店が並び人々が行き交っていた
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ジャンキーの旅        遠い道・逃亡・・・・・36

2015-03-12 | 4章 遠い道・逃亡

    国境・・・8

町や村が近づくとオート力車や自転車が走っている。荷台に藁や家族を乗せてのんびりと牛車が歩いている。そこには昨日から今日、そして明日へ何も変らない人々の生活がある。道を歩いている人が手を上げるとバスは客を拾う、車内の客が合図をすればバス停など関係なく停まる。急ぎの客が文句を言おうが、ノープロブレムだ。バスは遅れているのかもしれない、だが確実にスノウリに近づいている。成るようにしかならない。幾ら考えても、どんなやり方をしても100パーセント安全な方法などはない。スノウリに着いたら町の通りを見てみよう、通り抜ける事が可能なら行く。危険だったらこのバスでゴラクプールへ戻る。明るいうちに一度だけでも通りを見ておけば夕方、通り抜ける時には役に立つだろう。町が近づいてバスはスピードを落とした。今まで何度か町に停まったがこんどは違う。客のざわめきとバスの通路に置いてあった荷物の整理が始まった。「スノウリか?」「そうだ」
そんなインド人の会話が聞える。町の通りに入ったバスは徐行を続けていたが、左側のバス停らしい広場に頭から突っ込んで停車した。スノウリ、スノウリ呼び込みはそう客に知らせて降車を促がした。降車口からの列が続いている、ぼくは割り込まないで列が短くなるまで待った。短くなった列の後尾に並んでいたぼくはのろ々とバスから降りた。眩しいような空だ。国境への通りに向かって歩こうとした時、バスの横に平行して停まっている力車を見た。力車から降りてハンドルを握っている車夫と、力車の客席の右側に座っているネパール人のボスだった。立ち止まって車夫が座るサドルに左手をかけ、前を向いたままぼくは一つ息を吐いた。
「パスポート、あるのか?」
「ない」
ボスとぼくの目が合った。ボスは顎を左へしゃくり
「乗れ」とぼくに言った。 




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ジャンキーの旅        遠い道・逃亡・・・・・35

2015-03-10 | 4章 遠い道・逃亡

    国境・・・7


こういう町の短距離バスには時刻表のようなものはない、客が一杯になれば発車する。1人でも多くの客を早く取りたい。客が取れないといつまでも発車できない、それだけではない早く出そうなバスに客を取られる。前方のバスが先に出そうだ。客の足がそこへ流れている、インド人の間にネパール人もいた。(クシナガルを通るバス停もこの近くにある、どうするんだ)迷っていた、ぼくは迷い続けていた。迷いは良い結果を生まない、それもぼくは知っている。スノウリ行きのバスの方へぼくは歩いていた。駅から出てきた客の流れが途切れると右側の客引きは呼び込みをやめた、次の列車が着くのを待つのだろう。バスの入口に押し寄せていた人々が中へ吸い込まれていく、ネパール人も乗った。バスの前に立っているのはぼくを含め数名だけになった。客引きが早くバスに乗れとぼくを見て手招きをする、(乗るのか、スノウリへ行ってどうする、計画どうり動いたらどうだ、どうしたら良いのか誰か教えてくれ、ぼくには分からない)ぼくはバスに乗った。
「スノウリ、スノウリ・・・」
出発するぞぉ~、と大声で叫びスノウリを連呼する客引き。バスの運転者は出発を知らせるクラックションを数度、長く鳴らした。エンジンが始動する。バスはゆっくりと走り始めた。
 バスは町を通り抜け街道に入るとスピードを加速した。両側の並木に挟まれた道路はどこまでも真直ぐに延びている。その先に国境の町スノウリがある、今ぼくはスノウリへ向かっている。(何故だ、計画とは違う、これで良いのか、上手くいくのか)これから何が起こるのか、ぼくは何も分からない。


ガタガタと窓の音がする あぁ風が吹いている 眠りのなかでそう思った
暴風雪警報が解除されたのは昼頃だった 雪は朝ぱらっと降っただけ
もう10年以上 雪が積もったという記憶はない 強い風が吹いていたが買い物だ 
ほうれん草 大根 たまご ししゃも 納豆 牛乳その他
湾の水温が上がっているのだろう 日曜日 海へ行って小さなクラゲを見つけた
1ヶ月もするとアジが湾に入ってくるだろう 皆それを楽しみにして待っている 
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ジャンキーの旅          No5 Ward・・・・・27

2015-03-08 | 4章 デリー中央第一刑務所No5Ward

 夕方、5時頃だろうかグラウンドにイスラム教徒が集まり始めた。グラウンドの中から大きな木に向かって横一列に並んだ。その方向がメッカを指しているのだろう、普段は被らないが礼拝用の白い帽子を全員が被っていた。足元には各自が持って来たカーペットを敷きその上で礼拝が始まった。インドは長い独立運動の末イギリスから独立を勝ち取った、しかしその後、宗教戦争が続いた。仏教徒はスリランカへ、イスラム教徒はパキスタンとバングラディシュに分かれた。シーク教徒は今、パンジャブ州の分離独立を考えている。ハイデラバード、アラハバードと語尾にバードが付く地名はイスラム教徒が集まっている都市だ。カルカッタはベンガル語が主要言語でありマドラスはタミール語だ。デリーから同じ列車でマドラスに着いたインド人のヒンディー語をタミール人は理解出来なかった。ぼくは通算6年半くらいインド、ネパールを旅しているがぼくが知っているインドはほんの一部分にしか過ぎない。夜、アミーゴがしつこく壁を叩いて火を回してくれと催促しているが無視した。自分の事は自分でやれよ。
   
   2月12日(日曜日)
 毎日、7房で過ごす時間が多くなった。7房に入ると右側に備え付けのベッドがありそれはジュドゥが使っている。その奥にある旧Bバラックから運んで来た木製のベッドはチョコマ用、入口の左側にある木製のベッドがダイク用だ。ダイクのベッドの下は中が見えないように広い布で被われていた、頭を屈めれば中に入れる。刑務官が外から見ても中で何をしているか分からない為だ。日中、ぼくとダイクはそのベッドの下に潜り込みチェーシングをやっていた。第5収監区に替わってからスタッフの効きが良いチェーシングをやるようになった。旧Cバラックは大部屋でそれが出来なかった。チェーシングをやっていく上での問題はシルバーペーパーの確保だ。バザールだったら巻いたアルミホイールを売っているがそれのは持ち込み禁止されていた。チョコレートの包装は間違いなくシルバーペーパーだ。インドではまだかなりの食品、調味料の包装にシルバーペーパーを使っていた。一部は同じ銀色の包装紙だがビニール製もありダイクはどの包装紙が使えるか良く知っていた。
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ジャンキーの旅          No5 Ward・・・・・26

2015-03-04 | 4章 デリー中央第一刑務所No5Ward

   2月2日(木曜日)
 裁判所出頭。弁護士もナンシーも来ていなかった。裁判官から名前の確認をされただけで刑務所へ戻って来た。裁判はどうなっているのだろう。次回は2月末頃だろう、出頭日の前日、リーダーから連絡がある。3時の開錠まで大きな木の下の台座に横になっていた。静かだ、下から広がった木の枝、木の葉を見ていた。一日中ホテルの部屋の中で吸って食事だけバザールに出て行く毎日、同じ事を繰り返していた。ここの生活も同じだ、塀の外も内も何にも変らないように思えてくる。
 今日も何もなかった。スタッフを入れバラック内を歩いているとボブ・マーレイのレジェンドが聞えてきた。7房を覗くとラジカセがありそこから音は流れていた。
「入って良いか」
「トミーか、遠慮するなよ」
ダイクだった。ジュドゥは出掛けていた。ぼくはその空いたベッドの上で横になりレゲェーを聴いた、久し振りだ。フレッドと一緒に聴いたのが最後だった。
「スタッフをやった後、最高だな」
「いつでも来いよ」
ぼくはダイクとの最初の取引きで嫌な奴だと思っていた。
「俺の名前は日本語に訳するとカーペンターだろう」
ぼくは笑ってしまった。ダイクは大工だ。


昨日は1日中雨が降った うつの気分に落ち ギックリ腰をやっちゃ辛いよ
今日は冬型 北西の冷たい風が吹いている 買い物に出かけたが自転車が進まない
通りの向こう 自転車をこいで走る知人 みんながんばっているんだ
腰が痛くて昨日からエクサを中止している 無理することはない 
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ジャンキーの旅          No5 Ward・・・・・25

2015-03-02 | 4章 デリー中央第一刑務所No5Ward

   2月1日(水曜日)
 ニューガイが3名入ってきた。全部アフリカ人、知った顔もあった。デリー警察はどこまでやるつもりなのか、主だった売人は既に収監されている。フレッドは逃げ切れるだろうか?ぼくが逮捕される前3度、奴のホテルへ行った。殆どホテルの外へは出ていないようにぼくは感じた。必要な物は二ナが買っていたのだろうがあの強靭な肉体がげっそりしていた。毎日、吸うしかやる事はない。ぼくは今回、フレッドから150gを1500㌦で買った。奴は最低でも500㌦は手にした筈だ、当面お金の心配はない。1g単位の一見の客を捜さなくて済む。
 今日はグリーンチリのアチャールを作った。緑の唐辛子を綺麗に拭いて縦半分に切る。切り面に塩をつけガラスポットに入れニブの絞り汁とギーという油を入れポットを振って味を馴染ませる。2~3日すると辛酸っぱいアチャールの出来上がりだ。食事の時これを2~3本食べると食欲が出てくる。
 明日は裁判所出頭日。身体を洗って髭を剃った。髭剃り代ビリ1本、カミソリの替刃を貰って長く伸びた手と足の爪を切った。

晴れ 風も穏やかだ 釣り道具を持って海へ 
杉の木が3本立って花粉はやや多いの予報 心配することはなかった
新波止で呑んべぇTさんがワカメを採っていた
そろそろワカメは終わりだね うん 竹の子掘りじゃないの そうだね
鍬はある うん 来週行ってみようか そんな話をしてタコ1匹釣って今日の釣りは終わった
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