ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

第9話 ぼくはカメラマン・・・5 初めての写真

2016-02-02 | 第9話 ぼくはカメラマン

リシケシ 雨季のガンガ


ぼくは午後も次の日もババ達の写真撮りに専念した。写真を撮ってもらうなんて生まれて初めてだというババが多い。皆は少し身体を硬くして真剣にカメラへ向かってきた。初めぼくはひやかし半分で写真を撮っていた。しかしババ達の眼差しと姿にぼくは次第に引き込まれ、彼等の期待に応えなければならない、と思いは始めた。2日目には噂を聞いたのかバザールの人間も何人かきている。その中にはチラムを吸ったポリやたばこ屋の兄ちゃんの顔もある。ババの要望にはガンガで沐浴している姿や、ラムジュラを渡った左にある寺院をバックにして写してくれというのもあったが希望どうり撮った。どうせ36枚撮り終わらないと写真屋にフィルムは出せない、チラムを吸ったり昼食の用意をするババを写して1本のフィルムを撮り終った。
 インドで人物写真を撮るのはちょっと難しい面がある。インド人とのトラブルの原因になることがあるからだ。通りすがりの見ず知らずの旅行者にカメラを向けられて気分が良いわけはない。確かにインドには旅行者にとって無数の興味あるシャッターチャンスがある。写真の撮り逃げをする旅行者を見たことがある、が心が淋しくなった。どうしてもその場面をカメラに収めたいのであれば当人に声を掛け了解を得れば良い。住所を書いてもらい後で送ることもできる。明日、町の写真屋へフィルムを持って行く。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第9話 ぼくはカメラマン・・・4  撮影

2016-01-14 | 第9話 ぼくはカメラマン



 翌日ぼくはずだ袋にカメラを入れて別館下へ行った。まずカーストの高いサフランババから撮り始め順次、下の方へと進むつもりだ。写真のアングルを決めているとババはいそいそと着替えを始めた。それが済むと目の前にこうもり傘や食器等ありとあらゆる持ち物を並べだした。誰か櫛を貸してくれと言って櫛を手にすると丁寧に髪と髭をとかして、さあどうだと定位置に座った。インド人の場合まばたきをして撮り直すという心配はない、彼等は目をかっと見開いてその状態を続けられるという特技を持っている。2枚目はやはりガンガをバックにして写してくれという、当然だろうガンガと一緒の写真が欲しいババの気持ちはぼくにでも分かる。その後2人のババを撮ったところでチラムを吸うことになった。ババ達の持ち物といえば大小の器がセットになったステンレス製の食器や野宿用の少し厚いシーツと腰巻くらいだ。それともう1点は真新しい白かサフラン色の布地を大切にずだ袋の中に持っていた。写真を撮るときババはその布を肩にかけた。彼等にとって衣服はそれほど必要ではない、それは定住していないからだ。リシケシの冬は寒いがババ達は暖かい聖地へ移動する。旅をするババにとって荷物は少ない方が楽で良い。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第9話  ぼくはカメラマン?・・・3   計画 

2015-10-19 | 第9話 ぼくはカメラマン


昼食の準備をするババ 石のまな板 燃料はガンガに流れる小枝など

 ぼくにはアシュラムの学習スケジュールが決まっている。午前中は早朝の瞑想が終ってから第2瞑想が始まる10時までの2時間くらいが空いている。第2瞑想は11時に終るがすぐ昼食になり、毎朝4時起きだから昼食後は当然2時頃まで昼寝をする。それはババ達も同じで昼寝をしている。午後の空き時間は3時30分から始まるハタ・ヨガまでの約2時間だ。ババ達の写真撮りは2~3日かかるだろうが何も急ぐことはない、ぼくがリシケシを出発するまで後2週間ぐらいは残っている。写真撮りはどうせすんなりとは進まないだろう。ああしろ、こうしろと注文をつけてくるに違いない。もう一つ問題がある。写真撮りが数日かかると小さい村だ、噂が広がるかもしれない。別館下へ行けばお金がなくてもカラー写真を撮ってもらえると、インド人達が集まりだしたらたまったものではない。この件についてはサフランババに釘を刺しておかなければならない。 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第9話   ぼくはカメラマン?・・・2   ババ達の相談

2015-10-16 | 第9話 ぼくはカメラマン


サフラン・ババ 最上段 彼の寝床 

「ジャパニーババお前は日本人だろう、だったらカメラを持っているな」
といきなりわけの分からないことをサフランババが言いだした。どうしたんだ、このババは何が言いたいのか
「俺は日本人だ、それがどうした。俺に何の用があるんだ?」
ぼくはズーム付きのバカチョン・カメラと数本のカラー・フィルムを日本から持ってきていた。が寺院や風景を撮る趣味は持っていない、カメラはバックパックの中に放り込んだままだ。
「カメラがどうした」
「写真を撮ってくれ、頼む」
ぼくに皆の写真を撮らせようと相談をしていたのか、やっとこの雰囲気の意味がつかめた。
「だめだ、カラー写真1枚で2ルピーもするんだぞ、だめだ」
「そう言うな、皆が写真を欲しがっている。撮ってくれ」
「ババ~お前2ルピーが払えるのか?」
「金はない、そこのところを何とかしてくれ、頼む」
こんな問答をいつまでやっても埒があかない、と周りを見るとババ達の視線がぼくに向けられていた。ババ達は真剣な顔をしてジャパニーババ、ジャパニーババと情けなくも追いすがるような声をだしやがる。何なんだ、たかが写真1枚じゃないか、いくらぼくでもここまで言われたら断わる事は出来ない。
「分かった、撮ってやる」
と約束してしまった。だが相手はババといえども海千山千のインド人だ、ぼくがちよっとでも甘い顔をすると痛い目に会う。
「いいか、1人2枚だ。顔のアップと全身の2枚だけだ、分かったか」
「アッチャー」(分かった)だがこのアッチャーをどのように理解して言っているのだろうか、ぼくに不安が残った。
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第9話   ぼくはカメラマン・・・1

2015-10-15 | 第9話 ぼくはカメラマン


 朝の瞑想が終りチャイ屋で朝食をすませるとぼくは別館下へ行った。ババ達が1ヵ所に集まって何やら話し合いをしているような雰囲気がある。ここには常時10人ぐらいのババ達が生活をしているがメンバーが固定しているわけではない。いろんな聖地を巡っているババもいる。サドゥ(修行者)といえどもここはインドである、カースト制度は彼らの生活のありようを拘束している。別館下はガンガ河畔にあるが上部の本通りから河辺へ向けて傾斜がついている。その斜面に長い年月をかけてそこに住んだサドゥ達によって寝床が作られていた。両横に通路があり斜面にはできる限り多くの寝床が作られている。旅をしてきたサドゥが寝場所の様子を見にくるが空きがなければ他を探しに行く。だがもし空いた場所があったとしても使わせてもらえるかどうかはカーストにもよる。上部から下部にかけてカーストの序列に従って寝床の位置が決まっている。上部の場所が空いていたとしてもそこに低いカーストの者が入るということはない。時々、ババ達の寝床が替わっている事があったが、場所を繰り上げたり下げたりして新参者の寝床を融通しあっていたのではないだろうか。それでも別館下に入れない若いサドゥがいた。空き寝床があるのにどうして入らないのか聞いたことがある。だが外国人のぼくが彼等のカーストに関わる問題に口を出すことは禁句であることを後で知った。
 最上段に一つの寝床ある。サフラン色の衣服を身に着けたババは長いこうもり傘を持ち毎日ヒンディー語の新聞を読んでいる。彼はインテリでありこのコミュニティの相談役でもある。サフランババがぼくにちょっとここに来てくれないか手招きをする。どうもいつもの別館下の雰囲気と異なっているようにぼくには感じられる。皆で何か相談したような節があるが、しかしそれぞれカーストが異なっているから全員で行動をするという事はないはずだ。ぼくが別館下に入ったときから皆の視線がぼくに向けられている。ババ達の並んだがん首をよく見ると、なんと汚い格好をしていることか髪も髭も伸び放題だ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする