ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅          No5 Ward・・・・・15

2015-01-27 | 4章 デリー中央第一刑務所No5Ward

 昨日、今日と良い天気が続いている。朝、9時頃にはもう陽が差して来た。今日は日曜日で第2収監区に残っていた外国人がAバラックの1~5房に引越して来た。Aバラックは5房までしかなかったのか?誰が残っていたのかぼくは知らなかった。スリランカ人、イラン人等は第4収監区に替わったそうだ。

   1月23日(月曜日)
 ムスタハンはクレージーだ。ランジャンとカマルが粉をやり始めようとすると奴はにじり寄って行った。彼らはムスタハンに病気だから身体に良くないと説教をすると一度は引き下がりそうなのだが又ごそ々と寄って行く。病気のせいだろう目はとろんとしている。震える唇で媚びた笑いをし吸いたい理由をぼそ々と言いながらムスタハンは膝でにじり寄って行く。ランジャンに強く意見をされてベッドに戻るかに見えたが往生際が悪く又寄って行く。それの繰り返しだ。根負けした彼らからやっと2服吸わせてもらって安心したのかベッドに戻った。暫らくしてぼくが2回目のスタッフを入れようとした時、奴が又ごそ々と起き出してきた。
「ぼくは明日から病院へ行く、4~5日は帰って来ない」
「だから何なんだ?」
だから今夜はゆっくり眠りたいので少しスタッフをやらせてくれ、とぼくにまで色気を出してきやがった。4~5日入院して奴がいなくなる、だったらと少しスタッフを吸わせてやった。何なんだ、奴は、今日の昼頃には戻ってきやがった。もう騙されないぞ。夜、ぼくらがスタッフを吸っているとムスタハンは外房へ出て行っていきなり叫んだ
「ババー、ババー」
と刑務官を呼びだした。ぼくはビビッテしまった。奴は以前チクリ屋だったと聞いていた。刑務官が来るまで何度も大声で叫んでいた。病気で良くあんなでかい声が出せるもんだ。ムスタハンは鼾をかいて眠っていたのにぼくが食べ物の袋をごそ々させたらいつの間にか起き出していた。
「俺が眠っている間にスタッフをやるのか?」
奴の顔はそんな風にぼくには見えた。暫らく周りを見回し皆がピーナッツを食べているのを見て安心したのか震える身体を横にした。寝たかと思ったらもう鼾をかきだした、奴は寝惚けていたのか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジャンキーの旅          No5 Ward・・・・・14

2015-01-23 | 4章 デリー中央第一刑務所No5Ward

昨夜はやはり良く眠れなかった。夜、風が強かったのだろう鉄格子のドアーに掛けた風止めの毛布がぼくの顔の上に落ちて来た。横を見たが皆、眠っていて誰も起きて毛布を掛け直そうとしない。このままだと夜通し冷たい風に震えなければならない。寒かったけどしょうがない、起きて毛布をドアーに掛け直した。ドアーが高くて上手く掛からなかったが面倒臭くて毛布に潜り込んで眠ってしまった。朝の開錠時間だったのだろう、房に人が入って来て話す声が聞こえた。続いて何かの音を耳にしたが無視して寝ていた。第5収監区に替わって朝の人数点検はなくなっていた。刑務官は時間になると各外房の鍵を開けて行くだけだ。今朝、開錠に来た刑務官はドアーに掛けた毛布の間から赤いヒーターを見つけた。彼は房内に入ってヒーターと電線を持ち去った。ぼくは何も知らない振りをした。皆は風が強かったから毛布が横に寄ったのだろうという話になった。ぼくがちゃんと毛布を掛け直していればこんな事にはならなかった。ぼくが本当の事を話してもヒーターが戻って来る訳ではない、黙っていた。カマルは全く気にしていない
「2~3日したら又作る」
それでこの件は終った。しかし禁止されている電気器具を使っていた事実はどうなるのだろうか、インドの事だから何ら問題にはならないのだろうか。裁判所の待合室で刑務官に頼んでインド人からビリをバクシシしてもらって吸ってもお咎めはなかったのだから。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジャンキーの旅          No5 Ward・・・・・13

2015-01-21 | 4章 デリー中央第一刑務所No5Ward

ぼくが知っているケニア人は同じアフリカでもナイジェリアとは違うと言った。ケニアは政治的にも経済的にも他より安定しているとぼくに伝えたかったのだと思った。フランシスはケニア人だ、彼はキリスト教徒で性格も穏やかそうに見える。どういう話の流れでそうなったのかフランシスとぼくはスキンカラーについて話し合っていた。彼は自分の黒いスキンカラーについて話す時、悲しそうな顔をした。アフリカン・ブラックの近代史は暗く、重い歴史を刻んできたという認識がぼくにはある。
 ここインドでも彼らへの差別をぼくは見た。ぼくが泊まるような安ホテルでも黒人を泊めないというホテルがあった。アフリカンが友人を訪ねてホテルへ入ろうとして断られた黒人も多い筈だ。そんな時アフリカンは屈辱感を持っただろう。今ぼくに最も身近にいるアフリカンはフィリップスだ。奴と繋がりが出来たのはドラッグの取引きだ、それは今でも続いている。奴が生きていくにはお金が必要だ。インドの何処を探しても奴が働く場所などない。デリーに流れてくる旅行者を相手にドラッグを売りその差益で得た金しか奴が手に出来るものはない。奴は他のナイジェリア人と較べても悪い人間ではない。自分の利益を最優先するがぼくに対する気遣いは残っている。ジャクソン、ぼくはこの人に助けられたから言うのではない本当に素晴らしいナイジェリア人だ。長い刑の満期を待っている。ドラッグもビリの売買もやらない、それをやっている者を責めたりもしない。ぼくは今回アフリカンとの付き合いが多かった。嫌で堪らないアフリカン、素晴らしいアフリカン、彼らを理解するにはまだ長い時間が必要だ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジャンキーの旅          No5 Ward・・・・・12

2015-01-19 | 4章 デリー中央第一刑務所No5Ward

キシトーとフィリップスが絶対にエマと取引をするなと釘を刺してきた。エマに何と言って断るか難しいよ。エマには世話になっているし不味い関係にはしたくない、狭いワード内で毎日、顔を会わせるのだから。キシトーには内緒でエマから1回だけ買ってそれで終わりにしよう。どうしても1回は買ってやらないとエマも引き下がれないだろう。ダイクと詰まらない取引をしたのが不味かった。その件でキシトーは頭に来ているのだ。フィリップスの野郎も
「あっちこっちに手を出すな」とどめを刺しやがった。
良い粉を持っていると聞くと如何しても手を出したくなる。それはフィリップスのスタッフに満足していないからだ。今ぼくは2gを持っているが1パケも10gも捕まったら同じだ。危ない橋を渡っているな。今、活発に動いているのはCバラック、7房のダイク、ジュドゥ、6房のムサカだ。近いうち抜き打ちの調査が入るだろう。Bバラックには動きはない。
   1月22日(日曜日)
 ワードが替わったばかりでまだ落ち着かない。ここは完全に外国人だけになって毎日の生活に変化がない。やはりインド人と共同生活をしてインドらしくなる。今回のように24時間アフリカンと生活をした事がない。ドラッグの取引きで接触していたがそれ以上アフリカンと付き合う気はなかった。アジアとアフリカは余りにも遠くお互いを理解し合う接点が今までぼくにはなかった。ぼくの貧しいアフリカ感から連想されるイメージは、黒人、暑い、砂漠、エイズ、エボラ熱、サファリ、内戦、ナイル川、モザンビーク、奴隷、そんなネガティブな映像しか浮んでこない。ここにいるナイジェリア人の若者達の多くは内戦を逃れて来ていると聞いた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジャンキーの旅          No5 Ward・・・・・11

2015-01-16 | 4章 デリー中央第一刑務所No5Ward

こんど替わった8房には病人のアフリカンがいた。名前はムスタハン。雰囲気が暗い、メンバーも残り者の寄せ集めだ。力を持っている者が誰もいないのでペンキ塗りの道具も使えなかったのだろう、壁の下だけちょろっと塗っていた。ムスタハンは以前チクリ屋だったらしい、奴の病気はかなり酷そうだ。高血圧とか言っていたが本当の所は分からない。どう見てもここにいるより病院か棺桶に入った方が良いだろう。アフリカ人も冷たいよ、病人の奴と同じ房になるのを嫌がって放り出している。奴の顔を見ても好きになれない、目やにが出て話すとき口許に泡をだし唇は震えていた。
 ぼくはここの新参者だから挨拶替わりとして少しスタッフを出し全員で回してやった。何なんだ、この病人はチェーシングがしたいと起きてきやがった。しょうがないので軽く2服吸わせてやった。カマルはインド人だが国籍はポーランドだと言った。彼は電気に詳しいのか天窓から入っている電線を分岐させていた。電燈と扇風機は普通に使えるようにして分岐させた2本の電線は下に降ろし彼が作ったコイル・ヒーターに接続するように作ってあった。これで火の心配はないし夕食も温めて食べる事が出来る。
 昨日会った時は不信な素振りはなかったのに今日、会ったショッカンはもう目の淵を黒くしていた。スタッフをやっている、直ぐ分かった。また奴のたかりが始まる。もうスタッフはやらないとぼくに言っていたのに中毒者は如何してもやめられない。


久し振りに風もなく快晴だ 釣竿を持って湾へ行く 
甲イカのシーズンだが去年からイカがいなくなった イイダコ2匹とは情けない
冷凍して数が揃えば煮つけにする 安いからだろうかスーパーでは売っていない

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジャンキーの旅          No5 Ward・・・・・10

2015-01-13 | 4章 デリー中央第一刑務所No5Ward

   1月21日(土曜日)
 アフリカンのデブが又ガタ々言って来た。頭にきて房を替わった。良かったのか如何かまだ分からないが。アミーゴが誘わなければ一緒にはならなかった。とにかく煩い奴で、ぼくに対してだけ文句を言ってくるからたまったもんじゃない。今日は土曜日でクラスが休みなので房の壁にペイントをする事になった。今回はCバラック全ての房のペイント作業なのでインド人が道具を乗せたリヤカーを引っ張ってきた。内房にある毛布や私物を外房に引き摺り出し全員でペンキ塗りだ。バケツの水に溶いた白いペンキを壁一面に塗っていく。3m程もある高い所は棒の先に取り付けたローラーで塗っていた。当然ぼくは何も出来ないので下の方を刷毛で塗っていた。昼前に何とか終ったのだがそこで又デブが文句を言って来た。ビリを吸いながらペンキを塗っていたぼくはその吸殻を外房の前に捨てていた。刑務官が煩いのにそんな所に捨てるなと言って来た。朝は内トイレが見えないようにロープを張って布を掛けていたがそのロープが切れていた。その件についてもぼくに文句を言った。
 原因は分かっている。毎食事の時、アミーゴが食事の配分をしているのだが不公平なやり方をしていた。皆に分けていてもデブだけ多く入れたり、わざと少し残してデブに回したりしていた。昨夜、アミーゴに公平に分けろとぼくは文句を言ってやった。各自、前に食器プレートを置き先ずライスから配り始めるのだが全プレートに入れ終わって少ない所があれば不味い。他人のプレートから移し替えられるのは誰しも嫌だ。だから最初はちょっと少なく入れて残りのライスで調整する。アミーゴはライスをプレートに入れながら
「More」
と何度も聞く。相手が黙っていると規定量まで入れる。ぼくにはちょっと多いので途中で
「トラ、トラ」
「バス、バス、Enough」でアミーゴがライスを入れるのを止める。昨夜はそんな事があって、ぼくの量は少ないが残りを4名で分けてしまった。いつも多く食べていたデブはお腹が空いて機嫌が悪いのだろうぼくに当り散らした。このメンバーでは面会もなく外からの差し入れもない。刑務所から配給される食事だけでは足りないのだ。アフリカンもポーランド人のダニエルも大使館の援助は全くない。アミーゴにはそれはあるが大切なお金で食べ物は買わない、スタッフとビリで精一杯だ。アミーゴはぼくを同房にしてスタッフやビリのおこぼれにあずかろうと思っていた。デブは自分勝手にやろうとしていたが皆の不満はあった筈だ。全員の前で食事は公平に分けろと言われれば反論は出来ない。奴は明らかにぼくを追い出したいという態度で文句を言っている。我慢する事はないまだ房を替わるのに何の許可も必要としないのだから。8房のランジャンにチャッキするからと言ったら
「ようこそ、我が8房へ」
と歓迎してくれた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジャンキーの旅        遠い道・逃亡・・・・・34

2015-01-08 | 4章 遠い道・逃亡

   国境へ・・・6

悪い奴らではない、4人に囲まれるようにして通りを歩いていけば抜けられる。ぼくが逃亡していると彼等は思っていない。インドでオーバースティした、カトマンズで新しいパスポートを作る、それで奴らは信用する。ぼくがパスポートを持っていない事をイミグレに密告しても奴らには何の利益もない。一度、ぼくは話すチャンスを逃した。通路側の窓に立ち外を見ていたボスにぼくは近づき並んで窓の外を見ていた。
「もう近いのか?」
「あぁ、もう直ぐだ。あの建物が見えてきたからな」
ボス・・・話そうとした、だがその先の言葉がぼくの喉に絡み付いて出てこない。
「荷物の用意をしろ。そろそろ着くぞ」
振り向いたボスはネパール語でそう言ったのだろう、若者達はベッドの上段から荷物を降ろし始めた。
 スピードを落とした列車は駅のホームへゆっくりと進入し停まった。何度も見た小さな地方の駅、ゴラクプールだ。ぼくは逃亡行動をしている、しかしまだ逃亡はしていない。今夜の夜行列車でデリーへ戻り15日に裁判所へ出頭すれば何のお咎めもない。(何を考えているんだ、ここまで来て、しっかりしろ馬鹿野郎)ヨーロッパ人は列車が停まる前にバックパックを持って出口へ歩いて行った。もう降りていないだろう。ぼくはバッグを提げてプラットホームに降りた。空は晴れている、暖かくなりそうだ。陸橋の階段を見るとネパール人達が上っている、ぼくは付かず離れずの間合いをとって後ろからついて行った。(チャンスはあったのに何故、どうして話さなかった。一人でクシナガルへ行くのか)ゴラクプール駅前へ出ると前方と右側に2台のバスが停まっていた。列車が着いたのは分かっている、大勢の客を見て両方の客引きの呼び込みが激しくなった。
「スノウリ、スノウリ、スノウリ・・・」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジャンキーの旅        遠い道・逃亡・・・・・33

2015-01-05 | 4章 遠い道・逃亡

  国境へ・・・5 

列車の揺れと一定のリズムを刻むレールと車輪の音を聞いているうちに眠りに落ちた。大分、眠っていた。目が覚めると向かいの座席にネパール人達が座っている。窓の外はもう明るい、枕元の時計を見ると針は7時少し前を差していた。ゴラクプールまで後1時間しか残っていない、ぼくは慌てた。この大事なときに寝過ごすなんて、今日の行動はどうする、まだ何の結論も出ていない。起き上がり窓側に座って煙草に火を点けた。(どうするんだ、1人でクシナガルに行くのか)計画は立てていた、だが実際にその場に直面しないと、どう動いたら良いのか分からない。(どうするんだ、早く結論を出せ)心は騒ぐが頭の中は混乱していた。チャイを2つ持ってボスが戻って来た。
「ジャパニー、チャイだ、飲めよ」
と言ってぼくにチャイを渡してくれた。
「どこへ行くんだ?」
「カトマンズだ」
「じゃ、俺達と同じだ」
いつもだったらこれから会話が弾む、だが今はそんな気分になれない。ぼくは気難しい顔をしていたのだろう、ネパール人もそれ以上は話し掛けてこなかった。列車がスピードを落とし始めた。
「着いたのか?」
「いや、この次だ」
ぼくはトイレに入ってスタッフを入れた。少し気持ちが落ち着くだろう。ネパール人との関係は良くなっている、ボスに本当の事を話して助けを求めるべきか、ぼくはどうしても決心がつかなかった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする