ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

第5話  両替ババ・・・5  ババの泣き笑い

2016-02-03 | 第5話 両替ババ


(photo by M Sakai)

 兄ちゃんとの勝負はどうもババの方に分がなさそうだ、がそれ以上にラムジュラ橋の上で首から袋をさげた子供達が魚の餌を売っているのだ。この場所で売れる餌はたいした数ではない。兄ちゃんの店ではぼちぼち売れているがそれでも1日に10個に満たない。毎日、兄ちゃんの方ばかり気にしているババだが、売れ残っている白い餌が次第に黒く変色してしまった。もう売れる商品ではない、明日は売れると我慢して持ち続けていたがとうとう諦めて黒くなった餌をガンガにぽろぽろと流した。
 2~3日元気がなかった両替ババが今日はやけに張り切っている。ピィピィ、ピィピィと鳴るゴムのおもちゃを仕入れてきた。落ち目だったババの商売にとっては、かなり有効な新商品と言えるだろう。このおもちゃが余程気に入ったのか人の通りに関係なく暇さえあればピィピィと2回ずつ鳴らす。鳴り物は少しずつだが確かにババの商売の売り上げに効果を現し始めた。珍しい物には目がないインド人は子供のように興味を示した。テレビなどの映像情報が得られない村では、村にない物は全て珍しく見える。子供連れともなるとまず立ち止まってババの店を覗いていく。音の鳴るおもちゃは2ルピーと高くて、そう簡単に売れそうにないが客を呼び込んでいる。餌の売り上げでは兄ちゃんの店と並び、立ち寄った客はついでに両替もした。
 ここ数日、乞食が10パイサを持って両替に来ないせいもあるだろうが、1度など巡礼の団体さんが両替に立ち寄った時、ババは10ルピー分の小銭さえ持っていなかった。おもちゃ5個の仕入れに5ルピー払ってお金がないと言う。
 冷たい飲み物に5ルピー、昼食代に20ルピーを払うような生活をしているぼくには何も言えない。本音で付き合ってくれるババ達の悲しいほど貧しい生活を知ると、ぼくはもっと厳しい旅をしなければならないと反省する。売り上げは大した事ないのだが久し振りに大勢の客が来てくれて、ババは大商いでもしたような気になって機嫌が良い。毎日、渋い顔をしていたババにも笑顔が戻った。
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第5話 両替ババ・・・4   猿と巡礼家族

2015-11-10 | 第5話 両替ババ


 参道を通ってラムジュラを渡る。橋の上からガンガを見ると大きな魚が群れ泳いでいる。河面まで20mぐらいはあるだろう、この高さから見ても魚は大きい。大きいものでは1mぐらいはありそうだ。橋の上から餌を撒くのでその辺りに魚は群れている。
「爺ちゃんが言うとった、本当にこげな魚がおるとやねぇ」
子供は餌袋から皆に2~3粒ずつ渡して下を見る。餌袋を持った子供の手は橋の欄干に乗せたままだ。それっと餌を落とすとバチャバチャと餌を奪い合う大きな魚に、うお~と歓声があがる。さあ、もう1回と皆が餌を持っている子供を見ると、子供は半泣きの顔で猿を指差す。子供から餌を奪った猿が欄干の上を逃げていくではないか。ぼうっと猿を見ていたがやっと事態に気づき我に返った母ちゃんが子供の尻をどついた。わあ~と子供は泣き出す。お魚に供物をやったのだから堪忍してやれと父ちゃんはなだめる。わたしは魚に供物をやってない、と母ちゃんの気持ちは治まらない。子供から餌を渡されていなかった母ちゃんは怒っていた。

ハヌマンとはシバに仕える猿の神様だ これがいたずら者なのだ
子供が食べ物を持っていると狙われる
カトマンズの村で自炊をしていた ベランダ側のドアは上部半分は観音開きになっている
うと々昼寝 寝ぼけて猿を見た 鍋を持ってご飯を食べている 頭を起こすと猿と目が合った
ご飯は食べても良いが鍋だけは置いていけ 聞く耳はない猿は鍋を持って山へ逃げて行った
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第5話 両替ババ・・・3  ババの苦難

2015-10-28 | 第5話 両替ババ

つかつかと兄ちゃんの店へ行くとババは下流の方を指差して何か言っている。
「もうちょっと離れた下の方で店をやれ、こう近くでやられたら俺は商売にならない」
とでも言ったのだろう。兄ちゃんはババに逆らわず店を下流へ10mぐらい移動させた。だが今回ババがとった作戦は全くの誤りではないのか、頭に血が上ってババは状況を理解していないように思える。
  家族そろって聖地巡礼
 貧しい村から聖地巡礼に行くことなど一生にそう何度もあることではない。巡礼へは村の親族一同が揃ってお祭り騒ぎで出発する。
がその前に村の爺ちゃんから巡礼地の話や旅先には悪い奴がいるから気をつけろ、と注意などを聞いてくる。爺ちゃんの話はリシケシ駅に着いた時の細かい注意から寺院には10パイサの賽銭をあげろと続き、そしてラムジュラの上から見た大きな魚の話になると爺ちゃんの興奮も最高潮だ。
「ラムジュラから下を見てみろ、こげな大きな魚が泳いどる」
口を尖らせ両手を広げて爺ちゃんの熱弁が続く。
「そげなのが本当におるのか、爺ちゃん?」
「あぁおる、こげん大きい」
寺院のお賽銭とお魚に供物をやることを忘れるな、と爺ちゃんの話しを聞いてリシケシへやって来た。ガンガ河畔の小道をぞろぞろと歩いていると、
「父ちゃん、爺ちゃんが言うとった魚の餌が売っとる」
と言うことで兄ちゃんの店で魚の餌を買い、ぶらぶらと餌をぶら提げたお祭り騒ぎの一行が両替ババの気持ちなど知らないで目の前を通って行ったのではないだろうか。リシケシ駅から歩いて来ると兄ちゃんの露店が先に目につく、どうせ兄ちゃんを移動させるのだったら、ババより上流にしておけば良かったのかもしれない。

童謡 木枯らしのメロディーがスピーカーから流れてくる 
小型のタンクローリーが灯油の配達を始めた もう冬が近いのか?
先週は最高気温23~25度 毎日湾へ釣りに行き顔は漁師焼けだ
北西の強い風が吹いた 明日 風が治まるだろうか イカ釣りはどうなる・・・

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第5話  両替ババ・・・2  ババと乞食と兄ちゃん

2015-10-22 | 第5話 両替ババ


(photo by M Sakai) 


 インドの乞食は気楽そうにみえるが乞食なりに苦労があるようだ。それはどこにでも勝手に坐って商売をして良いわけではない。バクシシとして実入りの多い場所がある、そこを中心にしてそれぞれの乞食が坐る場所と間隔が決められている。稼ぎが多い場所に10人の乞食が集まってしまえば稼ぎが分散する。それ以上に、その場所を持っている乞食の権利は守られない。そうならないのは乞食の協同意識があるからだろう。新参の乞食が来て乞食と乞食の間が広いから坐ろうとしても追い出される。その距離は乞食達が生きていく為に必要なバクシシを得られる間合いなのだ。新参の乞食には列の最後尾が与えられる。その場所で我慢して順位が上がるのを待つか流れの乞食を続けるか、乞食の世界も厳しい。
リシケシのガンガは緑にも青にも見える。緑はヒマラヤの山を写しているのか。
 両替ババに強力なライバルが現れた。別館下の露天はババと出店のババの2人だけだった。お互いの取り扱い商品が異なっているので問題はなかった。それに異業種であれば露店は増えた方が集客という観点からみても望ましい。今度、新しく露店を始めたのは20代の兄ちゃんだ。ババの右側つまり下流へ10mぐらい先の場所に開店した。兄ちゃんが売っているのは1種類だけで魚の餌だ。これにはぼくも驚かされた。がそれ以上にババは苦難のどん底に突き落とされた。魚の餌はババの主力商品だからだ。1ルピー両替しても10パイサの利益しかない、10人両替してもやっと1ルピーだ。ババは餌袋を持って「これが1日に10個でも売れたらな~」と何度呟いたことだろうか。ババのその主力商品と競合する露店が鼻の先に出されたのではたまったものではない。兄ちゃんの店に数人の客が立ち寄るとババはもう自分の商売など目に入らない。じっと兄ちゃんの方を見て、両替と言う客の声も聞えない。これはやばい事になりそうでぼくは心配になってきた。兄ちゃんの店で買ったビニールの餌袋をぶらぶら提げてババの目の前を通る。それをじっと睨みつけていたババは我慢の限界か頭に血が上ってがばっと立ち上がった。
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第5話      両替ババ・・・1

2015-10-08 | 第5話 両替ババ


(photo by M Sakai) 

 チラムを吸ってトリップしているぼくと出店のババは訳の分からないことばかりをしていた。それを見て前の露店の親爺がにやにやしている。何の商売をしているのかぼくが見に行くと、パチンコ玉ぐらいの白い玉を幾つも作ってはザルに入れている。ガンガに泳いでいる魚の餌らしい、白い玉が入ったビニール袋が並べてある。台の上には10パイサのアルミコインを重ね並べて置いてある、自称両替ババである。ババの商売はマネー・チェンジだと言う、じゃあドルの両替もするのかと聞くとそんなお金はやらないという返事だ。聖地では小額のコインが沢山いる。寺院への賽銭や乞食にやるバクシシだ。両替ババが言うマネー・チェンジとは客から1ルピー札(約3円)を受け取って10パイサ9枚に交換する商売だ。1回の利益はたったの10パイサだ。なんとみみっちい商売であることか。それで商売になるのかとぼくが聞くと、ババは待ってましたとばかりにぼくの腕を捕まえると愚痴をこぼし始めた。
「いいかジャパニー、1ルピー両替して俺の取り分はたったの10パイサだ。10人両替してやっと1ルピーの利益しかない。これで生活がやっていけるか?おージャパニー。この魚の餌が売れたらなぁ、これを1ルピーで売っているが半分は利益だ。この魚の餌が1日に10個売れたらなぁー・・・」
と両替ババの愚痴が続いている、そこに乞食がやって来た。乞食が何の用だ、と思って見ているとババは乞食と親しそうに話をしている。乞食は坐ると周りを気にしながら懐からボロ袋を取り出した。袋を開けると中にはかなりの10パイサが入っている。乞食はその10パイサを9、10、11と数えて11枚重ねた山を作る。5山を作ると両替ババから5ルピーを受け取っていた。単純に考えると1ルピーを両替して1割を取り、乞食との再両替で1割の儲けだから合計2割の美味しい利益率だ。率は高いが金額が小さすぎる「そうだろう」というババのうめき声が聞えるようだ。乞食は腹の辺りの布に受け取った5ルピーを巻き込んでいる。覗いてみるとかなり貯めこんでいた。ぼくは冗談でバブーバクシシ(旦那様お恵みを)と言って手を出すと乞食はその手をぴしゃりと叩いてラムジュラへ戻って行った。
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