ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

サソリ 生あるもの・・・3

2023-03-09 | 心の旅・追想
瞑想をするメインホール 裏側が宿舎になっている


アシュラムに入ったばかりの頃、ぼくは古くて狭い5軒長屋の宿舎に入れられていた。ある夜、ベッドに座り机の上に開いたヨガの本を読んでいた。3月中は寝る前に扇風機を止めることもあったが4月に入ると扇風機は回り続けている。アシュラムの英文ヨガ・テキストを英和辞典を片手にぼくは悪戦苦闘をしていた。その時、机に向っているぼくの右目の端が何か動く物を捕らえた。前にある机の左端から右斜め後ろへ床の上をすぅ~と動く。扇風機の風が糸くずを動かしたのだろうか。動いた物はどこへ行ったのか、ちらっと見るとトイレとシャワー室へのドア辺りへ行ったようだ。ドアを囲む木材もドアの下部も朽ちかけその窪みは暗い。何となく気になったぼくは懐中電灯を手にしてベッドから降りた。宿舎は4・5畳ぐらいの広さで入口の左側に壁に沿ってベッドと机が置いてある。トイレとシャワーは右側のドアから入るが隣の部屋との共用になっている。暗い窪みに懐中電灯の光を当てながら近づいていく。窪みに何か黒いものがいるようだ、が朽ちた木の隙間と一体化して何だかはっきりとは見えない。なおも近づきながらライトを当て左手を出そうとした瞬間、黒いものがビクと動いた。ぼくは手を引きじぃっと見ていると黒い形をしたそれの全体像がはっきりと見え始めた。両手を床に着け尾を跳ね上げ逆立ちをしている濃褐色の生き物だ。その生き物もぼくを見ているのではないだろうか。図鑑や映像による予備知識はある、がそれと当面している現実の出会いとの認識の照合確認に数秒の時間が必要だった。これはゴキブリでもムカデでもない。これがサソリという生き物なのか?
「どひぇ~~~~~」
ぼくはベッドに飛び乗った。

 サソリはアフリカに生息するものだとぼくは固く信じていた。突然こんなところに現れてもらっては困る。ぼくは度肝を抜かれサソリがベッドに上がってくるのではないか、とキョロキョロ周りを見回す。何とかしなければ、これではトイレには行けないし、ベッドで安心して眠ることも出来ない。ぼくはベッドの上でサソリの発音を和英辞典で調べた。長屋の奥にインド人が住んでいる。彼はハタ・ヨガのインストラクターだ。彼なら安全に処理してくれるのではないだろうか。ぼくは彼の部屋へ行き状況を説明し助けを求めた。ノープロブレム、彼はおっちょこちょいの一面はあるが人柄は悪くない。ぼくについて部屋に入った彼に懐中電燈を渡すとぼくは逃げ腰でベッドに上がった。ぼくが指し示す場所へ、パタパタとサンダルの音をさせながら無神経に彼は近づく。彼はしゃがみ込んで木の窪みに懐中電灯の光を当て、その先をじい~と見ているかと思ったら、いきなり奴はびびって2~3歩後ずさりをした。
「やばい、こいつに刺され3日間も高熱にうなされた」
「どうする、サソリがここにいたらぼくは困る」
うぅんと唸っていたが、奴は掃除用の藁ほうきを持って来ると
「エイー」
と、ばかりに窪みからサソリを追い出した。サソリは驚いてかトイレとシャワールームがある方へ、尾っぽを跳ね上げ逃げて行ってしまった。
「どうだ」と奴。
藁ほうきで向かう 2軒先が彼の部屋だ 逃げ出したサソリはどこへいくのか
初めから彼は殺す気持ちなどなかったのだ 
生あるもの サソリも蛇もカラスも木々、花々、そして人間も
聖なるガンジス河と山々によって生かされている

ぼくの勉強机

別館下に行くとババが青い本を持っていた、開くとヨガの本だ
[エスコ ケトナパイサ] これなんぼや
[ジャパニババ パイサナヒィン] ジャパニババ お金はいらん
ババから手に入れた青い本 ぼくが学んでいるアシュラムが著作元だ 日本で読んだヨガの本
その一冊がこの本を翻訳されたことに気がついた 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする