藤島桓夫の「月の法善寺横丁」の出だしであるが、ちょっと違和感があるのは私だけだろうか。「包丁一本、晒しで巻いて」だと思うのだが…。そんなことはどうでもよい。これは、家庭で使う包丁の話をするための「まくら」である。
以前は、中央市場近くの露店で買った鋼包丁を使っていたが、砥ぐのに骨が折れるので年を取ってからは出刃包丁以外はステンレス包丁を使っている。ステンレス包丁は、すぐに切れなくなるかわりに、ちょっと砥ぐだけですぐにシャープになる。 野菜切り包丁や、刺身包丁はこれで充分である。
私は若い頃、包丁を砥ぐのが好きであった。妻が喜んでくれたからである。私が包丁を研ぐときに守っているのは、包丁が砥石に当たる角度を一定に保つこと。しゃくる(フラフラと角度を変える)と、うまく砥げない。それと、砥石は手軽な文化砥石ではなく、元来の泥岩砥石を使っている。ステンレス包丁なら片面5回、計10回程度砥いでやれば充分だ。
セラミックの包丁ははどうだろう。買ってきた当座はカミソリのようによく切れる。刃がちょっと手に当たっただけでも血が滲んでくることも。ところが、何ヶ月か使っていると鈍くなってしまう。これをダイアモンド砥石で砥いでみるが、どうしても新品の時のようにいかず、ステンレスよりも劣るようになってしまう。
ど素人の私が、プロが使うような高価な包丁を持っても「宝の持ち腐れ」だろう。少し肉厚の国産ステンレス鋼の包丁でも贅沢かも知れないが、大切に使えば一生もの(残り少ないくせに)だと思っている。