結局…

お盆に入ったからだろうか

昨夜は金曜日だと言うのに激ヒマだった

店前の通りも閑散としていて

いつも見かける仕事帰りの人たちもチラホラ

きっと帰省したり旅行に行っているのかもしれない


久々にママが近所のショットバーへ誘ってくれた

映画好きなマスターが１人でやっている素敵なお店だ

カウンターには既に先客が２組

私たちは奥の席に腰掛けた

「ヒマよね～」

「もうお盆に入ったから人も出てないわね」

「そう言えば１５、１６も営業するって言ってたけど

　この様子じゃ休んだ方が良いと思うけど…」

ママの言う事は正しいのかもしれない

これまで正月にしろゴールデンウィークにしろ

勿論お盆も店は閉めていた

それが急に今年から営業するからと言って

お客様が鈴なりになる事はあり得ない

ま、そこまで気楽に考えていたわけではないが

暇を持て余して覗いて下さる方も

チラホラ居るのではないかと思ったのだ

しかし金曜なのに昨夜の様子では

ママが店を開けるのは無謀と考えるのも無理はない

増してや今年はより深刻なのだから

そんなわけで予定していた月曜、火曜は休業する事に決まった

ギャラ度外視で私一人で店を開けても良いのだが

やはり中途半端に営業するのも意味がないので

日頃の疲れを取るためにも

私もお休みする事に依存はなかった

なので声かけしていたお客様ゴメンナサイ


て事は明日から３連休だ

取り敢えずゆっくりと身体を休めて

お肌のメンテナンスをする事にしよう

相変わらず調子の悪い肌の状態に憂鬱な毎日

メイクするのもかなり気を遣う

敏感肌用の保湿リキッドも多少は肌荒れをカバーしてくれるが

根本的な事から治さなければ意味がない

そう言えばあれから病院もサボってる

処方してもらった塗り薬はまだあるけど

飲み薬の方が既に切れている

お盆明けにでも先生にまた診てもらおう

お盆も営業よ

今朝の東京行きの電車は混雑していた

まだ４時５３分なのに大きな荷物を持った家族連れや

背中にリュックを背負った学生のグループなど

世間はお盆休みに入ったらしい

私の目の前にはお父さんと幼稚園児の息子

真後ろには大声ではしゃぐ赤ちゃんと母親

前者は車椅子用のスペースなので座席はなく

男の子は床にしゃがんでうたた寝をしていた

後者は優先席を占領してお母さんは隣の女性とペチャクチャ

どちらも、そう遠くはない実家に帰る所なのだろう

荷物はほとんど持たず、ラフな格好だった

車内は混雑している事もあるのか冷房の効きがイマイチだ

私の真後ろの赤ちゃんは言葉にならない声で

ずっとはしゃぎっ放しだ

この車両に乗り合わせた乗客が

赤ちゃんに好意の眼差しを向ける人ばかりではない

ドア近くに立っていたオジサンはムッとして

阿佐ヶ谷で降りてホームのベンチで溜息をついていた

この数分後の電車は千葉行きでもう少し空いているかもしれない

蒸し暑いホームのベンチに腰掛け

ハンカチでしきりに首筋の汗を拭っていた


昨夜久しぶりに遊びに来たイサムちゃん

５０代の会社員だが

毎年、お盆と年末に必ず当店を覗いてくれる

今年は彼にとって良くない年のようだ

例の東北大震災で会社の工場が被害を受けて

東京の本社で製造をする事になったが

イサムちゃんはゴールデンウィークも返上で

朝から夜まで働き続けなければならなかった


プライベイトではお父様が亡くなり

お母様も病気になった

更には奥さんのお父様も天国に召された

こんなに次々と不幸が続くとは…と嘆いていたが

もともと明るい性格の彼

私の同情とは裏腹にニコニコしていた

暮れに来る時には良い話が聞けます様に


ところで当店は今年はお盆休みを返上で営業する

毎年お盆休みに帰省しない人や

いつもの常連さんから電話やメールで

「今夜やってる？」と連絡が入る

その度に「お盆くらい休ませて」と答えていた

どうせお盆明けには暇になるので

店を開ける事にしたのだ

特に予定のない寂しい私とヒデミが２人で頑張る予定

暇を持て余してる人は遊びに来てね～

早い時間から…

昨夜は早い時間からお客様に恵まれた

開店早々店の電話が鳴り

「すみません初めてなんですが

　お店開いてますか…」

可愛い女性の声だ

店の場所を詳しく説明して受話器を置いた

間もなく現れたのは歳も雰囲気もそれぞれ違う女性３人

「今電話入れた者ですけど…」

「あら～、待ってたわよ～

　嬉しいわ～」

早い時間にお客様が見えるとテンションも上がる

話を聞くと、近所の洋風居酒屋のマスターからのご紹介だった

「さっきもその店で飲んでたんだけど

　前にマスターから聞いていたオカマバー

　行くなら今夜かしらと思い立ったの」

「あら、あのイケメンマスターね

　ありがたいわ～」


初回のお客様とは思えないくらいに

一気に盛り上がる３人

リーダー格の大人っぽい女性が

「オカマバー大好きでデビューはＳだったわ」

かなりマニアックなお店の名前が挙がった

知人に連れられて行ったらハマったそうだ

住んでいるのが調布と言う事で

私が以前勤めていたお店にも

足繁く通っていたらしい

残念ながら私が辞めた後だったので

面識はなかった

それでも当時のエピソードを色々披露すると

かなり大受けだった

彼女は布田の方の古いオカマバーにも

通っていたらしく

其処に在籍していた２人のオカマちゃんの話は

私も懐かしく聞かせていただいた

既にそのお店はないが

彼らの消息はどうなっているのだろうと

気になる私なのだった


３人の内の１人が西新宿まで帰らなくてはならないので

１１時過ぎにお開きとなったが

「また来るわ～

　今度は他の人も誘って来るわ

　覚えててね」

彼女たちの後姿に手を振りながら見送った


その後もお一人様の男性や

カスミ、ハズキ母娘らが続き

意気投合してカラオケ大会となった

昨夜は私とトシの２人で接客

少ない人数で営業する時は

お客様同士が仲良くなってくれると助かるのだ

たまたま音楽の好みが一緒だったので

ノリノリでマイクを握り合っていた


いつの間にか４時を過ぎていたのだが

私は気付かず新しいお客様を迎え入れていた

初めての男性だったので

「オカマバーですが大丈夫ですか？」と

尋ねてみた

「知ってます」との答え

場内はカラオケで盛り上がっていたが

その男性はとてもクール

ふと時計を見ると４時を１５分過ぎた所だった

他のテーブルがお会計を済ませて帰っていった

トシも予定が詰まっている様なので

上がるように言った

店内には今入店して来た男性と私の２人

何か怪しいムードになるかと思いきや

全くそんな事もなく

吉祥寺のキャバ情報で盛り上がったのだった

それにしても彼は色んな裏情報に詳しい

ミーハーな私は聞いているだけで楽しかった

時計は５時を過ぎていた

飲み始めると止まらないと言う彼

何軒もハシゴしてとことん飲むらしいが

当店もそろそろお開きにさせていただきたいので

「ゴメンネ～　　

　化粧も溶けて来たからそろそろ閉店ね～」

また来てくれると約束する彼を見送ったら

外は既に明るい

駅に急ぐ通勤客の姿もチラホラ

今日もまた蒸し暑い一日になりそう

急いで後片付けをする私なのだった

エアコンクリーニング

暑い

外では蝉がここぞとばかりに鳴き競っている

この様子なら９月になっても暑さは続きそうだ

２８度設定ながらエアコンは当分フル稼働だ

そう言えば店のエアコンから水漏れがあったが

翌々日に業者に内部をクリーニングをして貰ったら

信じられないくらいに冷房効果が上がったのだ

フィルターの掃除は定期的に行っているが

内部までは掃除できない

「それにしてもホントよく冷えるわね

　これからは毎年夏前に業者さんに来て貰いましょ」

ママもクリーニングの効果に感心していた


エアコンの水漏れは無事に直ったが

ヒデミさんの様子は…

昨夜、無事に出勤して来た彼女

「ママにこっぴどく叱られたわ」

調子が悪いのならすぐに病院に行く事

医者嫌いなのは解るけど

そのまま放置してこじらせて結局は皆に迷惑がかかるのだから…

プライバシーの問題だから

何処が悪かったのかは聞かなかったが

相変わらず身体のアチコチをボリボリ掻いていた

去年くらいから異常な痒みに悩まされている彼女

いつもムヒを塗りまくっている

そちらの方は診て貰わなかったのだろうか


今週からお盆休みに入る人も居るようだ

店前の通りは閑散としていて

近所のスナックや居酒屋も早々と看板を仕舞った

はす向かいの地下の店は休みだった

いつもなら暇を嘆いてキャッチ中の私たちに

話しかけてくるのだが

昨夜はそれもなくてちょっと寂しかった

週末に新人さんが入店したらしく

かなり賑わっていたので

ママも疲れたのだろうか

それよりも当店だ

昨夜は何とか数組のお客様に恵まれたが

今夜以降はどうなるか分からない

暑いとか言ってる場合じゃなく

ふんどし引き締めて頑張るわ～

珍しく病欠のヒデミ

珍しくヒデミさんが体調を崩して３日も休んだ

先週の木曜日

いつもと変わる事なく出勤していたが

３０分くらいキャッチをしていた所

急に具合が悪くなったらしく

「悪いけど早退させて」と言い残し

タクシーで帰って行った

以前にも営業が始まってすぐに

同じように早退した事があった

「お姐さん、お医者さんに診て貰った方が良いわよ」

私と同じように病院が苦手な彼女は

「死んでもイヤ！」と頑なだ


ヒデミさんは顔はどう見てもオジサンなのだが

この世界に入ってすぐに作った胸がある

ホントかどうかは不明だが彼女が言うには

「デビューした店での初日に

　何処かの親分さんが気に入ってくれて

　『その顔じゃあまりにも酷すぎるから

　　これで顔を直して来い』と

　テーブルに１００万円の束を２つ置いたのよ」

「まあお姐さん、羨ましい！

　でもそのお金どうしたのよ

　顔に遣ってないじゃない！！」

その当時在籍していた口の悪いＭさんが叫ぶ

「美容外科へ行ったら先生に

　『アナタの顔はいじらない方が良いですよ』と

　諭されたのよ

　でも折角来たんだから何処か直してと頼んだら

　胸を作ってくれたのよ」

「じゃあ２００万のオッパイってワケ？」

「そうじゃないわ、胸は１００万で

　残りは迷惑をかけた親に仕送りしたわよ」

店内がホロリとしたのは言うまでもない


その時に作った胸は今でもしぼむ事無く健在だ

興味のあるお客さんには男女を問わず

触らせるし、時には露出している

しかし乳毛の永久脱毛はしなかったらしくて

乳輪の周囲を黒い毛が輪を描いている

「お姐さん、折角のＣカップも

　その乳毛で台無しよ！」

それでもマニアのオジサンから弄られて

まんざらでもない様子


お店では武器になるこのオッパイも

いざ普段の生活では邪魔になる事も…

男性ホルモンの強いヒデミさんは

かなり頭部が薄い

しかも何の拘りか知らないが

ロン毛なのだ

お店ではウィッグを被っているが

それもお客さんに

「その頭じゃ不潔っぽい」と言われたからだ

普段はその薄いロン毛で生活している


顔がオッサンなので女性には見えない

銭湯でも男湯に入るらしいが

不審者扱いは日常茶飯事らしい

なのでお医者さんに診て貰うのなんてもっての外なのだ

「いちいち説明するのが面倒」

水商売なのに人見知りで口下手で陰気な彼女

最初に「ニューハーフなんです」って明るく言っておけば

お医者さんだって看護士さんだって

その辺は気遣ってくれるだろう

根が暗いヒデミさんにはそれが出来ない

きっと何処かの町医者で不快な思いをしたのだろう


ヒデミさんが早退した翌日

私のケータイにメールが届いた

「病院に行ったので今晩は休みます」

死ぬほどイヤと言っていた病院に行くとは

死ぬ以上に辛かったのだろう

「お姐さん、国民健康保険料を支払ってるんだから

　何処か悪いなと思ったら

　すぐに病院に行った方が早いわよ

　こじらせると私みたいに辛い事になるわよ」

ヒデミさんに忠告するも

私とて面倒臭がって中々病院へ行かない

「月曜日から出勤するわ」とメールが

届いたがあんまり無理しないでね