東京デビュー

この時期になると

地方から上京して来た子達が

目立つわね

どこかまだ都会に馴染めていない

純朴そうな風貌が可愛いわ


私も田舎の出身だから

ちょうど桜が舞う季節の事を

懐かしく思い出すわ


卒業式の翌日には

引越しの荷物を送り出し

電車の窓から

生まれ育った田園風景を眺めていたわ

家を出る時に

仲の悪かった親父が泣いてたっけな


大塚の安アパートに辿り着いた時には

もうすっかり日が暮れていたわ

荷物はまだ届いていなかったので

大家さんが布団をくれたの

日当たりの悪い部屋だったけど

私には夢と希望に満ちた

素敵なお城だったわ


一人暮らしの初日は

菓子パンでお腹を満たして

そのまま爆睡した記憶しかないの


そのあと様々なトラブルが

待ち構えているとも知らずに…

桜の季節

昨日は飲み過ぎた～

帰りの電車で吐くかと思った


ところで桜も咲き始めた今日この頃

よその店は色々趣向を凝らしてるようで…


店で化粧中に速水のパパから電話

「るーぶる」で飲んでるから来いって

可愛い新人のチアキが入店してから

また通い出したようだ

この店は決して安くはない

でも私は、パパが連れてってくれる中で

一番居心地が良い

大急ぎで駆けつけたら

うっすら汗をかいた


店に入るとミサが迎えてくれた

よく見るとバニーガールの格好をしている

「えっ？イベントデーなの？？」

誰だってそう思うだろう

でもまさか高齢のママやマイコ姐さんは？

あ～、良かった

フツーだった

それにしてもミサだけが何故？

微妙に浮いている

そう言えば

以前、よその店でバニーの格好して

働いてたって言ってたな

「ねえミサ、何でバニーなの？」

「お花見の季節だし、お店にもホラ」

彼女の指を指す先には

近所の公園から枝ごと切って来たのか

ゴージャスな梅や桜が

一面を覆っていた

まるで、演歌番組のセットのようだ

ミサに気を取られて気付かなかったが

こちらも気合が入っている

「なるほどね～」

するとそこへミサの客が来た

そう言う事だったんだ

強化週間だったのね～

それにしてもミサ


風邪ひかないでね

開放してぇ～

週の初めから雨だなんてウンザリだわ

さらに昨夜からまた軽いめまいがしてるの

そんな時に限ってアキラから容赦ない電話

時計を見たら夜中の３時だわ

どうせ「眠れないから話聞いて」に違いないわ

私は寝返り打つたび頭がグルグル回って気分が悪いの

こんな時にアキラの暇つぶしに付き合ってらんないわよ

布団かぶってシカトしたわ


朝になって目が覚めてもまだ調子悪いの

そこへ「待ってました」とばかりにアキラ

「なんで昨日出てくれないの？」

「調子悪くて寝てたのよ、めまいが…」

「それでさ、観葉植物が枯れて…」

相変わらず人の話なんて聞いてないのよ

９時過ぎてるのに仕事は良いのかしら？

「今日は休むんだ

　　　　医者に行って検査してもらうの」

どうやら肝臓の機能が低下してるらしい

「じゃあ行く前にシャワー浴びたり

　　　　　　　　　　　用意しなくても良いの？」

何とかして電話から解放されたい私

「うん、大丈夫。準備は全部出来てるから」

途中でテレビを点けてアキラの話を適当に聞いてたら

「ねえ、混線してない

　　　　　　　ヘンな声が聞こえるよ」

「え～？おかしいわね

　　　　　　　あんまり長時間話しているから

　　　　　　　　　　　　　　　　　混線したのかな～」

かれこれ２時間は話を聞かされている

そろそろ私を自由にしてェ！

「俺、ルームランナー買ったんだけど

　　　　　　　　三日坊主で使わないから　　　　
　　　　　
　　　　　　　　　　　　　誰か貰ってくれる人居ない？」

町の掲示板にでも張り紙しなよ

「最近また太ったから、ジム通った方がいいかなァ？」

「そうよね～、少し痩せたら又彼女が出来るわよ～

　　　　　　　　　　じゃあ私がアキラちゃん家の近くの

　　　　　　　　　　　　　　　　ジムをネットで探してあげる」

だから電話を切ってちょうだい！お願い！！

「分かった！じゃあ頼むね」

やった～！

ホッとしたのも束の間

携帯が再び鳴り響く

「言い忘れたんだけど観葉植物がね…」


今日お店休みたくなっちゃったわ



　

リサとリナ

夜の蝶には似たような名前が多い

近隣のキャバで働いているリサとリナ

紛らわしい名前である

しかも仲が悪い

リサの方が数ヶ月先輩で

スレンダーな美人

リナは巨乳が自慢の

ゆうこりん系のロリタイプ

顔と身体のアンバランスな所が

男性客には堪らないらしい


今日もリサがアフターで来てくれた

お客そっちのけでリナの悪口大会だ

「あの子ってマクラやってるって噂なのよ」

マクラ営業…客と寝る事である

「え～？そんな風には見えないよね」

「だって私のお客さんが何人も食われてるのよ～」

「でもヤッちゃったらお仕舞いじゃないの？」

「ソレがさァ～」

リサは一緒に来ている客をサナエ姐さんに押し付けて

私の耳元で囁く

「ミミズ千匹なんだって～」

キャバで働いてる若いネエチャンが

こんな古い言葉知ってるなんて

私はそっちに驚いた

申し分ないルックスに加え

アッチの方も特別仕様となれば

男は虜だろう

さらにリサはこんな事まで言う

「あの子、ウチに来る前はピンサロに居たんだって」

逆はよく聞くが

ピンサロからキャバって言うのは

出世した事になるのだろうか？

悪口はとことん続く

「あの顔や胸だって整形だし

　　　　　　アソコも整形してんじゃないかしら？」

オカマ業界は整形に敏感だが

ミミズ千匹にする手術は聞いた事がない

それにしてもリサは自分の客を

何人もリナに取られてよっぽど悔しいのだろう


実はリナもたまにこの店に来るのだ

彼女は必ず一人で来て

店の愚痴や他の子の悪口は一切言わない

若いのに８０年代アイドルが好きで

私と趣味が合うのだ

こないだ来た時は８２年組の話で盛り上がった

北原佐和子のベストをプレゼントしたら

信じられないくらいに喜んでいた

そんなリナだから

リサの話はとても信じられない

しかし人には色々事情もあるのだろう


リサは、さんざ悪口言って気が済んだのだろう

ボトルを２本も開けてベロベロだ

一緒に来た客に支えられてタクシーに乗った


リサ、アンタも危ないよ

お花見

暖かいわね～

今年は桜の見ごろが

少し早まるみたいね


お花見と言えば

私たちも仕事が終わってから

近所の公園によく駆り出されたわ


店でさんざっぱら飲んだ後で

まだ薄暗い公園へ直行するのよ

早朝の公園は既に場所取りのシートが

しっかり敷き詰められていたわ

まだこの時期は朝夕とも気温が低くて

コートを着ててもブルブル震えてたわ

しかも地面のデコボコが結構こたえるのよ

「これ敷いたらラクよ」

参加してたオバサマから

ダンボールの切れ端を貰ったわ


いつもお店を贔屓にしてくれる

お客さん主催の花見だから

私たちも気を遣うわよ

お酌したり、お料理をよそったり

営業と同じなの

それなのに酒が進むに連れて

暴走するオカマも居るのよ


以前在籍していたルミは

隣に座ってたイケメンのトオルが気に入ったみたい

でも彼はアキって女の子を連れて来ているの

最初は３人で話も弾んでいたわ

途中でアキが席を移動したの

その隙にルミはチャンスとばかりに猛烈アタック

トオルは苦笑いしながら応対してたわ

ルミは調子に乗ってオッパイ触らせたり

キスしようとしたり

やりたい放題

他のみんなもニヤニヤしながら見てるの

席を離れていたアキは

トオルに冷たい視線

さすがにママもルミに注意したんだけど

遅かったわ

アキは怒って「先に帰る」って言い出したの

慌てて引き止めるトオル

彼にすがる酔っ払いのルミ

アキがトオルを突き飛ばしたわ

その勢いでルミはシートの外に尻餅をついたの

運悪く、さっきラブラドールを散歩させてたオジサンが

ウンチをそのままにしてたのよ

罰が当たったのね


お花見の暴走にはくれぐれもご用心！