長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ジョジョ・ラビット』

2020-02-05 | 映画レビュー(し)

 ニュージーランドからやってきたタイカ・ワイティティ監督は今ハリウッドで最も恐れ知らずのクリエイターだ。マーベルに抜擢されるや『マイティ・ソー/バトルロイヤル』を大コント大会に仕立て上げ、ジョックス系のクリス・ヘムズワースはコメディ開眼。それが『エンドゲーム』に及ぼした影響はご存知の通りだ。再び監督を手掛ける“マイティ・ソー”第4弾『ラブ・アンド・サンダー』ではまさかのナタリー・ポートマンが復帰というのだから、いったいどうなってしまうことやら。

 そしてこの『ジョジョ・ラビット』である。第二次大戦下のドイツ、少年ジョジョはヒトラーユーゲント(青少年隊)に所属する熱烈なナチ信奉者。しかし体は小さく運動神経も悪く、ウサギも殺せない気の弱い男の子であり、周囲にとって格好の苛めの標的だ。そんなある日、ジョジョは自宅の屋根裏にユダヤ人の少女が隠れている事を知り…。

 ワイティティはこの話を何とコメディとして演出し、ジョジョの想像上の友達として自らヒトラーも演じている。しかも10歳児の想像だから底抜けバカのヒトラーだ。彼は「マオリ族の血を引く自分が演じることで最高の復讐になる」と言うのだから、いやはや。
 全編に渡ってワイティティはお得意のオフビートなギャグをちりばめ、豪華キャスト陣もノリノリの好演である。ヒトラーユーゲントの隊長を務めるサム・ロックウェルは「今回もビル・マーレイの芝居をパクった」と公言しているように、落伍的デタラメさに彼特有の豪放さが合わさって、それはオスカー受賞後さらにスケールを増している。劇中での言及はないが、アルフィー・アレン演じる副長との関係性に同性愛者である事が伺え、役柄が『スリー・ビルボード』の延長線上に位置するのが面白い。

 女手一つでジョジョを育てる母親役スカーレット・ヨハンソンが絶品だ。ユーモアと愛に満ちた彼女ならではのきっぷのいい人物造形は、あらゆる場面で僕らを魅了する。子役時代から活躍する彼女も35歳。バツ2、子持ちという年輪を刻み、同年『マリッジ・ストーリー』と共通する“靴紐”という愛の印で僕らの心揺さぶる。今年のアカデミー賞では『マリッジ・ストーリー』の主演、本作の助演でWノミネートの快挙となった。

 大人たちの奮闘はあくまでジョジョを変える小さなきっかけに過ぎない。ジョジョは屋根裏に隠れていた少女エルサと接するうちに他者を理解し、思いやることを学んでいく。ジョジョ役ローマン・グリフィン・デイビスとエルサ役トーマサイン・マッケンジーが素晴らしい。ワイティティは明日を生きる子供たちに憎しみの連鎖を断ち切れと未来を託す。不敵なヤツだがハートは大きく、熱い野郎ではないか。


『ジョジョ・ラビット』19・米
監督 タイカ・ワイティティ
出演 ローマン・グリフィン・デイビス、トーマサイン・マッケンジー、スカーレット・ヨハンソン、サム・ロックウェル、アルフィー・アレン、レベル・ウィルソン、タイカ・ワイティティ
 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ロニートとエスティ 彼女... | トップ | 『キャッツ』 »

コメントを投稿

映画レビュー(し)」カテゴリの最新記事