長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『スリー・ビルボード』

2018-02-11 | 映画レビュー(す)

原題は“Three Billboards Outside Ebbing, Missouri”。またしてもミズーリだ。
 2017年、映画(ドラマ)ファンの前にこの名前が現れたのは2度目。初めはNetflixオリジナルドラマ『オザークへようこそ』だった。低所得の白人(所謂レッドネック)が多く住み、古くから共和党支持の保守的な地域。最近も白人警官による黒人少年の射殺事件が起こった。当然、トランプの支持基盤の1つである。今のアメリカを象徴するような地域だ。

舞台はそんなミズーリ州の架空の町エビング。娘を惨殺された母ミルドレッドは郊外にある3つの立て看板に警察への意見広告を出す。署長を名指し、遅々として進まぬ捜査を批判する内容だ。
だが、怒りや権利を声高に主張する者がいると叩いて火をつけるのが世間の常である。ミルドレッドの息子(ルーカス・ヘッジズ)は学校で後ろ指をさされ、元夫(ジョン・ホークス)は出過ぎたマネをするなと殴り込んで来る。署長(ウディ・ハレルソン)は理性的に対応するが、彼を慕う暴力警官(サム・ロックウェル)はありとあらゆる手段でミルドレッドの告発を邪魔していく。

『スリー・ビルボード』は劇作家でもある監督マーティン・マクドナーの脚本が最大の魅力だ。先に挙げた登場人物の行動はほんの一面に過ぎない。主要キャラクターのみならず、登場人物全員が万華鏡のように表情を変え、人間の不可解さを見せていく。行く手を遮る者を蹴り飛ばし、やられたらやり返すフランシス・マクドーマンドの毅然とした皺と真一文字の口。集大成的なバイプレーヤーぶりを発揮するサム・ロックウェルの巧さ。作品の良心とも言えるウディ・ハレルソンが到達した優しさ。差別や偏見を知性で切り返すケイレブ・ランドリー・ジョーンズの柔和さも印象に残った。全員が儲け役だ。

エビングはトランプ時代の世界の縮図だ。振り上げた拳が収められない。思いがけぬ人の「怒りは怒りを来す」という言葉にハッとさせられる。
 ミズーリ地方の大半の人々は生まれ育った土地を生涯離れないという。アイダホを目指す車にミルドレッドが積んだ物を目にすれば、彼女の心中は明らかだ。一度、外の世界に目を向ければ、僕たちは憎しみと怒りの道行きから引き返す事ができるかも知れない。まさしく“現在=いま”の映画。アカデミー作品賞、おそらく獲るだろう。


『スリー・ビルボード』17・米
監督 マーティン・マクドナー
出演 フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、アビー・コーニッシュ、ルーカス・ヘッジズ、ジョン・ホークス、ピーター・ディンクレイジ、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
 

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