リッスン・トゥ・ハー

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「その12(3年B組編)」

2008-07-09 | リッスン・トゥ・ハー
「その12(3年B組編)」


土手。
らくだ中学に登校する生徒で渋滞している。自転車、徒歩、女子、男子、先生も生徒も混じり、それぞれおしゃべりで賑わいを見せる、まるでシンジュクのようであった。
そこに、長い髪をかき上げマグロが歩いてくる。土手にのぼり、空を見上げた。すぐに切れてしまいそうな飛行機雲が残っていた。
ふいにマグロは「3年B組-!」というプラカードを掲げた。すると、歩いていた生徒は「しゃちせんせー!」と叫んで押し寄せる、マグロを中心に波が四方から押し寄せてきた。
マグロはとぎきりの笑顔であった。自分を慕ってくれる生徒の多さに満足していた。
もういつ刺身にされてもかまわない、と感じた。
本能かもしれない。押し寄せる波に逆らわずに入り込んで、するすると泳ぎ、マグロはある生徒の、姓は西田、名は雛菊、の中に入り込み、マグロはその生徒、姓は西田、名は雛菊そのものになって、気づけばしゃちせんせーと叫ぶひとりであった。
雛菊は、大変現代的な風貌の14歳の女子であった。
マグロはとたんに漠然と不安になり、ひな、と呼ばれてもそれが自分だと気づかずにいた。何度も呼ばれ続けてから自分のことだと気づき、振り返ると、ある生徒が笑っていた。姓は中村、名はサイクルというやはり現代的な風貌の男子であった。ふたりは恋人らしかった。今は雛菊であるマグロは深いため息をつき、サイクルはそれを気にせずに手をとってマグロの唇を奪った。喧騒に紛れての行為だった。