ごきげんよう諸君、いかがお過ごしかな。ここ何日か調子を崩していた霧島である。相変わらず左下の奥歯が痛くて食いしばってしまうのと、それによって引き起こされる頭痛、又、使えねぇ精神科医によるストレスあたりが原因であると思われる。本日、12、3時間ぐらい寝た(さっき起きた)お陰か大分回復した。
そう言えば、なんか読みにくい苗字の大臣が辞任したそうである。「福島行ってきたけど死の街だったよー」とか言って、マスゴミから野党から総出で叩かれて。まぁ、彼を擁護する人の気持ちも判る。そんなどうでもいい言葉狩りやってる暇あったら復興の為にどうすべきか考えろよって事だろう。それはそれで一理あるからな。
ただまぁ個人的には、自民党なりみんなの党なりが「福島行ってきたけど死の街だった、民主党と東電の野郎滅茶苦茶しやがって」って言うのならともかく、下手人である民主党が死の街発言はちょっとまずかったんじゃねぇのと思っておる。お前がやったんだろうよ、という話だな。だからと言って辞任するまで叩くのはどうか、もっと建設的な事をしろというのはその通りだが、現状で建設的な事というと解散総選挙以外思い当たらないのが当霧島家の公式見解である。
さて今日は、本当は今やってる「BIOSHOCK」のレビューでも書こうと思っていたのだが…りっかさん(2の18乗氏)が片道二時間の電車通学をしており、以前は暇だというのでゲームをしていたらしい。が、日経新聞電子版を親が申し込んでくれたから今度はそれを読もう、という訳だ。
良くない。実に良くない。
はっきり言って、日本の新聞なんてものはろくでもない代物であり、読むんなら最低限数社の新聞を読み、更に各記事の裏を取るべくgoogleで検索をかけたり関連の本を読んだりすべきである。程度にもよるが下手に知識ついてるよりは無知な方がよっぽどマシと考える当霧島家では、新聞の購読自体を推奨せぬのである。
無知は偏見なしで学ぶ事ができるが、下手にものを知ってると偏見が出来るからな。ニュースを得る為に新聞読むんだったら、ロイター通信やら共同通信読んでた方が余程良いというのが私の持論である。ホームページ持ってるから無料で読めるしな、あのあたりの会社は。基本的に新聞各社の報道って通信社から引っ張ってきてるのが多いし。
で、日経新聞を読めるという事は字を読めるという事であり、つまり本を読めるという事である。世の中には私の日誌すら見ただけで眠くなるというナイスガイ(レディ)が沢山存在しており、そこまで行かずとも、ネット上でなら沢山の字を読めるしエロゲも出来るが本は読めない、という人も多い。泉こなたとか。
しかし、彼は本を読めるのである。ならば、この世には読むべき本がいくらでもあるのは自明であり、それを勧めるのが私の義務ではないかと考えたのである。私は自分の事はクズだと思っておるしどうしようもない人間であると思っておるが、だからこそ他人をもっと良い道に導きたいとも考えるのである。まぁお節介という事だな。
そこで、今回は読書紹介などしてみたいと思う。私の蔵書から、出来るだけ一般人向けの本を紹介する。
●鉄腕ゲッツ行状記
ゲッツ・フォン ベルリヒンゲン(Goetzens von Berlichingen)著、藤川芳朗訳 白水社
以前から何度か触れている、"鉄腕"ゴットフリート・フォン・ベルリヒンゲン、通称"鉄腕ゲッツ"の回顧録。彼は宗教改革とかドイツ農民戦争とか、中世が終わる間際の時代に生きたドイツ騎士であった。実際、"中世最後の騎士"こと皇帝マクシミリアン一世の二十歳年下なので、昔ながらの騎士の最後の世代に属する。日本風に言えば幕末の最後の士風を残した世代とか、室町武士の最後の士風を残した世代、とかそんな感じ。
彼が鉄腕と呼ばれる所以は、文字通り義手をつけた戦士だったからである。バイエルン継承戦争で右腕を失った彼は、普通ならそこで戦争をやめてしまうところでなのに鋼鉄の義手を作成、それをつけて晩年(享年82歳)まで戦い続けた。この義手が又精巧に出来ておりボタン操作で物を握ったり開き手にしたり出来た。
ちなみに、この義手中に大砲が仕込まれたりはしていない。又、三浦氏によれば元鷹の団の某ガッツ氏と鉄腕ゲッツに関連は無いそうである。否、無いそうでゲソ。
さて、ゲーテの戯曲「ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン」では、ドイツ農民戦争で農民側に立ち自由の為に戦ったドイツの英雄として描かれており、実際、ドイツではそういう姿が一般に知られておる。そんな鉄腕ゲッツ自身による回顧録がコレな訳だが…以下ネタバレ。
フェーデについては以前述べた。ここで。そして鉄腕ゲッツこそ、フェーデを使って金品強奪、誘拐&身代金獲得を繰り返した稀代のナイスガイだったのである。又戦争好きであり、大義名分もクソも無いアレな戦争にも出かけていっては暴れまわっておった。しかも常勝不敗ではなく、むしろ失敗したりする事もあるし投獄される事もある。
だがへこたれず脱獄し、彼は懲りずに暴れまわり続けた。ドイツ農民戦争後は抑留生活を送り、「もう二度とフェーデしません」と誓約書を書かされ、これでようやく終わりかと思えばカール五世に従ってトルコ戦争に従事すると彼の不屈(広い意味で)の精神は誓約書程度ではどうにもできなかった。
そんな"盗賊騎士"、鉄腕ゲッツの回顧録の訳出版である。読む場合は、先にゲーテの「ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン」を読むと、より「ちょwwwwwwwwwwwwwwお前wwwwwwwwwwww何やっとんwwwwwwwwwwwwwwww」となって楽しめると思われるが、現在市販されている本でゲーテのこの戯曲を読めるのは潮出版社の「ゲーテ全集」だけの模様であり、こちらを私は読んでおらんので訳がつまらん可能性もなくはない。注意されたい。
●傭兵の二千年史
菊池良生著 講談社現代新書
菊池良生はなかなか面白い本を出してはおるが、欠点もあるので難しいところではある。その中で、個人的にオススメなのがコチラ。傭兵の二千年史とは言っておるが、実質中近世傭兵史でありタイトルは出版社が売れやすい様勝手につけたと推測される。まぁ出版業界では大変よくある話である。
著者は現在明治大学の教授。早稲田大学院出でドイツ・オーストリア史が専門。特に関心があるものとして本人が挙げてるものが、ハプスブルク家はまぁともかくとして傭兵、近代郵便制度、警察制度と割とフリーダムであり、大変好感が持てる教授である。この辺は実際非常に重要でそれぞれ関連があるのだが、日本の学界はそういうのを軽視しがちだからな。
本書は、そんなフリーダムな中の人の感性に合わせてフリーダムな書かれ方をしておる。学者が書いた文章というのは、大抵学術的な小難しい書き方になるのだが、この本は平易に、判りやすい書き方をしておるのだな。まぁ、自分で書いたと思われる「主な著書・論文」が新書で埋め尽くされてるぐらいだから、流石といったところである。
全体としては、中世において傭兵がどう台頭してきたかを特にスイス傭兵団を使って解説し、又、傭兵の生態についてドイツ人傭兵(いわゆるランツクネヒト)を使って解説。又、中世~近世にかけて、中世の封建主義国家から絶対王制とか近代国家が生まれていく陰には、実は傭兵がいたんですよ~という内容である。
まぁその辺は本を読めというところだが、そういう難しい話を抜きにしても、独自の視点、と言うか知らん人にとっては目新しい視点で解説されている内容が盛りだくさんなので読んでて楽しい筈である。傭兵隊長を戦争企業家として紹介してたり、ランツクネヒトは自由をモットーとし労働組合を持ってた事、騎士だって主君に仕えてばっかりじゃなく傭兵として戦争をやって稼いでいた事、色々目から鱗な話が書かれておる。
尚、ランツクネヒトについてはラインハルト・バウマンのドイツ傭兵の文化史が詳しいが、ちょっと専門書感が強くなりすぎるかもしれないな、こちらは。
●中世ヨーロッパの城の生活
ジョゼフ・ギース(Joseph Gies)、フランシス・ギース(Frances Gies)共著、栗原泉訳 講談社学術文庫
まんま、その名の通りの内容を持つ本である。イギリス西部、ウェールズ(例のロングボウ隊発祥の地)で11~17世紀まで実用されていたチェプストー城を例に、中世の城ではどういう生活を送っていたのかという事を紹介している。城の構造だけでなく、そこで暮らす人々の生活内容なんかも含めて、という事だ。
我々の世代の日本人にしてみれば、西洋式の城というのはドラクエとかFFに出てくるアレであり、ダンジョンマップとか街マップの一種という認識である。では、その城というのは実際にはどういう構造で、そこではどういう生活が行われていたのか、という観点で見ると歴史好きならずともなかなか面白い。
もう一歩踏み込んで言うなら、この本の一番いいところはこれ一冊で中世の城を舞台にした小説が書けるぐらい緻密で、何もかもを網羅している事である。まぁ歴史小説とかだとキツいが、ライトノベルのファンタジー小説とか、TRPGの資料としては充分と言える。
城の構造、城の奥方、城はどう切り盛りされていたか(例えばコックはどれぐらい居て、どんなものを城下町か購入していたか)、城で過ごす一日とはどんなものか、城主達の狩猟(中世貴族にとって狩猟は重要な食料確保手段であり暇つぶしだった)、城下町と言うか城下の農村はどんなんだったか、城で過ごす一年は四季ごとにどう違うか。そういった、中世の城設定資料集的な内容を見事に網羅しているのだな。
同じ作者が書いた類似の本として「中世ヨーロッパの農村の生活」及び「中世ヨーロッパの都市の生活」
がある。又、より中世社会全般について詳しく、と言うなら「中世の森の中で」(河出文庫、堀米傭三編)がオススメである。尚、この本は例にとった城がウェールズの城で作者がイギリスの歴史家というところから判るとおりイギリス及びフランスの一部の話が中心で、ドイツとかの話はしていないので注意。
●急降下爆撃
ハンス・ウルリッヒ・ルーデル(Hans Ulrich Rudel)著、高木真太郎訳 学研M文庫
1941年、独ソは核の炎に包まれたついに戦火を交える事となった。その戦場に「悪魔」と呼ばれた男が二人居た。一人はエーリヒ・アルフレート・ハルトマン。終身撃墜数352機の撃墜王。そしてもう一人。ヨシフ・スターリンに「ドイツ人民最大の敵」と言わしめた男。アドルフ・ヒトラーから全軍で唯一宝剣金柏葉ダイヤモンド付騎士鉄十字章を手渡された男。
出撃回数2530回に及び、被撃墜回数も32回。戦車519輌を破壊、各種車輌800輌以上、100mm口径以上の大火砲100門以上、装甲列車4両を撃破、戦艦1隻、巡洋艦1隻、駆逐艦1隻、上陸用舟艇70隻以上を撃沈、航空機9機を撃墜。ソ連からかけられた懸賞金は現在の価値で約五億円。
男の名はハンス・ウルリヒ・ルーデル。ドイツが生んだ空飛ぶ悪魔である。
取り敢えずアンサイクロでも見ると良い。この本は、空の魔王ルーデル自らが書いた回顧録である。ただ、重訳(原文はドイツ語なのだが、これは英訳版のを更に日本語に直したもの)な上、日本語に訳したのが昭和27年。この本はその復刻版で、何一つ変わっていない模様である。なので、日本語でおkと言わざるを得ない文章でいっぱいだったりする。それでも、ルーデル閣下の猛威に触れられるという意味で、貴重な一冊と言える。
●科挙の話
村上哲見著 講談社学術文庫
科挙と言って何かわからん奴は義務教育さえ終わってれば流石にいない筈だが、要するに中華王朝で歴史的に行われてきた公務員試験である。これに合格する事によって、高級官僚への道が開かれていったのだ。
以前から何度か言っておるが、中世ヨーロッパというのは大変な田舎である。そして意外に思うかもしれんが、中華王朝は、長い間世界でも指折りの先進国であった。西欧で中央集権による絶対王制や官僚制が確立するのは17世紀あたりだが、中国は千年ぐらい早い。600年ぐらいにはもう、国家公務員試験たる科挙があったのである。
じゃあ、その国家公務員試験はどんな風に行われていたのか。試験運営の話だけでなく、受験する学生達がどんな風に勉強を頑張ったのか。試験に受かった奴はどんな人生を送ったのか。…まぁ、科挙の本というと大体こんな事が書いてある。ただ、この本のいいところはそういった表の話だけでなく裏の話も書いている事だ。
例えば学生がどんな勉強をしたかという点で言えば、当時の有力官僚に挨拶に行って取り入るだとか、そういう話である。他にも、受かった奴だけではなく落ちた奴の話も多い。唐を滅ぼした連中はその多くが科挙に落ちた連中であり、首都陥落時には積年の恨みとばかりに高級官僚を虐殺したりという話が載っておる。
尚、本書は絶版である。なので、今から買うなら科挙―中国の試験地獄 (中公文庫BIBLIO)をオススメしておく。こちらの方が読み物としての面白さ自体は上かもしれんな。
●文明としての江戸システム
鬼頭宏著 講談社学術文庫
江戸時代と言えば、長らく暗黒時代…とまでは言わぬものの、割と暗い時代と考えられ、描かれておった。武士がデカい顔をし、悪代官が農民を搾取し、町人や農民は飢えをしのぎながらどうにかこうにか生きようとする。それが開国、文明開化、近代化で一気に良くなった、そう考えられがちだ。
しかし最近、江戸時代の研究が進むにつれこういう考え方は改められつつある。江戸時代は時代が下るにつれて武士が貧乏になるだとか、市場経済と貨幣経済が世界的にみても非常に高いレベルで発展していただとか(経済学では有名な話だが、先物取引を世界で最初にやったのは大岡越前である)、そういう風にな。
この本はそういった最近の研究の集大成…とまでは言わんが、日本の歴史シリーズの江戸時代編という事で、江戸時代の社会構造を網羅した内容の本になっている。まぁ第一章を筆頭に学者にありがちな大変つまらん文章が多数見られるのは頂けないが、それを充分補うに足る情報量である。↑の「中世ヨーロッパの城の生活」を「中世ヨーロッパの城設定資料集」とするなら、この本は「江戸時代設定資料集」といった感じだな。
実際、内容はかなり細かく、例えば人口問題における結婚という話だけでも平均初婚年齢の地域差まで扱っている。更に平均結婚継続年数について述べられ、離婚の仕方、三行半(離縁状。離婚届みたいなもん。ちょっと違うが)には何が書いてあるか、と、かなり詳細である。こういうのに無駄にワクワクする人は購入を考えても良かろう。
但し、さっきも言ったが学者特有の大変つまらん文体が主なので、その辺は気をつけたい。
●武士の家計簿
磯田道史著 新潮新書
この本を読んだ事のない人でも、題名は知っているのではないだろうか。映画になったからである。一時期CMもやっておったしな。しかし、この本は小説ではない。もう一度言う。この本は小説ではない。ついでに漫画とかでもない。まぁ、世の中にはシャドウランの様にTRPGをゲーム化したらFPSになったという事例もあるので、こういう研究書が映画化するのもナシではないだろう。
江戸時代は、前にも言った通り時代が下れば下るほど武士が貧乏になる時代である。加賀藩猪山家も又、貧乏であった。猪山家は財政官僚であった為、他の武士の家と比べて詳細かつ完璧な家計簿が残っており、それを元に江戸後期から幕末、明治、大正までこの家がどの様な経済状態にあったかを調べた本である。
最初は多重債務で首が回らなくなってると言うか年収の二倍の借金っていう状態からスタート。家財道具から商売道具(財政官僚なのに数学の本まで売ってる)したり、その一方で「じゃあ何処をどうやってこれだけの借金が出来たのか」を検証したり。そういうのを通して、武士(士族)が実際にはどういう風に生きてたのかを調べたものと言える。
尚、研究者の書いた本でありながら文章は平易であり、なかなか読みやすいものになっておる。なので、普通の人でも読んで結構楽しめるのではないだろうか。
●天皇家の財布
森暢平著 新潮新書
天皇家と言えば、やはり愛子様がどうだとか、秋篠宮殿下がどうなさったとか、天皇陛下が何をなさったとか、まぁそういうのがニュースで流れる程度にしか、一般には認識されておらぬ。しかしながら、皇室の皆様もやはり人間であるからには金が無いと食料すら用意できん訳であり、生きていけない。じゃあ皇室はどういう風な財政状況にあるのか、という本がこれだ。
本来「天皇家」という単語が誤用である事は確定的に明らかだが(つうかゴールデンバウム朝とかだったら不敬罪で逮捕されるんじゃなかろうか)、この本の場合、「皇室」を一個の「家」として財政状況を観察する事により、面白い本に仕上がっている。その好例が、本書に出てくる天皇家の財テクというシュールな単語である。
皇室は、著者によれば個人事業主に近い財務処理を行っているのだという。個人事業主の場合、これは会社(店)の金なのか、家族の金なのかというのを明確に区別しなければならん。例えば、家族が居間で使うテレビを会社の金で購入していたりすると税務署がお怒りになられ、場合によっては、実名で報道される事態になってしまう訳である。
皇室も、鉛筆一本買うにしても公費なのか私費なのか、という区別を行わなければならない…そういう話が色々載っているのがこの本である。又、皇室資産とかについても述べられており、「戦前、皇室は多数のダービー馬を輩出した」という一節など、現代に生きる我々にしてみればシュールすぎて吹くレベルである。
世界最古にして世界で最も偉い王室(天皇陛下は現在世界で唯一の皇帝であり、又、教皇的な宗教権威者でもある)の日本皇室。その皇室の生生しい一面を見られる、新聞記者が書いたにしてはなかなかの良著と言える。
そう言えば、なんか読みにくい苗字の大臣が辞任したそうである。「福島行ってきたけど死の街だったよー」とか言って、マスゴミから野党から総出で叩かれて。まぁ、彼を擁護する人の気持ちも判る。そんなどうでもいい言葉狩りやってる暇あったら復興の為にどうすべきか考えろよって事だろう。それはそれで一理あるからな。
ただまぁ個人的には、自民党なりみんなの党なりが「福島行ってきたけど死の街だった、民主党と東電の野郎滅茶苦茶しやがって」って言うのならともかく、下手人である民主党が死の街発言はちょっとまずかったんじゃねぇのと思っておる。お前がやったんだろうよ、という話だな。だからと言って辞任するまで叩くのはどうか、もっと建設的な事をしろというのはその通りだが、現状で建設的な事というと解散総選挙以外思い当たらないのが当霧島家の公式見解である。
さて今日は、本当は今やってる「BIOSHOCK」のレビューでも書こうと思っていたのだが…りっかさん(2の18乗氏)が片道二時間の電車通学をしており、以前は暇だというのでゲームをしていたらしい。が、日経新聞電子版を親が申し込んでくれたから今度はそれを読もう、という訳だ。
良くない。実に良くない。
はっきり言って、日本の新聞なんてものはろくでもない代物であり、読むんなら最低限数社の新聞を読み、更に各記事の裏を取るべくgoogleで検索をかけたり関連の本を読んだりすべきである。程度にもよるが下手に知識ついてるよりは無知な方がよっぽどマシと考える当霧島家では、新聞の購読自体を推奨せぬのである。
無知は偏見なしで学ぶ事ができるが、下手にものを知ってると偏見が出来るからな。ニュースを得る為に新聞読むんだったら、ロイター通信やら共同通信読んでた方が余程良いというのが私の持論である。ホームページ持ってるから無料で読めるしな、あのあたりの会社は。基本的に新聞各社の報道って通信社から引っ張ってきてるのが多いし。
で、日経新聞を読めるという事は字を読めるという事であり、つまり本を読めるという事である。世の中には私の日誌すら見ただけで眠くなるというナイスガイ(レディ)が沢山存在しており、そこまで行かずとも、ネット上でなら沢山の字を読めるしエロゲも出来るが本は読めない、という人も多い。泉こなたとか。
しかし、彼は本を読めるのである。ならば、この世には読むべき本がいくらでもあるのは自明であり、それを勧めるのが私の義務ではないかと考えたのである。私は自分の事はクズだと思っておるしどうしようもない人間であると思っておるが、だからこそ他人をもっと良い道に導きたいとも考えるのである。まぁお節介という事だな。
そこで、今回は読書紹介などしてみたいと思う。私の蔵書から、出来るだけ一般人向けの本を紹介する。
●鉄腕ゲッツ行状記
ゲッツ・フォン ベルリヒンゲン(Goetzens von Berlichingen)著、藤川芳朗訳 白水社
以前から何度か触れている、"鉄腕"ゴットフリート・フォン・ベルリヒンゲン、通称"鉄腕ゲッツ"の回顧録。彼は宗教改革とかドイツ農民戦争とか、中世が終わる間際の時代に生きたドイツ騎士であった。実際、"中世最後の騎士"こと皇帝マクシミリアン一世の二十歳年下なので、昔ながらの騎士の最後の世代に属する。日本風に言えば幕末の最後の士風を残した世代とか、室町武士の最後の士風を残した世代、とかそんな感じ。
彼が鉄腕と呼ばれる所以は、文字通り義手をつけた戦士だったからである。バイエルン継承戦争で右腕を失った彼は、普通ならそこで戦争をやめてしまうところでなのに鋼鉄の義手を作成、それをつけて晩年(享年82歳)まで戦い続けた。この義手が又精巧に出来ておりボタン操作で物を握ったり開き手にしたり出来た。
ちなみに、この義手中に大砲が仕込まれたりはしていない。又、三浦氏によれば元鷹の団の某ガッツ氏と鉄腕ゲッツに関連は無いそうである。否、無いそうでゲソ。
さて、ゲーテの戯曲「ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン」では、ドイツ農民戦争で農民側に立ち自由の為に戦ったドイツの英雄として描かれており、実際、ドイツではそういう姿が一般に知られておる。そんな鉄腕ゲッツ自身による回顧録がコレな訳だが…以下ネタバレ。
フェーデについては以前述べた。ここで。そして鉄腕ゲッツこそ、フェーデを使って金品強奪、誘拐&身代金獲得を繰り返した稀代のナイスガイだったのである。又戦争好きであり、大義名分もクソも無いアレな戦争にも出かけていっては暴れまわっておった。しかも常勝不敗ではなく、むしろ失敗したりする事もあるし投獄される事もある。
だがへこたれず脱獄し、彼は懲りずに暴れまわり続けた。ドイツ農民戦争後は抑留生活を送り、「もう二度とフェーデしません」と誓約書を書かされ、これでようやく終わりかと思えばカール五世に従ってトルコ戦争に従事すると彼の不屈(広い意味で)の精神は誓約書程度ではどうにもできなかった。
そんな"盗賊騎士"、鉄腕ゲッツの回顧録の訳出版である。読む場合は、先にゲーテの「ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン」を読むと、より「ちょwwwwwwwwwwwwwwお前wwwwwwwwwwww何やっとんwwwwwwwwwwwwwwww」となって楽しめると思われるが、現在市販されている本でゲーテのこの戯曲を読めるのは潮出版社の「ゲーテ全集」だけの模様であり、こちらを私は読んでおらんので訳がつまらん可能性もなくはない。注意されたい。
●傭兵の二千年史
菊池良生著 講談社現代新書
菊池良生はなかなか面白い本を出してはおるが、欠点もあるので難しいところではある。その中で、個人的にオススメなのがコチラ。傭兵の二千年史とは言っておるが、実質中近世傭兵史でありタイトルは出版社が売れやすい様勝手につけたと推測される。まぁ出版業界では大変よくある話である。
著者は現在明治大学の教授。早稲田大学院出でドイツ・オーストリア史が専門。特に関心があるものとして本人が挙げてるものが、ハプスブルク家はまぁともかくとして傭兵、近代郵便制度、警察制度と割とフリーダムであり、大変好感が持てる教授である。この辺は実際非常に重要でそれぞれ関連があるのだが、日本の学界はそういうのを軽視しがちだからな。
本書は、そんなフリーダムな中の人の感性に合わせてフリーダムな書かれ方をしておる。学者が書いた文章というのは、大抵学術的な小難しい書き方になるのだが、この本は平易に、判りやすい書き方をしておるのだな。まぁ、自分で書いたと思われる「主な著書・論文」が新書で埋め尽くされてるぐらいだから、流石といったところである。
全体としては、中世において傭兵がどう台頭してきたかを特にスイス傭兵団を使って解説し、又、傭兵の生態についてドイツ人傭兵(いわゆるランツクネヒト)を使って解説。又、中世~近世にかけて、中世の封建主義国家から絶対王制とか近代国家が生まれていく陰には、実は傭兵がいたんですよ~という内容である。
まぁその辺は本を読めというところだが、そういう難しい話を抜きにしても、独自の視点、と言うか知らん人にとっては目新しい視点で解説されている内容が盛りだくさんなので読んでて楽しい筈である。傭兵隊長を戦争企業家として紹介してたり、ランツクネヒトは自由をモットーとし労働組合を持ってた事、騎士だって主君に仕えてばっかりじゃなく傭兵として戦争をやって稼いでいた事、色々目から鱗な話が書かれておる。
尚、ランツクネヒトについてはラインハルト・バウマンのドイツ傭兵の文化史が詳しいが、ちょっと専門書感が強くなりすぎるかもしれないな、こちらは。
●中世ヨーロッパの城の生活
ジョゼフ・ギース(Joseph Gies)、フランシス・ギース(Frances Gies)共著、栗原泉訳 講談社学術文庫
まんま、その名の通りの内容を持つ本である。イギリス西部、ウェールズ(例のロングボウ隊発祥の地)で11~17世紀まで実用されていたチェプストー城を例に、中世の城ではどういう生活を送っていたのかという事を紹介している。城の構造だけでなく、そこで暮らす人々の生活内容なんかも含めて、という事だ。
我々の世代の日本人にしてみれば、西洋式の城というのはドラクエとかFFに出てくるアレであり、ダンジョンマップとか街マップの一種という認識である。では、その城というのは実際にはどういう構造で、そこではどういう生活が行われていたのか、という観点で見ると歴史好きならずともなかなか面白い。
もう一歩踏み込んで言うなら、この本の一番いいところはこれ一冊で中世の城を舞台にした小説が書けるぐらい緻密で、何もかもを網羅している事である。まぁ歴史小説とかだとキツいが、ライトノベルのファンタジー小説とか、TRPGの資料としては充分と言える。
城の構造、城の奥方、城はどう切り盛りされていたか(例えばコックはどれぐらい居て、どんなものを城下町か購入していたか)、城で過ごす一日とはどんなものか、城主達の狩猟(中世貴族にとって狩猟は重要な食料確保手段であり暇つぶしだった)、城下町と言うか城下の農村はどんなんだったか、城で過ごす一年は四季ごとにどう違うか。そういった、中世の城設定資料集的な内容を見事に網羅しているのだな。
同じ作者が書いた類似の本として「中世ヨーロッパの農村の生活」及び「中世ヨーロッパの都市の生活」
がある。又、より中世社会全般について詳しく、と言うなら「中世の森の中で」(河出文庫、堀米傭三編)がオススメである。尚、この本は例にとった城がウェールズの城で作者がイギリスの歴史家というところから判るとおりイギリス及びフランスの一部の話が中心で、ドイツとかの話はしていないので注意。
●急降下爆撃
ハンス・ウルリッヒ・ルーデル(Hans Ulrich Rudel)著、高木真太郎訳 学研M文庫
1941年、独ソは
出撃回数2530回に及び、被撃墜回数も32回。戦車519輌を破壊、各種車輌800輌以上、100mm口径以上の大火砲100門以上、装甲列車4両を撃破、戦艦1隻、巡洋艦1隻、駆逐艦1隻、上陸用舟艇70隻以上を撃沈、航空機9機を撃墜。ソ連からかけられた懸賞金は現在の価値で約五億円。
男の名はハンス・ウルリヒ・ルーデル。ドイツが生んだ空飛ぶ悪魔である。
取り敢えずアンサイクロでも見ると良い。この本は、空の魔王ルーデル自らが書いた回顧録である。ただ、重訳(原文はドイツ語なのだが、これは英訳版のを更に日本語に直したもの)な上、日本語に訳したのが昭和27年。この本はその復刻版で、何一つ変わっていない模様である。なので、日本語でおkと言わざるを得ない文章でいっぱいだったりする。それでも、ルーデル閣下の猛威に触れられるという意味で、貴重な一冊と言える。
●科挙の話
村上哲見著 講談社学術文庫
科挙と言って何かわからん奴は義務教育さえ終わってれば流石にいない筈だが、要するに中華王朝で歴史的に行われてきた公務員試験である。これに合格する事によって、高級官僚への道が開かれていったのだ。
以前から何度か言っておるが、中世ヨーロッパというのは大変な田舎である。そして意外に思うかもしれんが、中華王朝は、長い間世界でも指折りの先進国であった。西欧で中央集権による絶対王制や官僚制が確立するのは17世紀あたりだが、中国は千年ぐらい早い。600年ぐらいにはもう、国家公務員試験たる科挙があったのである。
じゃあ、その国家公務員試験はどんな風に行われていたのか。試験運営の話だけでなく、受験する学生達がどんな風に勉強を頑張ったのか。試験に受かった奴はどんな人生を送ったのか。…まぁ、科挙の本というと大体こんな事が書いてある。ただ、この本のいいところはそういった表の話だけでなく裏の話も書いている事だ。
例えば学生がどんな勉強をしたかという点で言えば、当時の有力官僚に挨拶に行って取り入るだとか、そういう話である。他にも、受かった奴だけではなく落ちた奴の話も多い。唐を滅ぼした連中はその多くが科挙に落ちた連中であり、首都陥落時には積年の恨みとばかりに高級官僚を虐殺したりという話が載っておる。
尚、本書は絶版である。なので、今から買うなら科挙―中国の試験地獄 (中公文庫BIBLIO)をオススメしておく。こちらの方が読み物としての面白さ自体は上かもしれんな。
●文明としての江戸システム
鬼頭宏著 講談社学術文庫
江戸時代と言えば、長らく暗黒時代…とまでは言わぬものの、割と暗い時代と考えられ、描かれておった。武士がデカい顔をし、悪代官が農民を搾取し、町人や農民は飢えをしのぎながらどうにかこうにか生きようとする。それが開国、文明開化、近代化で一気に良くなった、そう考えられがちだ。
しかし最近、江戸時代の研究が進むにつれこういう考え方は改められつつある。江戸時代は時代が下るにつれて武士が貧乏になるだとか、市場経済と貨幣経済が世界的にみても非常に高いレベルで発展していただとか(経済学では有名な話だが、先物取引を世界で最初にやったのは大岡越前である)、そういう風にな。
この本はそういった最近の研究の集大成…とまでは言わんが、日本の歴史シリーズの江戸時代編という事で、江戸時代の社会構造を網羅した内容の本になっている。まぁ第一章を筆頭に学者にありがちな大変つまらん文章が多数見られるのは頂けないが、それを充分補うに足る情報量である。↑の「中世ヨーロッパの城の生活」を「中世ヨーロッパの城設定資料集」とするなら、この本は「江戸時代設定資料集」といった感じだな。
実際、内容はかなり細かく、例えば人口問題における結婚という話だけでも平均初婚年齢の地域差まで扱っている。更に平均結婚継続年数について述べられ、離婚の仕方、三行半(離縁状。離婚届みたいなもん。ちょっと違うが)には何が書いてあるか、と、かなり詳細である。こういうのに無駄にワクワクする人は購入を考えても良かろう。
但し、さっきも言ったが学者特有の大変つまらん文体が主なので、その辺は気をつけたい。
●武士の家計簿
磯田道史著 新潮新書
この本を読んだ事のない人でも、題名は知っているのではないだろうか。映画になったからである。一時期CMもやっておったしな。しかし、この本は小説ではない。もう一度言う。この本は小説ではない。ついでに漫画とかでもない。まぁ、世の中にはシャドウランの様にTRPGをゲーム化したらFPSになったという事例もあるので、こういう研究書が映画化するのもナシではないだろう。
江戸時代は、前にも言った通り時代が下れば下るほど武士が貧乏になる時代である。加賀藩猪山家も又、貧乏であった。猪山家は財政官僚であった為、他の武士の家と比べて詳細かつ完璧な家計簿が残っており、それを元に江戸後期から幕末、明治、大正までこの家がどの様な経済状態にあったかを調べた本である。
最初は多重債務で首が回らなくなってると言うか年収の二倍の借金っていう状態からスタート。家財道具から商売道具(財政官僚なのに数学の本まで売ってる)したり、その一方で「じゃあ何処をどうやってこれだけの借金が出来たのか」を検証したり。そういうのを通して、武士(士族)が実際にはどういう風に生きてたのかを調べたものと言える。
尚、研究者の書いた本でありながら文章は平易であり、なかなか読みやすいものになっておる。なので、普通の人でも読んで結構楽しめるのではないだろうか。
●天皇家の財布
森暢平著 新潮新書
天皇家と言えば、やはり愛子様がどうだとか、秋篠宮殿下がどうなさったとか、天皇陛下が何をなさったとか、まぁそういうのがニュースで流れる程度にしか、一般には認識されておらぬ。しかしながら、皇室の皆様もやはり人間であるからには金が無いと食料すら用意できん訳であり、生きていけない。じゃあ皇室はどういう風な財政状況にあるのか、という本がこれだ。
本来「天皇家」という単語が誤用である事は確定的に明らかだが(つうかゴールデンバウム朝とかだったら不敬罪で逮捕されるんじゃなかろうか)、この本の場合、「皇室」を一個の「家」として財政状況を観察する事により、面白い本に仕上がっている。その好例が、本書に出てくる天皇家の財テクというシュールな単語である。
皇室は、著者によれば個人事業主に近い財務処理を行っているのだという。個人事業主の場合、これは会社(店)の金なのか、家族の金なのかというのを明確に区別しなければならん。例えば、家族が居間で使うテレビを会社の金で購入していたりすると税務署がお怒りになられ、場合によっては、実名で報道される事態になってしまう訳である。
皇室も、鉛筆一本買うにしても公費なのか私費なのか、という区別を行わなければならない…そういう話が色々載っているのがこの本である。又、皇室資産とかについても述べられており、「戦前、皇室は多数のダービー馬を輩出した」という一節など、現代に生きる我々にしてみればシュールすぎて吹くレベルである。
世界最古にして世界で最も偉い王室(天皇陛下は現在世界で唯一の皇帝であり、又、教皇的な宗教権威者でもある)の日本皇室。その皇室の生生しい一面を見られる、新聞記者が書いたにしてはなかなかの良著と言える。