俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

消えた年金

2015-10-18 09:38:37 | Weblog
 マイナンバー制度の是非を問う前に、かつての大事件を思い出す必要がある。2007年5月に発覚した「消えた年金」事件だ。誰のものか分からない年金が5千万件もあることが分かり大変な騒動になった。この年7月の参議院選挙では自民党は惨敗し、「ねじれ国会」を経て「政権交代」にまで至った。政変まで招いた「消えた年金」事件だが、なぜ5千万件もの年金記録が失われたのか?この原因を明かさない限り失敗は繰り返される。
 根本的な問題は名前と生年月日によって年金が管理されていることだ。同姓同名で同じ生年月日であれば区別できないという酷い仕組みだ。住所や職業が変わらなければ管理可能だが転居するだけで同一人物かどうかが分からなくなってしまう。
 それだけではない。人の名前は結婚や養子縁組などによって変わる。在日朝鮮人であれば本名以外に通称名も認められている。名前が違えば別人として扱われる。この状況は今も続いている。最低限、年金のための個人ナンバーは不可欠だ。
 中小零細企業なら名前だけで管理できるだろうが、それなりの企業であれば必ず社員コードを設定して管理する。それでもミスは起こる。私と似た名前の人に宛てた書類が人事部から間違って届けられたことがある。
 社員の異動を管理できる企業でさえ社員コードが必要なのだから、転居が自由である国民に個人番号が無ければ管理は不可能だ。「消えた年金」は過去の問題ではない。
 実は1983年に一旦納税者番号制度が定められたのだが有耶無耶の内に廃止された。収入を把握されては困る国会議員が大勢いたからだろう。現在の反対論の多くがこれと同レベルであり、二重就業ができなくなることがしばしば指摘されている。これは要するに、会社に無断で水商売などで働いているということであり、当然脱税でもある。
 マイナンバー制度に関する汚職事件で厚生労働省政策担当参事室室長補佐の中安容疑者が逮捕されたが、皮肉なことに、マイナンバー制度が稼動すればこんな汚職も減る。賄賂や裏の顧問料などが表に出されるからだ。
 マイナンバー制度は年金や脱税対策に有効なだけではなく汚職防止にも役立つ。大半の先進国では既に導入されている制度であり危険を防ぐ仕組みも多く考案されている。「脱税が難しくなって困る」などとは言えないから、おかしな因縁を付けたり恐怖を煽ったりしているのだろう。
 なお民主党はマイナンバー制度に反対しているが、1998年に発表した「基本政策」では納税者番号制度の導入を掲げている。その後この方針は一度も撤回されていない。民主党の政策の支離滅裂ぶりを象徴する一件だろう。