金属中毒

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1 裁き

2006-12-22 21:17:49 | 鋼の錬金術師
1 裁き

エドワード達が旅立った後、ラッセルは町の会合で全てを告白した。どんな批判の言葉も殴られるのも覚悟の上であった。しかし、大事な弟を背中に隠すように立つラッセルにかけられた声は、いささか肩透かしであった。

「それじゃあ、こないだ来た、暴れん坊のちびが本物?」

「ふ―ん、国家錬金術師ってあんなのでも成れるの」

 町の人間の反応はわからないでもないが、「あんなの」扱いされてしまったエドのためラッセルは言った。

 「エドワードは本物の天才です。彼なら、錬金術の永遠の望み、真理を究めるかもしれません」

エドを絶賛したラッセルの言葉にも町の人の反応は鈍かった。

 「あんなチビがねぇ。それより石ができないってのは本当なの?」

「はい・・・」

できないと言い切るのは、錬金術師のプライドが許さないが、今はおかしな返答はできない。

あれはできないというより、造ってはいけないものだ。

町の人々はざわざわと話し合った。それで自分の罪状が決まると思ったラッセルだったが、次にかけられた言葉は予測の外だった。

「治療ができるって言ったな」

「はい、元々、そっちのほうが得意でしたし」

「よし、みんなまずは俺が借りていくぞ」

「お前のとこが終わったら、こっちだ」

「うちにもまわしてよ。」

「おいおい、うちもだ」

「今日中はとても無理だろ。おい、ベルシオ、当分お前のとこで預かるって言ったな」

「そのつもりだ。みんなが納得するなら」

「よし、連絡先はベルシオのところだ。じゃあ来い」

男は有無をいさせぬ勢いで、トリンガム兄弟を引っ張りだした。

「あの??」

車の中でフレッチャーが遠慮がちに口を開く。

「お前らがやったことは、身分詐称とか詐欺になるかもしれんが、俺にはそんなことどうでもいい。それより、娘のほうが大事だ」

連れて行かれたのは、ゼノタイム有数の富豪の家。ドアの名を見ると前の町長である。





「娘を治せるか。」

前町長は尋ねる。ラッセルは無言で上着を脱いだ。いつ書いたのか、ラッセルの手にはすでに基礎となる練成陣がある。フレッチャーも兄に習う。その行動がそのまま答えになる。

人の気配に女の子が目を覚ました。

「おじちゃん だれ」

兄の顔がわずかにひきったのを弟だけが気づいた。

「まりあ、このおにいちゃん達はお医者さんだよ。」

父親の前町長が微妙に修正した。

「あした、おそとであそべる?」

「うーん、明日すぐは無理だけど、10日ぐらい毎日治せば遊べるよ。でも、外は埃が多いからね、長くはだめだよ。」

まだ、固まっている兄に代わって弟が返事をする。

練成治癒が始まると子供の目が輝いた。

「きれい。それなーに。」

トリンガム兄弟の手から、あふれるように見えるやわらかな青い光。

「練成光っていうんだよ」

「パパ、みて、まりあのてあったかいよ」

「まりあ、 大きな声をだして・・・・大丈夫なのか?」

言葉の後半は、トリンガム兄弟に向けられた。

「話すくらいなら大丈夫です。ただ当分治癒を続ける必要がありますが」

答える兄の声が以前と違うことに弟は気づいた。エドワードの名を騙っていたときの兄は、天才エリート国家錬金術師として相応しいであろうと計算されつくした声で語っていた。

(よかった。やっと、兄さんの声が聞けた。兄さんの本当の声が)



帰りの車の中、前町長は話した。

「マリアの手が、あんなに暖かくなったのは1年ぶりだ。」

「毎日治癒と補充を続ければ、3日もすれば家の中でなら自由に遊べますよ」

「明日もベルシオのとこへ迎えに行く。マリアを治してくれ。」

「はい。あ、でも俺たちをどうするのか、町の人たちがどう決めたのかわからないのですが。」

「それは、俺が皆に言おう。それに俺と同じ考えの者も多い。元々お前たち2人もマグワ―ルに利用されただけのようだしな。マグワールの屋敷跡からあちこちの債権や宝石の詰まった金庫が見つかった。町の者の損害は多分取り返せる。」

「そうですか」

「心配か」

「覚悟してます。俺は何をされても、ただフレッチャーは俺が引きずっていただけです」

「兄さん、僕も同罪だよ。兄さんを止められてたのに止めなかったんだから。僕もこの町を

ベルシオさんの望む昔の姿に早く戻したかったんだ。」

「フレッチャーお前は黙ってろ」

「またそれ。もう僕は黙らないよ。僕が黙っていたらまた兄さんは1人で走って1人で鎖にかかるんだから」

「今回のことは、俺の罪だ。お前は巻き込まれただけだ」

「兄さんたら、また」

兄弟は車の止まったのにも気づかないで、話し込んでいる。

「ほら、着いたぞ」

車はすでにベルシオの家の前に止まっている。

「あっ、すいません。降ります。」



車を降りて風を感じたとたん、フレッチャーはラッセルにしがみついた。

「兄さん、何かおかしいよ。空が、風が  なんだか怖いよ」

「あぁ、妙な気が近づいている。通り過ぎればいいが、風しだいだな」

ドアが内側から開いた。

「帰ったらベルぐらい鳴らせ。車の音がなければ分からなかったぞ。」

「ただいま。べルシオさん」

何気ない弟の声が、これからの二人の生活を決めた。



ここは昔ナッシュが、いた部屋だ。そういいながらべルシオがドアを開ける。マグワ―ル

の所でなくした荷物がおいてあった。たいした品物ではないが、兄弟にとって過去の思い出につながる数少ない物であった。



「兄さん、風が止まったよ。」

「通り過ぎるかと思ったが、どうやらここにきたらしいな。  ん、こら、フレッチャー自分のベッドで寝ろ」弟は兄のベッドにもぐりこんできた。

「エー、だって一人はいやだ。」

「今までは、一人で寝ていただろ」

「だって、今までは兄さんを見ているのがつらかったから。それにマグワールの研究所にいたときは兄さん研究ばっかりでベッドで寝たこと、ほとんどなかったじゃない」

「そうだったか?」

「そうだよ。だから今日から一緒に寝ようね」

にっこりと下から見上げる弟に兄は弱かった。

「・・・・・今日だけだからな」



翌日、寝過ごした兄弟を起こしに来たベルシオは、ひとつのベッドに寄り添う兄弟の姿にもう一度ドアを閉じた。

(昔を思い出していいか。ナッシュ。お前は嫌がるかもな)



8時半になって、ようやく二人が降りてきた。「何かお手伝いします」と言う二人にべルシオがいった。

「お前らはお前らにしかできないことをやれ。もう迎えが来ているぞ」

「むかえ?」

「昨日聞いただろ。患者がお前らを待っている。さっさと飯食って出ろ」



こうして錬金治癒師としてのトリンガム兄弟の生活が始まった。



② ゼランドール市ゼノタイム地区へ続く

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