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プロポーズ小作戦マイナス3 2人目の黎星刻

2009-09-08 23:28:43 | Weblog
プロポーズ小作戦マイナス3

2人目の黎星刻

中華には『国家に損害を与えた罪』という法文がある。
この法は本来なら国家反逆罪などの重要犯罪にのみに適用されるはず。しかし、現実は。


息子はもうすぐ5歳になる。奇形で生まれた息子は成長が遅く最近ようやく歩けるようになった。しかし、それを見つめる父黎一籐の表情はさえない。
幼い息子が捕らえられかけている。『国家に損害を与えた罪』である。
多額の罰金を払えば服役を逃れることができる。ようするに役人どものこずかい稼ぎに狙われたのだ。そして、逃れる方法がない。
つまり、清貧と窮乏の間を行き来している黎一籐には罰金を払えない。
このままでは息子は牢にいれられ、そこで殺される。
思い悩んだ黎一籐は追放されていらい付き合いのない漢族の本家筋に助けを求めた。
得た回答は軍の補助兵に志願することであった。

中華軍では正規兵は徴兵制をとっているが、福利・厚生・医療などの専門分野は志願制を併用している。
黎一籐は医師ではないが、祖父が洋学の医師であったため医療知識がある。
地方出身兵士の部隊にはそういう医師が回されるのが常であった。

半年間の軍生活がもうすぐ終わるという頃、黎一籐は少数の兵と巡回任務に就いていた。そこでたまたま野盗に襲われて全滅したらしい村を発見。
死臭と糞尿臭が漂う村で繋がれたままのヤギが鳴く。
そんな中で黎一籐は子供を見つけた。ヤギの小屋にいたために野盗の目を逃れたらしい。
2歳になるかならないかぐらいの年。黒髪に黒い瞳。
その瞳の漆黒に黎一籐は親族の分家に預けてきた息子を想った。
他には似ているところはない。
子供の顔立ちは幼いながらもすでに秀麗で、どうやらこの村の生まれではないらしい。
黎一籐は子供を連れ帰った。この時点で黎一籐の意図は、息子の弟として育てるつもりだった。兄弟として育てれば、自分が死んだ後も息子を守る存在になってくれる。
この考えを身勝手と思う人もいるかもしれない。しかし、黎一籐が助けなければ子供は廃村で餓死するしかなかった。中華軍には難民を助ける伝統は無い。子供を連れ帰った黎一籐を他の兵士は不思議なものでも見るかのように眺めた。

そしてようやく半年が終わり、黎一籐は洛陽の片隅に戻った。もちろん連れ帰った子供も連れてきている。まずは息子を預けていた漢族の分家の家に息子を引き取りに行く。
しかし、息子はすでに死んでいた。
唖然とする黎一籐に分家の者が言い訳する。遊んでいて水路に落ちたのだという。
渡されたのはわずかな遺骨。
小さな自宅に帰った黎一籐は虚脱したまま一日を過ごした。
不意に子供の泣き声がする。いきなり知らないところに連れてこられ、丸一日ほったらかされて空腹に耐えかねた子供が泣いていた。
見上げてくる漆黒の瞳。

その瞳に自然に黎一籐は呼びかけた。
「星刻、ごはんをつくろうな」

この日、2人目の黎星刻が洛陽に産まれた。

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