金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

永続調和のちぎりはかわしていないけれど。

2015-08-21 00:44:41 | Weblog
わたしは、すきです 
永続調和のちぎりはかわしていないけれど。





 生まれたばかりの山姥切は髪を梳かれるのも結われるのも嫌いだった。鏡に映る姿はいつも自分だけ違うから。
「なぜ、このようなすがたをしている?」
細い体、金の髪、霊父に似ず、兄達とも違う。
問いに答えは無い。
返答はある。
父の弟子達は口をそろえて言う。
「本科様に合わせてうつくしくお生まれです」
それを聞き、山姥切は大きく膨れる。
見たこともない本科なんて知らない。

弟子達は困ったように視線を交わす。それから(しかたない)と言いたげな顔をして、本科の山姥退治のお話をする。銀の髪、銀の瞳の刀剣が悪しき神である山姥を切り平和をもたらしたお話。山姥切にはおはなしが信じられない。だって、話してくれる人が誰もおはなしを信じていないから。

山姥切がむずかりあやしきれなくなると、面倒になった弟子達はある下人を呼ぶ。
その下人は本来鍛冶場に姿を出せる身分ではない。だが、どういうわけか刀霊をはっきり見、声をかわすことができる。
どうも、その下人には刀霊が普通の人の子に見えているらしい。




もう日も高いのにいまだに乱れたままの髪をしている幼子に下人は小さな櫛を手に金糸の髪を漉いた。さらさらの心地よい手触り。幼子の髪は癖がほとんど無い。
鏡がうつすのは下人の真っ黒い髪と幼子の金の髪。
「なぜだ」
「はい、おかたなさま」
「どうしておれだけこの姿をしている」
その疑問を幼子は初めて下人に問う。

鏡の中、新緑の瞳が揺れる。
髪を漉く下人の手が止まる。下人は弟子達から言われていた。もし、山姥切が問うなら山姥退治のおはなしを答えよと。
しかし。
それは幼子の聞きたい答えではない。

「おらすいとるよ」
えっ?
鏡の中の揺れる瞳が止まる。
「おかたなさまの髪も、目も」
さらり、櫛を手放して、下人のごつい指が直接に幼子の髪を漉く。

「こげんきれいなもんはじめてみたと」
「きれい」
「んだ、きれいだ」
下人の目は己だけに注がれている。
幼子は知る。
これにとってきれいとは己なのだと。そこには比較も優劣もない。
ただ、己だけなのだから。

「おまえに許す。おれをきれいということを」
「へぇ」

「だから・・・」
だからの続きを幼子はその日言えなかった。
あす言おう。そう思った。

だが、幼子はその日の午後、注文主のもとへ運ばれた。

注文主は山姥切国広のきれいさをほめた。
しかし、幼子はそっぽを向いた。
「おれにきれいと言っていいのはあいつだけだ。」

「きれいなんていうな」
少年は今も自分だけを見ていたあの瞳以外の声を、拒絶する。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿