金属中毒

心体お金の健康を中心に。
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覚えていること思い出したことを年上に相談してみる

2015-08-03 10:52:48 | 刀剣
むかしばなしだし、きにしなくていいですよ。

白くて身軽な子どもはそう言って笑った。

ぼくらだってむかしのことはおぼえてるだけがただしいんです。
きりくにはなんでもきにしすぎるからおなかいたいんです

白い子供は枝からもぎとったクルミのはちみつ漬けを、手に3個乗せる。
どうするのかと思えば3個まとめて口に彫りこんだ。

こりす 声に出さずに切国はつぶやく。
ぷっくら膨れた両頬、舌の上で転がされている3個目の胡桃。ちらりと見える舌先。それにあふれるように蜜が絡む。

蜜付けの胡桃のなる木は早い時期に造った。姫宮(さにわ)がごこたいに食べさせたケーキ。その上に鎮座していたのが蜜付けのクルミ。

おいしいということを始めて理解したごこたいは畑の脇にクルミを植えた。きっと来るだろう、兄弟達にも食べさせたくて。

普通なら畑の肥料になっておしまいだが、この本丸には切国がいた。
かわいい弟の行動を姫宮(さにわ)から聞いたこの兄は迷うことなく円陣を描き紅の光を散らせた。

以来おやつ系果物は増え続け、今では50種類を超えている。

そのおやつ畑の脇の白いテーブルセットで短刀と打刀はお茶にしている。グラスの中でゆれているのはミントの葉。グラスだけでなくすべてが洋風だ。


先日、ふとした会話から今剣が昔付き合っていた相手との思い出話になった。
と言うと短刀のことだから、ふわふわうふふきゃきゃ的な内容だと思われるだろう。
しかし、現実の話は大違い。実質的なやるやられるの赤裸々な話だった。

 切国、山姥切国広は以前重症を負った。切国本人はそれを覚えていないがさにわが教えてくれた。以来、時々記憶が混乱する。知らないことを思い出す。
その記憶が今回問題だった。
大切な弟に壁どんされて口説かれて押し倒される記憶。
そんな記憶知らない、それは俺じゃない、そう叫んで逃げようとして、・・・崖から落ちかけたところをごこたいに助けられた。以前にも似たことがあった。昼も夜も無く、いきなり記憶が戻る。そのときの記憶はごくふんわりしたものだった。ごこたいとさにわに話すと落ち着いて思いだすこともなくなった。

さにわの推測では「誰かに話すことで、新しい記憶として安定する」らしい。
だが、今回の記憶は話したくなかった。内容が悪い。

 しかし、話さないといつまでも記憶に支配される。不安、あせり、嘆き、そんな感情に叩き込まれてこのところ不眠状態だ。

 もともと切国は同種の他の個体に比べて食が細い。体格も華奢だ。さにわはそれを自分の霊力が少ないせいだと言う。だが、他の刀剣にはそういう欠陥はない。
 「俺が写しだから、できが悪いんだ」
以前、記憶に悩まされたとき、そう口にして、さにわに大泣きされた。

今回、またあんなことを口にしてさにわを泣かすようなことがあってはならない。
しかし、内容が内容だけに言う相手は慎重に選ばないと、そう思っていた折、今剣のおしゃべりを聞いた。
 これぞ救いの神とありがたく今剣に聞いてもらうことにした。そういえば今剣は見た目は子供でも中身はものすごくじいさまだ。


 「つまりおとうとにほられて、そのおとうとがふくかんにほられてるのをたすけなかったからなやんでるんですか」
それなりに長い切国の話を今剣は8秒で要約した。
 
うーと音にせず切国はうめいた。
確かにそういうことだけど。
「そんならいいことおしえてあげます」
そう言って今剣は清らかに笑った。
「ほっていいのはほられるかくごのあるやつだけだ」