ひとり語り 劇車銀河鐵道 いちかわあつき

 ひとり語りの口演や、絵本の読み語りなどの活動をしています。
 何処へでも出前口演致します。

佐藤泰志著「海炭市叙景」

2010-11-01 12:06:43 | Weblog
 10月11日に小学館文庫から刊行された表題の本を、昨日やっと手に入れました。

 今から20年前の1990年、41歳で自らの命を絶った作家佐藤泰志。
 作家としての高い評価を受け、芥川賞候補に5回ノミネートされるも受賞するにいたらず、忘れ去られようとしていたこの作家の遺作「海炭市叙景」が映画化され、またこうして脚光を浴びることは喜ばしいことだと思います。

 といって、私は数年前に読書家の知人に教えられて、すでに絶版になっていたこの小説を、町の図書館で探してもらい、他の図書館から取り寄せてもらって読んだのがはじめてで、そのほかの佐藤作品はいまだ読む機会に恵まれていません(図書館に置いてないのです)。

 知人はモノトーンな声でいいました。「彼の作品が芥川賞とれなかったのって、おかしくない?」
「う~ん、そうですねえ。実力からいえば他の芥川賞受賞作家に比べても遜色ないどころか、いいものを持った作家ですよねえ」
 読了後、私もそう思ったものでした。

 ただ、暗いものが敬遠されてきた傾向はバブル期前後からずっとあって、この作家の作品が「重い」「暗い」を理由に敬遠されてきたのなら、この20年に及ぶ平成の時代は、やはり不幸な時代だったといえるかもしれません。

 私は、自殺という行為はいかなる理由においても否定する立場を取りますが、かといって過去に自死を遂げた作家のものを読まないということはないし、そんなひとつの枠にくくる気も毛頭ありません。自らの作品のために命すらも厭わないというのが、本当の小説家というものでもあるからだと、考えるからです。

 佐藤泰志の小説が読まれる、やっと時代がそうなってきたのかとも思います。
 旬というものが、その生きてある時間と必ずしもそぐわない、そんな作家は結構いるものです。

 時代に合わせて生きること、時流に乗ることの方が難しい人間も、世間にはいるのですから。