思い出の鍵
缶、壜、ホウロウに土地の思い出を詰めておく。
思い出を呼び覚ますのは匂い。
視覚的なものよりも、匂いは頭の中の錆びついた引き出しを、するりとあける。
薔薇の町の特産は、薔薇ジャム。
薔薇屋さんに積み上げられた、薔薇ジャムの缶は、店によってデザインが違う。
一缶1キロ、町中の薔薇屋さんを廻って、どの缶にするか決め、
へこんでいないか?傷が付いていないか?ためつすがめつ見て、
「味に変わりはないさ!」という、店主のあきれた顔もものともせず、選んだ一缶。
薔薇ジャムは、惜しげもなく入った薔薇の花びらでこってりとしていた。
紅茶に一匙落とすと、ぱあ~と広がる花びら。
美味しいからと配っていたら、あっという間に空になってしまった。
空き缶には、もちろん薔薇を!
毎日のお茶に薔薇は欠かせない。
プーアル茶をベースに、薔薇、そしてカモミールなどをブレンドして作る私だけの暴暴茶。
暴暴とは、暴飲暴食の略。
好きなだけ食べて、飲んで、美容と健康を保てるお茶。
エジプトでごっそり買った薔薇の花を保存しておくのに、
この缶はぴったり。
湖沿いの小さな食器屋さんにも、薔薇食器が一そろい並んでいた。
「薔薇?ただの薔薇なんかいくらでもあるさ。いたるところ、全部薔薇さ」
この町の人の言葉通り、どこを見ても薔薇。薔薇のない生活が考えられない人たちの笑顔も、大輪の薔薇…