買い物帰り、夕方、まだ日は高い。
6時頃のデボット神殿が好き。
神殿を見て、下ったところにある薔薇園を通り抜けて、宿へと帰るマドリーの私の決まったコース。
アスワンハイダム造成のおり、ユネスコのアブシンベル神殿移築に深く尽力したとして、エジプト政府からスペインに贈られた神殿は、ある意味この地にふさわしい。
現在のスーダン寄りにあったメロエの王が建造したこの神殿は、後にローマ皇帝たちが増改築を施した。
スペイン生まれのハドリアヌスしかり。
ハドリアヌスの魂が、沈み行く運命であったこの神殿を憂い、恋しい気持ちで呼び寄せたのだと、神殿を囲む池の小波に聴く。
ハドリアヌスが呼ぶ。
「さあ、行きなさい。偉大なる緑の土地へ。ナイルの国へ」
地中海を渡りなさいと風が言う。
私はいつも混乱する。
「おお!ハドリアヌスよ!あなたはどちらから私を呼ぶのです?」
「この神殿に、エジプトの匂いを運んでおいで」
そう、この神殿にかけているもの。それは匂い。
美しく、完璧に修復されたこの神殿に感じる、魂の安らぎに必要なもの。
ハドリアヌスの美しきアラバスターのキオスクが、エジプトに今も建っている。
私はそこへ出かけましょう。