イスラミック・ブルー

スペイン、エジプト、イラン、トルコ、チュニジアへ、イスラミックな旅へ。
スペイン/地中海レストランガイド

坂の街、アグイラール・デ・ラ・フロンテーラ

2005-03-09 22:58:53 | アンダルシア
 「さあ、降りた!降りた!ここがアグイラール・デ・ラ・フロンテーラだよ」バスの運転手が振り返って叫んだ。バルの前でバスは停まった。バス停とは思わずのんびりしていた。飛び上がるようにして降り、バスの下からバックを引きずり出す。木漏れ日がバルのガラス窓に写りキラキラと輝く。まぶしい。さて、ここはこの街のどのあたりなのだろうか?静かな並木を歩き、大型スーパーを覗き込みながら、まずはインフォメーションの矢印を追って町の中心へと向かう。
 日本にいる時、この街に来るとは思っていなかった。旅の流れで降りたったために、詳しい資料が何も無い。どうやらインフォメーションは休みのようだ。この街も、聖週間や団体が来るときしかインフォメーションを開けないのかもしれない。オスタルの看板が見えたので、矢印に従ってどんどん街の中に入っていく。適当に道を曲がりながらしばらく行くと、国旗のかかった建物が目に入った。ビンゴ!
 閑散とした暗いバルの奥からおじさんが出てきた。「空き部屋はありますか?」と聞くと「シー」と答えが返ってきた。空き部屋は…はスペイン語で聞いたが、宿代を紙に書き込んで見せてきた。「いいか?」と聞くので今度はこちらが「シー」と答える。
 「勝手に上がりな」と言われ、指差されたドアをあけると、家族のリビングがあった。階段を上がり狭い廊下を右往左往し、部屋にたどり着く。長居をしたい宿では無い。
 とりあえずスーパーへと向かい、食料を仕入れる。街の中をブラブラと歩き、大きな公園に出る。薔薇の花が咲き、オレンジが実り、イスラームの庭園だ。細長いサボテンがにょきにょきと生えている。スーパーで買ったアプリコットを食べていると、通りすがりの人たちが微笑みかけてくれる。
 この街は坂が多い。路地を覗き込むと、日本であれば「富士見坂」と名前のつきそうな急な坂も少なく無い。看板にそって歩いていくと、少し開けた場所に出た。子ども達がフットボールをしている。ここでもインフォメーションが閉っている。悔しいことに、ガラスケースの向うにはパンフレットや地図が山積みになっているのが見える。ふと見ると隣りの建物が開いている。小さな噴水が入り口にあり、子どものための図書館か塾か。子ども達は本に囲まれた小さな部屋への珍入者に驚きいっせいに顔を上げた。誰かが先生を呼びに言った。出てきた人に聞いてみると、インフォメーションがいつ開くのかは判らないと言う。それでもしつこく「私は地図が欲しい」と訴えかけると、一部もって来てくれた。大きくて立派な地図だ。裏にはスペイン語と英語で町の説明が書いてある。
 地図を貰った建物の突き当たりに教会があるので行ってみた。イグレシア・デ・ソテラーノ。祈りを捧げる親子連れが何組もいる。十字架を背負った大きなキリストの御足に接吻する人たち。子どもを抱え揚げ、接吻させる母親。そして、その御足を白いハンカチでそのたびに拭く。傷まないようにという配慮であろう。暗いイグレシアの中で、赤いロウソクの炎がゆらゆらと揺らめく。大都会のカテドラルとは違い静かであるが、かといって静か過ぎるわけでもない。安心感のあるざわめき。祈りに集中できる丁度良い空気がそこにはあった。
 沢山ある像の中で、私は一体のマリア像の前で動けなくなった。ロウソクを上げ、腰掛けて祈った。深く、深く。私がかつて、気がつかずに傷つけた人の心が癒されるように。いつまでも私は目を瞑り、手を合わせていた。遠くにベビーカーの音と、子どもの声が聞こえる。
 また雨だ。標高が高いせいだろうか。天気が変わりやすい。さっきまでの青空がうそのような土砂降り。傘は宿で寝ている。これは祈りを捧げなさいと言う、神のお導き。私はまた深く頭をたれた。
 どの神もすばらしいと思う。神は等しく我らを守り、導いてくれると思っている。だから今日は、ここで祈りを捧げる。