今回の参院選で自民・公明の与党は、憲法改正の国会発議に必要な2/3には届かなかったとは言え、改選定数の過半数を占め、安倍首相も一安心であろう。
安倍首相の選挙演説では、常に表情は明るく、言葉は明確で力強く、大衆受けするようよく練られている。また、自らの成果を大げさに誇る一方、敵の欠点をあげつらう点、トランプ大統領とそっくりである。しかし、大統領の方は多少野次を飛ばされてもそれを無視する大胆不敵さがあるが、我が首相の方は野次には耐えられない無いようだ。
とは言え、安倍政権の大衆へのプレゼンテーションは見事である。スローガン、キャッチフレーズを多用し、マスコミを巧みに利用する。
安倍首相は、政権発足当時、”美しい国、日本”を盛んに使っていた。この言葉は、受け取り手に取って様々に解釈出来る。ごみの無い清潔な日本の実現から、果ては華美飽食が可能な日本、まで十人十色勝手に解釈できるのが付け目だ。
安倍首相の考えの根底には”日本会議”の考えがある。日本会議は、美しい日本の再建と誇りある国づくりを掲げている団体で、安倍首相はそこの特別顧問でもある。具体的には男女共同参画条例への反対等、昔ながらの道徳を重視する社会の実現あり、最近の世界の流れであるジェンダーフリーの思想とは相容れない考えである。
森友学園の籠池前理事長は、幼稚園児に教育勅語を暗唱させていたが、安倍首相自身は世間の反発を考え、そこまで露骨に自分を出していない。オブラートで上手に覆い隠しているのも見事なマスコミ対策である。
今回の選挙のスローガンは、”明日の日本を切り拓く”、であり、前の衆院選挙では”国難突破解散”であった。具体的内容は兎も角、イメージを作りあげ情報化社会に旨く乗っている。
異次元金融緩和では”三本の矢”を放ち、世間が飽きてくると”新・三本の矢”を放った。結果がどうなったかは二の次であり、常に何か新しいイメージを売り込む戦略である。
最近では、我が国の構造的な問題である少子高齢化に対し、”希望を生み出す強い経済”、”夢をつむぐ子育て支援”、”安心につながる社会保障”の実現を目的とし、”一億総活躍社会”とか”すべての女性が輝く社会”の実現と美辞麗句を連発する。
また、大手メディアの幹部やニュースキャスターらと頻繁に個別懇談をしたり、現行の放送法には政治的公平を守ると書いてあるが、全然守られていないとマスコミ批判もしている。
気に食わない放送局の取材・出演拒否や逆に気に入ったインターネット放送等には積極的に出演する等、アメとムチを上手に使い分けている。公平とは何かは議論有るところであるが、不公平には不公平で対処するやり方は、一国の首相として恥ずかしい。横綱相撲を取って欲しいものだ。
最近、放送とインタ-ネットの競合問題等、メディア界の産業構造の変化があり、テレビ放送で契約した人だけが視聴できるようにするスクランブル放送システムに賛同する”NHKから国民を守る党”も国会に誕生した。NHKもテレビ放送のインターネット常時同時配信の実現を熱望しているが、国に承認を得ねばならず、政府のご機嫌を損なう訳にはいかない。忖度が生きるところだ。2019.07.27(犬賀 大好-567)