東京都の築地市場から豊洲市場の移転をめぐり、1月14日に開催された専門家会議において、それまで定期的に行ってきた地下水モニタリング調査の9回目の結果が公表されたが、予想を超える悪い結果であり、豊洲市場の今後の扱いに関して一層不透明になった。
これまで検出されないことが無いシアンが初めて検出され、調査地点のうち72地点で基準を上回るベンゼン、ヒ素、シアンのいずれかが検出されたのである。その検出量も、ベンゼンは最大で環境基準の79倍、ヒ素は最大で環境基準の3.8倍、検出されないことが基準のシアンは最大で1リットル当たり1.2ミリグラム検出であった、との公表内容であった。
そもそも、今回の9回目の検査は一連の検査の最後の検査であり、安全であることを最終確認するためとの位置づけであった。ここで安全であることが確認されれば、これまで延期されてきた移転の時期もかなり明確になり、市場関係者も一安心となる筈であった。
専門家会議では、”なぜこうなったのか、原因究明が必要”、”地下水の採取方法などにミスがあったことも考えられる”として、引き続き複数の検査機関でチェックするよう都に求め、都もその方針のようだ。今回の検査を行った企業はそれまでの検査機関とは別のようであり、ここにおいても都の行政の不透明さが窺い知れる。
朝日新聞の世論調査(2月21日報道)によれば、豊洲市場の移転中止が43%で、目指すべきの29%を上回ったとのことであるが、筆者は余程のことが無い限り、目指すべきと考える。これまでに多額の投資をしてきたこと、また今後の安全対策次第で都民の安心・安全が得られると思うからである。
これまで、土地の汚染に関しては専門委員会が扱ってきた。この委員会は予定地の土壌汚染調査を行ったうえで、生鮮食料品を扱う豊洲新市場において、どのような対策を行えば、健康への影響が出ないようにできるのか、また、生鮮食料品への影響を防止できるのかを科学的に検証し、食の安全・安心に十分配慮した土壌汚染対策を提言としてとりまとめてきた。
しかし、専門委員会で健康への影響が出ないとする指標は、厚生労働省が許容一日摂取量(ADI:人が毎日一生涯摂取し続けても、健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量)より決めている値を基に、環境省が環境基準法で決めた基準値であろう。この基準値は毎日摂取されることを前提として決めた値であり、毎日豊洲経由の食材を食べるわけでもないので、基準値を多少超えたところで、そんなに問題になることは無いわけだ。
また、化学物質などの環境リスク評価で知られる産業技術総合研究所名誉フェローの中西準子氏は、土壌汚染が存在すること自体が問題ではなく、土壌に含まれている有害物質が人の体に入る経路があるのかどうか、入ったとしてどれくらいの量なのかということが問題である、と指摘している。
すなわち、いくら土壌汚染があったとしても、それが人の口には入らなければ問題ではなく、それらについて議論しないまま、地下水からベンゼンやヒ素が検出されたと大騒ぎしていること自体が大きな問題だと言っている。全く同感である。
豊洲移転を全うするためには都民の安心・安全を得ることが最低限必要である。このためには次の二つのなすべきことがある。
一つは、土壌に含まれている有害物質が人の体に入る経路の遮断、すなわち地下水は一切使用しないことや空気は強制循環の徹底、等を図るとともに、それでも人体に入ったとしてどれくらいの量なのかを明確にすることである。築地市場ではまぐろを床に直接おいて”せり”を行っていたが、豊洲では床にすのこを敷き、そこに並べる等の工夫をする必要が出てくるかも知れない。この件は、専門委員会の活躍に期待したい。
それにも増して重要なのは、都の信用回復である。建屋の下に盛り土をする件に関して、いつの間にか盛り土の代わりに地下室が設けられていた。誰が何の目的で設けたか、未だ明らかになっていない。近く100条委員会の開催が決まったとのことであるが、信用回復に役立つであろうか。都庁に蔓延る無責任体質が根源と思われるが、小池都知事の手腕にも期待がかかる。2017.02.22(犬賀 大好-314)
これまで検出されないことが無いシアンが初めて検出され、調査地点のうち72地点で基準を上回るベンゼン、ヒ素、シアンのいずれかが検出されたのである。その検出量も、ベンゼンは最大で環境基準の79倍、ヒ素は最大で環境基準の3.8倍、検出されないことが基準のシアンは最大で1リットル当たり1.2ミリグラム検出であった、との公表内容であった。
そもそも、今回の9回目の検査は一連の検査の最後の検査であり、安全であることを最終確認するためとの位置づけであった。ここで安全であることが確認されれば、これまで延期されてきた移転の時期もかなり明確になり、市場関係者も一安心となる筈であった。
専門家会議では、”なぜこうなったのか、原因究明が必要”、”地下水の採取方法などにミスがあったことも考えられる”として、引き続き複数の検査機関でチェックするよう都に求め、都もその方針のようだ。今回の検査を行った企業はそれまでの検査機関とは別のようであり、ここにおいても都の行政の不透明さが窺い知れる。
朝日新聞の世論調査(2月21日報道)によれば、豊洲市場の移転中止が43%で、目指すべきの29%を上回ったとのことであるが、筆者は余程のことが無い限り、目指すべきと考える。これまでに多額の投資をしてきたこと、また今後の安全対策次第で都民の安心・安全が得られると思うからである。
これまで、土地の汚染に関しては専門委員会が扱ってきた。この委員会は予定地の土壌汚染調査を行ったうえで、生鮮食料品を扱う豊洲新市場において、どのような対策を行えば、健康への影響が出ないようにできるのか、また、生鮮食料品への影響を防止できるのかを科学的に検証し、食の安全・安心に十分配慮した土壌汚染対策を提言としてとりまとめてきた。
しかし、専門委員会で健康への影響が出ないとする指標は、厚生労働省が許容一日摂取量(ADI:人が毎日一生涯摂取し続けても、健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量)より決めている値を基に、環境省が環境基準法で決めた基準値であろう。この基準値は毎日摂取されることを前提として決めた値であり、毎日豊洲経由の食材を食べるわけでもないので、基準値を多少超えたところで、そんなに問題になることは無いわけだ。
また、化学物質などの環境リスク評価で知られる産業技術総合研究所名誉フェローの中西準子氏は、土壌汚染が存在すること自体が問題ではなく、土壌に含まれている有害物質が人の体に入る経路があるのかどうか、入ったとしてどれくらいの量なのかということが問題である、と指摘している。
すなわち、いくら土壌汚染があったとしても、それが人の口には入らなければ問題ではなく、それらについて議論しないまま、地下水からベンゼンやヒ素が検出されたと大騒ぎしていること自体が大きな問題だと言っている。全く同感である。
豊洲移転を全うするためには都民の安心・安全を得ることが最低限必要である。このためには次の二つのなすべきことがある。
一つは、土壌に含まれている有害物質が人の体に入る経路の遮断、すなわち地下水は一切使用しないことや空気は強制循環の徹底、等を図るとともに、それでも人体に入ったとしてどれくらいの量なのかを明確にすることである。築地市場ではまぐろを床に直接おいて”せり”を行っていたが、豊洲では床にすのこを敷き、そこに並べる等の工夫をする必要が出てくるかも知れない。この件は、専門委員会の活躍に期待したい。
それにも増して重要なのは、都の信用回復である。建屋の下に盛り土をする件に関して、いつの間にか盛り土の代わりに地下室が設けられていた。誰が何の目的で設けたか、未だ明らかになっていない。近く100条委員会の開催が決まったとのことであるが、信用回復に役立つであろうか。都庁に蔓延る無責任体質が根源と思われるが、小池都知事の手腕にも期待がかかる。2017.02.22(犬賀 大好-314)