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半田滋さんに聞いた:ウクライナ侵攻を機に、「核の脅しには屈しない」という国際世論を生み出そう

2022年03月16日 | 社会・経済

この人に聞きたい

By マガジン9編集部 2022年3月16日

 マガジン9 (maga9.jp)

    ロシアによるウクライナ侵攻を機に、軍事力の増強や憲法9条改正を求める声が目立っています。政治家の中からは、国是であるはずの非核三原則の見直しに踏み込むような発言も。果たしてそれは、本当に私たちの安全を守ることにつながるのでしょうか。ウクライナの状況を前に、私たちが考えるべきことは? 防衛ジャーナリストの半田滋さんにお話をうかがいました。

プーチン政権はなぜ、ウクライナ侵攻に踏み切ったか

──今回のロシアによるウクライナ侵攻を、どう見られていましたか。

半田 ロシア軍は昨年11月ごろからウクライナ国境周辺に10万人規模の兵力を展開し、今年2月末にはそれを19万人体制にまで拡大させていました。ですから、何らかの軍事行動はあるだろうとは思っていましたが、ここまで大規模な侵攻になるとは考えていませんでした。狙いはウクライナ東部のドンバス地方の実質的な占領であって、そこをNATOの東方進出に対する緩衝地帯にしたいのだろう、しかしそれにしては展開されている戦力があまりにも大きい……と思っていたら、今回の全面侵攻になったわけです。

──なぜロシアのプーチン大統領は、ここまでの大規模な侵攻に踏み切ったのでしょう。背景には「NATOの東方拡大」があるといわれていますが……。

半田 もともと、NATOというのは冷戦時代、西側諸国が「ソ連の脅威」に対抗するためにつくった軍事同盟ですから、プーチンの立場からすれば、冷戦終了とともに解散するべきだったということになります。それが、解散するどころかどんどんヨーロッパから東側へと拡大し、かつてNATOと対立するワルシャワ条約機構に加盟していた国々や、バルト三国などロシアとともにソ連邦を構成していた国々までが加わるようになった。プーチンは2010年に出した「軍事ドクトリン」ですでに、「NATOはロシアにとっての安全保障上の脅威」だと明言していました。

 そして、2014年にはウクライナで革命が起こり、反ロシアの親米政権が成立。19年に就任したゼレンスキー現大統領はNATO加盟を選挙公約に掲げ、憲法にも努力目標として書き込みました。ロシアから見れば、ウクライナのNATO加盟はもはや秒読みの段階に見えたでしょう。

 昨年12月には、プーチンはNATOに「NATOがこれ以上東方拡大をしないという法的な根拠を求める」などと記した、最後通牒ともいえる書簡を出しています。しかし、バイデン米大統領はじめNATO側は、ロシアがウクライナ国境に兵力を展開させ始めた後も、これに応じようとはしませんでした。

──大規模な侵攻にまでは踏み切ることはないという読みだったのでしょうか。

半田 最近は、ロシアからの天然ガスの輸出入などを通じて、西側諸国とロシアとの経済的なつながりが非常に強くなっていました。それだけに、ロシアもまさか無茶なことはしないだろうと「なめていた」ところがあったのだと思います。

 しかしロシアにしてみれば、アメリカとの関係においても、弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)、中距離核戦力全廃条約(INF条約)と、ソ連時代に結んだ軍縮条約を次々反故にされているわけで、NATOの東方進出との「二段構え」で脅かされているという感覚があったでしょう。そして、今後ウクライナのNATO加盟が実現したら、ウクライナを攻めればNATO軍が出てきて全面戦争になる、その前に…という、プーチンにとってはぎりぎりの判断だったのかもしれません。

 また近年、プーチンの65歳の誕生日にあわせてロシア各地で反体制デモが起こるなど、プーチンの政権基盤は必ずしも盤石とはいえません。「外憂」を作って国民の目をそちらに向け、国内政治を安定させたいという意識もあったのではないでしょうか。

──戦争の早期終結に向けて、ウクライナ側に「妥協」を求める声もあります。

半田 ロシアはウクライナの「非軍事化・中立化」を求めていますが、「NATOに入らない」くらいのことでは、もはや合意は不可能でしょう。プーチンの狙いはゼレンスキー政権を倒してウクライナに傀儡国家を作ることでしょうから、その目的が果たされない限り、ロシアが退く可能性はほぼないと思います。ゼレンスキー政権が倒れるか、経済制裁などの結果としてロシアでプーチン退陣を求める声が高まり政権崩壊に至るか、そのどちらかでしか戦争終結はあり得ないのではないでしょうか。国際社会としては、なんとかプーチン退陣のほうが先になるようウクライナを支援するしかないのだと思います。

 日本がやるべきは、まず人的貢献でしょう。国際緊急援助隊の医療隊をウクライナに隣接する東欧諸国へ派遣する、医薬品を送る、ポーランドなどで難民支援をしているNGOを政府として支援する……。自衛隊の装備品提供も否定はしませんが、小銃や弾薬など殺傷兵器の提供にまでエスカレートしないよう、注視が必要だと思います。

日本とウクライナとでは、状況が大きく異なる

──さて、ウクライナ侵攻があって以降、ドイツが防衛費の大幅な引き上げを決定するなど、世界的にも軍事力重視の傾向が強まっています。日本でも「軍事力を強化すべきだ」という声をしばしば耳にするようになりました。

半田 今回、国連加盟国の模範となるべき安保常任理事国のロシアが真っ先に国連憲章を破り、隣国に侵攻したわけですから、各国とも軍事費を増大させて守りを固めていこうという流れが出てくるのは、ある程度やむを得ないともいえます。

 ただ、冷戦終了後に軍事費を大きく削減したヨーロッパ諸国などと違って、日本はそもそも冷戦後も防衛費は高止まり、特に第二次安倍政権が成立した2012年以降は急速な増額が続いています。ただでさえそうした方向性で進んでいるところに、さらに「軍事力の強化」を進めるのはやり過ぎだと思います。。

 「ウクライナのように攻められたら反撃できるよう、憲法9条の改正が必要」だという人もいますが、9条のもとでもこれまでの政府解釈上、自衛戦争は否定されていません。しかも、日米安保条約がある以上、日本が攻撃されれば必ず米軍も出動することになります。

──今回、アメリカはウクライナへの派兵を見送りました。同じように、たとえば台湾有事の際にも米軍は出てこないのでは、という声もあります。

半田 ウクライナについては、バイデン米大統領は昨年12月の時点で「派兵しない」と明言していました。一方で、台湾に対しては「防衛の責務がある」と繰り返し発言しています。それが中国の警戒感を増大させているという問題はあるにせよ、対ウクライナとはまったく違う態度を見せているのは確かです。

 ましてや日米安保条約があり、5万人の米兵が駐留する日本が攻められたときに、それを「見捨てる」という選択肢は、アメリカにはないといえます。つまり日本は、侵略を企てる国から見れば、恐ろしく手強い国だということです。

 それを、まったく状況の違うウクライナの場合と一緒くたにして人々の不安につけ込み、これまでの政府の憲法解釈も無視して軍事力の増大に向かうなどというのは、火事場泥棒としか言いようがないでしょう。

──ただそうなると、やはり日米安保は重要だということになりますか。

半田 私は、安保条約自体はあっていいと思っています。ただそれは、アメリカの言いなりになるということではありません。政治家には、そのメリットとデメリットをしっかり見据えた上で、日米安保を「一つの知恵」として賢く利用してほしい。かつて戦後日本は「軽武装・経済重視」といって、防衛はもっぱらアメリカに任せて経済に全力投球することで、急速な経済発展を遂げました。そのように、ときには「ずる賢く」立ち回るのも政治だと思うのです。

 しかし、近年の日本はそのまったく逆で、アメリカが求めてもいないのにこちらから忖度して動いています。アメリカ製の武器を大量買いしたり、安全保障関連法をつくって集団的自衛権の行使を容認したり……。その一方で、米軍基地や米兵による犯罪はいっこうに減らず、思いやり予算は増額されて、米兵が日本に来るときだけなぜかPCR検査なしでも構わないなどという、めちゃくちゃな状況になっている。そうではなく、日米安保を維持するのならそれをしっかりと利用できるように、政治家にまともな仕事をしてほしいと思うのです。

「核共有」は、意味のない精神安定剤

──ロシアによる「核の脅し」を受けて、日本の一部の政治家からは「非核三原則を見直すべきだ」といった発言も出てきています。

半田 まず認識しておかなくてはならないのは、日本は核不拡散条約(NPT)加盟国であって、「核保有国5カ国以外の国」として核兵器の開発・保有を禁じられているということです。そこを破って世界中から経済制裁を受けているのが北朝鮮ですが、それと同じことをするのか? という話になります。

──安倍元首相などは、自分たちで保有するのではなく、アメリカ製の核兵器を日本に配備して共同運用する「核共有」を検討すべきと主張していました。

半田 「NPT加盟国のドイツやイタリアなども核共有している」といわれますが、実はこれらの国で核共有が始まったのは1950年代。NPTに関する交渉が始まるより前のことです。そして交渉の段階では、核共有についての事実は隠されていました。だから、NPTの解釈上も脱法的な行為であって、すでにNPTに加盟している日本がこれから核共有をしたいと言っても、認める国はないでしょう。

──ドイツやイタリアにおける核共有の事実が明らかになった後、問題にはならなかったのでしょうか。

半田 NPTは平時における条約であって、有事においてはそこまでの効力はない、共有されている核を実際に用いることがあれば、それはもはや有事なんだからNPTには縛られないんだというのがアメリカの主張です。とはいえ、核使用のための訓練などは平時に行うわけで、あまりにも無理のある主張なのですが。

 ただ重要なのは、共有されている核は、当然ながらアメリカの許可がないと使えないということ。そしてアメリカが許可することはまずありませんから、結局は「絶対に使えない武器」です。しかも、ドイツやイタリアに配備されているのは旧式の、戦闘機に搭載して投下するタイプの核兵器。制空権を確保していないとほぼ投下は不可能ですが、制空権があるくらい勝っているのなら核兵器なんて使う必要はないわけで、その意味でも「使えない」。だからこそ広島・長崎への原爆投下の後、各国は離れたところからミサイルで撃てる核兵器の開発を目指したわけです。

 一方で、核共有している国々、とりわけ第二次世界大戦の枢軸国であるドイツやイタリアが「核開発をしたい」と言い出したときには、「あなたの国にはアメリカの核兵器がすでにあるでしょう」と言って止められる、そういう意味では共有に意味はあるといえます。事実、フランスはド・ゴール大統領の時代に、「アメリカが核使用を認めるとは思えないから、自前の核を保有する」として、核共有に加わることを拒否しました。

 こう見てくると、核共有などというのは、何の意味もない安っぽい精神安定剤、お守りに過ぎません。冷戦終了後、カナダやギリシャなど何カ国もが核共有を終了させたことも、それを証明しています。その核共有を今になって日本が、しかも首相経験者が言い出すというのはあまりに愚かで、とても信じられないという思いです。

核兵器禁止条約を起点に、核廃絶の国際世論を

──半田さんは現代ビジネスの記事で、ロシアの「核の脅し」によって各国が「核兵器の復権」に目を向けざるを得なくなった一方、「核の脅しには屈しない」という国際世論を高めることができれば、「核の先制不使用」を国際会議のテーブルの上に載せられるのではないだろうか、と書かれていました。「国際世論を高める」ためには、具体的にどうしていくべきだとお考えですか。

半田 もっとも重要なのは、昨年1月に発効した核兵器禁止条約だと思います。これまで、核軍縮に向けた条約といえばNPTでしたが、核保有国はいっこうに軍縮義務を果たそうとしてきませんでした。そもそも今回「核の脅し」を使ったロシアもNPT加盟国であって、ここでいくら議論したところで、軍縮が進むとは到底思えません。その一方で、草の根の活動によって核兵器禁止条約が生まれ、施行されたことには本当に大きな意味があるし、そこでの議論を世界の主流にしていくべきだと思うのです。

 まだ核兵器禁止条約の締結国会議は開催されていませんが、開催されれば国連という世界中が注目する場で、各国が核に対する思いを述べることになります。ウクライナ侵攻の直後に国連総会の緊急特別会合が開かれ、ロシア非難決議が採択されたときのように、そこから国際世論が生まれていく。核が本当に非人道的、犯罪的な兵器だということへの理解が深まり、共有されれば、核を保有すること自体が恥だという意識を広げていくこともできるのではないでしょうか。

 その他にも、「東アジア非核会議」といった地域ごとの非核会議を開くなど、非核の方向へ世論を高めていくための方法はたくさんあると思います。ウクライナ問題が少し落ち着いてからでも、改めて核について議論しようという機運を高めていくことが、まず重要ではないでしょうか。

──「核の脅し」を機に、各国が「だからわが国も保有しよう」という方向に行ってしまう可能性もあるけれど、その逆の可能性もあるということですね。

半田 世界中が「わが国も」という方向に行くのなら、いずれはすべての国が核を持たなくてはならないということになります。そうなれば、事故や偶発的な使用がいくらでも起こってくるでしょう。そもそも、すべての国がまともな判断力を持つ指導者のもとにあるとは限らないのだから、あまりにも危険です。

──しかし、その重要な核兵器禁止条約に、日本は参加していないという問題があります。

半田 それは、国内世論を高めていくしかないでしょう。「日本はアメリカの核の傘に入っているから」といいますが、核共有の当事者であるドイツも、メルケル首相退陣後のシュルツ政権がオブザーバー参加を表明しています。そもそも、核自体が「保有しているけど使えない」という矛盾に満ちた存在なのだから、矛盾した行動に見えてもいい。その矛盾も飲み込んだ上で、どうすれば核軍縮を進められるか、議論によって各国間の最大公約数を見いだしていくしかありません。

 まして、日本は世界で唯一の戦争被爆国です。その日本が、核に対する矛盾をあらわにしたところで何が悪いのか。もちろんアメリカは条約参加には反対するでしょうが、これはわが国の主権の問題です。反対を押し切って参加したからといってアメリカが、自分たちにとってのメリットも多い安保条約を一方的に破棄するとも思えません。

──ありがとうございます。最後に、先ほども少し触れていただきましたが、ウクライナ侵攻を機に、改めて求める声が高まっているように思える「憲法9条改正」についてもう一言お願いします。

半田 現状でも自衛の戦争は可能だというのが政府解釈なのだから、自衛のための改憲の必要はないということはすでにお話ししました。それでも9条を変えるというのならそれは、日本を「戦争を仕掛ける国」に変えるということ。つまり、今プーチンがやっていることをできるような国にするということです。

 9条があることで、仮にプーチンのような政治家が出てきても、日本は他国に侵略できないという歯止めがかかっている。その歯止めをなくしてしまっていいのでしょうか、ということだと思います。(構成・仲藤里美)

はんだ・しげる●1955年(昭和30)年生まれ。防衛ジャーナリスト。元東京新聞論説兼編集委員。獨協大学非常勤講師。法政大学兼任講師。防衛省・自衛隊、在日米軍について多くの論考を発表している。2007年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。著書に、『変貌する日本の安全保障政策』(弓立社)、『零戦パイロットからの遺言-原田要が空から見た戦争』(講談社)、『日本は戦争をするのか-集団的自衛権と自衛隊』(岩波新書)、『僕たちの国の自衛隊に21の質問』


今朝、除雪車が入りました。

江部乙高速道路脇の道も除雪され車が通れるように。

今日もこれ。

 


日ロ経済協力は中止を

2022年03月15日 | 社会・経済

小池書記局長会見 予算削減を要求

「しんぶん赤旗」2022年3月15日

 日本共産党の小池晃書記局長は14日、国会内で記者会見し、日ロ経済協力の中止を求めるとともに、2022年度予算案に盛り込まれた8項目・21億円の日ロ経済協力関連予算について、ロシアによるウクライナ侵略という事態のもとでは「削減・凍結するのが当然だ」と語りました。

 小池氏は、岸田文雄首相が同日の参院予算委員会で「いまの状況で(日ロ経済協力の)予算の修正は考えていない」と答弁したことに言及。「ロシアがウクライナを侵略しているもとで、21億円もの予算をつけて日ロ経済協力を進めるというのは、国際的に見ても国内から見てもまったく納得は得られない」と指摘しました。

 小池氏は「11日の衆院内閣委員会で松野博一官房長官が日ロ経済協力を『当面見合わせる』と発言したのだから、日ロ経済協力の予算は削減、あるいは執行停止、凍結が当然ではないか」と主張。「日ロ経済協力そのものの中止を求める」と述べるとともに、日ロ経済協力担当相という閣僚ポスト自体不必要であり「置くのをやめるべきだ」と強調しました。


日本はミャンマーの最大の援助国だ。現在も凍結されず続いているはずだ。

今日はまた真冬に逆戻りしたような天気だ。昼過ぎのようすだが、今もなお降り続いている。


おいてけぼり~9060家族~ 35年間ひきこもり続ける女性、「いざとなればkoroす」父の苦悩 求められる第三者

2022年03月14日 | うつ・ひきこもり

YAHOO!ニュース 2/28(月)

中京テレビNEWS

おいてけぼり~9060家族~

 

 2019年、家族が高齢化し80代の親が子を支える「ひきこもり家族の高齢化問題」、いわゆる「8050問題」がクローズアップされました。「ひきこもり」は家からまったく出ない人のことだけではありません。内閣府などによりますと、ひきこもりの定義には、たとえ家から出ても、家族以外との交流がほとんどない状態やコンビニや趣味以外に外出しない状態が半年以上続くことも含まれます。中高年(40~64歳)のひきこもり当事者数は約61万人。若年層(15~39歳)の約54万人を上回ります。

「自分はおいてけぼり…」自宅に引きこもって35年が経ったある日、女性はつぶやきました。

抜け出したくても抜け出せない、ひきこもる中高年の苦しみの告白でした。

本記事では、あるひきこもり女性とその家族を通じ、ひきこもりの“家族”だからこそ伝えられる「8050問題」の現実を伝えます。

 

■人も社会も怖くなった…18歳の時、ひきこもりに

91歳の父と暮らす52歳の娘・敬子さん

2019年。愛知県の市営団地で91歳の父と暮らす52歳の娘・敬子さん。

“敬い 敬われる子に育つように”と願って名付けられた4人兄弟の末っ子です。

敬子さんは昔から人と話すのが苦手で、感情を表に出せません。専門学校を1年ほどで退学し、工場でのパート勤務も話さないことで簡単なことしかできず、2年で辞めさせられました。当時18歳。人も社会も怖くなりました。「明日からは…」とずっと思ってきましたが、ひきこもり続けています。

敬子さん「みんなは結婚したり、働いたり、子どもがいたりしていると思ったら、自分だけ何も変わっていない。自分だけ“おいてけぼり”というか、変わってないというか、いつまでも一緒というか」

■家族を“1人で”支える91歳の父「なんでこんな世の中に」

1日のほとんどスマホが手放せない敬子さん

敬子さんの話し相手は父だけ。

父は大手メーカーを定年退職後、余生をゆっくり過ごすはずでした。しかし、2005年、77歳のときに認知症の妻に先立たれ、それからというもの、父はずっと1人で家事をこなしています。普通は子どもが親の面倒を見る年齢…。しかし、父はいつしかそんな希望すら抱かなくなっていました。

家族の食事をコンビニに買いに行くのも父。帰宅しても、敬子さんからは御礼のひとつもありません。敬子さんはスマホに夢中…。しかし父は怒りません。

父「半分あきらめた。今でも働いてもらいたいとは思いますよ。自分のことは自分で決める。それが強すぎたんですかね」

一方の敬子さんは、「働きなさいと周囲から言われたら言われたで嫌なんだけど、何も言われなくなったらなったでちょっとさみしい…」と話します。

生活は月18万円の父の年金だけが頼りです。生活保護など行政からの経済的支援は受けていません。家賃2万4000円の市営住宅。節約のために洗濯は4日に1回、入浴も2日に1回。敬子さんの将来のため、毎月1万6000円ほどを娘の年金にあてています。

生活を切り詰めるのにはもう1つの理由がありました。父は、63歳の長男の面倒も見ています。長男もけがにより55歳で仕事を辞めた後、ひきこもるようになっていました。さらに、長男は勝手に父の年金に手を付け、ギャンブルやタバコなどに費やしていました。月に5万円。父には切り崩す貯金すらもうありません。

父「一生こんな生活だったような気もしますね。ともかく毎日毎日生きていくだけですね。何にも望みません。1日ゆっくりできればそれだけでいいです。お金のことを考えないでゆっくりできれば、それだけでいいです。なんでこんな世の中になったんかな」

■社会問題にもなった『8050問題』 「いざとなればkoroす」死と向き合った父

自殺を図った当時の思いがつづられた父の日記

まだ子どもの面倒を見ている――

2016年、現実に嫌気がさした父は近くの山に足を運びました。

「ひとりで死のう」

自殺を考えていました。

父の日記には当時の思いがつづられています。

「刃を腹に当てる。迷う」

「一週間、死のみを考えても死ねなかった」

「生きることは難しい。どんなに恥をかいても生きていくのか」

 

1週間後、山で焚火をしているところを発見されました。

死にきれなかったといいます。

黙っていても、「死」と向き合わざるを得ない年齢。そんな年齢になっても自ら死を選ぶほかない境地でした。誰かに相談できなかったのでしょうか。

父「嫌なことはなるべく言わないほうがいいだろうなぁと思っていますね。自分の意志でなくこの状況になったのなら助けてくれと周りに言うかもしれないが、これは自分で勝手になったことだから。世の中に許してもらいたい。しょうがない子どもを作っちゃったということを」

家族が高齢化し80代の親が50代のひきこもりの子を支える「8050問題」。2019年には、キャリア官僚だった父が、ひきこもりがちだった息子を殺害するなど、社会問題になりました。

父「自分が子どもの面倒を見るのが限界になれば、いざとなれば殺す以外ないと思いますね。自分の子どもだからこそ」

■親への支援こそが重要 周りに甘える勇気も必要

NPO法人ふらっとコミュニティ(山口・宇部市)

精神看護の専門家で、8050問題の解決に取り組む山根俊恵さんは、「子どもだけでなく、親への支援こそが最も重要」だといいます。山根さんは理事長として12年前に「NPO法人ふらっとコミュニティ」を山口県宇部市に設立し、子どもだけでなくひきこもりで悩む親も含めてひきこもりの当事者たちと向き合っています。

ひきこもりの子どもに対して将来の話をすると、逆鱗に触れる可能性があるため、子どもに相談しづらい親が多く、立ち止まることが多いそうです。しかし、そのような悩みは、一人で解決できるものではありません。周りに助けを求めたり、甘えることが解決の第一歩だと訴えます。

山根さん「ひきこもる本人に外に出るよう働きかけるのは家族であっても難しく、親の些細な一言が子どもを刺激するかもしれません。そうなると、流れを変えるためには親が意識を変える方が早い。待てば良いとか、子ども自身がそのうち動くだろうってのは絶対にない」

■“家族”だからこそ伝えられる『8050問題』の現実

時折家族を見に来るもう一人の兄・俊光さん

ある日、敬子さんのもとに、離れた場所で暮らしているもう一人の兄・俊光さん(57)がやってきました。心を閉ざしてひきこもる長男や敬子さん、そしてなにより父のことが心配で、月に1回ほど実家を訪れます。

俊光さん自身こんな家族から目を背けたいと思っていました。実は俊光さんも10年前、過労が原因で心を病み、仕事を辞めたことがあります。社会で生きづらいと感じた過去があるからこそ、周囲の関わり方がいかに重要か身をもって感じていました。そんな俊光さんは引きこもる兄や妹、そして彼らを支える父を見ていて、「父や兄妹が変わるのを待っていたら家族は崩壊する」――そう感じたと言います。そして、自分たちの家族だけでなく、他にも同じ悩みで苦しむ人がいるのではないか。そう感じ、心を閉ざす人の“居場所”を作ろうと「NPO法人名古屋サーティーン」を立ち上げました。

この団体でのルールはお互いに干渉しすぎないこと。悩みを探り合わないこと。スポーツなどを通じて人と接することに徐々に慣れていけるよう取り組みます。

また、定期的に開く当事者同士の勉強会では、すべてをさらけ出します。

俊光さん「私の家族は、一切外部の支援を受け入れてくれなかったです。私がどんなに『保健所は味方だから、相談にのってくれるから』と言っても、敬子さんは『来るな、来たら殺す』、そんな感じだったんです。父親からも『そっとしておいてくれ』と手紙が届いて。民生委員さんも心配だから実家を見に行ってくれたのですが、『ご家族の方は?』と父親に聞くと『仕事いってます』とうそをつくんですよね。本当にうちの実家はいつ事件が起きてもおかしくないような現状でした」

家族”以外の人が関わる大切さ。

そして、“家族”だからこそ伝えられる『8050問題』の現実――

■誰しもが当事者 求められる第三者の支援

社会情勢が大きく変わっていく昨今、ふとしたことがきっかけで、誰しもが孤立状態に陥る可能性があります。

社会との接点を一度喪失すると元に戻すのは困難です。

ひきこもりに対しては、個人と社会をつなぐ第三者の介入が必要不可欠です。

敬子さんの父は、ひきこもる子どものことを、誰にも相談できず、「死」を選びかけました。

悲惨な結末を避けるために、ひきこもりの当事者だけではなく、その親が助けを求められる場所が求められています

「おいてけぼり~9060家族~」

この記事は、中京テレビとYahoo!ニュースの共同連携企画です。あるひきこもり女性とその家族を通じ、ひきこもりの“家族”だからこそ伝えられる「8050問題」の現実を追いました。


 今日もいい天気になりました。道路はほとんどアスファルトが出ています。でも、明日はまた雪のようです。
カケスの交尾も見られました。

今日の作業。


栗田路子さんに聞いた:海外から見た日本の結婚と姓の問題

2022年03月13日 | 生活

By マガジン9編集部 2022年3月9日

マガジン9 (maga9.jp)

    日本で夫婦別姓を求める運動が起こり始めてから、すでに30年以上の月日が流れました。結婚しても、生まれたときからの姓名をずっと名乗りたいという声はますます高まっているのに、国会も裁判所もいっこうに動かず、ついに日本は世界でただ一つの「夫婦同姓を法律で強制する国」になってしまいました。そんな日本は海外からは、どう見えているの? 日本の姓名に関する常識って、世界では通用しない? そんな疑問への一つの答えが、欧米、アジア計7カ国の結婚と姓をめぐるレポート『夫婦別姓—家族と多様性の各国事情』(ちくま新書)にあります。海外からみた日本の選択的夫婦別姓問題について、執筆者代表としてベルギー在住の栗田路子さんにお話を伺いました。

姓名に振り回された人生

──栗田さんが夫婦別姓をテーマにした本書を企画されたきっかけは、何だったのでしょうか?

栗田 選択的夫婦別姓の問題は、私自身の30年来のライフテーマそのものです。私が大学を卒業して外資系企業に就職したのは、日本にも夫婦別姓を求める声が起こり始めた1980年代。そんな世の中の流れを感じつつ、80年代後半に結婚しました。そのときは多少のためらいはあったものの、世の慣習に従って「栗田」から夫の姓に変えたのですが、その違和感といったらなかった。

 銀行や役所の窓口で夫の姓で呼ばれることで、これまで「栗田さん」「はい!」と答えてきた二十数年の無形遺産を奪われたような喪失感を覚えました。

 何より大変だったのは、もろもろの名義変更手続き。給与振り込みの銀行口座、クレジットカードの名義、健康保険証、運転免許証などです。緊急度の高いものから手続きをしていくのですが、ほかのものと変更時期がずれると整合性がとれなくなるので、ややこしいったらない。そうして、パスポートなどは期限が切れて更新するときに変えればいいか、など考えているうちに、なんと夫が急逝してしまったのです。結婚して3年足らずでした。

──それは予想もしない大変なことに……。

栗田 その時点で姓を変えたものと旧姓のままのものとまちまちで、私のアイデンティティはバラバラになってしまいました。そのまま日本で生きていくことに耐えられず、アメリカの大学院へ留学を決意したのですが、その手続きでまたまた大混乱がおきました。

 パスポートは旧姓、口座名義やクレジットカードは結婚姓、TOEFLなどの共通テストの証明書も結婚姓、日本の大学の卒業証明は旧姓、願書や航空券はパスポートに合わせて旧姓、支払い名義は結婚姓……。

 日本国内だったら、事情を説明すれば何とかなりますが、戸籍制度も夫婦同姓もない外国人に、結婚すると姓が変わるとか、旧姓と結婚姓のふたつを使っているなど、理解してもらうのはほぼ不可能です。

──その後、ベルギー人のかたと結婚されたわけですね。

栗田 アメリカ留学後、今の夫と再婚することになったのですが、その前に一度実家に戻って欲しいという母の希望で、日本人の前夫の姓から「栗田」に復氏することにしました。ちなみにベルギーでは、婚姻は姓に何の影響も与えないので、これで私の姓名は「栗田路子」ひとつになった。やっとややこしい手続きから解放されて、ブラボー!と心の中で叫びました。ところが復氏と再婚の届け出を同時に出したせいか、戸籍謄本がこんな記載になってしまったのです。

 

戸籍筆頭者 栗田路子

昭和x年x月x日 父からの出生届により入籍(この間の出来事は無記載:栗田注)

平成3年y月y日 ベルギー人◇◇◇△△△(再婚した夫の姓名)と結婚届。○○□□(前夫の氏名)戸籍から入籍

平成3年z月z日 婚姻前の氏に戻す届け。○○(前夫の氏)路子戸籍から入籍

 意味、わかります? わかりませんよね。最初の結婚で前夫の戸籍に入ったことも、その夫が亡くなったことも書かれていないので、どこの誰かも分からない人の戸籍から入籍して結婚し、その上で結婚前の姓に戻したようになっている。戸籍法のルールに従えば、これで正しいのだそうですが、意味不明ですよね。ましてや戸籍というものがない外国でこれを見せたら、公文書の改竄や隠蔽ではないかと勘ぐられてもおかしくありません。

 それが現実になったのは、養子縁組をしたときです。私たち夫婦はベトナムから養子を迎えたのですが、そのときに私の日本の戸籍を、ベルギーの公用語の一つであるフランス語に訳して提出しなければならず、ここでまた一悶着。この意味不明の戸籍をそのまま訳しても、だれも理解できない。ベルギーの役所が認めるわけがない。法廷翻訳家は字句通り訳すのが仕事ですから、よけいな説明や注釈はできない。そこをなんとか、と無理をお願いして切り抜けました。

 個人的な体験を長々とお話ししたのは、外国での結婚や離婚、再婚も含めた国際結婚が珍しいことではなくなっている今日、私ほどではないにしても困る事例が続出するだろうと、心配になるからです。

姓名を巡る「トリビア」なエピソードも

──夫婦同姓のために、これほど苦労するとは……。それなのに未だに変わらない日本の現状に業を煮やして海外在住のお仲間に声をかけた、というわけですね。

栗田 この本を企画した直接のきっかけは、昨年6月の夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定を「合憲」とした最高裁判所の判断でした。法律の問題だから国会で決めればいいとさじを投げてしまったことには、本当にがっかりしました。

 原告たちは、25年を経過しても国会が動かないからこそ、仕方なく司法の場に訴えたのに、「人権」に関わる問題だからこそ、多数決の国会でなく、裁判で判断すべきだと主張してきたのに……。

 これはなんとかしなければいけない。海外にいるからこそ出来ることって何だろうと考え、私がこれまで培ってきた在留邦人のライター・ジャーナリストのネットワークを通じて、それぞれの国の結婚と姓、家族の事情をレポートして1冊の本にまとめようと呼びかけました。

 夫婦同姓を法律で強制しているのは日本だけ。一歩外に目を向ければ、こんなに多様な家族や結婚、姓のあり方があるということを、かたくなに夫婦同姓を守ろうとする一部の日本人や、この問題に先入観のない若い人に知ってほしかったのです。

 執筆を担当したのは、その国に根を下ろして生活している人たち。生活者の目線で自身の体験をふくめて市民の声を集めることができ、さらには歴史的政治的背景にも言及できるスキルのある人ばかりです。結果として、執筆者全員が国際結婚経験のある女性ということになりました。

──エッセイとしてもおもしろく、楽しく読めました。

栗田 今の内向き傾向のある日本では、海外からのレポートというと煙たがられる傾向があって、しかもフェミニズム的なテーマの本と思われると、敬遠される恐れがありますよね。ですから、なるべくとっつきやすく、個人的な体験談やおもしろいエピソードをちりばめて、読みやすくしようと知恵を絞りました。

 たとえばドイツの前首相メルケルさんの話。メルケルという誰もが知る姓は、実は離婚した前夫の姓なのです。彼女は23歳でメルケル氏と学生結婚して5年後に離婚したのですが、その姓で物理学の博士号を持つ研究者としてキャリアを積んでいたので、旧姓に戻さなかった。そして45歳の時に今の夫であるザウアー氏と結婚、姓は変えず別姓結婚したため、メルケル首相としてその名を歴史に残すことになりました。

 あるいは放射線研究でノーベル賞をとったキュリー夫人。キュリーは夫の姓で、彼女の本姓名はマリア・サロメア・スクウォドフスカといいます。それなのにずっとマダム・キュリー、つまり「キュリー氏の妻」として偉人伝に残るなんて、おかしいですよね。

姓名のあり方は多種多様

──拝読してまず感じたのは、世界には姓名にまつわるこんなにも様々なルールがあるのか、という驚きでした。

栗田 姓名に関しては何の決まりもなく改名もいつでもネットでOKのイギリス、「姓名不変法」により出生届けの名前が生涯唯一の本名というフランス、婚姻は個人の姓名に何の影響も与えないベルギー、男女平等すなわち夫婦別姓の中国、儒教的父系血統主義の伝統による絶対的夫婦別姓の韓国など、驚くほど多様です。姓名についてのルールもさまざまなのですが、本書ではそれを統一して便宜上次のように名付けました。

 出生姓 出生時に登録された姓。

 連結姓 二つの姓をハイフンなど記号を入れてつなげる

 併記姓 二つの姓を記号を入れずにつなげる

 合成姓 二つの姓の一部を用いて新しい姓を合成する

 創作姓 二つの姓とはまったく関係のない新しい姓を採用する

 夫婦同姓といっても、日本のように妻が夫の姓に(あるいはその逆)変えて同じ姓を名乗るケースだけでなく、上記のような方法で互いの出生姓でない姓を決めて、それを二人で名乗る同姓もあります。

 あるいは、一方はそのまま、他方が相手の姓を自分の姓につなげて連結姓にする。そういう夫婦別姓もあります。

 出生姓を残し、なおかつ相手の姓も入れる方法としては、「ミドルネーム」もよく使われます。例えばジョン・レノンとオノ・ヨーコ夫妻の場合。小野洋子さんはYoko Ono Lennonに、ジョンはOnoをミドルネームに加えてJohn Winston Ono Lennon(Winstonはもともとのジョンのミドルネーム)にしたそうです。結婚に際してお互いの姓を尊重して取り入れながら、合意できる案を模索したのでしょう。

 私がすてきだなと思ったのは、フランスの通称。「姓名不変法」のあるフランスでは出生姓が唯一の本姓なのですが、そのほか4種類の通称が合法化されています。その中の一つに「出生姓と、継承されていなかった親の姓をハイフンでつなげる連結姓」というのがあります。継承されなかった親の姓とは、多くの場合母親の姓ですよね。失われた母親の姓を子どもが復権させる、なかなかいいアイデアだと思いません? それにならって私も、母の旧姓をペンネームで使うことがあります。

日本の当たり前は、世界の常識ではない

──世界を見渡せば、必ずしも結婚したらどちらかが、自分がそれまで慣れ親しんできた姓を捨てなければならないということではないのですね。自分の姓かパートナーの姓かの二択ではなく、いろいろな可能性がある。さらに言えば、結婚したら姓が変わる、というのも、当たり前ではないのですね。

栗田 そもそも、結婚は姓に影響しない、婚姻と姓名は無関係という国のほうが多いのです。

 もっと言えばイギリスのように、姓名に関して「こうしなくてはいけない」という規定そのものがない国もあります。姓名に関することは個人の事情であって、国が関与すべき事項ではないというコモン・ロー(判例法)の考えに基づくものです。

──日本人が常識だと思い込んでいる姓名や家族についての考え方は、世界では通用しないのですね。

栗田 その通りです。今回の取材で、それぞれのライターが周りの人に「日本では夫婦同姓が法律で義務づけられている。姓が違うと、家族の絆が保てない、社会が混乱するから」という話をしたところ、はあ? 何それ、とポカンとされたと皆口をそろえます。

 今回の執筆陣の中には、別姓はもちろん、片親、子連れ再婚同士、事実婚、同性結婚など、何でもありの社会で暮らしている人も多いけれど、家族のつながりは日本以上に濃厚なところもいっぱいあるし、日本の別姓反対派が恐れているような混乱は起きていませんよと、語っています。

選択制でも夫の姓を名乗る妻が多数派

──しかし、選択的夫婦別姓が認められている欧米でも、実際には夫の姓に変える、あるいは夫の姓を付け加える、通称として夫の姓を使うなどのケースが多く、自身の出生姓を貫く女性は少数派なのですね。また子どもには父親の姓を継がせるケースが圧倒的など、男性優位の現実には考えさせられました。

栗田 今回、7カ国の姓名を巡る物語を見渡して思ったのは、古今東西に及ぶ家父長制の根深さについてです。その背景の一つにはキリスト教の伝統があります。わかりやすい例をあげれば、教会での結婚式で父親が花嫁をエスコートしてバージンロードを歩き、新郎に引き渡すセレモニーが行われるでしょう。あれは父から夫への女性の所有権の移管を表す儀式だったのです。女性は男性に守られるべきものという家父長制の伝統は、人々の意識や社会の通念として根強く残っているのだなあと、今回改めて思わされました。

 それでも近代に入ると、働くことで経済力をつけ始めた妻たちは、さまざまな理不尽に気づき始めました。夫の姓でないと銀行口座が開けないとか、選挙人名簿に登録できないのはおかしいなどと声を上げはじめ、それが少しずつ広がっていった。こうした女性たちの努力の積み重ねの上に今日があるのだと、胸が熱くなる思いがしました。

 日本では「抗議する女性」への拒否感が強いけれど、小さな声でも必ず力になって歴史を動かす。フラワーデモなど、声を上げる若い人たちにエールを送りたい気持ちです。

──韓国、中国など、アジアの家父長制に基づく姓名の歴史も興味深かったです。

栗田 中国は一貫して夫婦別姓ですが、建国前と後では、その意味は真逆です。長い間儒教思想と父系家族主義の風習に縛られていた中国では、嫁は子孫繁栄のためによそから来た人で、家系図にもその姓も名も残らない、婚家の姓を名乗ることは許されないよそ者だった。つまり男尊女卑の極みとしての夫婦別姓だったのです。それが革命後は一気に男女平等ゆえの別姓へと転換した。歴史のダイナミズムを感じますね。

 韓国も同様の理由から絶対的夫婦別姓ですが、現在は日本支配の残滓である戸籍制度は廃止され、個人単位の登録制度に代わりました。こう見てくるとアジアでもアップデートされ続けているのに、日本だけが置き去りにされているみたいで、なんだか寂しいです。

旧姓って何? 通称使用拡大の問題点

──日本では今、夫婦同姓は堅持したまま、旧姓の通称使用を拡大することで問題解決しようという妥協案がでています。問題解決になるでしょうか。

栗田 旧姓を通称にと言われますが、旧姓って何でしょう? 婚前の姓と言われますが、結婚は一度きりとは限りません。再婚の場合は出生姓? それとも最初の結婚で改姓した姓? あるいは結婚でなく、養子縁組で姓が変わった人もいます。だから旧姓一つとっても定義が曖昧なのです。

 それに旧姓通称が通用するのは日本国内だけの話。一歩外に出れば、大変なことになるのは、最初にお話しした私の経験からも明らかです。夫婦同姓を定める現行民法750条に明確に違反している通称使用を、外国で法的に説明する根拠はありません。

 今はパスポートに括弧付きで旧姓を記すことができますが、これもパスポートの国際的な記載ルールにはありません。デジタル社会ではICチップに入っている姓名はただひとつ。入国審査にひっかかって、別室に連れて行かれ、うまく説明できなくて公文書偽造、偽名を使う理由のある怪しい人物と疑われたらどうしますか? それを一介の旅行者でしかないあなたが、説明しなければならなくなるのですよ。

 通称を使いたいのであれば、フランスのように出生姓を唯一無二の姓名とする。その上で、必要であれば家族共通のファミリーネームを通称として使う。そのほうがすっきりします。

──結婚と姓を巡って日本はこれからどのようにすべきか、具体的な提言はありますか?

栗田 日本が明治時代、民法制定の際にお手本にしたといわれるドイツでは、しばらく前までは夫婦同姓が法律で決められていましたが、1990年代初めに撤廃、現在は同姓、別姓、片方だけが連結姓(どちらかの姓を「家族の姓」とし、「家族の姓」のほうはそのまま、他方は自分の姓に相手の姓、つまり「家族の姓」をつなげる)と3つの選択肢から選べるようになりました。これもひとつの参考になるでしょう。

 どこの国でも、困っている人の声を聞きながら、その国の実情に合わせて少しずつ段階的に変えています。それで不都合が出てきたら、さらに改正する。その積み重ねが、よりよい社会を作っていくのだと思います。

 今の別姓反対派の意見を聞いていると「別姓にすると家族の絆がそこなわれる、子どもがかわいそう」など、仮定に基づく感情論ばかりです。それに対して実際には同姓であることによって困っている人、つらい思いをしている人がいるのが事実です。「かもしれない」ことと実際の現実問題と、どちらを優先すべきでしょうか。

 どういう制度にするにしても、これだけは言いたい。結婚しても出生姓を持っていたいという人が少数でもいるのであれば、それは保障されるべきということ。少数派なんだからがまんしなさいというのは、民主主義に反します。人権に関わることを多数決で決めないで。これだけは譲れません。

 ヨーロッパで暮らしていると市民の「エンパシー」、つまり当事者でなくとも、困っている人がいるのならその立場に立って共感する力を実感します。エンパシーは、「自分に危害を加えないことであれば、他人の自由に口を出さない」「自分の好みやイデオロギーを押しつけない」ことでもあります。日本では多様性が育たないと言われますが、金子みすゞさんの詩に「みんなちがって、みんないい」というすてきなフレーズがあるではありませんか。

 日本の若い人たちのジェンダーに対する意識は確実に変化しています。実情にあわない制度や法律を改正する日は近いうちに必ず来る。それを後押ししようというのが、本書の執筆者全員の思いです。ですからこの本はぜひ若い方、特に中高生、男性に読んで欲しいと思っています。

──栗田さんの三十数年来の、そして多くの女性たちの願いがかなう日が、一日も早く来ることを願っています。ありがとうございました。

(構成・田端薫)

               

『夫婦別姓 ――家族と多様性の各国事情』

(栗田路子、冨久岡ナヲ、プラド夏樹、田口理穂、片瀬ケイ、斎藤淳子、伊東順子/ちくま新書)

 

くりた・みちこ●ベルギー在住30年。コンサルタント、コーディネーター業の傍ら、論座、PRESIDENT ONLINEのほか、環境や消費財関係の業界紙などに執筆。得意分野は人権、医療倫理、LGBTQ、気候変動など。海外在住ライターによる共同メディアSPEAKUP OVERSEAsを主催。共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)がある。


 昨日まで降った雪が3cmほどあり、撒いた融雪剤のあともすっかり消えてしまいました。


ロシアのウクライナ侵攻に高校生平和ゼミが抗議声明 核兵器による平和はない 沖縄の高校1年生 上原一路さんの思い

2022年03月12日 | 社会・経済

「しんぶん赤旗」2022年3月12日

 ロシアのウクライナ侵攻に対し、全国八つの高校生平和ゼミナールが抗議声明を発表しました。抗議声明の発案者の沖縄県糸満市に住む上原一路(ひろ)さんにその思いを聞きました。(加來恵子)

 毎日多くのウクライナ市民が亡くなったとか、子どもが地下で泣きながら避難しているとか、戦争が始まったことが報じられていることに胸が痛みます。

 戦争が始まったことを友人に伝えて、「この問題を掘り下げてみよう。学んでみよう」と呼びかける勇気もなく、発信する勇気もありませんでした。でも、せっかく高校生平和ゼミナールを沖縄で結成して、全国の高校生と一緒に日本政府に核兵器禁止条約への参加を求める署名も始めているので、「全国の高校生と一緒だったら行動が起こせる」と思い、抗議声明の草案をつくりました。

 その後、東京の高校生平和ゼミナールからの案も取り入れ、完成させました。

 ネット上で、戦争反対をシェアしたとき、ある先輩が反応し「核兵器禁止条約に参加するように言いながら、戦争反対というのはおかしいのでは?」と反論されました。

 核兵器を保有することは「抑止」になる、攻められない。核があるから平和になるというのです。核兵器があるから平和ではなく、核兵器におびえる状態が平和なのかということを本当に問いたい。

 国のトップにいる人たちが、核保有を言い始めていることが怖いです。いまのうちに学び、若者から「核兵器禁止条約を批准せよ」という声を広げていかなければいけないと思います。

 核兵器による威嚇、脅しをやめさせるために、核兵器使用ができないように日本こそが禁止条約を批准して、国民世論、世界の世論で戦争も核兵器もない世界の実現を迫ることをしないといけません。

 13日に高校生平和ゼミナールが主催し、オンラインでウクライナ問題について学ぶ機会があります。まずはそこから始めます。

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「高校生平和ゼミナール」ツイートより


若い人たちの純粋な気持ちが嬉しいです。

今日は朝方に日が照もその後は雪となり、時折吹雪状態、今も降り続いています。

昨日の写真ですが。
積雪は90cm。

融雪剤(木灰)を撒いたところと撒かないところ。


震災とコロナ禍の「二重苦」 長引く貧困を生み出す「貸付主義」の害悪

2022年03月11日 | 生活

YAHOO!ニュース(個人) 3/10(木) 

今野晴貴 NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

 2011年3月11日に発生した東日本大震災では、多くの人々が命を失った。また、津波や地震によって家や仕事を失い、生活を大きく破壊されてしまった世帯も多い。

 当時都市部でいち早く進んだ産業や道路・建物などのインフラの復興とは対称的に、仮設住宅でも孤立死が問題となるなど、一般の人々の生活再建が簡単にはすすまなかった。

 私が代表を務めるNPO法人POSSEでは、震災直後から仮設住宅に住む被災者向けに、送迎や就労支援などの事業を8年間にわたって行ったが、その中でも生活再建の難しさを痛感した。

 今年で震災から11年が経過したが、現場では、震災を経験した世帯にもコロナ禍が襲い掛かり、貧困がより深まる事態となっている。

 今回は仙台市を中心に困窮者への無償の食料支援活動を行うフードバンク仙台に寄せられる相談内容から東日本大震災の影響を引きずるケースを紹介し、その原因や改善のための方向性を考えてみたい。

震災の後遺症とコロナ禍の「二重苦」に苦しむ被災地

 フードバンク仙台は、コロナ禍によって仙台でも急速に増加する困窮者を支援するため、2020年5月に結成された団体だ。個人、団体、企業から食料の寄付を集め、結成から昨年10月末までに累計のべ一万人以上に計21万食以上を無料で提供している。

 同団体には、震災時に崩れた生活状況を立て直すことができず、長期にわたって困窮する世帯からの支援依頼がたびたび寄せられている。相談事例から見えてくるのは、震災時にも貸付を受けて耐えしのぎ、その返済が終わらないまま、新たに「貸付制度」を活用しなければならないという現実だ。

 例えば、子どもと二人暮らしの50代女性は、震災貸付の返済が100万円ほどあり、奨学金も返せていない。

 そんな中で、コロナの影響で2021年3月末に勤めていた事務派遣を雇止めにあってしまった。しばらくは失業手当で生活してきたが、12月で受給期間が終了し収入がなくなってしまい、今は所持金も全くないという。

 これまでダブルワークやときにはトリプルワークもしてきたが、月16~17万円程度の収入にしかならない。ここ2~3年で複数回の派遣切りに遭っており、家賃をひと月滞納。これまでライフラインを止められることもしばしばあったという。

 新型コロナ禍以前に所持金1500円の状態で役所の生活保護課に行ったこともあったが、初回は貸付制度を案内され、次に行った際には「まず家族から借りるのが当然」と言われてしまった。もう一度訪れた際には申請できると言われたが、ちょうどそのとき仕事が見つかったため申請にはいたらなかったという。

 また、40代夫婦二人暮らしの世帯も、東日本大震災で被災した際に社会福祉協議会から生活福祉資金を借りたことがあり、被災して以降、失業と就労を繰返しギリギリで生活を続けていたため返済が滞っていた。

 そのため、今回コロナ特例の貸付制度を利用する気持ちにはなれず、逆に、震災時の生活福祉資金の未返済分を払うように請求が来てしまっている状態だという。

 現在、夫は2020年に失業し、妻は体調が悪く働けない。やっと仕事が見つかったと思った矢先にコロナの感染拡大で収入が大きく減少してしまった。収入を増やすために夫は2021年6月から昼と夜に飲食店で働くダブルワークをしているが、新しく始めた仕事もコロナの影響でシフトが減らされ、給与は合計でも月5万円未満。

 食べ物を買う余裕がなく、一日一個の具無しおにぎりで生活している。現金が無いため車にガソリンも入れられない。ライフラインもガス代が未納で止まりそうになっている。

 さらに、別の40代の夫婦も、東日本大震災時に家財道具が流されたとき、宮城県内のある社会福祉協議会から生活復興支援資金を30万借りたことがある。その後も生活が安定せずに中々返済できなかったところ、差し押さえするという連絡が来て、勤め先の会社からお金を借りて貸し付けをなんとか返済できた。

 ところが、正社員として働いていた建設・土木関係の仕事も、昨年2月から失ってしまった。失業手当も切れてしまったため、食料支援をフードバンク仙台に依頼。こうした経験があるため、二人は今回のコロナで貸付制度を使うことにためらいがあるという。

 一方、生活保護は軽自動車と携帯電話は処分しないと利用できないと聞いたことがあり、利用できないと考えていた(なお、生活保護の利用に携帯電話の処分は必要ない。またコロナ以後、自動車の保有についても条件を満たせば認められる余地が拡大している)。

貸付では貧困から抜け出せなかった

 3つの事例では、食べ物が不足したり、ライフラインが止まる危機に脅かされる生活が震災後現在に至るまで継続している。これらの事例では社会福祉協議会の生活復興支援資金という震災時の貸付制度を利用しているが、それでも生活困窮から長く抜け出せていない。

 低賃金の不安定な雇用で失業と再就職を繰り返すなかで、返済が滞ってしまっているのである。こうした人々を今度は新型コロナが直撃し、もともとぎりぎりだった生活が危機的な水準まで脅かされている。

 コロナ禍においても、ワーキングプア世帯に対する国の支援政策は、コロナ特例貸付(緊急小口資金・総合支援資金)という貸付が大きな比重を占めるのは震災時と同じだ。

 しかし事例のように、震災時の貸付の返済ができなかっために今後の返済の約束ができず、今回のコロナ禍では貸付の利用をためらってしまう世帯もいる。また、生活福祉資金には非課税世帯で償還を免除される制度もあるが、この水準は非常に低いため、不安定でも何とか働いている「ワーキングプア」の場合、該当しないことが多い。

 貸付に重点が置かれた困窮者支援政策は、一時的な災害時が終了すれば、働いている限り生活を立て直し、貸付の返済も可能であるという認識を前提としている。つまり、ワーキングプアを想定していない。だが現実には「働いても食べていくことができない」劣悪な労働条件の仕事が広範に広がっているため、貸付では貧困状態からの根本的な脱却は難しいのである。そもそも、社会保障として貸付制度を中心に立てること自体、無理があるといえるだろう。

高まる「貸付」政策への批判

 こうした政府の「貸付」を中心とした対策の繰り返しに対しては、批判が高まっている。

 コロナ禍に対応した「生活福祉資金」の特例貸付は約300万件に上り、貸付額は1兆2800億円に達している一方で、貸付を満額まで借りても困窮から抜け出せないという実態が明らかになってきたからだ。

 NHKの「クローズアップ現代」(2021年11月25日放送)中で、角崎洋平氏は、そもそもこの貸付制度は本来は一時的な資金を貸し付けとセットで、困窮の背景を丁寧に聞き取り、相談支援を行うことが想定されていたと指摘する。

 しかし、全国の社会福祉協議会の職員に聞いたアンケートには、職員の76.1%が貸付の際に丁寧な相談支援ができていないと感じていると回答するなど、生活相談は機能していないのが現状だ。

 角崎氏は「相談者はもちろんお金のことで相談に来られるわけですが、お金の相談の背景にはさまざまな生活上の問題や困難が隠れていることも多いです。そうした問題を丁寧に解きほぐして支援につないでいくことができないのであれば、単にお金を貸し付けしても十分な問題解決にはつながらない」と指摘している。

 また同番組では堤未果氏も「返せる見通しがないのにちょこちょこ借り続けるというのはもちろん経済的な負担というのもありますけれども、それ以上に精神的な負担というのがどんどん出てくる、厚くなってくると思うんですね。コロナから生活を立て直そうと思ったころに、借金の返済が今度足を引っ張る、そういうループになってしまう」として、借入が困窮者の心身や、実際の生活の大きな負担になる可能性を指摘していた。

 本記事でもここまで見てきたように、貸付だけでは生活再建には十分ではない。むしろ借金が残っていることで、生活再建の足を引っ張ることにもつながりかねない。そうした状況では、コロナ禍のような一時の危機が過ぎた後も、根深く困窮状態が残ってしまうことになるだろう。

 こうした貸付中心の日本の支援策とは対称的に、諸外国では給付を増やす方向で支援策を充実させている。例えばドイツでは、既存の生活保護に相当する制度の要件を緩和している。資産要件を一時的に停止し、申請者がとりわけ大きな資産はないと述べればそれでよいことになっている。

 その他、諸外国の給付を充実させる政策動向については過去の記事でも一覧表にまとめているので、参考にして欲しい。

参考:分断に分断を重ねた給付議論で"分配"どうなった? 困窮者が「使える制度」解説

貧困の克服には何が必要なのか

 貧困を克服するためには、こうした場当たり的な貸付や劣悪な仕事に対する就労の圧力になるような政策からの転換が求められる。

 生活福祉資金の貸付を終了した世帯を対象に生活費を一定期間給付する「生活困窮者自立支援金」という制度も存在するが、先の事例にみたようにコロナ特例の貸付を利用しない世帯は事実上使うことができない。

 貸付ではなく給付であるという点では「一歩前進」ではあるが、支給額が単身世帯で月6万円と少なすぎること、受給できる期間も3か月と短いこと、コロナで仕事が減少しているのに、原則としてハローワークに求職の申し込みをし誠実かつ熱心に求職活動を行うことなどの求職要件が付されているなど課題も多い。

 政策的には、最低生活を保障する現行の唯一の制度である生活保護をより使いやすくするために資産要件を緩和したり、現行の生活保護の機能を生活ニーズ毎に切り分けて医療保険や年金や住宅制度などに最低生活保障を組みこむことも有効だろう。

参考:生活保護「利用者イメージ」の大転換か? 首相による「利用促進」の発言が波紋

 また、賃上げや劣悪な労働環境の改善など、労働条件を向上させるための権利行使も欠かせない。これを実現するのは第一には労働組合の役割だが、今回紹介したフードバンク仙台のような困窮者に直接接して支援を行う団体も、劣悪な労働条件で働く人々や生活保護から排除された人々と信頼関係を築きながら権利行使につなぐ重要な役割を果たすことができる。

 フードバンク仙台ではボランティアスタッフの大学生を中心に生活相談チームをつくり、食料支援だけではなく生活相談も合わせて行うことで、貧困を固定化させないための新しい食料支援のスタイルを確立している。

 震災から11年目。「危機」が連続する中で、日本の貧困対策のあり方に大きな転換が求められているではないだろうか。

 

無料支援・相談窓口

フードバンク仙台  080‐7331‐6380(事務・寄付・支援メンバー募集の問い合わせ専用)(10:00~16:00 ※祝日休)foodbanksendai@gmail.com

食料支援申込はこちらから

*仙台市内の生活困窮世帯が対象です

NPO法人POSSE https://www.npoposse.jp/ 03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人です。労働者の権利行使の支援を行っています。全国からの相談を受け付けています。

仙台けやきユニオン 

https://sendai-keyaki-u.com/

022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)sendai@sougou-u.jp

*仙台圏内の労働者の権利行使を行う労働組合です。一人でも加入できます。

 

今野晴貴

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。


「命」を大切にする具体的な対策、個人個人に寄り添った温かい支援が求められる。「命」の大切さを再確認する3.11にコロナ禍で医療機関等削減するとは、「命」以上に大切なものはないことを確認すべきだ。
「戦争」はあってはならない。

 子どもの甲状腺がんが多発している。しかし自民党政権は非科学的検知からこれを認めず、被ばく自体を認めようとしない。さらに差別や偏見を助長、若者やその家族に二次被害を与え続けている。

 もう一つ大切なことがあった。「労働組合」の存在である。現在、その組織率も減り、「労働組合」の存在意義も忘れかけている。「連合」傘下の「組合」でも頑張っているところもあるが、総体として「?」なのであろうか。国民から支持を得て「組織率」を上げる具体策がほしい。


武田砂鉄・こんなことも言えなくなった?そんなことは昔から言うべきではなかったのだ 

2022年03月10日 | 生活

「東京新聞」2022年3月7日 

 「最近は何を言ってもいろいろ言われちゃうから大変だよ」という言い方をよく聞く。その言い方は、「あちこちで物を言うのが不自由になってきた」と展開していくのだが、「なぜ、これまでは何も言われなかったのか」という観点がすっぽり抜けていたりする。これまでもダメだったのかもしれないのだ。

 本人の性のあり方について本人の同意なく第三者に暴露してしまうことを「アウティング」と呼ぶ。自死につながったケースさえあるのだが、こうした事柄についても、「それくらいのことで」との声がまだまだ向かう。

 何でもかんでもセクハラになっちゃうんだからたまったもんじゃないよ、と吐き捨てる人は、どういうわけか、セクハラにならない限界点を知ろうとする。「髪切った?」はいいのかな、「このあと、彼氏とデート?」はいけないのかな、といった具合に。「相手がどういう気持ちになるか考えてみましょう」と、小学校で習ったようなメッセージを改めて送りたくなる。

 これまで自由に使えていた言葉が制限されると、自分たちが不自由になったと感じる人がいる。ジェンダー平等が繰り返し叫ばれる社会の中で、とりわけ男性はそう感じる機会が多いはず。その時、真っ先に、「これは、これまでもダメだったやつではないか」と考えなければいけない。そう考えないと、なぜかギリギリを目指してしまう。ギリギリを目指して、これもダメですと言われると、不自由な世の中だと世の中のせいにする。

 石原慎太郎は差別発言を繰り返した。女性に、外国人に、障害者に対して、とにかく繰り返した。なぜ繰り返したかといえば、それを、日本社会が、そしてメディアが、彼のキャラクターとして許容してしまったからだ。彼が亡くなると、彼の差別発言について聞かれた幻冬舎・見城徹社長が「世間的な調整や気遣い、忖度そんたくのできない人なんです」(2022年2月9日・朝日新聞デジタル)と述べていた。

 ほら、こんなことを言うのだ。なかなか「世間」とは合わせられない人だし、「忖度」が苦手だったと。ここには、それを言われた人がどう感じたかという視点がまったくない。棘とげとして体に刺さったままの人がたくさんいる。その人にとっては、言われた人が亡くなろうが、棘がとれるわけではない。むしろ、偉大な作家・政治家だったと大ざっぱに肯定されれば、棘は改めて体に刺さる。

 昔からダメだったものが、今、ようやくダメだと認定されるようになってきたという考え方をしたい。「こんなことも言えなくなっちゃったのか」があちこちから聞こえる。そんなことは、昔から言うべきではなかったのだ。ギリギリを目指す人には冷淡に接していい。「それ、ダメですよ」と言う。モゴモゴ文句を言うかもしれないが、だってダメなのだ。勉強してから出直してこい。年長者だろうが、この対応で構わない。


「その戦争、だめですよ」
ようやく「戦争」が「犯罪」として認められてきた。
「核兵器」を持つことが「犯罪」として認められるよう頑張っている。
東京大空襲の日に、「戦争」の不条理を考える。


核兵器使用許さぬ声今こそ サーロー節子さん 岸田首相に手紙

2022年03月09日 | 社会・経済

「しんぶん赤旗」2022年3月8日

 広島で被爆したカナダ在住のサーロー節子さんは7日、岸田文雄首相に手紙を送り、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻と核兵器使用の示唆に対し、「今こそ、核兵器の使用や威嚇は絶対に許されないということを声を大にして上げ、世界中に向けて発信してください。今世界は、広島からの声を必要としています」と訴えました。

 即時停戦を心から願うとのべ、「米国による原爆投下の惨禍を身をもって体験した一人として、このような核の脅しを決して許すことはできません」と表明しています。

 「こうしたなか日本で一部の政治家から、『核共有』の議論をすべきだという声が上がっていると聞き、私は大変に驚き戸惑っております」とのべ、「核兵器が使われたらどのような凄惨(せいさん)で非人道的な事態となるかを世界に訴えることが日本の役割です。それを使用する側に回るという選択肢があろうはずがありません」と強調しています。

 世界が核戦争の危機に直面するなか、核兵器禁止条約の意義はますます大きくなっているとして、今夏の禁止条約第1回締約国会議に「是非(ぜひ)とも出席し、その条約の目標の実現のために日本として世界をリードするという明確な立場表明を行ってください」と求めています。


 昨日の分も補う程の良い天気となりました。明日も良い天気になりそうですが、週間予報を見るとまた週明けからズラッと雪マークが並んでいました。

融雪剤(木灰)をハウス周りに撒きました。積雪は1m。

高速道路の脇の道は、まだ除雪が入っていない。


国際女性デー。仁藤夢乃 バカなフリして生きるのやめた。

2022年03月08日 | 生活

きょう8日は国際女性デーです。

バカなフリして生きるのやめた

日本に「女性支援」の根拠法ができる!

“ここがおかしい”

仁藤夢乃(社会活動家)

Imidas連載コラム2022/03/08

これまでなかった女性支援の砦

 2022年2月16日、困難な問題を抱える女性を支援する新法制定のための超党派勉強会が参議院で開かれた。私もこの法律の制定に向けて、19年に厚生労働省の検討会の構成員として活動し、「売春防止法に代わる新たな枠組みが必要」とする中間まとめを公表した。その後、民間支援団体などの有識者で集った「女性支援新法制定を促進する会」のメンバーとして、新法制定に向けて要望書を作成し議員らに伝えるなどの活動をしていて、16日の勉強会にも参加した。

 この日は法の骨子案が示された。朝日新聞の記事には〈目的や基本理念に女性の福祉の増進や人権の尊重、男女平等の実現を掲げ、これまで支援の根拠法とされた売春防止法(売防法)からの脱却を図る。(略)骨子案によると、女性の福祉の増進のために、人権が尊重され、安心して自立して暮らせる社会を実現することを目的としている。必要な施策の実施を国と地方自治体の責務とし、国に基本方針を、都道府県には基本計画を定めることを義務づけた。〉とある(「問題抱える女性支援目指し 新法骨子案判明 『売防法から脱却を』」22年2月16日、朝日新聞デジタル)。

 東京新聞にも〈女性の保護事業は現在も都道府県が実施しているが、根拠法の売春防止法は、女性の「更生」や「収容」を明記する一方、福祉の視点が欠けているとして一部を廃止し、新法に置き換える狙いだ。法案の骨子では、性的被害や家庭状況の事情で、日常生活や社会生活が困難になった女性を支援対象として定義。本人の意思を尊重し、回復や自立に必要な包括的支援を行うことを明記した。〉と紹介されている(「貧困やDV被害 居場所がない女性の包括支援 超党派議員が新法案を提出へ 売春防止法から脱却目指す」22年2月16日、東京新聞Tokyo web)。

売春防止法とはどんなもの?

 さらに先の東京新聞の記事は、〈1956年制定の売防法は、売春を助長する行為の処罰と、売春する恐れのある女性の補導・保護更生が目的。都道府県は今も同法に基づき、相談や一時保護を担う「婦人相談所」、中長期的に保護する「婦人保護施設」を運営している。保護対象はDVやストーカー被害者にも広がったが、少ない人員配置や専門職員の不足、民間団体との連携不足が課題。支援関係者は長年、「困難の責任を女性に負わせ、蔑視的な表現が残る売防法こそ問題だ」と、新たな根拠法を求めていた。〉と締めくくられている。

 売春防止法は「売春」に「転落」する女性や「売春を行うおそれのある女子」を社会を乱すものとして扱い、「補導」「保護」「更生」の対象に位置づけている。こんなに差別的な法律が制定から66年間、一度も根本的に改正されていないのだ。そして、そうした女性たちが「収容」される「婦人保護施設」は、その名前すらほとんどの人には知られていない。「婦人保護」という名称自体にも深い女性差別を感じざるを得ないが、女性を公的に支援する唯一の施設である。その「婦人保護施設」は「売春のおそれのある女子」を指導の対象としてみる差別的な売春防止法を根拠としていたのだ。

 私たちColabo(コラボ)の活動は、既存の「支援」が機能していないために、「ないのなら自分たちで作ろう」と始めたものだったが、法律や制度のことを知れば知るほど、これまで日本社会には「女性福祉」はなかったのだとわかっていった。

 01年にDV防止法ができてからは、国はお金をかけず女性たちを「保護」する場所として、入所者が少なくなっていた婦人保護施設に着目し、そこからDV被害女性やストーカー被害女性も同施設で保護されることとなった。すると、緊急的に女性を保護する一時保護所だけでなく、それまで地域に開かれていた婦人保護施設も、DVやストーカーの加害者から入所者を守るため看板を下ろして所在地を隠し、通信機器の利用などにも厳しいルールが課せられるようになった。

 また、「措置」の仕組みの問題などで入所のハードルが高く、婦人保護施設は困っている女性たちから「利用したい」と思われる場所ではなくなった。利用率はものすごく低く定員の2~3割という施設もある。Colaboでは18年度から、本来は性売買・性搾取の被害にあった女性の生活を保障する場であるはずの婦人保護施設について、女性たちが「利用したいと思って利用できる場」になるよう働きかけ、少しずつ道が開けてきている。施設自体も、少女や成人女性の人権を保障するために変化しようとしているところだ。そうした現場の活動を通して、今回の新法の必要性も議員らに理解してもらえるようになってきた。

女性差別的な法律が66年間続いている

 売春防止法は戦後、女性の福祉や人権保障のために活動してきた多くの女性たちの運動によってできた法律だが、その時代の人権意識を反映しているともいえる。それが66年間も変わらずにきたことは、日本社会の女性に対する意識が戦後から進歩していないことを示す残念なことだ。

 売春防止法では、女性が「補導」の対象にされる一方で、買春を持ちかける男性側は受動的な存在として位置づけられ、第5条の「勧誘等」の罪は女性にしか適用されない。そもそも「売春」という言葉自体が買春男性側からの視点でつくられた女性差別的なものであり、性売買・性搾取の実態を覆い隠している。

 16年9月22日の本連載「私たちは『買われた』展を終えて想うこと」でも書いたが、15年にはSNSを通して買春相手を探して生活していた少女が勧誘罪で逮捕される事件もあった。「少女は遊ぶ金ほしさに売春し、映画を観たり洋服を買ったと証言した」「少女は高校を中退して半年間家に帰らず、居所不明になっていたため任意の事情聴取ができず、逮捕に踏み切ったと警察は説明している」などと、さまざまなメディアが報じたが、半年間も家に帰らずに生活しなければならなかったのにはきっと理由があるはずだ。そして、彼女はきっと「売春」で得たお金で宿に泊まったり、ネットカフェでシャワーを浴びたり、食費や生活費にしていたのではないかと、私が出会ってきた少女たちの現状から想像した。

この年から、Colaboでは児童買春をテーマにした「私たちは『買われた』展」を企画し、活動を通して性搾取の実態を伝え、理解者が増えたことが新法制定に向けた力にもなっている。

数年前までは現状調査さえもなかった

 私たちは活動を始めた時から、行政に支援を求めても「自殺対策なら枠があるが、女性や若い少女たちを支援する枠組みはない」とはっきり言われてきた。「そういう子はどこにいるのか? 何人いるのか? こちらでは把握していない」と言われ、現状を知ろうとしない、調査をしようとしない行政の態度に憤りを感じながら、実際の活動を通して困難を抱えた少女や女性がたくさんいることを伝え続けてきた。こうした活動を10年続けることができたのは、周囲の方々からの寄付など具体的な応援や支えがあってのことだった。

 既存の「支援窓口」には足を向けない、こちらから出向かなければ会えない少女や女性たちがいることから、そうした人たちがいる場所へ出向き、つながるために働きかけを行うこと(アウトリーチ)の必要性を訴え、そのことを国も認識して18年に「東京都若年被害女性等支援モデル事業」が始まりColaboも受託した。アウトリーチの強化は必要だが、支援を必要とする人に出会ったところで公的な受け皿がないため、Colaboでは自主事業としてシェルターやシェアハウスなどで住まいの提供をしている。

 しかし民間団体の資金では限界があり、圧倒的に不足していることを繰り返し指摘し、「出会ったあとの責任が取れない、受け皿の拡充を!」と要請したら「まずは自助努力でお願いします。制度は後からついてくるものです」と東京都に言われた。そのため、Colaboは市民から寄付を募り、シェアハウスを5物件15部屋に拡大し、22年3月にはアパートタイプの住まいも8部屋開設するが、年間1500人以上の少女たちから相談がある中ではまったく足りていない。

公的支援の道をようやくこじ開けた

 モデル事業が始まり、女の子たちが婦人保護施設を利用できるようになるかと期待したのだが、「措置」の仕組みの問題により施設に入れた女の子は一人もいなかった。女性に選択権はなく、見学やお試し入所もさせてもらえないまま「措置」されるという仕組みそのものが、本人主体の支援のあり方ではなく、管理・指導的な目線によるものだが、今もこうした支援が続いている。

 この問題をさまざまな政党の都議会議員に伝えたところ、東京都は20年度末に2人の女の子を初めて婦人保護施設に繋いでくれた。東京都と連携して若年者支援のモデル事業を行った3年間(Colaboが活動を始めてからだと9年間)で、たった2人だけである。

 しかし、そこから婦人保護施設利用の道が切り開けた。これまで婦人保護施設は、若年女性を受け入れてきていなかったので、改善してもらわなければならないところもまだまだある。それでもまずは、若年女性が公的な支援を使えるということが、ようやく始まった(というかこじ開けた)ところだ。

 未だに入所のハードルが高かったり、女性たちの生活やニーズに合った対応ができていないため、抱えている困難が大きかったり、見守りが必要な人ほど、公的支援を利用できず、アパートで一人暮らしせざるを得なくなることが続いている。

女性支援を加速させる新法への期待

 公的機関で唯一、積極的なアウトリーチを行っている(補導という形になるのでケアではない)警察からは「売春防止法で女性を補導することしかできない」と言われ続けてきた。ここまでも大変だったし、これからも大変なことばかりなのだろうとは思うが、この新法が今国会で成立したら、日本社会にようやく女性支援の根拠法ができる! これまでなかったという事実も、多くの人に知ってほしい。

 全国各地にColaboのような活動のできる人を増やしたい、そのためにも国に予算をつけさせたいと思い、18年にColaboは東京都のモデル事業を受託して活動することを決めた。モデル事業の内容は、アウトリーチ、一時保護、自立支援と、Colaboがつくってきた活動そのものだったので、実績を作り必要性を訴えることで予算化され、全国に広がるようにと願って取り組んだ。

 今年度からこれが本事業化され、来年度はさらに予算も増え(それでも必要な活動を補うには足りないが、支援の根拠法もない中で予算がついたことは画期的)、これから全国に広がっていく段階だ。全国でColaboのような活動が必要だと考え、繋がってきたみなさんと、それぞれの場所で一緒に取り組む時がいよいよ来る。そのためにできることは何でもしたいし、力を合わせて、これからの女性支援をつくっていきたいと思っている。

 今はとにかくこの法案を、議員の方に超党派で力を合わせて国会で通していただくべく、市民の声を高めていく必要がある。

「自立」ではなく「人権と生活」を目的に

 しかし、16日に提示された骨子案をみて、次のことを懸念している。これまで私は「自立を目的とせず、人権保障・生活保障を目的とすること」を要望してきたが、「自立」を目的にするかのような書かれ方をしていること。また、婦人保護施設が「女性自立支援施設」という名称になる案が出されていることはとても残念だ。

 自立とは、職業的・経済的な自立を意味して使われ、生活保護の利用者に対して厳しい「自立指導」を行う自治体もある。また児童自立支援施設など、子どもたちにとって「入所させられる」「更生指導される」施設でも使われている言葉である。「自立させる」という考え方自体が当事者に対する上から目線であり、それでは「売春に転落した女性を更生指導する」というこれまでの婦人保護の考えから脱却できないと考える。

 そうした少女や女性たちが進学するためには大きな壁があり、生活保護を受給しながらでは大学や専門学校への進学は認められていないため、この新法を根拠に資格取得や、専門学校や大学進学のための学費や生活費などの力強い経済的な支援までするつもりで、そのために「自立」と書いているということではないだろう。

 また、女性の人権・生活保障を本当に考えるなら、婦人保護施設は「女性自立支援施設」ではなく「女性生活支援施設」などとするべきだ。骨子案では、「当事者を尊重」と繰り返されているが、この名称を当事者が聞いたら、どう思うか少しは考えてほしい。行きたいと思わないのではないか。「婦人保護」もひどいと思ってきたが、意味がわからない「婦人保護」より「自立支援施設」の方はさらに嫌かもしれない。これは当事者抜きで決められた言葉だろう。このような上から目線の名称では施設のスタッフの利用者への目線もそういうものになってしまうのではないか。

あくまで責任逃れをしたがる大人たち

 私は女性支援や児童福祉の現場で、「当事者の意思を尊重する」と言いながら、それを盾に「本人が支援を拒んだ」などと決めつけて、必要な選択肢も提示することのないまま厳しい管理者都合での条件やルールを押し付けるような支援を毎日のように見てきた。「本人の意思」を支援者側の都合の良い言い訳に利用して、責任逃れをするということを繰り返すのだ。そのため、骨子案にあるような理念が「支援をしない言い訳」に利用されないようにしていかなければならない。

 法律の名前も「女性包括支援法」などになることを願っているが、「女性自立支援法」などとなりそうな流れなのではと心配している。また、売春防止法では「売春のおそれのある女子」を対象とされていたところに、新法では「性売買・性搾取の被害にあった女性に対する支援を行うこと」と明記してほしいとも要望していたが、骨子案には「性的な被害」と一言だけしか書かれていないのも気になっている。

それでも、新法に人権を尊重し、福祉の増進を行うなどと書かれていることは、この日本では画期的だ。また、シェルターなどの活動のほとんどを支えてきた民間団体も、女性支援の担い手として法律に明記されることになり、それも画期的だ。しかし、民間団体を行政の請負のような扱いで安く使うのではなく、対等な協働先として、しっかりとした財政支援がつくものにしないといけないが、そこがまだ不十分だ。

 このように、細かいけれど大切なこと、指摘しておかなければならないことはたくさんあるが、それでもまず今国会でこの法が成立することが大切であり、それは大きな一歩である。

 長引くコロナの影響もあり、女性たちはこれまでにないほど困窮し、性搾取の被害にもあいやすくなっている。そうした女性たちの人権と生活を保障し、支援を届けるために今国会での女性新法の成立を願っている。そのためにも、多くの市民にこの新法に関心を寄せていただき、制定を願う声を共に上げ、大きくしていただきたい。そして、現場の活動に生かされる、実効性のある法律になるように働きかけていきたい。

Colaboでは一緒に支援活動をしてくださるスタッフを募集しています。

詳しくはホームページをご覧ください。


 すっきりと晴れる予報だったのだが、早朝だけ。雪は降るわ、風も出るわと不安定極まりない。
今日の散歩道。日没前、ようやく青空が見えた。


北原みのり おんなの話はありがたい なぜ怒り?SNSで知り合った男の精子提供で望まない妊娠・出産 「性被害じゃないですか」

2022年03月07日 | 事件

AERAdot 2022/02/23 

    作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、精子提供をめぐるある“事件”について。

*    *  *

「SNSで知り合った男性から精子提供を受け出産した女性が、男性が国籍や学歴を偽ったことで精神的苦痛を受けたとして約3億3000万円の損害賠償を求めた」

 昨年末に報道された“事件”だ。報道によれば、男性は京都大学の卒業生で、結婚していないと話していたが、女性が妊娠した後に、実際は京大出身ではなく、既婚者で、中国籍であったことがわかったという。生まれた子どもは現在、児童福祉施設に預けられているという。

 報道された直後から、ネット上は母親バッシングにあふれ、今もそれは続いている。京大じゃないからって何? 日本人じゃないからって何? 差別主義者か? 被害者ぶるな! という怒りである。さらに、子どもが児童養護施設に入っている事実も多くの人を刺激した。私自身も、ニュースを読んで反射的に「子どもの人権がまったく無視されてるけど?」というようなことをSNSに投稿している。「理想の子どもを産みたい」という「欲望」は、何においても優先される感情なのか? という思いがあった。

 その後しばらくのあいだ、私は友だちとこのニュースについて話し合った。私は何かにいらだっていたのだけれど、その自分の苛立ちが何かもわからなかった。あまりにもわからなく、そしてその「わからなさ」のわからなさ具合もわからなかった。子どもが「オモチャ」みたいに扱われることのいらだちかもしれないが、それだけではないような不可解さ。この「わからなさ」は出生した子の人生をどう左右するのだろうと考えると、途方もない闇に包まれるような気持ちにもなる。つまりは、この“事”件は、私が知っている事件の枠組みを大きく超えていたのだ。

 ちょうどこの1年前の2020年12月に「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」が成立した。生殖医療ビジネスの促進を目指しているだけではないのかと疑いたくなるほど、稚拙で性急な議論のまま成立してしまった。私は国会を一度傍聴したのだが、AID(第三者の精子提供による人工授精)で出生した当事者たちが、議論を進めようとする議員に自身の体験をもとに「この法案は子どもの出自を知る権利を無視している」と訴えていた。その声は結局届かなかった。

当事者の声は切実だった。ある人は、幼い頃から父と母との関係が悪かったということを語った。成人してから両親が離婚したが「父の面倒はみなくていい、本当の父じゃないから」と母に言われたことをきっかけに、自分がAIDで出生したことを知った。そうと知った瞬間に、ぎこちない母と父の会話や、過去に味わった違和感の点と点が線になるように今に結びついたという。

 AIDで出生した全ての人が遺伝的な父親を特定したいと思っているわけではない。それでも、私が聞いた当事者の方々たちは、「自分がモノではないということを確認したい」という思いを強く持っていた。カタログから選ばれて買われてきた遺伝子情報ではなく、尊厳をもった命であるという実感を持ちたいという切実だ。またAIDで出生した人たちが、遺伝的疾患などのリスクを知る権利を奪われてしまっていることも、問題とされている。日本では、子どもの知る権利が一切認められていないからだ。一方、ニュージーランドなど先進国の一部では、子どもの知る権利が優先されており、精子提供者は将来、子どもがその権利を行使する可能性があることを理解しなければならないとされている。日本のスタンダードはまた、世界から遅れつつあり、そして常に現実は法律のずっと先をいきながら、多くの人の人生を巻き込み、時には深く傷つける。

 ……というような「子どもの権利」から考えたときに、今回の事件はどのように捉えればいいのだろうか。そもそもSNSで精子提供を受けるという状況は、日本の法律では想定されておらず、さらにそこで生まれた子どもの知る権利などというものははなから、親自身も考えていないことだろう。この事件を「どの立場」から考えればよいのだろう。そもそも、SNSで今も続く母親への激しいバッシングは、どういうことなのだろうか。「子どもの知る権利が奪われている」ことへのバッシングであれば、一昨年に政府にすべきだったろう。「京都大学じゃなきゃだめだ」という女性に対する怒りだとしたら、「京都大学です」とうそをついて精子提供した男性側はいったい何がしたかったのか。いったい皆、何に怒っているのだろうか。激しくモヤモヤしていたところ、20代の女性にこの事件についてどう思う?と聞いたのだが、その彼女が一言でこう言い切ったのだった。

「え、それって、性暴力事件じゃないですか」

 え? と驚く私に、彼女は「え? そんなことも知らないんですか?」みたいな感じで教えてくれた。SNSにはこの手の男がかなりいること。特にレズビアンカップルを狙ってくる男もいること。まるで善きことをするボランティアの体をとりつつ、セックスを目的にする男も多い。とはいえ女性のほうも、自分が男から精子を求めることに合意しており、場合によっては妊娠の確率が高いタイミング法(実際に性交すること)に合意することもある。だから「被害」に気づきにくく、それが合意の性交であるのか、わなにはめられた性暴力だったのかの区別がつきにくいというのだった。 

 そう言われると、「解けていく」謎もあるように感じるのだった。実際、後になり女性の訴状や、記者会見での弁護士の発言などを見聞きしたが、この女性は自身が性被害にあったと感じていた。この“事件”は性暴力事件として提訴されているわけではないが、実際には「望んでいた条件と合致しない相手との性交渉と、これに伴う妊娠、出産を強いられた」とし、「自らの子の父親となるべき男性を選択する自己決定権が侵害された」と女性側の弁護士は訴えている。そして、その原因となった自身の子が、性暴力被害のトリガーとなってしまったことから、自分の意思ではなく、専門家のすすめによって子どもと一時的に引き離されている状況になっているとのことだった。

 今にいたるまで、この“事件”を「性暴力」の要素がある事件として、女性の人権の観点から報道したメディアを私は知らないが、母親の傲慢な欲望として母親バッシングにつながる報道だけでは見えない真実に、実は目を向けなければいけないのかもしれない。母親も、子の人生に対する加害に荷担してしまっているかもしれないが、その背景にあったかもしれない暴力的構造や、女性の身体を巡る厳しい現実がある。なにより、現実に追いつこうともしない法律の問題、「子を産まねば」という女性に向けられるプレッシャー、生殖ビジネスに対する無批判な推進、女性の身体が常に危機にさらされ、支配され、搾取されている現実がある。

「わからない」ことはますます膨らんでいくが、その「わからなさ」の中で人生が壊れるほどもがく人たちの声に向き合うしかないのだろう。“事件”から見える「今」が含む暴力性に呆然としながらも。

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表


 先月23日の記事であったが、ウクライナの戦闘が起き今日になってしまった。戦闘はますます過激になり、一般市民の死者も増えている。まず、ロシア軍の兵士たちに言いたい。「武器を捨てよ」誰のために戦っているのか?

 天気予報によれば、今日は一日良い天気のはずだったのだが、あまり太陽は見えなかった。

 大きくなりすぎて日が当たらなくなったので、かわいそうだが切り倒した。両手で抱き着いても届かないほどの太さがあった。

この木で3年分くらい(?)の薪ができる。


静かに進む日本人の海外流出――包括的な頭脳循環政策の検討を

2022年03月06日 | 教育・学校

大石奈々(メルボルン大学准教授)

Imidasオピニオン2022/03/04

増える日本人の海外移住

 海外に住む日本人は2019年に140万人を超え、そのうち海外永住者は2018年に50万人を超えた。外務省の海外在留邦人数調査統計(2021年版)によれば、2020年にはコロナ禍に伴う入国制限で長期滞在者はここ30年で初めて減少したものの、永住者に関してはまだ増え続けている。この数には国際結婚のケースも含まれているが、それを除くと先進国は基本的に高度人材を中心とした移民政策を採っているため、日本人永住者の増加は高度人材が海外に流出している可能性を示唆している。実際、潜在的な人の移動の可能性を測る調査(Gallup Potential Net Migration Index 2018)でも、日本は高度人材の純流出国(-8%)となっている。

 2018年の国際比較調査(Gallup Worldwide Poll [堀内勇作氏提供])では、日本における大卒者の間で海外移住を希望する割合は23.2%と、他の先進国と比べて高いだけでなく、中国(13.3%)やインド(13.1%)などの新興国と比べても高いことが分かった。筆者とダートマス大学の堀内勇作教授が日本経済研究センターの研究奨励金を受けて行った大卒の日本人に対するオンライン調査(詳細後述)ではこれよりも更に高く、今後海外に「長期移住するための情報収集や就職・転職活動等を行う可能性がある」と回答した人は29.4%であった。この傾向は海外に住んだ経験のある人では56.1%と特に高かった。

 大卒の日本人の3人に1人、海外在住経験者の2人に1人が海外移住を考えている背景には何があるのだろうか。「移住したい」ことと「移住する」ことは別の話ではあるが、実際、筆者の住むオーストラリアでは2011年の東日本大震災以降、長期滞在者と永住者が増加しており、現在ではアメリカに次いでオーストラリアへの日本人永住者の数が世界第2位となった。本稿ではオーストラリアに移住した日本人へのインタビュー、日本在住者への調査、そして既存の研究の知見も交えながら日本人の海外移住志向について探っていく。

日本人の海外移住の背景

 これまでオーストラリアへの移住に関する研究では、日本人は「より高い収入」ではなく「より良いライフスタイル」を求めて移住すると理解されてきた。「より良いライフスタイル」とは、ワークライフバランスが確保できること、豊かな自然、子育てがしやすいこと、治安が良いこと、ジェンダー平等などが含まれる。

 筆者を中心とするプロジェクトチームが 2016年から2018年にかけてオーストラリアで行った32名の日本人移住者へのインタビュー調査(1・2)では、2011年の東日本大震災以前に移住した人々は確かに「より良いライフスタイル」を移住の主な動機としていた。しかし、それ以降に移住した人々の動機は大きく異なっていた。震災後の移住者たちの多くに共通していたのは、ひと言でいうと「強い危機感とリスク回避志向」である。

 これまで海外に住んだことがなかった人や、大手企業の管理職、医師、経営者など収入も高く日本で十分に満足できるキャリアを歩んでいたエリート層の人でも、震災を機に日本に住むことの長期的なリスクを真剣に調べ考え始めたという。その結果、日本で切迫しているとされる首都直下地震、南海トラフ大地震、富士山の噴火というリスク、原発への影響、それによる経済的インパクトなどを考慮し、海外移住という決断に至ったのだった。

 こうした人々は、移住先を決める際に徹底したリサーチとリスク評価を行っていた。中には震災後の福島から流れた汚染水を含んだ海流がどう移動し、どの国に影響をより及ぼしているかまでを調査した人もいた。東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故をきっかけに「政府に頼らず自分で自分と家族の身を守らなければならないという意識が芽生えた」のだという。移住者たちがオーストラリアを選んだ理由としては、原子力発電所がなく放射能の影響について心配をしなくて良いこと、活火山がなく地震が少ないこと、英語圏であること、国家財政の健全性、高い食料自給率、治安の良さ、日本との時差が少ないこと等が挙げられた。

 震災直後には子供の体への放射能の影響に不安を抱く子育て世代や、将来起こるとされる巨大地震・火山噴火やそれによる原子力発電所への影響などを危惧する人たちが多かった。しかしその後、日本政府による情報規制、メディアの忖度などの政治的状況に危機感を感じるようになった人が増えたことが同調査で分かった。

 大手IT企業で管理職をしていた40代男性は、当初は子供たちへの放射能の影響だけが心配だったが、その後すぐ安保法制や憲法改正に向けた動きが加速したこと、またそれに対するメディアの反応にも失望し、将来に不安を感じたという。大手運輸会社に勤務していた30代男性もこう述べた。「情報が規制されてるっていうのが、そこでこう、あからさまに分かったわけじゃないですか。〔中略〕この国で子育てをしたいなとか、そういうのはちょっと思えなかったですね」。

 また、特に重要な要因として、調査対象者の9割近くが「長期的な経済についての不安」を海外移住の理由に挙げた。少子高齢化が進む日本における経済の展望や、年金制度や医療制度などの持続可能性への不安も彼・彼女らを海外移住に駆り立てたのである。ある大手事務機器メーカーの管理職男性は「日本の年金制度は遅かれ早かれ破綻する」と感じつつ、今後どう制度を持続可能なものにしていくかという解決策が国民に示されていないことに苛立ちを感じていた。

 子育て世代にとっては教育も移住の動機の一つであった。日本経済の先行きが不透明な中、子供を英語の多文化環境で教育することで、世界のどこでも働ける「グローバル人材」に育てたいと考えていたのである。語学だけであれば日本でインターナショナル・スクールに通わせる選択肢もあったが、より多文化な社会で「ダイバーシティ(多様性)」というものを肌で理解できる大人に育てたいという声も聞かれた。

人材流出の背景――経済リスク、ライフスタイル、政治要因

 上記の調査対象者のうち、震災後の移住者は90%が2016年以前に日本を出た人々であったため、リスク意識が特に高かった可能性もある。「リスク意識」や「リスク回避志向」は時間の経過によって薄れるものなのか。また、人々はどういった種類の「リスク」に対してより敏感に反応するのか。「ライフスタイル」要因はもはや海外移住意識には大きく影響していないのだろうか。

 こういった点を解明するために、筆者とダートマス大学の堀内勇作教授は2019年から2020年にかけて日本在住の2415人の日本人を対象にオンライン調査実験(3)を行った(先進国への移住には大卒資格がほぼ必須であることから対象者は大卒の日本人に限定した)。対象者を4つに分け、1つのグループを除く3つのグループに、それぞれ日本の長期的な「災害リスク」「経済リスク」「ライフスタイル(ワークライフバランスや幸福度の低さ)」に関する記事を読んでもらった後、海外移住志向についての質問を行った。その結果「経済リスク」と「ライフスタイル」は移住志向に影響していたが、「災害リスク」は影響を及ぼしていなかったことが分かった。この理由は調査からは明らかにはなっていないが、震災から時間が経っていることでリスク意識が薄れているということ、また、災害リスク、特に地震・原発・放射能に特に敏感な日本人の多くがすでに海外に移住している可能性があるということなのかもしれない。

 日本の財政破綻や少子高齢化の進展による年金制度の持続が困難になること等を含む「経済リスク」は最も大きく海外移住志向に影響していた。「経済リスク」に関する記事を読んだ人の39.2%に海外移住志向が見られ、何も読まなかった人と比べて10.3ポイント高いという統計的に有意な結果が出た。

 また経済リスクほどではないものの、「ライフスタイル」の影響はまだ依然として根強かった。長時間労働や他の先進国と比べた際のワークライフバランス・幸福度の低さについての記事を読んでもらった人のうち35.5%に海外移住志向があり、何も読んでもらわなかった人たちと比べて6.1ポイント高かった。この結果も統計的に有意であった。

 この実験の当初の目的とは別に、興味深い結果も得られた。政治意識の高い人や政府やメディアに不信感を持つ人がそうでない人より海外移住を考える割合が高かったことである。「政府やメディアへの信頼が低い、あるいは非常に低い」人の32.2%、「必ず、あるいはほとんどの選挙で投票する」という人の30.6%が海外移住を考えていた。これは震災後にオーストラリアに移住した日本人へのインタビュー結果と符合する。人々が海外移住を考える際、個人のライフスタイルや仕事、将来のリスクだけではなく、政府やメディアに対する信頼度も影響している可能性があることが示唆された。

 本調査のデータ収集は2020年2月に終えたため、その後のコロナ対策やオリンピックの際の対応に関する日本政府への不満は反映されていない。政府のコロナ対策は、人々の海外移住意識をどれほど高めたのだろうか。またここ数年、富士山の噴火の切迫性が注目されるようにもなり、大きめの地震が首都圏や東北、能登半島、日向灘などで続くようになったことで震災リスクをこれまで以上に意識する人々も増えたかもしれない。

 一方で、コロナ禍では日本より外国の方が危ないとの意識が強まり、海外移住意識がこれまでより下がった可能性もある。今後、日本人の海外移住意識はどのように変わっていくのか引き続きフォローしていきたい。

多様な人材流出のかたち

 ここまでは主に日本人高度人材の先進国への永住について述べてきたが、新興国や途上国に移住する人もおり、同じ大卒者であっても移住パターンは異なる。

 例えば大連や上海など大手日系企業の支社がある中国の大都市では日本人の現地採用が増えている。既存の研究によれば、新卒一括採用の慣行が根強い日本で正社員として就職できなかった若者が中国に向かっているという。近年、日本の労働市場も流動化しつつあるが、まだ非正規雇用の既卒者が正規雇用に就くことは容易ではない。こうした若者の一部が、日本で働くより給与は低くてもホワイトカラー職に就けることや、中国語を学んでキャリア・アップをめざすという理由から中国に移住している。また、中国の潤沢な研究資金を背景に日本人の若手研究者や定年後の大学教授が中国の大学に就職するケースも増えつつある。

 筆者のシンガポールにおける聞き取り調査では、税率の低さや起業のしやすさを移住の理由に挙げた日本人投資家たちもいた。ワークライフバランスやジェンダー要因も、女性たちが海外に出る動機として根強い。日本では女性の昇進は男性と比べて容易ではなく、出産・子育てがキャリアにネガティブな影響を及ぼす度合いも大きいからである。

「頭脳流出」から「頭脳循環」へ

 人材流出の背景となっている様々な課題を短期間で解決することが難しい中、今後この現状にどう対処していくべきなのだろうか。日本ではまだ海外移住者に対して「日本を捨てた」というネガティブなイメージを持つ人々もいるが、ほとんどの移住者は日本との密接なつながりを維持し続けている。日本人に限らず、移住者は母国への投資やビジネスなどの経済活動、共同研究など様々なイノベーション・ネットワークの構築に貢献しており、親族への送金といった経済サポートに加え、定期的な帰国や情報発信による「社会的送金(social remittances)」によって出身コミュニティにポジティブな社会変容をもたらしていることが多くの研究で明らかになっている。

 実際、世界銀行などの国際機関は、海外移住者を重要な「人的資源」と位置付け、二重国籍の付与などを通じて、流出した人材のモビリティを高めることが母国の経済的・社会的な発展につながるという「頭脳循環」のメリットを強調してきた。すでに多くの国々が頭脳循環をめざす政策に取り組んでいる。

 中国では海外移住者とその子孫(華僑・華人)からの投資が改革開放政策の初期に高度経済成長をもたらす大きな要因になったこともあり、早い時期から頭脳循環政策を採ってきた。今でも海外で博士号を取得した優秀な若手研究者に対して高額な給与や研究費を約束して帰国を促している。オーストラリアでも先端分野で博士号を取得した若手研究者に報奨金を与えて帰還を促す州政府プログラムがある。インドは二重国籍を認めないものの、海外インド市民権(OCI)という制度を導入して、元インド国民やその家族等に対して国民とほぼ同等の権利(参政権、農地購入、公職への就任等を除く)を付与し、帰国や投資・起業をしやすくしている。

 二重国籍については、安全保障上の議論もあり、海外に移住した国民にのみ認めたり、議員資格に制約を設けたりする国もある。しかし、二重国籍が海外に流出した高度人材の帰還や投資・起業を促進し、長期的な経済発展につながるという側面は広く認知されており、世界143カ国で二重国籍が認められているという事実も、それを端的に示していると言えよう。

 日本においても、高度人材の海外移住そのものを妨げることはできないが、制度的インセンティブや二重国籍などを含めた包括的な頭脳循環政策を採ることで、海外移住者のモビリティを高め、日本社会・経済により貢献しやすくすることは可能である。日本における高度人材の海外移住志向が中国やインドよりも高いこと、また実際に海外永住者が増えていることを鑑みると、日本でも人材流出への対応を真剣に検討する時期に来ているのではないか。すでに文部科学省で研究者の循環を促進するイニシアティブが採られてはいるが、より広範な高度人材の循環について産官学で連携しつつ議論を進めていくことが重要であると考える。


 そっかあ!すでにそんな状況にあるのだ。この傾向はますます進むだろう。一般のサラリーマンや非正規社員までも見切りをつけて日本を離れていくかもしれない。今の自公政権ではだめだ!

お昼頃まではいい天気だったので、久しぶりに写真を。

雪はだいぶ詰まってきたが、まだ1mちょっとある。


ロシアの原発砲撃「やっぱり狙われた」 日本でミサイル攻撃を懸念し裁判した人たち「最大の弱点」と訴え

2022年03月05日 | 事件

「東京新聞」2022年3月5日 

 4日午前、衝撃のニュースが入った。「ウクライナの原発が攻撃を受けた」「火災が起きた」という一報だ。悲痛な声を上げたのが、日本の原発に対するミサイル攻撃を懸念して運転差し止めを申し立てた人らだ。「やっぱり原発が狙われた」「危うい原発は早く廃炉にすべきだ」と訴える。(山田祐一郎)

◆北朝鮮、繰り返す弾道ミサイル

 ロシア軍の砲撃を受けたのは、ウクライナ南部のザポロジエ原発の施設とされる。同国最大の原発だ。主要施設に影響がないようだが、クレバ外相は、ザポロジエ原発が爆発すればチェルノブイリ原発の10倍の被害になると警告していた。

 「心配していたことが現実になって寒けがする」。こう話すのは、大阪府高槻市の水戸喜世子さん(86)。2017年7月、北朝鮮が弾道ミサイルの発射を繰り返す中、関西電力高浜原発3、4号機(福井県)が攻撃に遭う危険性があるとして、運転差し止めの仮処分を大阪地裁に申し立てた。

 水戸さんは当時、自衛隊にミサイル迎撃の破壊措置命令が出されている間は原発を停止させるべきだと主張。だが、大阪地裁は18年3月、「具体的危険があるとは言えない」と申し立てを却下した。

 「いまでも受け入れられない。突如、攻撃されれば具体的危険などと悠長なことを言っている時間はないのでは」と改めて当時の司法判断に疑問を呈した。

◆最新兵器で攻撃の可能性も

 あれから4年余り。ロシアはウクライナに侵攻後、チェルノブイリ原発をいち早く制圧し、ザポロジエ原発も占拠したとされる。「ロシアは原子炉そのものを攻撃して、自らを危険にさらすようなことはしないと思うが、やっぱり原発施設は狙われた」。改めて悔しさが込み上げる。

 水戸さんの代理人を務めた河合弘之弁護士も「戦争が起きたときに、安全保障上の最大の弱点が原発であることが今回、改めて分かった」と話す。北朝鮮によるミサイル発射はいまでも続いている。「いまはドローンによる攻撃の可能性もある。当時と状況が変わっている」と危機感を募らせ、「今回、プーチン大統領がしたことを金正恩総書記がまねしないことを願うばかりだ」と続けた。

 1カ月余り前の2月2日の東京新聞特報面では、ウクライナのセルギー・コルスンスキー駐日大使が「(原発が)攻撃された場合、何が起こるか。西ヨーロッパも影響が避けられないだろう」と述べたことを紹介。「原発が安全保障上のターゲットになるのは国際的な常識だ」という新潟国際情報大の佐々木寛教授(政治学)の見解も掲載していた。

◆止まらない胸騒ぎ

 改めて佐々木教授に取材すると「稼働中の原子炉が被害を受ければ放射性物質が放出され、極めて深刻だ」と述べ、「日本の場合、内部から工作されることの脅威や外部から攻撃された際の備えが脆弱ぜいじゃくだということを多くの人に再認識してほしい」と訴える。

 先の水戸さんは胸騒ぎが治まらない。「36年前のチェルノブイリ事故を経験し、いままた恐怖に直面している」とウクライナの人々に思いを寄せ、「日本で今回のような事態になってから原発を止めるのでは遅い。その前に廃炉にするしかない」と声を強めた。


こんな物騒なものを核兵器とともに地球上から即座に排除しなければ・・・・・

昼間はプラス氣温で過ごしやすかったのだが、今は吹雪。
「確定申告」ようやく終わった。やれやれ。最近は集中力がなくなり、おまけに楽しいことでもないのでダラダラとなってしまう。


雨宮処凛がゆく!ロシアによるウクライナ侵攻 声を上げることしかできないけれど。

2022年03月04日 | 社会・経済

雨宮処凛がゆく!第586回

マガジン9 2022年3月2日  マガジン9 (maga9.jp)

 「皆さんに、何が起こっているか知ってほしいです。戦争です。この21世紀のヨーロッパのど真ん中で、毎日毎日人が殺されています。殺人者はプーチンとプーチンの政権です。皆さん、ロシアを止めてくれないと、私たちの力だけでは足りません。今の21世紀では、武器や兵器だけでは戦争を止められません。日本政府に訴えて、強い経済制裁を願いたいです」

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まって2日目となる2月26日、ウクライナ人の女性はマイクを握ってそう言った。渋谷で開催された、ロシアによるウクライナ侵攻に抗議するデモだ。在日ウクライナ人の呼びかけで開催されたこのデモには、ウクライナ人をはじめ様々な国籍の在日外国人、そして多くの日本人が集まった。その数、約2000人。

 青と黄色のウクライナの国旗がはためく中、渋谷の駅前に「STOP WAR」「STOPプーチン」「ウクライナを助けよう」「ウクライナに平和を」「戦争やめよう」とコールが響きわたる。

 「戦わずにやめるわけにはいかない」というタイトル(内容?)のウクライナのバンドの曲が流され、ウクライナ国歌が合唱され、そうしてウクライナ人たちがマイクを握り、英語と日本語で交互にスピーチする。

 この日、彼らが何度か読み上げ、プラカードにも掲げられていた、世界と日本政府への要求は以下のようなものだ。

ロシアをSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除

プーチン個人に対しての経済制裁

ロシアとの外交関係停止

石油ガスの禁輸を含む、ロシアから全輸入の禁止

ロシアへの多目的商品、ハイテク機器の輸出の停止

ロシア政府関係者の全資産の凍結

ロシア軍からのミサイルを迎撃するためにウクライナ空域の封鎖

国連安全保障理事会からロシア排除

ウクライナで国連平和維持活動開始

 2月24日、世界を驚かせた、ロシアによるウクライナ侵攻。

 多くの人と同じく、私もただただ驚愕した一人だ。

 翌日には、前日深夜に呼びかけられたロシア大使館への抗議に参加した。しかし、大使館への道は警察によって封鎖されていて、大使館前まで行くことすらできなかった。が、集まった50人ほどは「ロシアはウクライナ侵攻をやめろ!」と叫んだ。

 さて、ここから状況がどうなるのか、私にはまったくわからない。そしていろいろな情報を集め、詳しい人に話を聞けば聞くほど、ロシア、ウクライナ周辺の歴史は複雑で、膨大な知識が必要とされることを痛感する。

 ただひとつだけ言えるのは、今、突然日常を奪われ、命を奪われる悲劇が起きているということだ。

 そして戦争は、もっとも弱い人を犠牲にする。

 戦争と聞いてすぐ頭に浮かぶのは、1999年に行ったイラクでの光景だ。湾岸戦争で劣化ウラン弾が降り注いでから8年後のイラクで私が目にしたのは、白血病や先天性異常に苦しみ、命を落としていく子どもたちだった。

 経済制裁の中、薬もない病院で、ただただ死を待つ痩せこけた子どもたち。その姿が目に焼き付いて離れなかったから、2003年、イラク戦争が始まりそうな時には「ここに再び爆弾を落とすな」と訴えるためイラク入りした。当時のイラクには世界中から反戦活動家たちが「人間の盾」となるために集まっていて、連日デモや集会が開催されていた。

 しかし、当のイラク・バグダッドは拍子抜けするほどのどかで、これから戦争が始まる地にはとても思えなかった。街中ではいつも結婚式が挙げられていて、みんなが踊ってはしゃいでいた。

 帰国してから、イラクでは戦争を前にして「駆け込み結婚ラッシュ」だったと知った。私が「これから戦争かもしれないのに呑気だなー」なんて見ていた光景は、「これから戦争だからこそ結婚」という切実なものだったのだ。

 そうしてすぐに、開戦。一見のどかに見えた風景は、庶民はここに爆弾が落ちるかもしれないと思っていても、そもそもどこにも行けないという現実だった。相当のお金持ちだったら、なんとかなるかもしれないけれど。

 それからは、世界のことに黙らないで声を上げようと思った。だけど私は何をしてきただろう。

 26日、渋谷のデモでウクライナの女性は言った。

 「2014年にプーチンが一方的にクリミアを獲った時、世界は黙っていました」

 そしてそれからも、多くの血が流されていたのだという。ウクライナ東部出身という女性は、「ふるさとの思い出も子どもの思い出も数々の友人と家族も失いました」と話した。

 「その戦争が8年も続いていて、今、ウクライナ全土に広がりました。その戦争を広げようとしているのはプーチン、独裁者です」

 先週、ウクライナ侵攻が始まるまで、私はこの地のことに積極的に関心なんか持ってこなかった。クリミア併合の時だってそうだ。難しくてわからないと早々に匙を投げただけだった。

 だけどもう、無関心ではいられない。

 経済制裁などの影響を受け、これから世界の経済には多くの影響が出るだろう。戦争は、その地から遠く離れた庶民の生活にも大きな打撃を与える。特に貧しい人々へ。ロシアに暮らす人々の生活も大きな打撃を受けるだろう。一方で、このようなことがあるから憲法9条には意味がない、それより核が必要だという声が一部で高まってもいて、そのことも大きな不安だ。

 その上、ウクライナには、原発が15基もある。

 もう本当にいろんなことが不安で仕方ないけれど、ロシアでも、そして世界中でも戦争に反対する声が上がっている。日本でも、多くの人が声を上げている。私も、声を上げていこうと思う。

2月26日、渋谷駅前で開催された、ロシアによるウクライナ侵攻に抗議するデモにて


いまこそ「核兵器禁止条約」に署名を!
ウクライナの原発施設が攻撃され、ロシア軍の管理下に置かれっているようだ。
「核」はいまだ人類が管理できるものではないことを思い知らされた。世界から、地球から取り除かなければならない。同時にすべての武器、兵器をも放棄する、21Cの新たな秩序を構築すべきではないか!
戦争・武力は民主主義の否定である。
ウクライナと同様なことがミャンマーでも起きているを忘れてはいけない。
 
ミャンマー・ヤンゴンで、雨の中、国軍への抗議を表す三本指を掲げ、「軍事クーデターに終わりを」と横断幕を掲げる市民ら=2021年4月30日、AP

ミャンマー・ヤンゴンで、雨の中、国軍への抗議を表す三本指を掲げ、「軍事クーデターに終わりを」と横断幕を掲げる市民ら=2021年4月30日、AP(東京新聞より)


水平社宣言100年 反差別の志受け継いで

2022年03月03日 | 社会・経済

「東京新聞」社説 2022年3月3日 

 「人の世に熱あれ、人間に光あれ」。百年前に創設された全国水平社の宣言文だ。部落差別の解消のみならず、水平社の理念は人権運動総体をけん引した。その志を受け継ぎたい。

 全国水平社の創設は一九二二年三月三日。京都市での創設大会には被差別部落出身者ら三千人が参加した。明治政府は一八七一年の解放令で「穢多(えた)」「非人(ひにん)」などの身分制度を廃止したが、その後も厳しい差別が続いた。その解消を目指し、水平社は日本で初の当事者団体として結成された。

 その歩みは戦後、部落解放全国委員会(現在の部落解放同盟)に継承され、運動により部落差別の解消を「国の責務」とした同和対策審議会答申が勝ち取られた。

 一方で水平社時代の戦争協力や戦後も同対審事業を巡る不祥事など、運動には曲折があった。

 ただ、日本初の人権宣言として百年前に放たれた水平社宣言の光彩はいまも色あせていない。宣言は当時、米誌でも紹介され、その後は障害者、アイヌ民族など他の人権運動に影響を与えた。

 宣言の画期性は差別された当事者が同情を乞うのではなく、自尊の精神を抱いて社会変革を訴えた点にある。さらにその訴えを自分たちだけに閉ざさず、「人間を冒涜(ぼうとく)してはならぬ」と社会全般に普遍化したことにあるだろう。

 言うまでもなく、差別をなくす闘いは容易ではない。現在も被差別部落を巡っては結婚などの差別が残り、地名の一覧がネット上に掲載される事件も起きている。

 在日コリアンやアジア人らへのヘイトスピーチ、技能実習生らに対する暴行や搾取の横行、入管施設での長期収容や死亡事件にも人権感覚の欠如が表れている。

 日本だけではない。社会格差の拡大は排外主義の台頭を促し、ネット社会は偏見や憎悪を助長しがちだ。特に非常時には人権意識が損なわれやすい。コロナ禍での感染者への差別は記憶に新しい。

 現代社会を見つめれば、水平社宣言が過去の遺物ではないことが分かる。次の百年に向け、私たちにはその理念を共有し、反差別のバトンを受け継ぐ義務がある。

⁂    ⁂     ⁂

朝日新聞デジタル記事

水平社宣言から100年、その精神とは 原文と現代語訳

2022年2月27日 

 宣言原文(ここでは原文だけを掲載します)

 全国に散在する吾(わ)が特殊部落民よ団結せよ。

 長い間虐(いじ)められて来た兄弟よ、過去半世紀間に種々なる方法と、多くの人々とによつてなされた吾等(われら)の為(た)めの運動が、何等(なんら)の有難(ありがた)い効果を齎(もた)らさなかつた事実は、夫等(それら)のすべてが吾々(われわれ)によつて、又(また)他の人々によつて毎(つね)に人間を冒涜(ぼうとく)されてゐた罰であつたのだ。そしてこれ等の人間を勦(いたわ)るかの如(ごと)き運動は、かえつて多くの兄弟を堕落させた事を想(おも)へば、此際(このさい)吾等の中より人間を尊敬する事によつて自ら解放せんとする者の集団運動を起(おこ)せるは、寧(むし)ろ必然である。

 兄弟よ、吾々の祖先は自由、平等の渇仰者であり、実行者であつた。陋劣(ろうれつ)なる階級政策の犠牲者であり男らしき産業的殉教者であつたのだ。ケモノの皮剥(は)ぐ報酬として、生々しき人間の皮を剥(はぎ)取られ、ケモノの心臓を裂く代価として、暖(あたたか)い人間の心臓を引(ひき)裂かれ、そこへ下らない嘲笑の唾(つば)まで吐きかけられた呪はれの夜の悪夢のうちにも、なほ誇り得る人間の血は、涸(か)れずにあつた。そうだ、そして吾々は、この血を享(う)けて人間が神にかわらうとする時代にあうたのだ。犠牲者がその烙印(らくいん)を投げ返す時が来たのだ。殉教者が、その荊冠(けいかん)を祝福される時が来たのだ。

 吾々がエタであることを誇り得る時が来たのだ。

 吾々は、かならず卑屈なる言葉と怯懦(きょうだ)なる行為によつて、祖先を辱(はずか)しめ、人間を冒涜してはならぬ。そうして人の世の冷たさが、何(ど)んなに冷たいか、人間を勦(いた)はる事が何(な)んであるかをよく知つてゐる吾々は、心から人生の熱と光を願求礼讃(がんぐらいさん)するものである。

 水平社は、かくして生(うま)れた。

 人の世に熱あれ、人間に光あれ。

 大正十一年三月

水平社

**************

「人の世に熱あれ、人間に光あれ」と結ばれる水平社宣言から100年。日本初の人権宣言と言われ、社会のあらゆる人権問題の克服に向けた原点となってきました。誰にも潜みうる差別の心を溶かす「熱」と、すべての人を等しく照らす「光」を手にできるのか。人間の尊厳を重んじる宣言の精神を改めて見つめます。


 今日も晴れたり曇ったり雪が降ってきたりと不安定な天気です。週間予報を見ても☀マークがありません。最高気温はプラスになりました。10日の荒れ模様が過ぎると春が来るでしょうか?


雨宮処凛 生きづらい女子たちへ 「全世界の寝そべり主義者よ、団結せよ!」〜謎の文書・中国『寝そべり主義者宣言』を入手した!!

2022年03月02日 | 生活

Imids連載コラム  2022/03/01

『寝そべり主義者宣言』

 そんな怪しい文書が日本国内でひっそりと流通している。

 この連載の「『競争、疲れた……』中国・寝そべり族出現について、日本の『だめ連』に聞く」で書いた中国「寝そべり族」の文書である。

「寝そべり族」とは、競争の激しい中国で2021年くらいから注目され始めたムーブメント。結婚せず子どももマンションも車も持たずなるべく消費せず、最低限の暮らしをするというものである。そんな若者たちが「寝そべり族」と呼ばれて人気になり、中国当局を不安にさせているのだ。

 そんな寝そべり族、誰がいつ、どのように始めたかなどすべては謎に包まれているのだが、最近、中国のとある地方で『躺平主义者宣言』という文書が発表され、中国各地で印刷されてばらまかれ始めたのだという(ちなみに誰が書いたか不明というからシビれる)。それを入手した日本の松本哉(はじめ)氏が、台湾の友人に翻訳を依頼。そうして完成した日本語訳の『寝そべり主義者宣言』(翻訳:RYU、細谷悠生 解説と序文:松本哉 寄稿:神長恒一)が今年1月以降、ゲリラ的に日本各地にばらまかれ始めたというわけだ。

 ちなみに最初の1カ月ほどは、松本哉氏が出没した場所や納品した店でしか買えないという、SNS時代にあるまじき流通の仕方をしていた。ちなみに松本哉氏とは、リサイクルショップ「素人の乱」店主という肩書きを持っているがそれは世を忍ぶ仮の姿。1974年生まれの彼は大学時代に「法政の貧乏くささを守る会」でこたつ闘争などを繰り広げ、その後、「貧乏人大反乱集団」を結成。文字通り貧乏人で大反乱を繰り返し、3.11東日本大震災直後には「原発やめろデモ!!!!!」を主催。1万5000人が集まったこのデモは、その後全国に広がった脱原発デモの起爆剤となったと言われている。そうしてここ数年は中国や台湾、香港、韓国などアジアのアンダーグラウンド界隈の人々との繋がりを作ってきた。そんなことから『寝そべり主義者宣言』の原文を、おそらく日本でもっとも早く入手できたのである。

 そんな文書に何が書かれているか書く前に、なぜ、中国で「寝そべり族」が生まれたのか、そこに焦点を当ててみたい。

 一言で言えば、中国のグロテスクなほどの格差社会が原因だ。

 そんな現代中国の格差を表すSF小説があるというので読んでみた。タイトルは『折りたたみ北京』。2014年に出版され、中国でベストセラーになったという(日本でも翻訳され、早川書房から『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』の邦題で出ている)。

 主人公は48歳、独身でごみ処理施設で働く老刀(ラオ・ダオ)。彼の住む北京は貧富の差により3層のスペースに分類され、24時間ごとに世界が回転・交替するという奇想天外な設定だ。が、リアルなのは第一スペース、第二スペース、第三スペースと層ごとに違う階層の描写。主人公の住む第三スペースには5000万人が暮らし、うち2000万人はごみ処理施設従業員。腐臭の中で働き、過密状態の汚い屋台で粗末な食事をして寝るだけの日々。第三スペースは常に喧騒に溢れ、金を巡って誰かがいつも喧嘩している。主人公の月収は1万元。

 かたや第二スペースには2500万人が住み、学生インターンでも月収は10万元。清潔で余裕のある暮らしぶりだ。

 第一スペースには500万人が住み、さらに豊かで快適な暮らしを享受している。半日勤務する女性の1週間の給料は10万元。すれ違う女性たちはファッションショーの出演者のようだ。

 そんな第一スペースに主人公が手紙を届けに行くというところから物語は始まる。当然、第三スペースの人間が第一スペースに行くことは禁じられている。身なりも何もかもが違う上、主人公は自らから腐臭がするのではないかとしきりに心配する。しかし、成功すれば20万元が手に入る。

 そんな『折りたたみ北京』を知ったのは、ジャーナリスト・中島恵氏の「北京のコロナ感染者の詳細すぎる情報に驚愕! 有名SF小説『折りたたみ北京』に酷似と中国で話題に」(yahooニュース個人、2020年1月21日)という記事だ。

 記事によると、今年1月、北京で新型コロナに感染した2人の行動履歴が「まるで『折りたたみ北京』!」と話題になったというのである。

 1人はエリート銀行員の女性。もう1人は出稼ぎ労働者の男性。公表されたのはそれぞれが過去2週間に訪れた場所や勤務先などだが、それを見ると、女性の方は有名店でランチをしたりブランド品を買ったり週末はスキー場に行ったりと、誰もが羨む優雅な生活をしているのがわかる。一方、男性は連日のように深夜から翌朝まで工事現場などで作業。働く場所は毎日変わっているようで、14日間連続勤務もある。宿泊は粗末な簡易宿泊所のようだ。

さきほど、第一〜第三スペースについて書いたが、設定では、スペースごとに割り当てられた時間も違っている。第一スペースは午前6時から翌朝6時までなのに対して、第三スペースは午後10時から午前6時まで。貧しい人々は「夜の世界」でしか生きられないのだ。北京でコロナに感染した男性は、まさに深夜から翌朝までの労働に従事していた。そんなこともあって、多くの中国人が『折りたたみ北京』を連想したのだろう。

 さて、このような格差に対して取りうる態度はそれぞれだ。ある人は「自分も成功しよう」と途方も無い努力をするかもしれないし、ある人は「こんな格差社会、クソ喰らえ!」と鬱憤を募らせるかもしれない。

 松本哉氏は、『寝そべり主義者宣言』日本語版の〈解説を兼ねた序文〉で、以下のように書いている。

〈ちなみに現在の中国は、これまでの高度経済成長はさすがに頭打ちになり、低成長時代に突入している。貧富の差も拡大したり都市や地方の貧困問題もあり、多くの社会の歪みも見え隠れするものの、まだまだ「頑張って稼げば成り上がれる」というような金もうけ中心社会の真っ只中だ。そんな時、「これでいいの?」「金と出世のことばっかり考える人生もう嫌じゃない?」という疑問が若者たちの中からチラホラと出始めてきた感覚のひとつが、この「寝そべり主義」。〉

 ということで、「チクショーコノヤロー、寝そべってやる!!」というような内容かと思って本文に入ると、『寝そべり主義者宣言』、かなり硬派な内容ではないか。

 まず、本文は〈一、序章:大いなる拒絶〉〈二、寝そべり主義者の「同行者」〉〈三、寝そべり主義者の苦境〉〈四、寝そべり主義者の盟友〉〈五、代替性自治区〉の5章から構成されている。

 序章はこんな一文から始まる。

〈目の前で起きていることにうんざりして、首を横に振りながら吐き気を催している若者たちは、もうすでに寝そべっているのだ。彼らは険しい生活に打ちのめされてしまったと言うよりも、ただ生命の本能に従っているだけだと言った方がより正しいだろう。休息や睡眠、負傷、死に近い姿勢で、何もかもやり直したり、停滞させたりするのではなく、時間の秩序そのものを拒絶する状態に陥っているのだ。〉

 そうして文章は「寝そべり主義」が中国であっという間に広がり、「哲学」にまで発展する中、寝そべり主義者たちへの糾弾が始まったことなど「寝そべり」をめぐる経緯も綴られる。しかし、寝そべり主義者はそんなものには屈しない。「四、寝そべり主義者の盟友」では、以下のように書かれる。

〈寝そべり主義はある社会階層とアイデンティティのコミュニティー間の決裂によって生じたものではなく、全ての労働者階級で生じたものである。(略)寝そべり主義は脅迫と服従を拒絶する人達を繋ぐ、男と女、肉体労働者と失業者、市民と農夫、遊牧民とごろつき、学生と知識人、異性愛者と同性愛者、その他のセクシャルマイノリティ、浮浪者と住宅ローンの負債者……これ以上に心の通じ合った穏やかなゼネストはあるだろうか?〉

 同時に、寝そべり主義者は様々なものを「拒絶」する。それは例えば〈搾取と人間性剥奪の労働秩序を築くこと〉〈経済的略奪と文化的なジェノサイド〉〈高騰する家賃と住宅価格〉〈住宅ローンと利息を支払うこと〉などなどだ。中には〈父権制存続のための出産を拒絶する〉という一文もある。

 締めの文章は〈我々は意図的に作られた貧しさのなかで互いに争うのをやめる時だ〉という一文から始まり、最後にはこう呼びかけられる。

〈全世界の寝そべり主義者よ、団結せよ!〉

 さて、中国で起きていることは、当然日本にも通じる。この国にも、誰もが羨む生活をしている人もいれば、深夜の肉体労働に従事し、低賃金・不安定な生活から抜けられない人が多くいる。中国よりは緩やかと言っても、この30年ほどで開いたこの国の格差も凄まじい。20年の国税庁の調査によると、正社員の平均年収496万円に対し、非正規の平均年収は176万円。今や働く人の4割が非正規だ。

 昨年末、上位1%の富裕層が世界の個人資産の4割を保有していることが大きなニュースとなった。が、日本国内だけを見ても、上位2%が個人資産の2割を保有すると言われている。一方で、コロナ以前の19年の「貯蓄ゼロ世帯」は単身世帯で実に38%。コロナ禍での失業・減収などで、貯蓄ゼロ世帯は現在さらに増えているだろう。が、富裕層はコロナ禍でますます豊かになっているというのが世界共通の現象だ。

 そんな中、疲れ果て、「一抜けた」とばかりに競争から降りたい人はどれほどいるだろう。頑張っても一部の人は決して報われない状態は、人を、社会を病ませていく。2000年代前半からの公務員バッシング、10年代の生活保護バッシング、そして昨今目立つベビーカーヘイトや相模原事件に象徴されるような障害者ヘイトを見てもわかる通り、「なんらかの公的ケアの対象となる人が憎まれる」のは、「病気も障害もない人は自己責任で死ぬまで競争に勝ち抜いてください、それが無理な野垂れ死ってことで」という無理ゲーを、30年近く強いられているからだろう。そう思うと、昨年から相次いでいる「死刑になりたい」などの動機から起きた事件の背景にあるものもうっすらと浮かび上がる気がする。

 そんな中、やはり露骨な格差社会の中国で始まった「寝そべり」という、ゆるやかな抵抗。それ自体がライフスタイルであり主張であり反乱であるという痛快なレジスタンスが日本でもじわじわと支持されている現象は興味深い。

 そんな『寝そべり主義者宣言』を流通させている松本氏は、東京に雪が降ると予想された2月10日の数日前、「今週の木曜日、寒そうなのでお休みします」と店の張り紙で宣言するなど早くも「寝そべり」を実践している。しかし、考えてみたらこのコロナ禍、無駄に店を開けたり働いたりしてもロクなことはないのだ。出勤途中に転んで骨折しても救急車は来ないかもしれないし、来たら来たで、医療現場の逼迫に加担してしまうかもしれない。この国では「悪天候の時こそ出勤して会社に忠誠心を見せる」みたいなことが推奨されがちだが、悪天候なら休んだ方がいいに決まってる。

 ということで、『寝そべり主義者宣言』が欲しい人は、すでに地下流通しているので、全国各地の怪しげな個人の店とかを探してみてほしい。

 どんなとこで売られてるのかって? ヒントは、「金の匂いがしない場所」だ。それでは、良い「寝そべり」を。


(・_・D フムフムですね。こんな「哲学」があったのですね。人間らしく生きるということでしょう。

ロシアの軍人たちよ!
敵は前方にはいない。
お前のすぐ後ろだ!