で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1306回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『名もなき野良犬の輪舞(ロンド)』
刑務所の中で出会い手を組んだ冷酷非情な組織のナンバー2と野心溢れる青年が織りなす裏切りと復讐の物語を仰天の語りで描き出す韓国ノワール。
主演は、『殺人者の記憶法』のソル・ギョングと『弁護人』のイム・シワン。
監督は、『マイPSパートナー』のピョン・ソンヒョン。
物語。
現代、韓国。
刑務所に服役中のジェホは社会的には合法の会社の体をとった犯罪組織のナンバー2。自分以外に誰も信用したことがなく、ボスにさえ心を許したことはない。刑務所も彼が取り仕切っていた。
ジェホは、刑務所の新入りの若者ヒョンスの物怖じしない鼻っ柱の強さに興味を持つ。
だが、刑務所に、ギャングのボスが入ってきて、刑務所の勢力図が書き換わろうとしていた。
脚本は、ビョン・ソンヒョン、キム・ミンス。
出演。
イム・シワンが、チャ・ヒョンス。
ソル・ギョングが、ハン・ジェホ。
キム・ヒウォンが、ビョンガプ。
チョン・ヘジン チョン班長(チーム長)。
イ・ギョンヨンが、コ・ビョンチョル社長。
ホ・ジュノが、ボスのキム・ソンハン。
スタッフ。
撮影は、チョ・ヒョンレ。
照明は、パク・ジョンウ。
美術は、ハン・アルム。
衣裳は、チョ・ヒラン。
ヘアメイクは、ソン・ウンジュ。
視覚効果は、イ・ドンフン。
アクション監督は、ホ・ミョンヘン。
今の韓国でもトップクラスの方で『新 感染』、『アシュラ』、『犯罪都市』も手掛けている。
サウンドは、パク・ヨンギ、パク・ジュガン。
音楽は、キム・ホンジプ、イ・ジニ。
現代韓国、刑務所を牛耳る裏組織の№2がある若者と絆を築く裏社会サスペンス。
あえて、後説明で語る、どんでん返しのつるべ落とし。狙いまくったスタイリッシュが浮かずに決まる。
男向けと女向けの融合。緊張の笑いと涙。面白いとサクッと言える、これぞアジアン・エンターテインメントの王子。
ソル・ギョング×イム・シワンを翻弄する脇役にいい顔を揃え、情と無情を行き来する。
凝った撮影が切る。抑えた音楽が刺す。弾けたアクションが抉る。隠した下地が擦る。
もう一歩踏み込まないあたりは軽み。
あえての裏を読む楽しみの裏をかかれるのをやられたと額を打って楽しむ撫作。
おまけ。
原題は、『불한당:나쁜 놈들의 세상』(『』)。
『不汗党:無法者の世界』。
『不汗党』は、「プランダン」と読み、「汗水たらさず人のものを奪う輩」や「略奪行為で捕まって拷問されても平然としている」という意味もあったり、大きくは、恥しらずな行動をとる者の集まり、という意味で知られているそう。
英語題は、『THE MERCILESS』。
『無慈悲』、『無情』。
邦題は、かっこいいようで雑なのが分かる。フレンチノワール系邦題に寄せたんだろうな。『あるいは裏切りという名の犬』や『裏切りの闇で眠れ』や『やがて復讐という名の雨』とかのね。
この邦題、見終えると内容とあってないので、忘れそうなのよね。堂々と元ネタからもらって、『裏切りの犬ども』とか『裏切りの絆』とか『裏切られた犬どもの輪舞』とかの方がよかったんじゃないかな。
上映時間は、120分。
製作国は、韓国。
映倫は、PG12。
キャッチコピーは、「もう、俺を信じろとは言わない。だが、俺はあんたを信じてる。果てなき絆は、やがて無慈悲な雨を降らす――」。
ややネタバレ。
女性の描き方を読むと裏が見えます。
ソル・ギョングは、『殺人者の記憶法』に続いての殺人者役ですね。不思議なもので、あちらの方が老人設定だったのに色気が感じたなぁ。
ネタバレ。
原題の副題の類似で、韓国では『新しい世界』とも比較されているそう。
そもそも、あちらも『インファナル・アフェア』からインスパイアされており、もはや潜入捜査官ものというジャンルが生まれているので、逆にもう定番ネタになったなという感じ。
この手のジャンルでは、『ハートブルー』、『フェイク』、『インファナル・アフェア』シリーズ、『ディパーテッド』、『トリプルX』、『ワイルドスピード』シリーズの前半、『ボビーZ』、『アルティメット』、『フルスロットル』、『9デイズ』、『デンジャラス・ビューティ』、『スペシャルID 特殊身分』、『ドラゴン×マッハ!』、『ザ・レイド』、『ザ・レイド:GOKUDO』がありますね。
ただ、このネタ自体がどんでん返しだったりするのでタイトルを明かせないものも多いので、上のリストでも好きな作品をあえて出してなかったりしてます。ジャンルとして難しい部分もありますね。
例えば、クエンティン・タランティーノのアレとか、ポール・ウォーカーのアレとか、ハン・ソッキュのアレとか。
そうか、ポール・ウォーカーはこのジャンルでのトップランナーだったんだなぁ。
今作は、このジャンルに意外となかった視点を持ち込んでいる。
信頼がキーワードになっている。
そこで、疑似家族関係が重要になる。
母と息子、甥と叔父の実際の血も強調される。
なかでも、ヒョンスとジェホの関係はブロマンスものとして描かれていて、親子ではなく兄弟で、かなり同性愛的。だから、女性関係がほぼ出てこない。そこに意識が行かないように、最初にヒョンスにロシア娼婦があてがわれるが。刑務所が長いジェホは同性愛または両性愛者と推測される。ビョンガプにも惚れられているしね。
ジェホはヒョンスを助けに行くときに「ベイビー」と呼んでいる。
『インファナル・アフェア』、『新しい世界』では潜入させた刑事と潜入刑事の間に疑似父子関係を匂わせていたが、なにより『フェイク』では、老ギャングと潜入捜査官の間に疑似父子関係を描いていた。
ヒョンスはジェホを父として、ジェホはヒョンスをパートナーとして見ていたのではないか。
好みの台詞。
「人を信じるな、状況を信じろ」
開巻のシーンは、『ソーシャル・ネットワーク』を意識してたのかも。冒頭に、物語の展開を隠しておくとうね。
『ソーシャル・ネットワーク』は『レザボア・ドッグス』の冒頭の応用ですね。
ネタバレだけど、書いちゃうと『レザボア・ドッグス』の冒頭はアウトローどもがマドンナの『ライク・ア・ヴァージン』は世慣れた女がまるで処女のように恋に落ちる歌じゃなくて、男のチンコがデカくてまるで処女の様に痛がる娼婦の歌というもう一つの解釈を話す。
これは、まさに、ラスト、人を殺してきたアウトローが信じた相手に裏切られて、まるで初めての殺しをやる『ライク・ア・ヴァージン』状態になることを暗示していた。全体の物語の展開ではなく、物語上のアウトローの心情の変化を冒頭で見せていたといえる。
で、これはウディ・アレンがよく使う技法の応用でもあった。
とくに有名なのは、『アニー・ホール』の冒頭の漫談。
『レザボア・ドッグス』は『ブロードウェイのダニー・ローズ』の冒頭の丸テーブルでの裏話を応用した。
『ソーシャル・ネットワーク』は、それをさらに発展させて、主人公の心情と合わせて、物語の展開を隠すという離れ業を冒頭にぶち込んだ。
『名もなき野良犬たちの輪舞』は、それを軽くして、さらにサスペンスフルにした物語の展開として予想されるルートの想像を増やす、という応用をしてみせた。