で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2181回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『ヒトラーのための虐殺会議』
ドイツの湖畔にナチスの高官による「ユダヤ人問題の最終的解決」の会議を描く戦時ドラマ。
1942年のドイツで行われた大虐殺が事務的に決定されたヴァンゼー会議を議事録を基に再現。
監督は、ドイツのTVを中心に活躍するマッティ・ゲショネック。
物語。
1942年1月20日、ベルリンのヴァンゼー(ゼーは湖のこと)湖畔に建つ徴収された企業家の大邸宅に、ナチス親衛隊幹部の軍人と各事務次官の官僚がある会議のために集められる。
議題は「ユダヤ人問題の最終的解決」。これはヨーロッパの全ユダヤ人1100万人の処分のこと。
ナチスは、すでにユダヤ人への迫害を法律化していたが、その最終解決についてはヒトラー総統も気にしていた。
議長の国家保安部代表ラインハルト・ハイドリヒと高官14名と記録担当アイヒマン(と書記の女性秘書1名)が席についた。
1100万人の運命を決めるために用意された時間はたった90分。
会議後には絶品の昼食が用意されているため、引き伸ばされることはない。
脚本:マグヌス・ファットロット、パウル・モンメルツ
出演。
フィリップ・ホフマイヤー (ラインハルト・ハイドリヒ/国家保安本部長官)
ゴーデハート・ギーズ (ヴィルヘルム・シュトゥッカート/内務省次官)
ヨハネス・アルマイヤー (アドルフ・アイヒマン/親衛隊中佐)
リリー・フィヒトナー (インゲブルク・ヴェーレマン/書記)
マキシミリアン・ブリュックナー (カール・エバーハルト・シェーンガルト/ポーランド総督府国家保安本部親衛隊上級大佐)
マティアス・ブントシュー (エーリッヒ・ノイマン/四ヵ年計画省次官)
ファビアン・ブッシュ (ゲルハルト・クロップファー/親衛隊幹部)
ヤーコプ・ディール (ハインリヒ・ミュラー/親衛隊中将)
ペーター・ヨルダン (アルフレート・マイヤー/東部占領地省次官)
アルント・クラヴィッター (ローラント・フライスラー/司法省次官)
フレデリック・リンケマン (ルドルフ・ランゲ/ラトヴィア地区国家保安本部親衛隊少佐)
トーマス・ロイブル (フリードリヒ・ヴィルヘルム・クリツィンガー/首相官房局長)
ザシャ・ナータン (ヨーゼフ・ビューラー/ポーランド総督府次官)
マルクス・シュラインツァー (オットー・ホーフマン/親衛隊人種・移住本部親衛隊中将)
フレデリック・シュミット (アイヒマンの補佐官)
ジーモン・シュヴァルツ (マルティン・ルター/外務省次官補)
ラファエル・シュタホヴィアク (ゲオルク・ライプブラント/東部占領地省局長)
スタッフ。
製作:ラインホルト・エルショット、フリードリヒ・ウトカー
製作総指揮:オリヴァー・ベルビン
撮影:テオ・ビールケンズ
プロダクションデザイン:ベルント・レペル
衣装デザイン:エスター・ヴァルツ
編集:ディルク・グラウ
『ヒトラーのための虐殺会議』を鑑賞。
1942年1月ドイツのヴァン湖畔、ナチス高官が「ユダヤ人問題の最終的解決」の会議をする戦時ドラマ。
ユダヤ人の大虐殺が事務的に決定されたいわゆるヴァンゼー会議を議事録を基に、脚色して再現。(ヴァンゼーのゼーは湖のこと)
その議事録を作成したのはアドルフ・アイヒマンと女性書記。
「最終的解決」とは処刑のことで、この会議では、こういう言葉の言い換えや役所言葉など婉曲な言い回しが用いられ、人を人と扱わないという状況が延々と続き、史上最悪のブラックコメディのようになっている。そして、二つのことが起きる。
一つは、その淡白な冷たさによる戦慄で背筋の温度がどんどん下がり、感情が行き場を失う。もう一つは、数字化による感情の剥奪と数字の大きさに感覚がどんどん麻痺していく。だって、「1万(人)を処分(殺す)するのに10時間かかりましたので、1時間に1000人程度しかできないのです。冬で地面が凍っていて埋める穴も掘れません」とか言われ、「1時間1000なら1000万なら何日かかるんだ?」とか、「処分後の匂いはどうなる?」、「処理の精神的な負担!? 我が兵はそんなやわではありません」とか繰り返されていると本質が希薄になり、ふと笑って、その後、笑ったことに寒気と吐き気さえ感じ、暖房の効いた映画館なのに、鳥肌が立っている皮膚をなだめるようにこする。
1100万人もの老若男女を財産を奪い、刑務所に運び、何も問わずただ殺し、その死体をその場で片付けることについて話し合われる様の異様さ。しかも、15人による90分の会議で。しかも、事務的かつ政治的駆け引きの方が重視され、普段の仕事のように話し合う異様さ。
もはや、最凶のブラックコメディでもあり、ホラー。
戦争だから、ナチスだからではない。今も、たぶんこれと同同類の小さい会議が世界中で当たり前に行われていることを想像できてしまう。凡庸な消費される会議の中で人の命が処理されていく。マジメに効率的に優秀さと調和を持って。
えてして悪は誰の中にも部品の一つのように埋め込まれている。
国際題は、『THE CONFERENCE(カンファレンス)』で『ザ・会議』、この無機質、無個性こそがこの映画の本質ともいえる。
監督は、ドイツのTVを中心に活躍するマッティ・ゲショネック。。音楽もなく、映画t京奈ケレンもすべて排した鉄の演出が味わったことのない感情を刺激し、ぐつぐつと泡たった煮えたった冷製スープを飲むかのよう。
ずっと会議ですし、名前が次から次へと出てきます、ドイツ人のおっさんが軍服でスーツなので全然判別つかないけど、それがこの映画の真骨頂。覚えられないほどの普通の人々による普通の会議として大瀬有為の命が討バレ、振る舞われる食事のことが気にされる。もちろん、議長のハインドリヒはナチスのナンバー3の超大物で、アイヒマンその後のユダヤ人迫害の重要な役割を果たした有名人だし、それぞれ仕官や事務次官や次の大臣候補で有力者ではあるけども。見る側も十把一絡げにしてしまい、個人として扱えなくなる。
美術と撮影も堂々たるもの、映画の力を矮小化していない。
映画館で、知らぬ誰かと一緒に観ることで、さらに妙味がつく。
言葉と数字の使い方を改めて考え直します。
人は数と言葉と時間と立場と空気に翻弄される虐作。
おまけ。
原題は、『DIE WANNSEEKONFERENZ』。
『ヴァンゼー会議』。
英語題は、『THE CONFERENCE』。
『その会議』。
2022年の作品。
製作国:ドイツ
上映時間:112分
映倫:G
配給:クロックワークス
同じ題材のアメリカ・イギリス共同制作のTV映画に『謀議』(2001)(原題は『Conspiracy』)がある。
WOWOWでは『コンスピラシー アウシュビッツの黒幕』のタイトルで放送。
出演俳優が豪華で、主演はケネス・ブラナー(ハインドリヒ)、共演はスタンリー・トゥッチ、コリン・ファース、イアン・マクニース、ベン・ダニエルズ。エミー賞にて、主演男優賞・同脚本賞を獲得し、作品賞 (テレビ映画部門)にノミネートされている。
近年、多くの映画で、ユダヤ人大虐殺は、ヒトラーやナチスが進めたとはいえ、多くの国や市民の協力がされていったことが描かれている。
ノルウェーの映画『ホロコーストの罪人』(2021)では、ノルウェーの秘密警察らが忖度し、ユダヤ人の移送に協力的であった市民もいたことが描かれた。
ドキュメンタリー映画『バビ・ヤール』(2022)では、協力的なウクライナ市民が描かれた。(もちろん、それはソ連の秘密警察によってユダヤ人への悪意を受け付けられたせいでもあるが)
この会議でも出てくるが、ドイツ支配下の欧州の国のほとんどがユダヤ人移送への容認の姿勢をとっている。
劇中でも語られるが、1941年には、ユダヤ人迫害は法律化されていた。東部戦線においては、移送後、降車後、その場で射殺される処刑が行われていた。
ラインハルト・ハイドリヒ長官は、ユダヤ人問題だけでなく、自分の統治下であるチェコでのレジスタンスへも強い攻撃を加えており、42年の5月にレジスタンスによって襲撃される。
『アウシュビッツ・レポート』(2021)では、強制収容上の状況を記録し、このひどい状況を止めてくれと訴えたが、世界は動かなかったことが描かれた。(ただし、レポートの効果でハンガリー系ユダヤ人の強制移送へ圧力がかけられた)
収容所の状況が書面で暴かれても、連合軍はユダヤ人迫害を止めることはほとんどできなかったし、積極的な対応はとらなかった。あまつさえ、戦後もそのことはナチスに隠され、いまだに大虐殺はなかったと考える人々もいる。
第二次世界大戦を引き起こした大不況と戦争による混乱や工作によるものも少なからず影響していただろうが、そういったことで、人間は虐殺を容認し、積極的に協力さえしてしまう社会性を持ち得るということを知っておく必要がある。
人間の情だけでは悪意は止められないからこそ、近代でもしばしば虐殺は起きたし、今も起きている。
それは、差別の拡大であり、これがある種のタイプ、貧困者や病傷者、年齢に向けられることは充分にあり得ることなのだ。
(こちらはネットの感想や分法をまとめたものです)
ヴァンゼー会議に参加した者すべてが罪に問われたわけではない。
ゲルハルト・クロップファーは証拠不十分で無罪となり、1987年まで生存した。
断種は、去勢と中絶をするってことだろうね。