菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

自分が望むものを。相手が望むものを。 『さがす』

2022年03月11日 00時00分11秒 | 映画(公開映画)

で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2018回。


「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」

 

 

 


『さがす』

 

 


大阪の貧困家庭の中学生娘が殺人犯を追って失踪父を探すサスペンス・ドラマ。

 

主演は、『はるヲうるひと』の佐藤二朗、『空白』の伊東蒼、『ミスミソウ』の清水尋也。
共演は、森田望智。

 

監督は、『岬の兄妹』の片山慎三。
今作で商業デビューを飾った。

 

 

物語。

中学生の原田楓(カエデ)は、大阪の下町で父智(サトシ)と2人で貧乏暮らしをしている。貧しいけれど、二人には通い合う愛情があった。
今日も面倒ごとを持ってきた父が楓に、報奨金300万円が出る指名手配中の連続殺人犯を見つけたと話す。
次の朝、父が消えた。
警察に行くも、土地柄もあって日雇いおっさんの失踪は手続き上だけで相手にされない。
娘は自力で父を探し始める。
父がいつも行く職業斡旋所で尋ねると、リストに父の名はあったが、場所は個人情報だから教えられないと突っぱねられる。

脚本:片山慎三
共同脚本:小寺和久、高田亮

 

 

出演。

佐藤二朗 (原田智)
伊東蒼 (原田楓)

清水尋也 (名無し/山内照巳)
森田望智 (ムクドリ/内藤あおい)
成嶋瞳子 (原田公子/妻・母)

石井正太朗 (花山豊)
松岡依都美 (蔵島みどり)
品川徹 (馬渕)
勝矢 (教師の夫)

 

 

スタッフ。

エグゼクティブプロデューサー:豊島雅郎、仲田桂祐、土川勉
プロデューサー:井手陽子、山野晃、原田耕治
ラインプロデューサー:和田大輔
キャスティング:田坂公章
助監督:相良健一

撮影:池田直矢

美術:松塚隆史
衣裳:百井豊
ヘアメイク:宮本奈々

編集:片岡葉寿紀
カラリスト:大西悠斗

録音:秋元大輔

音楽プロデューサー:安井輝
音響効果:井上奈津子
音楽:高位妃楊子

 

 

『さがす』を鑑賞。
現代大阪、貧困家庭の女子中学生が殺人犯を追って失踪した父を探すサスペンス・ドラマ。
何かを探してさ迷う人間たちの放浪。
事件と貧困で犯される人のモラル、人の闇を時間軸を混乱しない程度に複数視点で語り分ける。
監督は、『岬の兄妹』の片山慎三。今作で商業デビューを飾った。
「素晴らしい」とも「まずはここから」とも、言える。
まずは、よくぞ、と拍手を贈りたい。
記号要素と人のえぐみと向き合って、ダークな娯楽に仕上げた、この綱渡りもまた人の世と思わせる力がある。
トンカチで蓋された一隅で野生で生きる人間を穴から見せる。
佐藤二朗のピンポン玉っぽく凹んだボーリング球のような壊れた感よ。体格を感じさせなさには世界レベルの俳優の匂いさえ。清水尋也のギリギリで生きるアフリカの木感。森田望智の変幻自在の海の天気感。なんといっても伊東蒼のレールさえ曲げるヘの字口が世界をやじろべえさせて観客をぐらぐらさせやがる。
ロケ地の良さと周囲の顔に映画的画面力がある。
そして、かぶせるように、まだぞ、といいたい。
実事件をいくつも基にした驚きの展開で引き付け続ける。ネタが多すぎて、実はかなり偶然が多く、濃厚なドラマティックなフィクションをうまく浮足立たせられていない部分もあるが。
とは言いつつ、その評価は、ここ20年の韓国映画をどれぐらい見ているかに左右されるだろう。
オリジナルなのに、韓国映画の本歌取りっぽいのよね。人探しものは韓国映画に多いしね。『アジョシ』とか『守護教師』とか『優しい嘘』とかとか。
現在の日本映画の中では上の中だが、これ韓国映画だったら、並の上に見えてしまう。それは、韓国映画群に傑作が多いから。でも、これで邦画だって迫っていける可能性があることを示せたことは大きい。
今までも、その系統では『渇き。』『来る』の中島哲也作品、 『凶悪』など白石和彌作品、『ある優しき殺人者の記録』などの白石晃士作品、奥田庸介作品、『殺人の告白』『見えない目撃者』などの韓国映画のリメイク邦画、他にも『ザ・ファブル』シリーズ、『キャラクター』、『葛城事件』、『ヒメアノール』、『その夜の侍』などなくはない。ゆえに届いてないのも感じさせられてしまってもいた。(もちろん、これらは日本の往年作の系譜も継いでいる。深作や北野映画、『トカレフ』とか『KAMIKAZEタクシー』とかね)
ただ、今作が生まれたことで、20年の差も10年くらいは内容的には近づけた。(ただし、もちろん、制作体制ではかわらず20年の差があると言いたい)
グッとくる宣伝ビジュアルは韓国のチームの手によるものだそうですよ。
どうしても語りに狙いとは言え卑怯な部分があり、キャラを造り物、マリオネットにしてしまった部分がある。いいキャラづくりも出来ているので、そこが進むことを願う。娯楽作などは人物を駒にすることで大きな話を語る方法もあるので、一概に悪い部分ではないのですけども。
踏み込んで画や設定だけでなく語りに含みを持たせようとしたことに拍手を贈りたいのだ。
アクションもあるし。
でもね、これ、『岬の兄弟』からのいうなれば期待されての2本目(ドラマはある)です。これで土壌を耕したのだから、次は大期待。
境界や白によるライトモチーフ演出もきっちりありますよ。
善悪の彼岸で命にメールする刀作。


 

 

 

おまけ。

2021年の作品。


製作国:日本
上映時間:123分
映倫:PG12

 

配給:アスミック・エース  
 

 

 

 

 

ポスターで残は韓国のチームが担当し、邦画の色から外れていて、まさに先に進む先輩の力を素直に使っているともいえる。

本歌取りや手本に習うのは、日本も同じくらい上手いのだから、活用して当然。

 

 

 

 

 

 

ややネタバレ。

韓国映画では、『殺人者の記憶法』(および『殺人者の記憶法 新しい記憶』)、『共謀者』、『告白』(2020)、『声もなく』、『少女は悪魔を待ちわびて』、『母なる証明』、『守護教師』、『アジョシ』を思い出した。

 

 

 

手前みそだが、自作でも『誘拐少女』、『恐喝少女』、『強盗少女』シリーズでも韓国ノワールの色も取り入れているんでげすよ。
まだまだぞ、ですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ。

物語は、まずは善悪の彼岸を探すように読める。父探しの方が顕在化として描かれる。
この映画で最初に探すのは、殺人犯を見つけたことで、これは犯人を捜す警察を示す。
悪を探す善という関係から始まる。

映画の冒頭は、父が万引きしてつかまったところ、お金がなければ物を盗む男として出てくる。その前も、人を殺すための練習をしているところだったりする。
父には、そもそもモラルが欠けている。
その父をそれでも愛している娘も探すためなら個人情報を盗んだり、手伝ってくれる先生や修道女を傷つける。
同級生も見返りで性的欲求を満たすなど、みな同類として、描かれていく。
名無しはその最大級の罪人であり、自分が欲しい物のために殺人も行う。
父は金のために人を殺すようになる。(まずは願いを聞く形で、その後は間接的に、最後は直接)
そして、父が名無しを自らを引き継いだように、楓もそうなる可能性を秘めていた。

因果は伝染し、引き継がれる。
老人の家に、刀が置いてあるのは、日本の過去からの殺し合いの因果の象徴とも取れる。

そして、ラスト、楓はそれを断ち切ろうとする。
だが、実際に通報したかは分からないので、引き継ぐ可能性がないともいえない。
球のないラリーは、承諾の意味にもとれる。
そうしてでも生きていかなければならないという意思とも。

探すものは、「善悪の彼岸」から「生」に変わっていったから。
金のためではなく、生きるためには金がいる。
殺されかけた者は、死にたくないと生を見つける。
時に、反転し、ムクドリや妻のように死を探すものも描かれる。
逆説的に、彼らを殺す行為、こうなりたくないという思わせることで、生を感じさせる。

善悪の彼岸の方は境界線や壁というメタファーを用いて、描かれる。
卓球台やネット、戸でそれは示される。

これと同様に、白っぽいもので生が描かれる。
白い球、白い靴下、白い煙、白い紙(札束)、白いアイス(当たりつき)、白い唾、白いゴミ、白い海、白い海の泡……。
なにより白い球は魂とも呼応させているかのように描かれ、妻の死の際には名無しに踏みつぶされる。
唾、クーラーボックス、氷も白で、楓が名無しが奪い取るスウェットの下も白っぽい灰色で、楓はそこから父の生(スマホと壁紙の父娘)を見つける。
では、球のないラリーは生を失ったのか?
これは、命を奪っても生きていこうとする意志にもとれる。

同様に黒や赤で、死を描いてもいる。
トンカチの黒、車いすの黒、テレビの黒、札の血、スマホの黒。
卓球台も黒で、黒いラケットで、白い球(生)を打ち合う行為に見えてくる。

 

 

共犯者であり、共に生きる者(共感者)を探すというようにも見えてくる。
楓は喪失をともに抱える父と二人暮らし。
楓は一人では探さず、同伴者とともに探す。
名無しは共犯者を手に入れる。(クーラーボックスの中にあるモルツは父の好むビールで祝杯のために用意したのだろう)
ムクドリは殺してくれる相手を探す。
父は共犯者である妻を殺し、共犯者を見つけてしまう。
そうすると最後は共犯者となる父娘にも見える。

 

第3幕で、母と楓を絡ませないのは語り手として卑怯だ。
父が娘のことを実は思ってないということを示しているのだろうか。
タイトルからテーマを探ってしまうが、実はいろいろ抜けており(抜いていて)、一作品の語りとしては弱い。
自殺のイメージも楓は、母が筋萎縮性側索硬化症だと知っているのに、自殺のイメージが健常者的なもので、こおにもミスリードというか卑怯な作為がある。
のちに、ベッドで自殺未遂を起こしており、寝たままでも自殺はできる、と観客にも知らせている。
ある有名ミュージシャンのドアノブ首つりもある。
立てない母の自殺をあのように楓がイメージするというのは別の狙いを感じるし、あの状態で見つかったならば、警察が他殺を疑うだろう。

共犯者探しというところを見れば、この時、娘はともに介護をする相手をして描けたともいえる。

 

3か月前の第2幕で、名無しは、殺す相手を探しているわけではない。
では、何を探しているのか、安全な場所を?
自分の性癖の限界を?
ここでも、テーマにおいては弱いことが露呈している。

 

球のないラリーは、『欲望』の玉のないテニスのラリーへの引用ですね。

 

韓国映画の下地は、邦画がやってきたことなのだが、それを取り込んで、アメリカ映画と混ざる内に、素晴らしい送り手が生まれ、韓国独自の映画へと育ってきた。
国や社会の支えもあって、ヒットする仕組みも出来、多様で、特に質の高い娯楽作品が生まれていった。
現役で、ポン・ジュノ、パク・チャヌク、イ・チャンドン、ホン・サンス、キム・ジウン、『チェイサー』ナ・ホンジン、 『トガニ』(連続ドラマだけど『イカゲーム』も)ファン・ドンヒョク、『新 感染』ヨン・サンホ、『新しき世界』パク・フンジョン、『ベテラン』リュ・スンワン、『悪いやつら』ユン・ジョンビン、『1987、ある闘いの真実』チャン・ジュナン、 『アジョシ』イ・ジョンボム、『シュリ』カン・ジェギュ、『MASTER/マスター』チョ・ウィソク、『KCIA 南山の部長たち』ウ・ミンホ、『タクシー運転手』チャン・フン、『22年目の記憶』イ・ヘジュン、『タチャ イカサマ師』チェ・ドンフン、『エクストリーム・ジョブ』イ・ビョンホン、『アシュラ』キム・ソンス、『悪女/AKUJO』チョン・ビョンギル、『テロ,ライブ』キム・ビョンウ、『ソウォン/願い』イ・ジュニク、『 飛べ、ペンギン』イム・スルレ、『弁護人』ヤン・ウソクと20人を超えるくらい、人気と実力を兼ね備えた新作を見たくなる、世界の方が追いかけてさえいる作家がいる。(大巨匠は外してます)

それに続く新人(『はちどり』キム・ボラ、『わたしたち』ユン・ガウン、『EXIT』イ・サングン、『声もなく』ホン・ウィジョン、『夏時間』ユン・ダンビ、『チャンシルさんには福が多いね』キム・チョヒ、『狩りの時間』ユン・ソンヒョン、『82年生まれ、キム・ジヨン』キム・ドヨン、『告白』(2021)ソ・ウニョン、『』キム・ソンジェなど)が次々と佳作を生み出している。

さらに、秀作を複数生み出している作家を加えると軽く100人は超える。
『トンマッコルへようこそ』パク・クァンヒョン、『パイレーツ』イ・ソクフン、『王の涙』イ・ジェギュ、『国際市場で逢いましょう』ユン・ジェギュン、『霜花店(サンファジョム) 運命、その愛』ユ・ハ、『朝鮮魔術師』キム・デスン、『私のオオカミ少年』チョ・ソンヒ、『トンネル 闇に鎖(とざ)された男』キム・ソンフン、『王宮の夜鬼』キム・ソンフン、『犬どろぼう完全計画』キム・ソンホ、『風と共に去りぬ!?』キム・ジュホ、『バービー』イ・サンウ、『ミッドナイト・ランナー』キム・ジュファン、『尚衣院-サンイウォン-』イ・ウォンソク、『人喰猪、公民館襲撃す!』シン・ジョンウォン、『 朝鮮名探偵 トリカブトの秘密』キム・ソクユン、『犯罪都市』カン・ユンソン、『ワン・デイ 悲しみが消えるまで』イ・ユンギ、『フィッシュマンの涙』クォン・オグァン、『あいつだ』ユン・ジュンヒョン、『ウンギョ 青い蜜』チョン・ジウ、『プンサンケ』チョン・ジェホン、『コンジアム』チョン・ボムシクがなどなど。

若い作家が多く、女性監督も次々と良作を生み出している。

だが、女性監督では、河瀨直美、西川美和、蜷川実花、三島由紀子、大九明子、呉美保、山戸結希、横浜聡子、タナダユキ、荻上直子、安藤モモ子、岨手由貴子など、人数だけでなく、ヒット作やメジャー監督が多少でもいる点では、ほんの少し日本の方が進んでいるといえる。

ちなみに、アメリカで活躍する韓国系では、『ワイルド・スピード5』ほかジャスティン・リン、リー・アイザック・チョン 、『ブルー・バイユー』ジャスティン・チョンがいる。
この日系だと、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』デスティン・ダニエル・クレットンくらい。

もちろん、日本に現役の素晴らしい作家もたくさんいるんだけどね。
ドラマなのよね。いい悪いじゃなくて、ジャンルが偏っていると言える。
世界的には、邦画は、アート系のドラマ、ホラー(サスペンス含むが、これはアート系のドラマの一要素とも言え、純粋なサスペンスのジャンルものはそうでもない)、時代劇しかないとも言える。(アニメはもちろんだが)
さらっと並べると、現役(女性監督は前述)で娯楽作品(娯楽を凌駕するアート系も含む)もつくれる世界レベルと秀作クラスをコンスタンスにつくってる方だと、是枝裕和、黒沢清、濱口竜介、三池崇、北野武、塚本晋也、清水崇、周防正行、大友啓史、佐藤信介、原田眞人、押井守、庵野秀明、岩井俊二、吉田大八、石井克人、中島哲也、白石和彌、白石晃士、樋口真嗣、金子修介、中田秀夫、諏訪敦彦、中村義洋、堤幸彦、吉田恵輔、武正晴、鶴田法男、北村龍平、藤井道人、江口カン、小泉堯史、小泉徳宏、山崎貴、山下敦弘、李相日、成島出、犬童一心、石井裕也、内田けんじ、本広克行、阪本順治、矢口史靖、篠原哲雄、瀬々敬久、落合正幸、曽利文彦、大根仁、熊切和嘉、園子温、石川慶、深田晃司など、合わせて70名ぐらいですかね。ムラが多い人や引退に近い方もいますが。
山田洋次などの大巨匠や秀作ドラマだけの方は外してます。
そりゃ、新人だっていいのはいっぱいいます。
合わせて、こちらも100人ぐらいかな。(ただ、アニメを作家を入れたら130人ぐらいになるかな)
ところが、代表作が外資やインディや低予算作品って方がたくさんいますからね。お金や企画が通ればやれる作家は多いのに、日本映画が映画界を育てきれてないか……。

でも、コンスタントに良作に出会えるなら、自国の映画を見ようというのが当たり前になる。
大きな話題になれば、特大ヒットも生まれるようになる。
たくさん見られれれば、多様な物語が生まれる。
自分だけの映画を見つける楽しみ、それを人と共有する楽しみが増える。

 

 

 

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