で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2311回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『THE WILD 修羅の拳』
ギャングvs汚職刑事vs脱北麻薬組織の争いに、平穏を望んだ元地下ボクサーが巻き込まれるクライム・サスペンス。
原題は、『더 와일드:야수들의 전쟁』。
『野生:野獣たちの戦争』。
英語題は、『THE WILD』。
『野生』。
製作年:2023
製作国:韓国
上映時間:110分
映倫:PG12
配給:クロックワークス
物語。
現代、韓国の地方都市。
元地下ボクサーのウチョルは、違法賭博試合で相手が死亡し、殺人罪で収監されるも8年で仮釈放を認められた。
出所した彼を待っていたのは、一緒に賭け試合をやっていた友人のギャングの首領ドシクからの昔ながらの歓迎だった。
ドシクは彼とまた闇商売をやりたいと申し出るが、ウチョルは「今後は罪を背負って静かに暮らしたい」と断る。
そんなウチョルも今日の宿はドシクの世話になることにし、部屋に入ると、酌婦ミョンジュが待っており、一夜を過ごす。
ミョンジュからジョンゴンという男に付きまといからの助けを求められ、ウチョルは仮釈放の身ながら男を追ってしまう。
監督は、『ありふれた悪事』、『国際捜査!』のキム・ボンハン。
主演は、『新しき世界』のパク・ソンウン。
共演は、『ただ悪より救いたまえ』のオ・デファン、『偽りの隣人』のオ・ダルス、『KCIA 南山の部長たち』のチュ・ソクテ、ドラマシリーズ『愛の不時着』のソ・ジヘ、『狼たちの墓標』のヨンス。
ヨンス(マダム役)の遺作。
セクハラ疑惑が裁判で晴れたオ・ダルスの復帰後の商業映画第二作。
スタッフ。
監督:キム・ボンハン
製作:ナム・ジウン
脚本:キム・ジュマン
撮影:キム・ジェソン
編集:キム・ウヒョン キム・ヒョンソ
音楽:モク・ヨンジン
字幕翻訳:小西朋子
出演。
パク・ソンウン (ソン・ウチョル/元ボクサー)
オ・デファン (チョ・ドシク/ギャング首領/社長)
ソ・ジフ (パク・ヒョンデ/後輩)
チョン・スギョ (カン・ユンジェ/室長)
チュ・ソクテ (チェ・ジョンゴン/刑事)
オ・ダルス (リ・ガクス/脱北者/漁師/麻薬密輸業)
ソ・ジヘ (ボム/チェ・ミョンジュ/カラオケ店の酌婦)
ヨンス (ハン/マダム/カラオケ店のママ)
ファン・セイン (イェリ/カラオケ店の酌婦)
イ・ジェウン (キム・サンファン/弟)
ウォヌ (ヤンギ)
カン・ヒョナ (母)
『THE WILD 修羅の拳』を観賞。
現代韓国、ギャングvs汚職刑事vs脱北麻薬組織の陰謀戦に、殺人罪の服役を終えて平穏を望んだ元地下ボクサーが巻き込まれるクライム・サスペンス。
バイオレンスでメイン4人による頭脳戦という大人の韓国ノワール。
美学と人情と欲望の頭脳派風味の高速暴力定食。
いわゆる邦画のヤクザ映画的な内容に、高度な駆け引きを組み込んだ脚本が、実にプログラムピクチャー的。
最初、あー、面白くしようと濃いめのネタ入れて展開させちゃったなぁ、とか思ったのだけど、これが次から次へとどんどん投入されていくので、その投入量に脳がぐるぐる回って、アドレナリンが出てくる。
だって、登場人物がメイン5人、準メイン3人、話に絡むサブ4人で、12名が入り乱れて、話が展開するのだもの。
それを凄まじいテンポで、どんどん展開していくのだけど、しっかり整理されていて、特徴を入れているので、この手のジャンルと韓国名前に慣れているなら、ぎりぎり裁ける分量になってるのが巧み。いや、少し処理できないぐらいになるように、ちょっとしたナニコレ案件も忍ばせてきて、脳のギアを上げるのが、ちょっと気持ちよくなってくる。
ノレないときついだろうなぁとか、疲れてたら、置いていかれてたな、と思ったほど。
なのに、全体がダイジェスト的になってないのがいいのよ。いや、あえて、アバンタイトルで、これまでのあらすじ的に、あるエピソードをさらっとダイジェストで見せるあたりがにくいし、ちょっとした思考の逡巡とかを映像的に見せるのも手抜きがない。
こういう脳を動かしてみるストーリー好きでしょって、送り手が自分らと同じ観客を信じてつくっているのがわかる。
たった一度のセリフの伏線とか、髪型一つで心理表現とか、説明のバランスがかなり綱渡り的だけど。ブッたぎるなら、やや性急だし生硬で、粗いっちゃあ粗いんだけど。
上手さと下手さが斑になってる。
でも、ベタさもあるわりに、ひねりもあって、どんでん返しも仕掛けてある。
人情やくざものと騙し合い系サスペンスのミクスチャーをやってるのよね。しかも、A級ではなく、あえて、B級にしようという意図さえ受け取れるのが、好感。好む人は多くはないだろうけど、世界に向けているからこそ、ですかね。
脚本家はどうやら新人のキム・ジェマン。ああ、この脚本家はノワール好きなんだと伝わってくるの。
それを語るのが、冴えないし一筋縄ではいかない狡猾かつ敏腕なおっさんを主人公に描き上げる剛腕テラーのキム・ボンハン。おいらはキム・ボンハン作だから見逃せないなと映画館に行ったのですから。彼の『ありふれた悪事』、『国際捜査!』が好きでね。人間の清流と濁流を一本の川として、海に注ぐように描いて、好みなのよ。
アクションはうっすらで、バイオレンスで押してきます。
ちょっとご都合な描写もあるけども、そこもあえて、B級の外連味ってとこで、選択したのを好意的に飲みこむ。ツッコミどころとして、楽しめもするかな。
撮影もテクニックかなり入れてきて、グッとくるレイアウトもいくつか。そこもまたいいB級感。ああ、方向性は違うのに、トニー・スコットを思い出す。あのスタイリッシュさは微塵もないというのに。
そして、やっぱり、いい顔を揃えてます。脇役者の輝きは、かつての東映アウトロー路線のそれを見るようですぜ。輝くほどでないあたりの野暮ったさにも哀愁があって胸を締め付けるのよね。
なんか歌謡曲風メタルのような味わいなんです。ぬたっとダサいけどクセになる感じ。
男も女も一時代、いや二時代前っぽい。
地方の港町ってとこに、オールディーズやくざ映画愛がにじみます。
貫かれるのは、ボクサーとしての一本気と、人は欲望とプライドに塗れた弱い獣であるってとこ。
ここにあるのは、野生(ワイルド)の世界に染まり切れない、町の野良犬の世界。
ものがなしい背中丸めて夜風に吹かれる、ものの哀れな一本。
キム・ボンハンの『ヒーロー』と『聞こえるんですか?』はどこで見れるのかしら?
邦題ついてるんんだから、どこかでやったのかしら?
観たいなぁ。
ネタバレ。
ボムの時は長髪のカツラをつけてて、ミョンジュの地髪はボブなのよね。
それを説明なしで、やってるので、ちょっと混乱する。
途中の子守歌を入れて、ナニコレと思わせておいてのドラッグの幻覚はやりすぎだが、少しでも何か入れたい小鉢の大盛りみたいで微笑ましい。
妊娠を夢見てるってことでもあるから、あの二人、やってないようで、やってたってことよね。
弟殺しとか雑もいいところだし、一刑事に力ありすぎなのは冗談レベルだし、詰めのところで、クスリやるあたりのダメ具合とか、もはや笑いどころだったりする。