サイエンス好きな男の日記

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相続税対策として配偶者に資産をどれほど残すべきか(1)

2023-05-11 00:12:13 | 資産運用

GWでちょっと時間ができたので、以前から気になっていたことをまとめてみます。

ちなみに私は税理士でもないので、内容については間違いがあるかもしれませんがご容赦ください。また、相続税の計算方法については知っていることを前提とした説明となってしまいます。もし、あまり詳しくない方は、インターネットのあちこちでわかりやすく書かれた記事があるので、そちらをまずは見ていただいたほうが良いかもしれません。

 

相続税の基礎控除額を超える資産がある場合、遺産贈与の分配割合として、配偶者と子供にどれくらいの割合で遺産を相続させるのが良いのか。相続税という観点から考察してみました。

たとえば、以下の3通りの方法が考えられます。

  • 資産をまずはすべて配偶者に相続して、配偶者が死亡時に子供に相続する
  • 資産を法定相続分に従って配偶者、子供に相続する
  • 資産をすべて子供にのみ相続する

特に、最初の方法については、相続税の配偶者控除は少なくとも1億6千万円までは非課税。1億6千万円を超えても、法定相続分までは非課税。したがって、配偶者への相続時にはこの配偶者控除により非課税になりそうだが、その分、配偶者が死亡時(いわゆる二次相続)に相続税がかなりかかってしまうので、この配偶者控除の利用はよく考えたほうがよい、といったことがネットにも書かれています。単なる相続税支払いのさき送りという形になってしまいます。

 

そこで、以下で具体的に計算を行ってみました。

ストーリーとしては、夫婦と子供がいるケースで、相続人は配偶者および子供のみとします。そして、本人死亡時に遺産を配偶者および子供に相続し、配偶者死亡時に子供に相続することとします。

ここでのパラメータは以下の通りです。

本人と配偶者の資産:a, b
法定相続人:配偶者および子供(n人)
本人死亡時に配偶者が相続する資産割合:p

まずは、相続税の配偶者控除が無いものとして、検討します。

 

本人死亡時(一次相続時)

相続人は、配偶者および子供なので、合計 (n+1) 人
よって、相続税の基礎控除は 3000 + 600 x (n+1)

課税資産総額:= 本人資産 -  基礎控除 より、課税資産総額は t = a-(3000+600 x (n+1))

法定相続分が1/2より配偶者の課税資産は t/2。よって配偶者の法定相続分に対する相続税は f ( t/2 )

子供一人当たりの法定相続分が 1/(2 x n) なので、子供一人の課税資産は t / (2xn) 。よって子供の法定相続分に対する相続税は f (t / (2 x n) )
子供全員に対する相続税は n x f(t/(2 x n))

f(x):  法定相続分に対する相続税 (国税庁 No.4155 相続税の税率 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm)

以上から、本人死亡時の相続税合計は F = f (t/2) + n x f(t/(2xn))

配偶者が相続する遺産割合を p とすると、一次相続後の配偶者の資産 b2(p) は以下になります。
b2(p) = (配偶者の資産) + (相続した遺産)- (配偶者に対する相続税)= b + p x a - p x F = b + (a-F) x p

子供が相続する遺産割合の合計は 1-p なので、一次相続後の子供全員の資産 c(p) は以下になります。
c(p) = (子供全員が相続した資産)- (子供全員に対する相続税)= (1-p) x a - (1-p) x F= (1-p) x (a-F)

 

配偶者死亡時(二次相続時)

相続人は、子供なので、合計 n 人
よって、相続税の基礎控除は 3000 + 600 x n

課税資産総額:= 配偶者資産 -  基礎控除 より、課税資産総額は t2 = b2(p) - (3000+600 x n)

子供一人当たりの法定相続分が 1/n なので、子供一人の課税資産は t2 / n 。よって子供の法定相続分に対する相続税は f (t2 / n )
二次相続による子供全員に対する相続税は F2 = n x f(t2/n)

相続によって子供全員の資産 c2(p) は以下になります。
c2(p) = (一次相続後の子供全員の資産)+(一次相続後の配偶者の資産)ー(二次相続による子供全員の相続税)
         =   c(p) + b2(p)  - F2 = (1-p) x (a-F) + b + (a-F) x p - n x f(t2/n) = a + b - F - n x f { b + (a-F) x p - (3000 + 600 x n) } ・・・①

この c2(p) の式をみると、 a + b :  夫婦の資産合計、そこから本人死亡時の相続税が引かれ、さらに配偶者死亡時の相続税を引いた残りが、子供全員の資産という形になっています。

 

では、①の c2(p) が最大となる p を考えます。

便宜的に h = (3000 + 600 x n -b ) / (a-F)  と置くと、①は  c2(p) = a + b - F - n x f ( (a-F) x (p-h) )    ・・・②

a - F > 0 より、f(x) の x の正負は p と h の大小関係で決まります。また、f(x)は増加関数であることも重要です。

h は正負の値をとることができるため、h < 0,  1 < h,  0 ≦ h ≦ 1 で考えます。

 

h < 0 の場合:

f(x) は増加関数であるため、p -h が小さいほうが c2(p) を最大化できます。p - h > 0 より、c2(p) が最大となるのは、p = 0 のときです。

したがって、h < 0 の時の c2(p) の最大値は c2(0) であり、c2(0) = a + b - F - n x f (-h x (a-F))

 

h > 1 の場合:

p - h < 0 であるため、f(x) = 0 となります。よって、h > 1 の場合は常にc2(p)は一定であり、その値は c2(p) = a + b - F です。

これは配偶者死亡時の配偶者の資産が相続税控除額よりも少ない場合には、二次相続による相続税は非課税となるため、どのような配分(p)にしようとも子供が受取る資産額には影響しないことを意味しています。

 

0 ≦ h ≦ 1 の場合:以下ではさらに 0 ≦ h ≦ p ≦ 1 の場合と 0 ≦ p < h ≦ 1 の場合に分けます。

0 ≦ h ≦ p ≦ 1 の場合:

f(x) は増加関数であるため、p が小さいほうが c2(p) を最大化できます。その時の p  は、h ≦ p より、p=h の時です。

したがって、0 ≦ h ≦ p ≦ 1 の場合の c2(p) の最大値は c2(h) であり、c2(h) = a + b  - F です。

0 ≦ p < h ≦ 1 の場合:

p < h  より f(x) = 0 となります。よって、p < h の場合は常に c2(p) は一定であり、その値は c2(p) = a + b - F です。

以上から、0 ≦ h ≦ 1 の場合、c2(p) を最大化するのは、0 ≦ p ≦ h の時であり、その時の値は a + b - F です。

 

まとめると以下になります。

h < 0 の時は、c2(p) が最大となるのは p = 0 の時であり、その時の c2(0) は a + b - F - n x f (-h x (a-F)) = a + b - F - n x f(b - (3000+600 x n))
0 ≦ h ≦ 1 の場合、c2(p) が最大となるのは 0 ≦ p ≦ h の時であり、その時の c2(p) は a + b - F
h > 1 の場合、p によらず、c2(p) は a + b - F

h = (3000 + 600 x n -b ) / (a-F) 
F = f (t/2) + n x f(t/(2 x n))
t = a-(3000+600 x (n+1))
f: 相続税

配偶者の資産(b) が二次相続時の相続税の基礎控除をすでに超えている場合には、本人死亡時にはすべて子供へ相続 (p=0) させる。

配偶者死亡時に配偶者の資産(b2)が基礎控除を超えない範囲内であれば、一次相続による遺産を受け取っても、二次相続後の子供全員の資産受取額は変わらない。

配偶者の遺産配分は、本人死亡時に支払う相続税には影響しません。したがって、それ以上の相続税を払わないようにするためには、二次相続時の配偶者の資産に対する相続税を極力減らす、と考えると自然と上記の結論が得られます。

定式化のチェックもかねて、まずは相続税の配偶者控除がない場合を検討しました。

 

最後に上記式を使って計算例を示します。

ケース1)本人:2億円(a = 20,000)、配偶者:5千万円(b = 5,000)、子供2人(n=2)の場合

本人死亡時の基礎控除は、3,000+600x(n+1) = 4,800万円、よって t = a - 4,800 = 15,200 

法定相続分で按分した額から計算される相続税は、配偶者:f(t/2) = f(7,600) = 1,580,  子供一人当たり f(t/(2 x n)) = f(3,800) = 560

よって相続税の合計 F = 1,580 + 2 x 560 = 2,700

h = (3000 + 600 x n -b ) / (a-F) = (3000 + 600 x 2 - 5000 ) / (20,000-2,700) = -0.0462 < 0

h < 0 なので、p = 0 で最終的な子供の資産受取額を最大化できます。つまり、一次相続時には配偶者は本人の資産を一切受け取らず、すべて子供に遺産を相続するのがベストな選択になります。これはすでに配偶者の資産が、基礎控除額を超えていることから、実は計算する前からわかっていた結論です。

この場合、二次相続後の子供全員の資産受取額は

c2(0) = a + b - F - n x f (b- (3000 + 600 x n)) = 20,000 + 5,000 - 2,700 - 2 x f (5,000 - 3,000 + 600 x 2) = 22,300 - 2 x f (800) = 22,300 - 2 x 80 = 22,140

 

では、配偶者の資産が基礎控除額よりも少ないケースではどうなるでしょう。

ケース2)本人:2億円(a = 20,000)、配偶者:1千万円(b = 1,000)、子供2人(n=2)の場合

h = (3,000 + 600 x n -b ) / (a-F) = (3,000 + 600 x 2 - 1,000 ) / (20,000-2,700) = 0.185  より、0 < h < 1 です。

よって、最終的な子供の資産受取額を最大化するためには、0 < p ≦ h = 0.185 です。p = 0.185の場合、配偶者が相続する金額は具体的には 0.185 x a = 0.185 x 20,000 = 3,700 です。

この場合、二次相続後の子供全員の資産受取額は

c2(p) = a + b - F = 20,000 + 1,000 - 2,700 = 18,300 

まとめると、本人死亡時の配偶者への遺産相続額は3,700万円以内であれば、二次相続後の子供全員の資産受取額は変わらない、ということになります。

ここでふと疑問がわきます。二次相続時の相続税控除額は、3,000 + 2 x 600 = 4,200 万円。もともと配偶者は1,000万円の資産があったため、一次相続時の遺産相続額は3,200万円までであれば二次相続時は非課税になることが予想できます。しかし、上記の結果は3,700万円ということで、500万円も多い金額です。その理由としては、配偶者が本人の遺産を相続する際にも当然ながら相続税を支払うことになるため、それも考慮した結果と理解することができます。

3,700万円までであれば二次相続後の子供全員の資産受取額を最大化できる、という結果ですが、仮に 4,000万円を相続した場合、どの程度の違いとなるか試算してみます。

配偶者の受取額を4,000万円、つまり p = 4,000 / 20,000 = 0.2 です。

この場合 ① より

c2(0.2) = a + b - F - n x f { b + (a-F) x p - (3000 + 600 x n) } = 20,000 + 1,000 - 2,700 - 2 x f (1,000 + (20,000 - 2,700) x 0.2 - (3,000 + 600 x 2))
            = 18,300 - 2 x f (1,000 + 3,460 - 4,200) =18,300 - 2 x f (260) = 18,300 - 2 x 26 = 18,248

p = 0.185(3700万円) での二次相続後の子供全員の資産受取額は 18,300 でしたから、p = 0.2 (4,000万円)では52万円ほど減少していることがわかります。

 

 

次回は、相続税の配偶者控除を考慮した場合について試算します。

 

 

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