時事解説「ディストピア」

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ギュンター・グラスが死んだ

2015-04-14 00:24:58 | 文学
20世紀ドイツ文学の金字塔、『ブリキの太鼓』の著者、ギュンター・グラス氏が亡くなった。
数少ないドイツの良心が他界したことを実に残念に思う。


グラス氏は東西ドイツ統合に反対していた数少ない人間の一人だ。

我が国の知識人を含め、ほとんどの人間は「統合」を素晴らしい出来事だと思っている。

しかし、これは実際には西ドイツによる東ドイツの「併合」であり、
実際に、東ドイツの大学で既存の教授が解雇され西の学者が就任したり、
これまで公務員として勤務していた労働者が解雇され、大量の失業者が発生したりと、
自由が与えられた代わりに生活が破壊されたのだった(これが東部におけるネオナチ台頭へと繋がる)


そういうわけで、単純にこの統一を喜んでいるのはそうはいないということ、
特に東ドイツの住民に至っては自国がボロクソに叩かれることを
面白く思わない人間も少なからずいたわけだ。グラスは西ドイツの作家だが、
この空気に敏感に察知し、大作『はてしなき荒野』を世に送り出した。


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テオ・ヴトケは同郷で誕生日も同じ小説家の「不滅の人」
(作中では名は出されていないがテオドール・フォンターネのこと)に入れ込んでいて、
周りから「フォンティ」と呼ばれている。


そんな彼には、若い頃当局をあてこするような発言をしたことや息子たちが西側にいることから、
秘密警察官ホーフタラーが「つきまとう影」のように寄り添っている。

その年、「ベルリンの壁」が崩壊した。
娘マルタは西側から来た不動産会社社長と結婚し、シュヴェリーンに住む。
しかし地上げ屋同然に公社の仕事をし、家庭を顧みない夫にいつしか離婚を口にするようになる。


ホーフタラーは、フォンティが戦時中フランスにいたときの恋人が産んだ
娘の子・マドレーヌを連れてくる。まだ見ぬ祖父を思ってかフォンターネの研究をしていた。


そしてあれよあれよと言う間に東西ドイツが一つになった。
ウンター・デン・リンデンの大通りのあたりは、
東西ドイツ統一の悲願達成を祝う群集で溢れかえり、夜空には花火がはじけ、
この世紀の大事業をなしとげた喜びは「歓喜の歌」の大合唱となってベルリンの空を震わせていた。


ホーフタラーはフォンティに、信託公社での書類運びの仕事を見つけてくる。
信託公社とは旧東ドイツの国営企業の民営化及び「解体」をする組織で、
まるで資本主義が旧東ドイツを食い物にしているかのような事態を、フォンティは憂慮していた。


公社(かつての帝国空軍省)のパタノスタ(旧式のエレベータ)の中で、
フォンティは信託公社の総裁と知り合う。二人は文学談義に花を咲かせるが、総裁は暗殺される。


新しい女性の総裁が来て、フォンティもお払い箱にされる。
追い討ちをかけるように親友フロイントリヒ教授が自殺。
フォンティは失踪を企てるが、ホーフタラーに阻止される。


そのことと妻エミーの自殺未遂のダブルショックで寝付いてしまう。
実家に駆けつけたマルタも鬱病を発し、ホーフタラーが一家の面倒を見るはめになってしまった。


夫の事故死の知らせを聞いて、マルタは突然正気に戻り、
入れ違いに来たマドレーヌにフォンティの世話を任せ、母を連れてシュヴェリーンに帰る。


孫娘の顔を見たとたんみるみる回復したフォンティは、
ホーフタラーがお膳立てした講演会で熱弁をふるう。
信託公社についての話で会場が最高潮に達したときに、ホーフタラーが叫ぶ。


「信託公社が火事だ!」

それ以後、フォンティは孫娘ともに行方不明になる。
懇意にしていたフォンターネ資料館あてに絵葉書が届いた。

「とにかく、荒野には終わりがあるってことが、このわしには分かるんですよ・・・。」

http://doitsugo-mode.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/post-ad5b.html
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グラスは英米によるアフガン侵略戦争に対しても批判していたらしい。

みんながハッピーでいる時に、そのハッピーは誰かを食い物にしたものだと告発するのは
実に勇気がいることだ。彼は自身がナチスの兵隊であったことも晩年、告白した。

非常に潔い、知識人らしい知識人だったと思う。本当に惜しい人を亡くした。


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