時事解説「ディストピア」

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映画『ズートピア』感想(アメリカ大統領選挙と絡めて)

2016-08-24 23:01:30 | 文学
知人に勧められてBDを視聴したが、ファミリー向けとは思えない濃いテーマの作品だった。

日本でオリジナルのファミリー向け映画というとジブリぐらいしかないが、
千と千尋の神隠し以降、映像ありきの作品へと変化していった気がする。


まぁ、アメリカもアメリカン・コミック原作の映画ばかりが作られて、最近では
ヒーロー同士が殴り合いをするという日本の仮面ライダーと変わりないレベルにまで堕落しているわけだが。


あらすじは単純明快で、兎の警官が狐の詐欺師と協力して事件を解決するというもの。

素晴らしいのは世界観の設定で、この世界では肉食動物と草食動物が
一見、平等に暮らしている社会のように見えて、その実、種類によって職業が振り分けられている。

といっても、法律上は完全な「民主主義」であり、
そのような差別を自発的に助長しているのは動物たち自身だ。

この点は「民主主義国家」でありながら、非常に差別的な社会を構築している
アメリカをはじめとした西洋型国家の有り様をよく描いていると感じた。
(もっとも、そのような差別を前提にして成り立たざるを得ないのが民主主義だと私は思うが)


警察が最終的に善として描かれているのはご愛敬だが、
代わりに市長や副市長を悪役として描いているのは今の大統領選挙を思うと大変興味深い。


肉食動物代表の市長、草食動物代表の副市長、どちらも利己的な人物として描かれており、
特に副市長に至っては、リベラルのように見えながら実は非常に好戦的な人物として表現されている。


複数の政党が存在しながら、事実上、共和党と民主党の二大独裁体制を取っているアメリカの政治を思えば、
保守派と言われる共和党にせよリベラル派と言われる民主党にせよ同じ穴のムジナということか。


世論調査によれば、アメリカ市民の半数は
トランプ・ヒラリーのどちらかを選ばなければならない現状について不満に思っているらしい。

さもありなん。

私は中東やアジアに争いをけしかけようとするヒラリー・クリントンという戦争屋と比べれば、
各国との関係改善を望むトランプのほうが大統領としてふさわしいと思うが、
こちらはこちらで移民やムスリムに対して非常に差別的な言動を取っており、看過できないものがある。


人の上に立つべき人物が政治のリーダーにならず、
代わりに民心を慮ることを知らない利己的なエリートばかりが特権を貪る。


人種差別をテーマとしてファミリー向け作品は数多けれど、
このようなアメリカ社会の現状に対する強い憤り、政治に対する不信感をこれほど見事に表現した作品はない。

そのような意味でも本作は、むしろある程度、良識を持ち、
アメリカの政治や社会に関心のある学生や社会人にぜひとも視聴を進めたくなる佳作だ。

ディズニー作品は、しばしば人種差別的だと揶揄されることがあるが、
ウォルト・ディズニーの存命のころはいざ知らず、最近の作品に至ってはそう決めつけてはいけないようだ。


ディズニーも『マレフィセント』などの駄作も多く作っているが、
逆を言えば最近のヴィランに対する再解釈は従来の勧善懲悪型のストーリーに対する反省があるのかもしれない。


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