ネコ好きSENの洋画ファン

ワン5ニャン9と共棲。趣味は洋画と絵画。ライフワークは動物・野生動物の保護救済、金融投資。保護シェルターの設立をめざす

不思議な子2

2016-09-09 23:51:22 | 小説はいかがでしょう★

 

 

割れた窓ガラスの向こうで黄ばんだカーテンが半分ほど開いている。

すっと、影が動いた。

カーテンの向こうだ。

 

ぼくの身体じゅうの細胞がきゅっと縮んだ。

数秒間、呼吸をすることを忘れた。

まさか、と思う。

影が再び動き、ぼくはもう少しで悲鳴をあげるところだった。

 

 

女だ。

女の子。

 

眠そうな顔であくびをし、割れているガラスをものともせず窓を左右に開いた。

長い髪が朝日に透けて、白い肌が輝いている。

にっこりとほほ笑み、ほつれた前髪を耳の後ろにはさんで

おはよう、と言った。

たぶん。

 

 

ぼくはすっとんで逃げた。

心臓が口から飛び出しそうだった。

まったく、足を止めることなく教室に駆け込んで、机に片手をついて大きく呼吸を繰り返した。

胸が苦しい。

 

何事かとぼくを見ている仲間の顔に

ようやく我を取りもどした。

 

「どうしたってのよ」

浩二が心配そうに訊いてくる。

 

大声で叫びたかったが、他の学生にきかせたくなかったからぐっと息をのみ込んだ。

なんとか心臓を落ち着かせて浩二の耳元に顔を寄せる。

 

 

「み、見た、見た」とささやく。

まだ息が切れている。

 

顔を近づけられたのが嫌だったのか、浩二は眉根を寄せて

「なにを」

とささやき返した。

 

だから見たんだよ、あれ、あれ、と荒い息を吐きながら再び顔を近づけると、

浩二は思いのほか身を引いた。

 

きみの息でぼくのシャツがよごれるだろう、と言わんばかりだ。

たしかに浩二のきているシャツ、こんな真っ白いシャツの襟を見たことがない。

だけど今は文句を言っているひまじゃない。

 

 

「見たんだ。あの家、誰かいた」

「あの家?」

「廃屋だよ。屋敷、朽ち果てたあの洋館」

「ええっ、なにを見たって?」

 

ぼくはごくりと息をのみこんだ。

「女の子だった、まちがいない」

 

口をあけ、浩二は目を大きくさせた。

「あんなところに女の子がいたって言うのか、ありえないだろ」

「本当だよ。女の子だった。それも」

「それも―――なんだよ?」

 

「すっごいかわいい」

 

 

ピューと誰かが口笛を吹いた。

武雄だ。

 

「おいおい、ねぼけたんじゃないのか。それとも朝からユーレイでも見たのかよ」

「違う、ユーレイなんかじゃない」

 

武雄が席を立ってそばに来た。

 

「本当に女だったか?」

「なんだよ」

「すげえかわいいって?」

 

ぼくはうなずいた。

 

「寝起きだったけど、こう、髪が広がって、すごくきれいで、でもなんであんなところにいたんだろう。

なんでかわからない。なんであんなところにいたんだろう」

「まあ、落ち着けって」

 

 

「やっぱりユーレイかな」

「ばか」

「じゃあなに」

「家出娘かなにかだろう。あの屋敷がもう少しまともだった頃に

浮浪者が住み着いたことがある」

 

「勇気あるな、その浮浪者」と、浩二が肩をすくめた。

「よその町から来たのだろう。すぐに追い出されたけどな」

 

 

武雄はセクシーなことを考えているみたいだ。

ぼくにはとてもそんな気になれない。