10月7日 NHKBS1「国際報道2019」
4か月近くにわたって抗議活動が続く香港では
台湾やシンガポールなどに移住する動きが活発化している。
中でも増えているのが
以前から中華系の人々を受け入れてきたマレーシアである。
いま香港の30~50代の子育て世代が移住に向けて動き始めている。
9月 マレーシアへの移住を決めた画家の李さん(46)夫婦。
香港で人や動物など数々の絵画を発表してきた李さん。
生まれ育った香港が混乱していく様子を複雑な思いで見守ってきた。
(李さん)
「多くの香港人は夜も眠れないくらいとてもつらい思いをしています。」
李さん夫婦は悩んだ末
9月マレーシアのマンションを購入した。
(李さん)
「香港の現状に影響されました。
どうにもなりません。」
いま香港島にあるマレーシア領事館には
平日から多くの人たちが長期滞在ビザの申請に訪れている。
会場を訪れた李さん。
混乱の続く香港では“創作活動の自由が奪われる”と
この日に長期滞在ビザの手続きを済ませた。
(李さん)
「静かに創作活動に打ち込める環境が必要です。
香港はかけがえのない所ですが
将来戻ってくるかはわかりません。」
香港の新聞にはマレーシアへの移住を呼び掛ける広告が連日掲載されている。
マレーシア政府は
日本円で2,500万円ほどの住宅を購入するなどすれば
起業も可能な10年間の長期滞在ビザが取得できる政策を導入。
裕福な香港人の移住を促そうというのが狙いである。
マレーシアはもともと中国南部からの移住者が多く
中華系が人口の4分の1を占める。
広東語も通じることから定年後の移住先として人気を集めてきた。
最近では
先行きへの不安から
香港の比較的若い世代がマレーシアを目指すようになっている。
ビザ代行業者によると
マレーシアのビザ申請件数は大幅に増え続けている。
(ビザ代行業者 担当者)
「1週間で受け付けた申請書です。
100件以上あります。」
抗議活動が始まる前は3年間で700件程度だったのが
この4か月で2,000件近くに達した。
(ビザ代行業者 担当者)
「ビザ申請件数が伸びています。
マレーシア政府の積極的な誘致と
香港の問題(抗議活動の長期化)が理由です。」
マレーシアに移住することを希望している人たち向けの説明会。
マレーシアへの移住に特に強い関心を持っているのは小さな子どもを持つ人たちである。
家族で説明会に参加した石さん(37)。
小学生の娘2人の教育環境について詳しく尋ねる。
「大学はどんな教育制度ですか?」
(担当者)
「マレーシアはイギリス式
留学もできます。」
「ということはイギリスの大学に進学できますね。」
今の香港では
高度な自治が認められているはずの一国二制度の根幹ともいえる自由が揺らいでいると
危機感を強めている。
(石さん)
「一国一制度あれば絶対香港にいたくない。
二度と香港に戻らない可能性もあります。」
香港で専門学校と新館を経営する石さん夫婦。
抗議活動そのものは否定しないが
過激な暴力の応酬が毎日伝えられる状況は
子どもにとってもよくないと感じるようになった。
「あっ火事だ!」
「こんなことしちゃだめよ。」
子どもたちが寝静まったあと石さん夫婦はマレーシア移住に向け話し合った。
マレーシアに行けば安心して子どもに教育を受けさせることが出来ると感じている。
香港では実質 一国二制度は失われていると考え
できるだけ早く移住することを決断した。
(石さん)
「30年もしたら香港の自由なんてなくなります。
子どもたちが大人になる頃には
今とは全く違う香港になります。」
「香港のすべてをあきらめるのは本当に簡単ではないことです。
でも子どもたちのために一歩を踏み出そうと考えています。」
マレーシア国内でも香港からの移住者にとって魅力的な環境の整備が進んでいる。
南部ジョホールバルで2年前に開校したイギリスのインターナショナルスクール。
生徒 約1,200人。
マレーシアにいながらイギリス出身の教員による授業を受けられると人気で
およそ20か国の生徒が通っている。
ジョホールバルには地元政府の誘致でインターナショナルスクールが20校近く進出。
今後 混乱が続く香港からの生徒の増加も視野に入れている。
地元政府は
香港からの移住者に向けた環境を今後さらに整備する予定だという。
(政府関連企業 幹部)
「香港では混乱が続き
多くの人が移住先を求めています。
マレーシアには多くのチャンスがあります。」
混迷を極める香港。
その移住者受け入れに積極的なマレーシア。
香港の人たちは故郷から離れざるを得ない厳しい事態に直面している。