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どんな時間を生きたのか

2019-10-01 07:00:01 | 編集手帳

9月5日 読売新聞「編集手帳」

 

金子みすゞに「子供の時計」という詩がある。
こんな時計はないかしら、
と始まり、
<お城のような大時計>が登場する。
子供たちはみんなで針を回したり、
振り子にのっかって遠くを眺めたり。

楽しい時間が針の動きとともに流れていく光景が浮かぶ。
きょうの本紙社会面にあまりに対照的な子供と時計の景色がある。
東京で昨年3月に虐待死した船戸結愛ちゃん(当時5歳)のノートが裁判で公開された。

<とけいができるはずなのにごまかそうとしたから 
 べらんだでたたされた>。
亡くなるひと月ほど前の記述という。

とけいができる――いわゆる幼児語だろう。
時計が読めるようになった。
もしくは時計を扱えるようになった。
結愛ちゃんが父親の指示で朝4時に自ら目覚まし時計をかけて起き、
一人ひらがなの練習をしていたと伝える記事があったのを思い出す。
もっとゆっくり眠りたかったのだろうか。
まだ事実は定かではないものの、
4時の少し先に目覚ましの針を合わせる小さな子の姿を思い描く。

虐待される子供がどんな時間に生きているか。
結愛ちゃんのひらがなが、
はかなく問いかけている。



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