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電力の安定供給と経営者のあるべき姿

2019-10-28 07:00:00 | 編集手帳

10月6日 読売新聞「編集手帳」


富山、
黒部峡谷は色づき始める頃だろうか。
急峻(きゅうしゅん)を極めるこの地で発電用の巨大なダムの建設が始まったのは昭和31年のことだ。

難工事のさまは小説や映画でも知られる。
資材運搬のためのトンネルを掘削中、
大量の湧水に見舞われる。
毎秒数百リットル、
策はなく、
進退窮まる中、
一人の男が現場を訪れる。
関西電力初代社長、
太田垣士郎である。

高度成長期のとば口で電力は幾らでも必要な時代だったと『黒部の太陽』(木本正次著)は記す。
経営を揺るがしかねないダム計画を、
7割成功の見通しがあったら勇断をもって実行する、
と推進した。

当時63歳、
崩落も危ぶまれる坑道を落水にずぶ
濡ぬれになりながら奥まで歩いた。
「仕事をいいつけた僕が、
 行かないという法はないよ」。
丸2時間、
技師らを
労ねぎらい、
帰社後の幹部会議では
「全社が一体になって、
 鉛筆一本、
 紙一枚も、
 黒部の仲間に送るようにしてもらいたい」
と訴えたのだという。

半世紀以上も昔に世に出た名著には、
今に通じる先人の言行がつづられている。
電力の安定供給がどれほど大切か。
経営者のあるべき姿とは。
さまざま思いを巡らせる秋である。

 

 

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