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復興の笑顔

2019-10-23 07:00:00 | 編集手帳

9月26日 読売新聞「編集手帳」

 

人柄を端的に言えば、
ゲーテは前向き、
カフカは後ろ向きな人だったという。
翻訳家の頭木弘樹さんが著書の中で、
ふたりの文学者の言葉を比べている。

<人の感情で最も高貴なのは希望です。
 運命がすべてを無に返そうとしても、
 それでも生き続けようとする希望です>
 ゲーテ。
<僕は自分の状態に果てしなく絶望する権利がある>
 カフカ。
どちらが心に響くでしょうかと、
頭木さんは問うている。
(『絶望名人カフカ 希望名人ゲーテ』草思社)

苦しい思いをした人には答えづらい問いだろう。
希望が胸を膨らませたからといって、
絶望が消えるわけではない。

東日本大震災の被災地、
岩手県釜石市でラグビー・ワールドカップの試合が行われた。
会場の「釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアム」は津波で全壊した小中学校の跡地に建てられた。
肉親を奪われ、
泥砂をかきわけ遺品を探す――
無慈悲な災害に絶望の底に落とされた街の記憶をまといながら、
きのう午後2時15分、
緑鮮やかな芝の上でホイッスルが鳴った。

活気づく街の人々の笑顔をテレビで見た。
先の問いであれば、
むろん響き渡るのはゲーテの言葉だろう。

 

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