10月13日付 読売新聞編集手帳
世の中には聞き苦しい声がある。
〈お前の声てえものはね、
入梅どきに共同便所に裸足(はだし)で入って、
出る途端に金貸しに出っ食わしたような声をしやがって…〉
は落語でおなじみのセリフだが、
悪声以上に聞き苦しいのは、
ひとの心を傷つける声だろう。
「お前ら震災で頭がおかしくなったんちゃうか」。
社会人ラグビーの試合中、
横河武蔵野アトラスターズ(東京)の選手が
釜石シーウェイブスRFC(岩手)の選手にそう言ったという。
アトラスターズは謝罪し、
選手は所属する協会から出場停止処分を受けたが、
何ともさびしい「声」である。
「セシウム牛は要りません」。
こちらは大分県由布市の「由布院牛喰(く)い絶叫大会」で、
某県議(県畜産協会長)の絶叫である。
うちの牛肉は安全だぞ、と。
口直しならぬ“耳直し”に、
記憶の中から「声」を引く。
この春のセンバツ甲子園、創志学園(岡山)・野山慎介主将の選手宣誓より。
「人は仲間に支えられることで、
大きな困難を乗り越えられると信じています。
がんばろう、
日本。
生かされている命に感謝し、
全身全霊で正々堂々とプレーすることを誓います」