10月8日付 読売新聞編集手帳
3年ほど前、
当時のブッシュ米大統領がワシントンに駐在する日本人記者を集めて懇談した。
福田内閣の頃である。
前々首相「コイズミ」は話のなかに4回も登場し、
前首相「アベ」も口にしながら、
最後まで「フクダ」は出ず、
「いまの首相」でお茶を濁した。
人の名前がとりわけ苦手で、
演説草稿の「サルコジ」(=フランス大統領)には読み仮名を振っていた大統領だから、
福田さんもそう気にはしなかったろう。
野田さんには少し気にして欲しいところである。
米国の国務次官補が「野田外相」の訪米を招請すると記者団に語り、
首相は訪米するのか、
しないのか、
報道が混乱するひと幕があった。
「玄葉外相」と言うべきところを間違えたらしい。
悪気のないミスだが、
閣僚の名前を覚える前に内閣がころころ替わる政治を暗に揶揄(やゆ)されたような、
胸にいくらかほろ苦いものが残る。
古代ローマの有力者は人名を思い出すのに苦労し、
「ノーメン(=名前)クラトール(=世話役)」と称する“記憶係”を従えていたという。
日本の内閣専門の記憶係が、
いずれどこかの国で生まれはしないか、
心配である。