美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

貨幣と租税(中野剛志氏講演のレジュメ・その4) 美津島明

2017年05月25日 16時26分24秒 | 経済

*ローマ帝国は、アッピア水道をはじめ、その滅亡までにローマ市内に11本の水道を引き、その内の何本かは現在でも市民の日々の生活に使われています。これが、「将来の世代への投資」のお手本です。ローマ帝国は、やはり偉大なのです。

*今回は、想定問答集といった趣です。財務省・財務省シンパ国会議員・正統派経済学者・大手マスコミの経済脳を呪縛する緊縮財政思想から繰り出される財政赤字否定論の典型的なもの(《 》で囲ってあるもの)を、中野氏は、なで斬りにします。(編集者 記)


***

・《日本の財政が国際的な信認を失ったら、国債は暴落し、金利は上昇する!
 〈反論〉
①日本の国債はそのほとんどを国内で消化しており、国際的な信認とはほとんど関係がない。
②それ以前に、そもそも国債発行は(国内外問わず)民間金融資産の制約を受けていないので、国際的信認とは本来無関係である。
*前回までの繰り返しになりますが、政府は個人や企業とは異なりいわゆる通貨主権を有するので、政府債務が自国通貨建てである限り、借り手である政府の返済能力に制限はありません。
 経世済民の観点からすれば、国債の真の発行制約は、物価上昇率です。いずれにしても、国際的信認とは関係がありません。「消費増税しないと国際的信認が損なわれる!」などと喚き散らしていた財務省コバンザメたちの愚かさ・無責任さが思い出されます。

③仮に何らかの理由(日本が財政破綻するという風説の流布によるパニック?)で日本国債の投げ売りが起きたとしても、瞬間的に金利は上がるかもしれないが、日銀が即座に国債を買い入れれば金利の上昇はすぐに収まる。

・《財政再建の規律を緩めると、歯止めがなくなり、ハイパーインフレになる
 〈反論〉
①何もハイパーインフレになるまで歳出を拡大白と言っていないだろ、落ち着け。
②これまで財政赤字の拡大が抑制できなかったのはデフレ不況による税収の急減が原因である。
デフレ下で歳出抑制や消費増税まで断行した国が、インフレ下で歳出抑制できなくなるはずがない
ハイパーインフレの事例が極めて少なく、しかもいずれも戦争等による供給能力の破壊が原因である。
*「世界のハイパーインフレ事例」という記事があります。ごらんいただければ幸いです。http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&m=282659 いずれも、戦争・内戦などで国内経済が混乱の極みにあるときにハイパーインフレは起こっています。
⑤万一ハイパーインフレになったら、緊縮財政論者たちが懸念する政府債務は実質的に急減することになる。
*Wikipediaによれば、ハイパーインフレは「最低でも国際会計基準の定める3年間で累積100%(年率約26%)の物価上昇、フィリップ・ケーガン(英語版)による定義では月率50%(年率 13000%)を超える物価上昇」と定義されています。その後に、「但し具体的なインフレーション率の値によるのではなく、単に《猛烈な勢いで進行するインフレーション》のイメージを強調する際に用いるマスメディアも多い」と述べられていて、緊縮財政論者たちは、そういうセンセーショナリズムで同語を使っているようですね。日本では、45年8月の敗戦から49年2月のドッジラインまで続いた戦後インフレがハイパーインフレとされています。「狂乱物価」とまで形容された1973年~74年のインフレは、消費者物価指数が73年11.7%、74年23.2%の上昇なので、ハイパーインフレの定義にはかなっていません。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3

・《公共事業はムダが多いからやってもムダ
〈反論〉
①財政支出の中身は公共事業に限らないし、公共事業も必要なものや効果的なものに限定すればよい。とにかく重要なのは、デフレを脱却するまで財政赤字を拡大し続けることである。
デフレ下においては「無駄な公共事業による財政拡張」は「無駄な公共事業の削減による財政緊縮」よりもはるかに望ましい。
③1990年代前半の公共事業はムダであったという議論があるが、IMFは「世界経済見通し」(2014年10月)で、「効果はあったが規模が不充分」と分析している

・《もはやかつてのような経済成長は望めない。これ以上欲しいものもないから、無理に成長する必要はない
〈反論〉
経済成長が必要か否かを論じる前に、最低限、デフレという異常事態からは脱却しなければならない
②デフレは消費のみならず投資も縮小させる。投資とは将来世代の生活水準の維持・向上のためのものである。現在の世代が欲しいものはなくても、将来世代のための投資は必要である、そのためにデフレ脱却が不可欠である。
*前回の冒頭に掲げた画像のキャッチ「子供たちにツケを残さないために、いまの僕たちにできること」の正しい答えがここに明示されています。それは「長期のデフレを完全脱却し、子どもたちの明るくて豊かな将来のために、投資を盛んにすること」です。これを政策立案の基本に置かない政治家は、将来世代に対して無責任のそしりをまぬがれえません
③自分が欲しいものがないからと言って、デフレを放置し投資を怠る発想こそが将来の世代へのツケである。 (つづく。次回が当シリーズ最終回です)

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