美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

貨幣と租税(中野剛志氏講演のレジュメ・その1) 美津島明

2017年05月16日 17時00分14秒 | 経済


以下は、〔第2回「日本の未来を考える勉強会」~貨幣と租税~ 平成29年4月27日 講師: 中野剛志氏〕のレジュメです。ただし文言は、原文どおりではなくて、読みやすさを優先し適宜変えてあります。むろん文意は変えていません。当講義は、昨年話題になった『富国と強兵 地政経済学序説』の理論的核心部分を成すものです。私見には*を付けて、レジュメとは区別してあります。末尾に、同動画を掲げておきます。

***

デフレとは、継続的な物価の下落を意味する。それは、お金の価値が継続的に上昇することでもある。それゆえデフレ下において、人々はお金を使うよりも貯めておこうとするようになる。

・デフレの何が悪いのか。それはふたつある。まずは、消費をしなくなるから悪い。消費をしないと現在の世代が貧困化するのである。次に、投資をしなくなるから悪い。投資をしないと次世代が貧困化するのである。

いいかえれば、現在も未来もみんな貧乏になるから悪い。

デフレの原因は、お金の価値が上昇すること、すなわちお金の供給量が不足すること である。それゆえデフレから脱却するには、お金の供給量を増やせばよい。それがデフレ対策の核心である。

・では、お金とは何か。それは、「現金通貨」(中央銀行券と鋳貨)+「銀行預金」である。

・銀行預金は、給料の振り込みや貯蓄に使用される事実上のお金である。現代において、お金のほとんどが銀行預金であって、それに比べれば現金通貨はほんのわずかしかない。ただし銀行預金は、現金通貨との交換が保証されている。つまり、銀行預金から現金を引き出せる。また、銀行は預金の引き出しに備えて中央銀行(日本だったら日銀)に一定額の準備預金(日銀当座預金)を設ける義務がある。

つまり銀行預金がお金であるのは、現金通貨との交換が保証されることによってである、となる。

・では、現金通貨はなぜ交換手段として受け入れられているのか。もっと突き詰めていえば、お金の価値は何によって保証されているのか。

・現金通貨は、国家が通貨を「租税の支払い手段」(納税義務の解消手段)として法定しているから、価値がある。

・租税の支払い手段を、それ以外の手段(取引や貯蓄など)にも使うようになったのが「通貨」である。

・端的に言えば、通貨の価値を保証しているのは、徴税権を有する「国家」である

・通過を取引や貯蓄等の納税以外の用途のために流通させるには国家は通貨をすべて税として徴収するのではなくて民間に残しておかなければならない。すなわち、 「財政支出>税収」でないと通貨が流通しない

・L・ランダル・レイは『現代貨幣理論』で「『正常な』ケースは、政府が『財政赤字』を運営していること、すなわち税によって徴収する以上の貨幣を供給していることである」と言っている。つまり、財政赤字が貨幣の流通を保証するのである。

預金通貨の創造について。日本の日銀に相当するイングランド銀行は、「現代経済における貨幣の創造」(2014)で次のように言っている。すなわち「一般に、銀行は企業や個人が貯蓄するために設けた銀行預金を原資として貸出を行っていると信じられている。が、それは間違っている。銀行が貸し出しを行うことで銀行預金が生まれるのである」。つまり銀行は、元手となる資金の量に制約されることなるいくらでも貸し出すことが可能なのである。これが、投資に巨額をつぎこむことで経済発展が可能となる資本主義の根柢を成すものである。J.トービンはそのような預金通貨の創造の仕組みを、万年筆で借り手の預金口座に数字を書きこむことでお金が創造されることに着目して「万年筆マネー」と名付けている。

この、私を含めた普通の人々にとって衝撃的ともいえる貨幣創造論が『富国と強兵』ではどう語られているのでしょうか。次に掲げておきます。

銀行は、借り手の需要に応じて貸し出すことで、銀行預金を創造する。銀行の融資活動によって、預金という貨幣が新たに創造されるのである。この銀行を通じた「信用創造」の過程を通じて、貨幣(銀行預金)は、資金需要に応じて弾力的に供給されることとなる。そして、貸出しによって創造された貨幣(預金通貨)は、返済されることで消滅する」(P57)

本書の「信用創造」が、講演では「万年筆マネー」と言いかえられています人口に膾炙しやす言葉を敢えて戦略的に選んだものと思われます。ここでの「信用創造」という言葉の使い方は、通常のそれ(http://kou.benesse.co.jp/nigate/social/a13s0403.html参照)とはかけ離れています。そこには、正統派経済学の棄却を意図する中野氏の破壊的なまでの強い意志が感じられます。

ではなぜ中野氏は、そのような「破壊的なまでの強い意志」を抱いているのでしょうか。それは、日本(と先進諸国)のリーダーたちを呪縛している緊縮財政を理論的に駆除するためにほかなりません。私はいまあえて「駆除」という言葉を選びました。正統派経済学が唱道する緊縮財政は、健全な経済運営にとって害虫であると思っているからです。


・貸出(預金通貨の創造)の制約は、それゆえ貸し手の資金量ではなく借り手の返済能力である。
 (つづく)


第2回「日本の未来を考える勉強会」ー貨幣と租税ー 平成29年4月27日 講師:評論家 中野剛志氏
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『故事・ことわざ・慣用句 辞典』を買いました (美津島明)

2017年05月13日 14時37分00秒 | 日記


つい先ほど、近所のブックオフで三省堂の『故事・ことわざ・慣用句 辞典』を買ってきました。定価2400円が550円。安いですね。

実は私、言葉をあれこれと詮索するのがけっこう好きでして、この手の辞典を気ままにめくりながら、語源がどうの意味がこうのと考えるのが趣味みたいなものだったりするのですね。もっとも最近は、仕事にほとんどの時間を取られているので、そういう趣味に現を抜かすことがほとんどできていないのではありますが。

で、ひさびさにそういうことをしてみようかと思い立ったわけです(これを書いているそばで、中3の生徒がせっせと月例テストの問題を解いています)。

あいうえお順ではなくて適当にページをめくってみます。

櫛風沐雨」。「しっぷうもくう」と読みます。みなさん、この言葉の意味をご存知ですか。私は知りませんでした。「雨や風にさらされて苦労を重ねること。風を櫛として髪をとき、雨で髪を洗う意」だそうです。出典は「荘子・天下」で、原文は「甚雨に沐し、疾風に櫛(くしけず)り、万国を立てたり。禹(う)は大聖なり」です。禹は、伝説上の名君である堯(ぎょう)・舜(しゅん)から帝位を禅譲されて夏王朝の始祖となった、これまた伝説上の人物です。とすれば「櫛風沐雨」は、国家建設にいそしむ公人の苦労を意味していることになります。もともとの意味を考えれば、私人の苦労を形容する言葉としては適していない、と言えそうです。

借りる時の地蔵顔、済(な)す時の閻魔顔」。これは面白い。「金や物を借りる時にはにこにこと笑い顔をするが、返す時にはふきげんな顔をする。借りる時は貰ったような気持ちになり、返す時はただ取られるような気分になるのが人情の常である」とあります。人間通のことわざですね。思い当たる方がけっこういるのではないでしょうか。かくいう私もそのひとりです。人生いろいろありますから。で、基本的に私は、友人との間でのお金の貸し借りはしないことにしております。友情はお金で壊れやすいものだから。やむをえずお金を貸す側は、あまり「貸してやった」などと恩に着せたりせずに、お金を借りた側が返すときにはその腹の底に不機嫌な思いが渦を巻いている、つまり恩をあだで返されることを覚悟しておくほうがよろしい。その覚悟がないなら、友人にお金を貸すのはやめておけ、ということになるでしょう。

顔に紅葉を散らす」。慣用句とありますが、昨今ではめったに耳にしない言葉になりました。『男はつらいよ』のフーテンの寅さんが、こういう言葉遣いをしていたような記憶がおぼろげながらあります。「女性が恥ずかしがって顔を赤らめ、かえって色気を感じさせる様子」だそうです。用例として「おめでただそうですねと言うと、彼女は顔に紅葉を散らして、『はい』と答えた」が挙げられています。こういう時代がかった表現は、気恥ずかしくてできませんよね。クールさが女性の魅力としてクローズアップされるようになってきたこととどうやら関連がありそうです。クール・ビューティって、大変な誉め言葉でしょう?

尾大(びだい)掉(ふる)わず」。「上が弱小で下が強大な時は、制御することができないたとえ」とあります。原文は、「左伝・昭公十一年」にあり「末(すえ)大なれば必ず折れ、尾(お)大なれば掉わざるは、君の知る所なり〔木の枝が大きすぎると、その本がきっと折れるし獣の尾が大きすぎると、その尾を自由に振るい動かすことができないことは、主君もよくご存じのことです〕」と紹介されています。まるで、昨今の中国と北朝鮮の関係のようです。中国がコントロールするには、北の核兵器は肥大化しすぎたのかもしれません。

気ままなお話しにお付き合いいただきましてありがとうございます。生徒がテストを終えたようなので、これにて失礼いたします。
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