美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その10)

2019年07月02日 16時53分12秒 | 経済

財政=家計 という俗信の根深さ

*少々、私見を差しはさみます。政府の、大手マスコミを通じての、幼保無償化・学費無償化のために消費増税10%は不可避である、という印象操作の試みは現状において半ば以上成功したと言っていいでしょう。しかし、本書を訳せば訳すほど、それがいかに馬鹿げた話なのか、心底分かってまいりました。当ブログをご覧の方々も、同じ思いでいらっしゃることでしょう。なぜ馬鹿げていると言えるのでしょうか。それは、モスラ―が主張しているように、政府が財政支出をするのに、課税によって財源を作る必要などまったくないからです。デフレに傾斜しつつある現状においては特にそうです。増税するかどうかは、財源作りとはまったく関係なくて、ひとえに経済状態が過熱気味かどうかの判断によるのですから。それゆえ私は、かなり暗澹たる気分で、本書の翻訳を進めております。今回は、私がいまぼやいたことと深く関連する事柄が述べられます。

われらがオバマ大統領がたびたび間違った発言をしておりますが、連邦政府が、“お金を使い果たす”ことなど金輪際ありません。そういうものではまったくないのです。連邦政府は、チャイナやほかのどこかからドルを“得ること”に頼っているわけではありません。財政支出とは、政府自身の銀行・FRBに設けられている市中銀行の口座の数字をアップさせることなのです。政府の支出に数字上の上限などまったくありません。政府が支出したいと思ったときはいつでも支出できるのです(これには、社会保障や公的医療保険制度への支出と同様に国債の利払いも含まれます)。自国通貨ドルでのすべての政府の支出がここに含まれます。

だからといって、いくら政府が財政出動をしたとしても、物価が上昇したりしない、つまりインフレになったりしないだろうと言っているわけではありません。

しかし、政府の財政が破綻したり破産したりすることなどない、とは言っております。そんなことがありえないことは自明です。注1)
***
注1)あなたがいま次のような疑問を抱いたことを私は知っていますよ。本書の少し後で、私はその疑問に答えています。しかし、あなたが本書をよどみなく読み進めることができるように、あなたの疑問とそれに対するとりあえずの答えとを掲げておきましょう。

疑問:政府は、支出するためにお金を必要とするから課税するのでないとすると、ではいったいなぜ政府は課税するのだろうか。

答え:連邦政府は、経済学者たちが“購買力”と言う代わりに仰々しく“総需要”と呼ぶものを規制するために課税するのです。要するに、もしも経済が“過熱気味”だったら増税はそれを冷却化するだろうし、“冷え込みすぎ”のときは減税がそれを温める、ということです。税金は、支出のために財源を得るためのものではなくて、私たちが購買力を持ちすぎていてインフレを引き起こしそうなとき、あるいは、購買力が過小で失業や不況を引き起こしそうなとき、その購買力を規制するためのものなのです。

***
*要するに、「税金の本質は、経済状況のスタビライザー(安定化装置)であることに存する」と言っていることになります。とするならば、実質賃金が低下し続けるデフレ不況下で消費税という逆進税を強化するのは、愚かにもほどがあるということになりますね。

ではなぜ、政府のだれも「政府の財政が破綻したり破産したりすることなどない」という主張を一向に受け入れるそぶりさえ見せそうにないのでしょうか。なぜ、議会の下院歳入委員会は、「財源をどうするんだ」と相変わらず気をもんでいるのでしょうか。たぶん彼らは、連邦議会を家計と同一視して、財政支出ができるようにするためには、まずなんとしてもお金を“得”なければならないという俗説を信じているのでしょう。彼らは、政府を家計と同一視してはならないという意見を小耳にはさんだこともあるのでしょうが、一向にその俗説を信じることをやめようとしません。彼らにとっては、理にかなった説得力のあるほかの説明の仕方がまったくないのです。

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