美津島明編集「直言の宴」

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日銀の「マイナス金利」政策。これなら分かりやすい (美津島明)

2016年02月02日 00時20分53秒 | 経済
日銀の「マイナス金利」政策。これなら分かりやすい (美津島明)



日銀のマイナス金利をめぐる報道が洪水のようにあふれかえっています。どの言説が的を射た議論を展開しているのか、取捨選択に迷いますね。

で、私見によれば、日本経済復活の会・小野盛司会長の論考が、平易な言葉使いで、問題の核心を突いた議論を展開していると思いましたので、ご紹介いたします。「ChannelAJER プレミアムメールマガジン」の本日配信分です。

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マイナス金利でも財政政策とセットでなければ景気回復は難しい

1月29日、日銀はマイナス金利付き量的・質的金融緩和政策を発表した。日銀当座預金の一部にマイナス金利を課す、つまりお金を預けるのに手数料を取るという政策だ。手数料を取られるくらいなら、融資に回した方がよいと銀行が考えるようになるだろう、そうすればお金が実体経済に周り景気が回復するだろうという甘い考えだ。


今回のマイナス金利の内容は、「現状の当座預金では0.1%の付利のままとし、マイナス金利は、今より増えた当座預金にのみ適用」する、というものです。

現在の当座預金残高は256兆円。準備預金としては5兆円しかいらないので、差し引き251兆円が、超過準備になります。

この超過準備に対して-0.1%の金利なら衝撃は大きかったのでしょうが、そこまでやると銀行の受け取り金利が減って経営を圧迫することになる。だから、そこまでの大胆なマイナス金利の実施は今回避けたのです。

現在は当座預金に特例として0.1%の金利をつけています。金額では、1年2560億円の補助金的な金利です。これを-0.1%に下げれば、銀行が、逆に金利2560億円を日銀に払うことになります。銀行にしてみれば、トータル5120億円という巨額の損を引き受けることになります。

日銀としては、そこまでの犠牲を銀行に強いるわけにはいかないということで、マイナス金利が銀行の貸し出し額を変える効果は(ただでさえそんなに高い効果が望めなかったのにさらに)弱まった、といえるでしょう(以上の議論は、後に引用文中で繰り返されます)。

しかし、いくら銀行が貸し出しを増やしたくても借りてくれる企業がいなければ、貸出は進まない。失われた20年が続き、デフレ脱却もできていない日本、来年の消費増税にも備えなければならないのであり、国内に投資拡大をしようとする企業は限られている。融資先が十分あるのであれば、もうとっくに融資はしていたはずだ。政府・日銀の真の狙いは、そちらではなく円安・株高に誘導し夏の参議院選挙に備えることだろう

今後、金融機関はどうするのでしょうか。国債を日銀に売って得た円を日銀口座にブタ積み状態にしても-0.1%の手数料を取られるだけなので、プラス金利の米国債を買う動きが強まることでしょう。すると、円安ドル高になることで、輸入物価が上がる分の卸売物価があがり、株高になる(日本の場合、売買額の50%以上を占めているHFT《超高速取引》で、円安と株価は同時に動くようにプログラムされているので、円安=株価上昇になります)。つまり、円が国内を円滑に循環することによるデフレ脱却の効果はほとんど期待できないという結論に落ち着きそうです。

2013年4月に量的・質的金融緩和を始めたときに金融政策を過信していた。2年で2%のインフレ目標が達成できるという過信だ。しかも消費増税をしても、それは黒田バズーカと呼ばれる強力な金融政策だから消費増税の悪影響など吹き飛ばすだろうと考えたのだろう。しかし我々も重ねて警告していたように、その考えは甘すぎた。インフレ目標は2017年前半にまで先送りされた。

日本経済のデフレ状況を憂える心ある論者は、以前から、「金融政策だけではデフレ脱却はできない」「デフレ状況下で消費増税を実施することは状況を悪化させるだけである」という論陣を張り続けてきました。

次は、先ほど私が申し上げたことを、別様に言いかえているところです。

日銀の量的緩和により日銀当座預金の残高は258兆円、日銀券発行残高は100兆円にも膨れあがった。これ以上国債を買う速度を増やしても効果より悪影響のほうが大きいと判断して、マイナス金利に戦術を変えた。現在日銀当座預金の大部分に利子0.1%を払っており、日銀が銀行に払う利払い費は年間2200億円と言われている。これはいわば銀行への補助金のようなものだ。本来銀行は融資を行って利ざやを稼いで経営を成り立たさねばならないが、今は補助金で経営を成り立たせているという異常事態だ。しかしこれを全部マイナス金利にすれば、金融機関の破綻が相次ぐだろう。だから日銀当座預金の大部分は現状維持で補助金に相当する部分は払い続け、それ以上に増えた部分だけにマイナス金利を課す。

銀行にとってみれば、マイナス金利(預金預かり手数料)を払うくらいなら国債という形で保有していた方が有利なので、国債を手放さなくなる。国債の奪い合いは今まで以上に激しくなり、国債価格は値上がりする。実際すでに上がっている。そこで銀行はジレンマに陥る。日銀は国債を高い値段で買ってくれるからといって国債を売ると一時的に利益が出るが、それが現金に変わって融資しないでいるとマイナス金利を取られる。このような状況で日銀の国債大量購入は続けられるのか。


異次元緩和がこのまま続けられるならば、銀行が日銀に手持ちの国債を売った代金はふくれあがります。しかし、これまでのように日銀口座にブタ積みにすれば、その分の手数料を支払うことになる。かとって、国債を買おうとしても、日銀の異次元緩和によって、国債の供給量はどんどん減少しているので、思うようにいきません(だから、国債価格は上昇し、利回りはさらに低下する)。結局は、米国債を買い増すよりほかになくなる。つまり、異次元緩和とマイナス金利の併用は、円資金の海外流出を促進することになるのです。とすると日銀は、そろそろ異次元緩和をやめたいと思っているのではなかろうかと思われます。

結局、マイナス金利付き量的・質的金融緩和でも、景気回復は難しいように思える。最も重要なのは減税や財政拡大による内需拡大であり、財政政策による内需拡大が行われた後であれば、日銀の金融緩和策が生きてくる。景気回復で経済拡大が確実になれば、投資を拡大する企業は増える。投資すれば、するほど利益が拡大するなら、更に投資を拡大するという「投資が投資を呼ぶ」という状態になる。そうなれば低い金利が生きてくる。しかしながら失われた20年と言われているように長期に経済低迷が続いている日本であり、インフレ期待を持たせる余程大きな財政によるショックを与えない限り、デフレ脱却は無理だということを認識すべきだろう。これだけの金融政策をやるのだから消費増税をやっても大丈夫だろうと考えるのは全く間違いだ。

いかがでしょうか。これで、日銀のマイナス金利のあらましがお分かりいただけたでしょうか。

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2 コメント

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大変わかりやすいシミュレーションです (kk)
2016-02-03 02:40:58
 大変わかりやすいシミュレーションです。経済政策って一体何を目的に実施されるのか素人にはわからないのですが、この解説はよくわかりました。それでいつもおもうのですが、経済政策は人のことは考えないものなんだなってことです。一体、日本人はどんな日本人になりたいのか、っていう視点が見えてこない、不愉快なマネーゲーム。少なくとも明治の人には「一等国」になるという坂の上の雲があった。今の日本人は、金さえあれば幸せになるとでもおもっているかのようですね。もちろん金はほしいですが。
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返事、遅れました (美津島明)
2016-02-05 19:31:10
kkさん。コメントをどうもありがとうございます。

そういう風に言っていただけると、なによりの励みになります。

1990年代から、新自由主義的な政策が主流になり、一般国民が幸福になるのではなくて、グローバル企業と富裕層だけが潤うようになりました。それを正当化するために、トリクルダウン効果などというエセ経済理論が幅を利かせてきました。自己責任などといういかがわしい言葉も、はやりましたね。
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